離婚時の土地購入と譲渡所得税|財産分与の税務と取得費引継ぎ

公開日: 2025/10/16

離婚に伴い新たに土地を購入する際、または財産分与により元配偶者の土地を取得する際、多くの方が「税金はどうなるのか」「将来売却する時は?」と不安を抱えます。離婚という人生の転機において、不動産取得の税務処理を正しく理解することは、将来の経済的安定にとって非常に重要です。

本記事では、離婚時の土地購入における譲渡所得税について、財産分与と通常購入の違い、税務処理の実務、住宅ローンと名義変更の注意点、将来の売却を見据えた取得費の引継ぎまで、国税庁等の公的情報を基に詳しく解説します。

この記事のポイント

  • 財産分与による土地取得は原則として贈与税・不動産取得税とも非課税
  • 過大分与(財産の半分を大きく超える分与)の場合は贈与税の対象になる可能性
  • 財産分与で取得した土地を将来売却する際、取得費は元配偶者の取得費を引き継ぐ
  • 住宅ローンの名義変更は金融機関の審査が必要で、認められないケースもある
  • 連帯保証・連帯債務は離婚後も継続し、解除は実務上困難

1. 離婚時の土地購入と譲渡所得税の基本

離婚に伴い土地を取得する方法は、大きく分けて2つあります。それぞれ税務上の扱いが異なるため、正しく理解することが重要です。

(1) 離婚に伴う不動産取得の選択肢

取得方法 内容 主な税金
財産分与 離婚時に夫婦共有財産の一部として元配偶者から取得 原則非課税(登録免許税のみ)
通常購入 離婚後に市場から新規に購入 不動産取得税、登録免許税、印紙税

注意: 財産分与と贈与は異なります。財産分与は夫婦共有財産の清算であり、原則として贈与税の対象外です。

(2) 財産分与と通常購入の違い

税務上の主な違い:

  • 財産分与: 贈与税・不動産取得税は原則非課税。ただし過大分与の場合は贈与税の対象
  • 通常購入: 不動産取得税(標準税率3%、軽減措置あり)、登録免許税、印紙税が発生

将来の売却時の取得費:

  • 財産分与: 元配偶者の取得費を引き継ぐ(重要)
  • 通常購入: 自分の購入価格が取得費

この取得費の違いが、将来売却する際の譲渡所得税額に大きく影響します。

2. 財産分与による土地取得の税務処理

離婚時の財産分与で土地を取得する場合、国税庁の公式見解では、原則として贈与税は課税されません。

(1) 財産分与は原則非課税

財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産の清算であり、贈与とは性質が異なります。そのため、以下の税金が原則非課税となります。

  • 贈与税: 非課税
  • 不動産取得税: 非課税(財産分与を原因とする所有権移転)

課税される税金:

  • 登録免許税: 固定資産税評価額の2%(所有権移転登記時)

(2) 過大分与の場合の贈与税リスク

ただし、分与された財産の価額が「夫婦の協力によって得た財産の額」を明らかに超える場合、その超過部分には贈与税が課される可能性があります。

判断基準(目安):

  • 婚姻期間が20年で、財産の7割を分与 → 通常は問題なし
  • 婚姻期間が3年で、財産の9割を分与 → 過大分与と判断される可能性

過大分与と判断されやすいケース:

  • 婚姻期間が極端に短い
  • 分与を受ける側の財産形成への寄与が明らかに少ない
  • 分与財産の割合が社会通念上著しく高い

(3) 不動産取得税の非課税措置

財産分与を原因とする不動産の取得は、地方税法の規定により不動産取得税が非課税です。通常購入では土地の固定資産税評価額の3%(軽減措置適用時)がかかるため、これは大きな節税効果といえます。

計算例:

土地評価額2,000万円の場合:
通常購入: 2,000万円 × 3% = 60万円
財産分与: 0円

3. 離婚時の住宅ローンと名義変更

財産分与で住宅ローン付きの土地を取得する場合、ローンの名義変更が大きな課題となります。

(1) ローン名義変更の実務

住宅ローンの名義変更(債務者変更)は、金融機関の審査と承認が必須です。離婚協議書や財産分与協議書だけでは変更できません。

金融機関の審査項目:

  • 年収(通常はローン残高の3.5倍以上の年収が目安)
  • 勤続年数(1年以上が一般的)
  • 信用情報(過去の延滞・債務整理歴)
  • 他の借入状況

注意: 収入や信用力が不足すると、名義変更が認められないケースがあります。

(2) 連帯債務・連帯保証の解除

夫婦で住宅ローンを組んでいた場合、連帯債務や連帯保証の解除も必要ですが、これは実務上非常に困難です。

連帯債務の解除:

  • 金融機関の同意が必要
  • 残債務を単独で返済できる資力の証明が必要
  • 実務上、認められないケースが多い

連帯保証の解除:

  • 連帯保証人の義務は離婚後も継続
  • 代わりの保証人を立てるか、一括返済以外の解除方法はほぼない

現実的な対応:

  1. 借換えにより単独債務に切り替える(審査あり)
  2. 売却して残債を一括返済する
  3. 連帯債務・連帯保証を継続したまま離婚(リスクあり)

(3) 金融機関の審査と注意点

名義変更や連帯保証解除の相談は、離婚協議の早い段階で金融機関に行うことが重要です。

タイムライン例:

  1. 離婚協議開始: 金融機関に名義変更の可否を相談
  2. 金融機関の回答: 審査基準と必要書類の提示
  3. 事前審査: 年収証明等を提出
  4. 離婚協議書作成: 財産分与条項に名義変更を明記
  5. 離婚成立後: 正式に名義変更手続き

失敗例: 離婚協議書に「妻が土地を取得し、ローンも妻が負担する」と記載したが、金融機関が名義変更を認めず、夫名義のローンが残ってしまった。

4. 将来の売却を見据えた取得費の引継ぎ

財産分与で取得した土地を将来売却する際、譲渡所得税の計算で重要になるのが「取得費」です。

(1) 取得費の引継ぎルール

財産分与により不動産を取得した場合、譲渡所得税の計算上、元配偶者の取得費を引き継ぎます。自分が分与を受けた時点の価額ではありません。

(2) 分与者の取得費を引き継ぐ仕組み

計算例:

【前提】
元配偶者の土地購入価格(取得費): 1,500万円(2010年)
財産分与時の時価: 2,000万円(2025年)
売却価格: 2,500万円(2030年)

【譲渡所得の計算】
譲渡所得 = 2,500万円(売却価格) - 1,500万円(元配偶者の取得費) - 譲渡費用
        = 1,000万円 - 譲渡費用

※ 2,000万円(分与時の時価)ではなく、1,500万円(元配偶者の取得費)を使う

この仕組みにより、分与を受けた時点ですでに含み益があった場合、将来の売却時に高額な譲渡所得税が発生するリスクがあります。

(3) 証明書類の保管の重要性

取得費を証明するには、元配偶者の購入時の売買契約書や領収書が必要です。これらの書類を紛失すると、取得費は売却価格の5%とみなされ、高額な税金が発生します。

取得費不明の場合の計算例:

売却価格2,500万円の場合:
取得費 = 2,500万円 × 5% = 125万円

譲渡所得 = 2,500万円 - 125万円 - 譲渡費用
        = 2,375万円 - 譲渡費用

長期譲渡(5年超保有)の税率20.315%の場合:
税額 = 約480万円

必ず保管すべき書類:

  • 元配偶者の購入時の売買契約書
  • 購入時の領収書・振込証明書
  • 購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用等)の領収書
  • 財産分与協議書・離婚協議書

5. 財産分与の登記手続きと必要書類

財産分与で土地を取得した場合、速やかに所有権移転登記を行う必要があります。

(1) 所有権移転登記の手続き

登記の原因: 「財産分与」(贈与ではありません)

登記申請の流れ:

  1. 離婚届の提出(戸籍に離婚の事実が記載される)
  2. 必要書類の準備
  3. 登記申請書の作成
  4. 法務局へ申請
  5. 登記完了(通常1-2週間)

共同申請の原則: 元配偶者と共同で申請する必要があります(協力が得られない場合は、家庭裁判所の調停・審判を経て、単独申請可能)。

(2) 登録免許税の計算

財産分与による所有権移転登記の登録免許税率は**2%**です。

計算例:

土地の固定資産税評価額: 2,000万円
登録免許税 = 2,000万円 × 2% = 40万円

(3) 必要書類と期限

主な必要書類:

  • 登記申請書
  • 離婚後の戸籍謄本(離婚の事実証明)
  • 財産分与協議書または離婚協議書
  • 元配偶者の印鑑証明書(3ヶ月以内)
  • 登記識別情報(権利証)
  • 固定資産評価証明書

期限: 法律上の期限はありませんが、早期の登記が強く推奨されます。未登記のまま放置すると、元配偶者の債権者に差し押さえられるリスクがあります。

6. よくあるトラブル事例と注意点

離婚に伴う土地取得では、さまざまなトラブルが発生します。国民生活センターの相談事例を参考に、主なトラブルと対策を解説します。

(1) ローン名義変更が認められない

事例: 離婚協議書で「妻が自宅を取得し、住宅ローンも妻が負担する」と合意したが、妻の年収が低く、金融機関が名義変更を認めなかった。結果、夫名義のローンが残り、妻が返済する形に。

対策:

  • 離婚協議の前に金融機関に相談し、名義変更の可否を確認
  • 名義変更が認められない場合は、売却や借換えを検討
  • 連帯債務を継続する場合のリスクを理解する

(2) 連帯保証の解除困難

事例: 夫が自宅を取得し、妻を連帯保証人から外す約束をしたが、金融機関が認めず、離婚後も妻に保証義務が残った。夫が返済を滞納し、妻に請求が来た。

対策:

  • 連帯保証の解除は金融機関の同意が必須であることを理解
  • 解除が認められない場合は、借換えや売却を検討
  • 最悪の場合、連帯保証を継続するリスクを覚悟

(3) 取得費証明の困難性

事例: 財産分与で元夫の実家の土地を取得したが、購入時の契約書が見つからず、売却時に取得費が売却価格の5%とみなされ、高額な税金が発生した。

対策:

  • 財産分与協議時に、元配偶者の購入時の書類をすべて受け取る
  • 書類の紛失リスクを避けるため、コピーや電子化を行う
  • 取得費が不明な場合の税負担を事前に試算し、分与条件に反映

まとめ

離婚時の土地購入では、財産分与による取得と通常購入で税務上の扱いが大きく異なります。財産分与は原則として贈与税・不動産取得税が非課税ですが、過大分与の場合は贈与税の対象となります。

また、財産分与で取得した土地を将来売却する際、取得費は元配偶者の取得費を引き継ぐため、分与時の価額との差額が大きいと高額な譲渡所得税が発生するリスクがあります。元配偶者の購入時の書類を必ず受け取り、保管することが重要です。

住宅ローンの名義変更や連帯保証の解除は金融機関の審査が必要であり、認められないケースも多いため、離婚協議の早い段階で金融機関に相談することが成功のカギです。

よくある質問

Q1離婚で元配偶者から土地をもらうと、税金はかかりますか?

A1財産分与は原則として非課税です(贈与税・不動産取得税とも)。ただし、分与された財産が夫婦共有財産の額を明らかに超える「過大分与」の場合は、超過部分に贈与税が課される可能性があります。

Q2財産分与でもらった土地を売却する時、取得費はどうなりますか?

A2元配偶者の取得費を引き継ぎます。つまり、元配偶者が購入した時の価格が取得費となります。そのため、元配偶者の購入時の契約書・領収書が必要です。これらを紛失すると、取得費は売却価格の5%とみなされ、高額な税金が発生します。

Q3住宅ローンの名義変更は必ずできますか?

A3いいえ、金融機関の審査が必要です。年収や信用力が不足すると認められないケースもあります。離婚協議の前に金融機関に事前相談することが重要です。

Q4連帯保証人は離婚後も義務が続きますか?

A4はい、続きます。連帯保証の解除は金融機関の同意が必要で、実務上は困難なケースが多いです。離婚協議書に「連帯保証を解除する」と書いても、金融機関が認めなければ義務は継続します。

Q5財産分与の登記はいつまでにすればいいですか?

A5法律上の期限はありませんが、早期の登記が強く推奨されます。未登記のまま放置すると、元配偶者の債権者に差し押さえられるリスクがあります。離婚成立後、速やかに登記手続きを行いましょう。

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