相続土地の譲渡所得税完全ガイド|取得費加算・空き家特例で節税

公開日: 2025/10/16

相続した土地を売却する際の譲渡所得税とは

土地を相続した方にとって、売却時の税金は大きな関心事です。相続税だけでなく、売却時には「譲渡所得税」がかかる可能性があります。ただし、相続した土地には特有の税制優遇措置が設けられており、適切に活用することで税負担を大幅に軽減できます。

本記事では、相続した土地の譲渡所得税について、計算方法から特例制度まで包括的に解説します。

この記事のポイント

  • 相続税と譲渡所得税は別の税金であり、両方がかかる可能性がある
  • 相続税申告期限から3年以内の売却なら「取得費加算の特例」で大幅節税が可能
  • 被相続人の実家を売却する場合は「空き家特例」で最大3,000万円の控除が受けられる
  • 2024年4月から相続登記が義務化され、未登記では売却不可
  • 被相続人の取得費が不明な場合、概算取得費(5%)となり税額が大幅に増える

1. 相続した土地と譲渡所得税の基本

(1) 相続土地の税務の全体像

相続した土地には、以下の3つの税金が関係してきます。

税金の種類 課税時期 納税義務者 税率
相続税 相続時 相続人 累進課税(10%~55%)
固定資産税 毎年1月1日時点の所有者 所有者 評価額の1.4%(標準税率)
譲渡所得税 売却時 売却した人 約20%または約39%

相続時には相続税、保有中は固定資産税、そして売却時には譲渡所得税がかかります。これらは別々の税金であり、相続税を支払ったからといって譲渡所得税が免除されるわけではありません。

(2) 相続税と譲渡所得税の違い

相続税は、亡くなった方(被相続人)の財産を相続した際に、その財産の価額に対して課される税金です。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える財産がある場合に課税されます。

一方、譲渡所得税は、土地を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率

税率は所有期間によって異なります。

  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下):約39%(所得税30% + 住民税9%)
  • 長期譲渡所得(所有期間5年超):約20%(所得税15% + 住民税5%)

相続した土地の所有期間は、被相続人が取得した日から計算します。これを「取得時期の引き継ぎ」といいます。

2. 相続登記の義務化と手続き

(1) 2024年4月からの義務化内容

2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。

正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料に処される可能性があります。また、相続登記をしないと売却することもできません。

(2) 登記手続きの流れと期限

相続登記の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 戸籍謄本等で相続人を確定
  2. 遺産分割協議書の作成(複数の相続人がいる場合)
  3. 登記申請書の作成
  4. 法務局への申請
  5. 登記完了

自分で手続きする場合は無料ですが、司法書士に依頼する場合は5万円~10万円程度の費用がかかります。

(3) 遺産分割協議が必要なケース

相続人が複数いる場合、土地をどのように分けるかについて遺産分割協議が必要です。協議では以下のような分割方法を選択できます。

  • 現物分割:土地をそのまま相続人の1人が取得
  • 換価分割:土地を売却して現金で分割
  • 代償分割:1人が土地を取得し、他の相続人に代償金を支払う
  • 共有:複数の相続人で共有名義にする(推奨されない)

協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を経ることになり、長期化する可能性があります。

3. 相続税の取得費加算特例の活用

(1) 特例の仕組みと適用条件

「取得費加算の特例」は、相続した土地を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる制度です。この特例により、譲渡所得が減少し、譲渡所得税を大幅に節税できます。

適用要件は以下の通りです(国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費加算」より)。

  • 相続または遺贈により財産を取得した者であること
  • その財産を取得した人に相続税が課税されていること
  • 相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡していること

(2) 相続税申告期限から3年以内の売却

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。したがって、取得費加算の特例を受けるためには、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

この期限を過ぎると特例が使えなくなるため、売却を検討している場合は早めの判断が重要です。

(3) 加算できる金額の計算方法

取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求めます。

加算できる相続税額 = 相続税額 × (譲渡した土地の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格)

例えば、相続税額が500万円、譲渡した土地の相続税評価額が3,000万円、相続税の課税価格が1億円の場合、

加算できる相続税額 = 500万円 × (3,000万円 ÷ 1億円)= 150万円

この150万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が150万円減少し、約30万円の節税効果が得られます(税率20%の場合)。

4. 被相続人の居住用財産(空き家特例)

(1) 空き家特例の3,000万円控除

「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、被相続人が住んでいた家屋とその敷地を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。

この特例により、譲渡所得が3,000万円以下であれば譲渡所得税が実質ゼロになります。

(2) 適用要件(昭和56年5月31日以前建築等)

空き家特例の主な適用要件は以下の通りです(国税庁「被相続人の居住用財産の特別控除」より)。

  • 被相続人が1人で居住していた家屋であること(老人ホーム入所も一定要件で可)
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 家屋を耐震基準に適合させるか、更地にして売却すること

特に重要なのが建築時期と耐震基準です。古い家屋を解体して更地にして売却するケースが多く見られます。

(3) 取得費加算との併用不可

注意すべき点として、空き家特例と取得費加算の特例は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

一般的には、以下のように判断します。

  • 空き家特例:譲渡所得が3,000万円以下の場合、こちらの方が節税効果が大きい
  • 取得費加算の特例:譲渡所得が3,000万円を大きく超える場合や、空き家特例の要件を満たさない場合に選択

税理士に相談して、どちらが有利か試算することをお勧めします。

5. 相続土地の活用方法と売却判断

(1) 売却・賃貸・自己使用の比較

相続した土地の活用方法は主に3つあります。

活用方法 メリット デメリット
売却 まとまった資金が得られる
管理の手間がない
一度売ると戻らない
譲渡所得税がかかる
賃貸 継続的な収入が得られる
資産として保有できる
初期投資が必要
空室リスク、管理の手間
自己使用 住宅費の節約
資産の保全
固定資産税がかかる
他の土地での購入が困難

立地や広さ、自身の状況に応じて最適な選択肢を検討しましょう。

(2) 代償分割による資金確保

相続人が複数いる場合、1人が土地を取得し、他の相続人に代償金を支払う「代償分割」を選択するケースがあります。

この場合、土地を取得する相続人は代償金を準備する必要があります。資金が不足する場合は、金融機関から借り入れるか、土地の一部または全部を売却して代償金に充てる方法があります。

(3) 売却タイミングの考え方

相続した土地の売却を検討する際、タイミングは税額に大きく影響します。

早期売却が有利なケース:

  • 取得費加算の特例を活用したい(相続開始から3年10ヶ月以内)
  • 空き家特例を活用したい(相続開始から3年以内)
  • 相続税の納税資金が必要
  • 固定資産税の負担を避けたい

時間をかけても良いケース:

  • 市況の回復を待ちたい
  • 賃貸収入を得ながら様子を見たい
  • 将来的な自己使用を検討している

ただし、相続税の特例を活用するには期限があるため、売却を決めた場合は早めの行動が重要です。

6. よくあるトラブル事例と注意点

(1) 相続登記未了による売却不可

相続登記をしないまま放置していると、いざ売却しようとしても手続きができません。さらに、相続人の誰かが亡くなると相続関係がより複雑になり、登記に必要な書類の収集が困難になります。

相続登記は早めに済ませておきましょう。

(2) 遺産分割協議の難航

相続人間で意見が対立すると、遺産分割協議が長期化することがあります。特に、土地の評価額や分割方法について意見が分かれるケースが多く見られます。

協議が難航すると、取得費加算の特例や空き家特例の期限を過ぎてしまう可能性があります。早めに専門家(弁護士、税理士)に相談することをお勧めします。

(3) 被相続人の取得費不明(5%ルール)

相続した土地について、被相続人がいつ、いくらで購入したかが分からないケースがあります。この場合、**概算取得費(売却価格の5%)**を使用することになります。

例えば、3,000万円で売却した場合、取得費は150万円(3,000万円×5%)となり、譲渡所得は2,850万円にもなります。税率20%なら約570万円の税負担です。

一方、実際の取得費が2,000万円であることが証明できれば、譲渡所得は1,000万円となり、税額は約200万円で済みます。

被相続人の契約書や領収書、通帳の記録などを丁寧に探すことが重要です。見つからない場合でも、市場価格の推移や公示価格などから合理的に取得費を推定できる場合があります。税理士に相談してみましょう。

まとめ

相続した土地を売却する際の譲渡所得税は、特例制度を活用することで大幅に軽減できます。特に「取得費加算の特例」と「空き家特例」は節税効果が大きいため、該当する場合は必ず検討しましょう。

また、2024年4月から相続登記が義務化されたため、早めの手続きが必要です。遺産分割協議や登記手続きには時間がかかることも考慮し、計画的に進めることが大切です。

税制は複雑で、個々の状況によって最適な選択肢が異なります。必要に応じて税理士や不動産の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

よくある質問

Q1相続した土地を売却すると、税金はいくらかかりますか?

A1売却益(譲渡所得)に対して約20%の税金がかかります(所有期間5年超の場合)。ただし、相続税の取得費加算特例(相続開始から3年10ヶ月以内の売却)や空き家特例(最大3,000万円控除)を活用すれば、税負担を大幅に軽減できます。例えば、譲渡所得が2,000万円の場合、通常は約400万円の税金ですが、空き家特例を適用できれば課税対象額がゼロになることもあります。

Q2相続税の取得費加算特例とは何ですか?

A2相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)の翌日から3年以内に土地を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる特例です。これにより譲渡所得が減少し、譲渡所得税を節税できます。例えば、相続税500万円のうち150万円を取得費に加算できれば、約30万円(税率20%の場合)の節税効果があります。

Q3空き家特例の3,000万円控除の条件は?

A3被相続人が1人で居住していた昭和56年5月31日以前建築の家屋とその敷地を相続し、相続開始から3年以内に売却する場合に適用されます。耐震基準に適合させるか更地にして売却する必要があり、売却価格が1億円以下であることも条件です。この特例により、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。なお、取得費加算の特例との併用はできません。

Q4相続登記をしないと売却できませんか?

A4相続登記をしないと売却はできません。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記する必要があります。正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料に処される可能性があります。また、登記を放置すると相続関係が複雑化し、手続きがより困難になるため、早めの登記をお勧めします。

Q5被相続人の取得費が分からない場合はどうなりますか?

A5取得費が不明な場合、概算取得費(売却価格の5%)を使用することになります。例えば3,000万円で売却した場合、取得費は150万円となり、譲渡所得は2,850万円にもなります。これだと税額が大幅に増えるため、被相続人の契約書や領収書、通帳の記録などを丁寧に探すことが重要です。見つからない場合でも、市場価格の推移などから合理的に推定できる場合があるため、税理士に相談しましょう。

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