相続した土地を売却する際に知っておきたい税金の基礎知識
親や親族から相続した土地を売却する際、「税金はいくらかかるの?」「相続税を払ったのにまた税金がかかるの?」と疑問を持つ方は少なくありません。相続した土地を売却すると、譲渡所得税という税金が発生する可能性があります。しかし、適切な特例を活用すれば、税負担を大幅に軽減できるケースも多いのです。
この記事では、相続土地売却時の譲渡所得税の計算方法から、活用できる特例、確定申告の手続きまで、国税庁の情報をもとに詳しく解説します。
この記事のポイント
- 相続した土地を売却すると譲渡所得税がかかる可能性がある
- 長期譲渡所得(5年超保有)なら税率約20%、短期なら約39%
- 相続税の取得費加算特例で相続税の一部を経費に算入できる
- 空き家特例なら最大3,000万円の控除が受けられる場合も
- 確定申告は売却した翌年の2月16日〜3月15日に必要
1. 相続土地売却時の譲渡所得税とは
(1) 譲渡所得税の基本的な計算式
土地を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税が課されます。相続した土地も例外ではありません。
譲渡所得税の基本的な計算式は以下の通りです(国税庁「譲渡所得の計算方法」より):
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
用語の意味:
- 取得費:土地を取得した際の購入代金、購入手数料、登記費用など
- 譲渡費用:売却のためにかかった仲介手数料、測量費、印紙税など
例えば、5,000万円で売却した土地の取得費が3,000万円、譲渡費用が200万円だった場合:
譲渡所得 = 5,000万円 - (3,000万円 + 200万円) = 1,800万円
この1,800万円が課税対象となります。
(2) 長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率の違い
譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく異なります。判定基準は売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えているかどうかです。
区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
短期譲渡所得 | 5年以内 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
重要なポイント:相続した土地の場合、被相続人(亡くなった方)が取得した時期を引き継ぎます。つまり、親が30年前に購入した土地を相続してすぐに売却しても、長期譲渡所得の税率(約20%)が適用されます。
2. 相続土地の取得費の計算方法
(1) 被相続人の取得費を引き継ぐ仕組み
相続した土地の取得費は、被相続人が取得した際の金額を引き継ぎます(国税庁「相続財産の取得費」)。
例:
- 父が昭和60年に2,000万円で購入した土地を相続
- 令和6年に5,000万円で売却
- 取得費は父が購入した時の2,000万円(相続税評価額ではない)
この仕組みにより、被相続人が古くから保有していた土地ほど、取得費が低く、譲渡所得が大きくなる傾向があります。
(2) 取得費が不明な場合の概算取得費
被相続人が購入した際の契約書や領収書が見つからず、取得費が分からない場合があります。このような場合、概算取得費として売却価格の**5%**を取得費とすることができます(国税庁の取り扱い)。
例:5,000万円で売却した場合
概算取得費 = 5,000万円 × 5% = 250万円
ただし、この方法は実際の取得費より大幅に少なくなることが多く、結果的に税額が高くなります。
対策:
- 被相続人の自宅や貸金庫を探す
- 不動産会社に契約記録の照会を依頼
- 法務局で登記簿謄本を確認し、購入時期や抵当権設定額から推測
取得費を証明できる資料を見つけることが、節税につながります。
3. 相続税の取得費加算特例の活用
(1) 取得費加算特例の適用要件
相続税を支払った人が相続財産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税額の一部を取得費に加算できる制度があります。これが相続税の取得費加算の特例です(国税庁「相続税の取得費加算の特例」)。
適用要件:
- 相続または遺贈により財産を取得した者であること
- その財産について相続税が課税されていること
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡すること
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。したがって、取得費加算の特例を使うには、相続開始から約3年10ヶ月以内に売却する必要があります。
(2) 加算できる相続税額の計算方法
取得費に加算できる相続税額は、以下の式で計算します:
加算額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)
計算例:
- 相続税として300万円を納付
- 売却した土地の相続税評価額:2,500万円
- 相続税の課税価格の合計:6,000万円
加算額 = 300万円 × (2,500万円 / 6,000万円) = 125万円
この125万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が125万円減り、税金も約25万円(125万円×20%)節税できます。
(3) 申請期限(相続開始から3年10ヶ月以内)
この特例の最大の注意点は、期限が厳格であることです。
- 相続税の申告期限:被相続人が亡くなった日から10ヶ月以内
- 取得費加算の特例の期限:申告期限の翌日から3年以内
- 合計:相続開始から約3年10ヶ月以内
この期限を過ぎると、たとえ相続税を多額に支払っていても、この特例は使えなくなります。相続した土地を売却する場合は、早めに計画を立てることが重要です。
4. 空き家特例と3,000万円控除の適用
(1) 空き家特例の適用要件と注意点
被相続人が1人で住んでいた家屋を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります(国税庁「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」)。
主な適用要件:
- 建築時期:昭和56年5月31日以前に建築された家屋(耐震基準を満たさない旧耐震)
- 相続前の状況:被相続人が1人で居住していたこと
- 売却時期:相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
- 売却方法:家屋を耐震リフォームして売却、または家屋を取り壊して更地で売却
- 売却価格:1億円以下
- 適用期限:2027年12月31日まで(延長の可能性あり)
注意点:
- 家屋と敷地(土地)の両方を売却する場合に適用される
- 取り壊して更地で売却する場合、取り壊し後1年以内に売却すること
- 相続から売却までの間、賃貸などの事業用に供していないこと
(2) 居住用財産の3,000万円特別控除との違い
一般的に「3,000万円特別控除」と呼ばれる制度には、主に2種類あります:
特例 | 対象 | 主な要件 |
---|---|---|
居住用財産の3,000万円控除 | 自分が住んでいた家を売却 | 売却時まで自己居住 |
空き家特例 | 被相続人が住んでいた家を相続して売却 | 昭和56年以前建築、3年以内売却等 |
相続した土地の場合、自分が住んでいなければ、空き家特例の適用を検討することになります。
重要な制約:空き家特例と取得費加算の特例は併用できません。どちらか有利な方を選択する必要があります。一般的には、売却益が大きい場合は3,000万円控除の方が有利です。
5. 確定申告の手続きと期限
(1) 確定申告が必要なケース
土地を売却して譲渡所得が発生した場合、必ず確定申告が必要です(国税庁「確定申告の手続き」)。
確定申告が必要なケース:
- 売却益(譲渡所得)が発生した場合
- 特例(取得費加算、3,000万円控除等)を使って税額がゼロになった場合でも申告は必要
確定申告が不要なケース:
- 売却損(譲渡損失)が発生し、特例を使わない場合
(2) 申告期限と提出方法
譲渡所得の確定申告は、売却した翌年の2月16日〜3月15日に行います。
必要な書類:
- 確定申告書(第一表・第二表・第三表(分離課税用))
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー
- 取得費・譲渡費用の領収書等
- 特例を使う場合:相続税申告書のコピー(取得費加算の特例)、耐震基準適合証明書等(空き家特例)
提出方法:
- e-Taxによる電子申告(24時間受付)
- 税務署窓口への持参
- 郵送
e-Taxを使えば、自宅から申告でき、還付金の受け取りも早くなります。
6. 相続土地売却で注意すべきポイント
(1) 共同相続人がいる場合の申告方法
相続人が複数いて、土地を共同で相続した場合、各相続人が自分の持分に応じた譲渡所得を申告する必要があります。
例:兄弟2人で土地を1/2ずつ相続して売却した場合
- 譲渡所得が1,000万円発生
- 兄:500万円の譲渡所得を申告
- 弟:500万円の譲渡所得を申告
各自が別々に確定申告を行います。連名での申告はできません。
(2) 相続登記義務化との関係
2024年4月1日から、相続によって不動産を取得した場合、3年以内に相続登記を行うことが義務化されました(不動産登記法改正)。
相続登記をしないと:
- 土地を売却できない(登記名義が故人のまま)
- 10万円以下の過料が科される可能性
土地を売却するには、まず相続登記を完了させる必要があります。登記には時間がかかるため、売却を検討している場合は早めに手続きを進めましょう。
(3) 税理士への相談が必要なケース
以下のような場合は、税理士への相談を強くお勧めします:
- 取得費が不明で概算取得費(5%)を使うかどうか迷っている
- 取得費加算と空き家特例のどちらが有利か判断したい
- 共同相続で持分や分割方法が複雑
- 複数の不動産を相続し、どれを売却すべきか迷っている
- 売却益が数千万円以上で税額が大きくなりそう
税理士に相談すれば、最適な売却時期や特例の活用方法をアドバイスしてもらえ、結果的に数十万円〜数百万円の節税につながることも少なくありません。
まとめ:相続土地売却は計画的に進めよう
相続した土地を売却する際の譲渡所得税は、特例を活用することで大幅に軽減できる可能性があります。特に以下の2つの特例は節税効果が大きいため、必ず適用可否を確認しましょう。
- 相続税の取得費加算特例:相続開始から3年10ヶ月以内に売却
- 空き家特例:被相続人が1人で住んでいた家を3年以内に売却
また、確定申告は売却した翌年の2月16日〜3月15日に必ず行う必要があります。
行動チェックリスト:
- 相続登記を3年以内に完了させる(2024年4月〜義務化)
- 被相続人の取得費を証明する書類を探す
- 取得費加算の特例の期限(3年10ヶ月)を確認
- 空き家特例の適用可否をチェック
- 税理士に相談し、最適な売却時期と特例の選択を決定
- 確定申告の準備を進める
相続土地の売却は、税制が複雑で判断が難しいケースも多いため、早めに専門家(税理士・不動産会社)に相談することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続した土地を売却したら、いつまでに確定申告が必要ですか?
A. 売却した翌年の2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。また、取得費加算の特例を使いたい場合は、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。期限を過ぎると特例が使えなくなるため、早めの計画が重要です。
Q2. 相続税の取得費加算特例を使うと、どれくらい節税できますか?
A. 支払った相続税額の一部を取得費に加算できます。加算額は「相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)」で計算します。例えば、相続税300万円、売却した土地の評価額が相続財産の40%だった場合、120万円を取得費に加算でき、約24万円(120万円×20%)の節税になります。具体的な金額は個別のケースによって異なるため、税理士への相談をお勧めします。
Q3. 取得費が分からない場合はどうすればいいですか?
A. 売却額の5%を概算取得費として計算することができます。ただし、実際の取得費より大幅に少なくなることが多く、税額が高くなります。被相続人の購入時の契約書、領収書、登記簿謄本、不動産会社の記録などを探して、実際の取得費を証明することを強くお勧めします。
Q4. 共同相続人がいる場合、誰が確定申告するのですか?
A. 各相続人が自分の持分に応じた譲渡所得を申告します。例えば、兄弟2人で1/2ずつ相続して売却した場合、譲渡所得が1,000万円なら、各自が500万円ずつ申告します。共同で売却した場合でも、連名での申告はできず、各自が別々に確定申告を行う必要があります。