譲渡所得税 戸建て売却|税率・計算・3,000万円控除

公開日: 2025/10/14

戸建て売却時に必ず知っておくべき譲渡所得税

戸建て売却を検討する際、売却価格だけでなく譲渡所得税についても正しく理解しておくことが重要です。譲渡所得税は売却利益に対して課される税金で、所有期間や控除の活用次第で数百万円単位の差が生じます。

この記事のポイント

  • 譲渡所得税は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益に課税される
  • 所有期間5年以下は税率39.63%、5年超は20.315%と大きな差がある
  • 居住用財産の3,000万円特別控除で大幅な節税が可能
  • 売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告が必要
  • 取得費が不明な場合は概算取得費(売却価格の5%)しか認められない

1. 譲渡所得税とは

譲渡所得税は、不動産を売却した際に得られる利益に対して課される税金です。給与所得や事業所得とは別に、分離課税として計算されます。

(1) 譲渡所得の定義

譲渡所得とは、不動産などの資産を売却した際に得られる所得のことです。単純な売却価格ではなく、そこから取得費用や売却費用を差し引いた「純粋な利益」が課税対象となります。

国税庁によると、譲渡所得は以下のように定義されています: 「資産の譲渡による所得で、譲渡価額から資産の取得費及び譲渡費用を控除した金額」

(2) 戸建て売却時の課税の仕組み

戸建て売却時の税金は、以下の流れで計算されます:

  1. 譲渡所得の計算:売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
  2. 特別控除の適用:居住用財産の3,000万円特別控除など
  3. 税率の適用:所有期間により短期(39.63%)または長期(20.315%)
  4. 税額の算出:課税譲渡所得 × 税率

税金は所得税と住民税の2種類があり、それぞれ納付時期が異なります。

2. 譲渡所得の計算の基本

譲渡所得の正確な計算は、適切な税額を算出するための基礎となります。

(1) 譲渡所得の計算式

譲渡所得は以下の計算式で求められます:

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除

具体例

  • 譲渡価額(売却価格):4,500万円
  • 取得費:3,000万円(購入価格2,800万円 + 購入時諸費用200万円)
  • 譲渡費用:150万円(仲介手数料など)
  • 特別控除:3,000万円(居住用財産の特別控除)
譲渡所得 = 4,500万円 - (3,000万円 + 150万円) - 3,000万円 = -650万円

この場合、譲渡所得がマイナスとなるため、譲渡所得税は発生しません。

(2) 建物の減価償却費の計算

建物は時間の経過とともに価値が減少すると考えられるため、取得費から減価償却費を差し引く必要があります。

非事業用建物の減価償却計算式

減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

構造別の償却率

構造 耐用年数 償却率
木造 33年 0.031
軽量鉄骨造 40年 0.025
鉄筋コンクリート造 70年 0.015

計算例(木造戸建て)

  • 建物取得価額:2,000万円
  • 所有期間:10年
  • 償却率:0.031(木造)
減価償却費 = 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 558万円
建物の取得費 = 2,000万円 - 558万円 = 1,442万円

土地は減価償却の対象外のため、購入時の価格がそのまま取得費となります。

3. 短期譲渡所得と長期譲渡所得

所有期間によって税率が大きく異なるため、売却タイミングは慎重に検討する必要があります。

(1) 所有期間の判定タイミング

所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行われます。これは非常に重要なポイントで、実際の所有期間とは異なる場合があります。

具体例

  • 購入日:2020年2月1日
  • 売却日:2025年12月31日
  • 実際の所有期間:5年11ヶ月
  • 判定上の所有期間:2025年1月1日時点で4年11ヶ月 → 短期譲渡所得

このケースでは、あと1日待って2026年1月1日以降に売却すれば長期譲渡所得となり、税率が半分以下になります。

(2) 税率の違い(短期39.63% vs 長期20.315%)

所有期間による税率の違いは以下の通りです:

区分 所有期間 所得税 住民税 合計
短期譲渡所得 5年以下 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15.315% 5% 20.315%

税額の比較(譲渡所得2,000万円の場合)

  • 短期譲渡所得:2,000万円 × 39.63% = 約792万円
  • 長期譲渡所得:2,000万円 × 20.315% = 約406万円
  • 差額:約386万円

このように、所有期間が5年を超えるかどうかで税負担が約2倍の差となります。売却を急ぐ理由がなければ、5年の基準点を超えるまで待つことを検討する価値があります。

4. 3,000万円特別控除とは

居住用財産を売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。これは戸建て売却時の最も重要な税制優遇措置です。

(1) 適用要件

3,000万円特別控除を受けるための主な要件は以下の通りです:

基本要件

  1. 自己が居住している(していた)家屋または敷地であること
  2. 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  3. 売却した年の前年および前々年にこの特例を受けていないこと
  4. 売却相手が配偶者、直系血族など特別な関係でないこと

重要な注意点

  • 単に所有しているだけでは不十分で、実際に居住していた実績が必要
  • 別荘やセカンドハウスは対象外
  • 賃貸に出していた期間がある場合、その期間を除いて居住期間を判定

居住実態の証明方法

  • 住民票の異動履歴
  • 電気・ガス・水道の使用実績
  • 郵便物の配達記録
  • 近隣住民への聞き取り調査(税務署が行う場合あり)

(2) 必要書類

3,000万円特別控除を申請するには、確定申告時に以下の書類が必要です:

必須書類

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 売却した土地・建物の全部事項証明書(登記簿謄本)
  • 売買契約書のコピー

場合により必要な書類

  • 住民票の除票(売却時点で居住していない場合)
  • 戸籍の附票(居住の履歴を証明する場合)
  • 耐震基準適合証明書(旧耐震基準の家屋の場合)

これらの書類は事前に準備しておくことで、スムーズな申告が可能になります。

5. 取得費と譲渡費用の範囲

譲渡所得の計算において、取得費と譲渡費用の範囲を正しく理解することは非常に重要です。

(1) 取得費に含まれるもの

取得費として計上できる主な費用は以下の通りです:

購入時の費用

  • 物件の購入代金(土地・建物)
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • 測量費
  • 造成費用
  • ローン保証料(借入れに伴うもの)

購入後の改良費

  • 増築・改築費用
  • 耐震改修工事費
  • バリアフリー改修工事費
  • 大規模なリフォーム費用

取得費に含まれないもの

  • 修繕費(原状回復工事)
  • 固定資産税
  • 火災保険料
  • 住宅ローンの利息(居住用の場合)

取得費が不明な場合: 購入時の契約書を紛失するなど取得費が不明な場合、概算取得費として譲渡価額の5%を適用できます。ただし、実際の取得費の方が有利な場合がほとんどです。

概算取得費の例

  • 譲渡価額:4,000万円
  • 概算取得費:4,000万円 × 5% = 200万円
  • 実際の購入価格:3,000万円だった場合
  • 譲渡所得の差:(4,000 - 200) - (4,000 - 3,000) = 2,800万円の差

このケースでは、概算取得費を使うと税負担が約569万円も増加します(長期譲渡の場合)。契約書の保管は非常に重要です。

(2) 譲渡費用として認められる費用

譲渡費用として計上できるのは、売却のために直接要した費用のみです:

認められる譲渡費用

  • 売却時の仲介手数料
  • 印紙税(売買契約書に貼付)
  • 測量費
  • 建物解体費(更地渡しの場合)
  • 立退料(賃借人がいる場合)
  • 売却のための広告費
  • 登記抹消費用(抵当権抹消など)

認められない費用

  • 修繕費(売却前のクリーニングやリフォーム)
  • 引越し費用
  • 仮住まいの費用
  • 固定資産税

これらの費用についても、領収書を確実に保管しておくことが重要です。

6. 確定申告の流れ

不動産を売却した場合、譲渡所得が発生しなくても確定申告が必要なケースがあります。

(1) 確定申告の必要性

以下の場合は確定申告が必要です:

必須の場合

  • 譲渡所得が発生した場合(税金を納める)
  • 3,000万円特別控除などの特例を適用する場合
  • 譲渡損失が発生したが、損益通算を行う場合

不要の場合

  • 譲渡所得がなく、特例も適用しない場合

ただし、譲渡損失が発生した場合でも、給与所得などと損益通算できる場合があるため、確定申告をした方が有利になることがあります。

(2) 申告期限と必要書類

申告期限: 売却した翌年の2月16日から3月15日まで

例:2025年中に売却 → 2026年2月16日~3月15日に申告

税金の納付時期

  • 所得税:確定申告時(3月15日まで)に納付
  • 住民税:6月以降に納付書が送付され、通常4回に分けて納付

必要書類

書類 入手先
売買契約書(購入時・売却時) 契約時に受領
登記事項証明書 法務局
仲介手数料等の領収書 不動産会社
譲渡所得の内訳書 国税庁HP
本人確認書類 -
マイナンバー -

確定申告の流れ

  1. 売却翌年1月:必要書類の収集開始
  2. 2月上旬:譲渡所得の計算、申告書作成
  3. 2月16日~3月15日:税務署へ申告書提出
  4. 3月15日まで:所得税の納付
  5. 6月以降:住民税の納付(納付書が送付される)

e-Taxの活用: マイナンバーカードがあれば、自宅からe-Taxで申告できます。税務署に行く手間が省け、還付金の振込も早くなります。

税理士への相談: 以下のような場合は、税理士への相談を検討しましょう:

  • 譲渡所得が高額(1,000万円以上)
  • 複数の特例適用を検討している
  • 相続や贈与で取得した不動産の売却
  • 事業用・居住用が混在している

税理士報酬は一般的に5万円~15万円程度ですが、適切な申告により節税できる金額を考えると、十分に価値のある投資といえます。

まとめ

戸建て売却時の譲渡所得税は、所有期間や控除の活用次第で数百万円単位の差が生じる重要な税金です。特に重要なポイントをまとめます:

所有期間の判定: 売却した年の1月1日時点で5年を超えているか確認しましょう。税率が約2倍異なります。

3,000万円特別控除: 居住用財産の売却なら、ほとんどのケースで譲渡所得税が発生しません。ただし確定申告は必要です。

書類の保管: 購入時の契約書や領収書を紛失すると、概算取得費(売却価格の5%)しか認められず、税負担が大幅に増加します。

確定申告: 売却した翌年の2月16日~3月15日に必ず申告してください。期限を過ぎると延滞税が発生します。

税金の計算が複雑な場合や高額な譲渡所得が発生する場合は、税理士への相談をおすすめします。適切な申告により、無駄な税金を払わずに済みます。

よくある質問

Q1譲渡所得税はいつ払う必要がありますか?

A1売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行い、所得税は申告時(3月15日まで)に納付します。住民税は6月以降に納付書が送付され、通常4回に分けて納付する形となります。例えば2025年中に売却した場合、2026年2月16日~3月15日に申告し、所得税は3月15日まで、住民税は2026年6月以降に納付します。

Q2短期譲渡と長期譲渡の判定はいつ行われますか?

A2所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行われます。これが非常に重要で、実際の所有期間とは異なる場合があります。例えば2020年2月に購入した戸建てを2025年12月に売却する場合、実際の所有期間は5年10ヶ月ですが、2025年1月1日時点では4年11ヶ月となり短期譲渡所得(税率39.63%)として扱われます。2026年1月以降の売却なら長期譲渡所得(税率20.315%)となります。

Q3取得費が不明な場合はどうすればいいですか?

A3購入時の契約書を紛失するなど取得費が不明な場合、概算取得費として譲渡価額の5%を適用できます。ただし、実際の取得費の方が有利な場合がほとんどです。例えば4,000万円で売却し実際には3,000万円で購入していた場合、概算取得費だと200万円しか認められず、税負担が約569万円も増加します(長期譲渡の場合)。契約書や通帳の振込記録などで実額を証明する努力をおすすめします。

Q43,000万円控除は誰でも使えますか?

A43,000万円特別控除は居住用財産の売却が条件で、実際に住んでいた実績が必要です。単に所有しているだけの投資用物件や賃貸用物件は対象外です。また、親族間売買(配偶者、直系血族など特別な関係)では適用されません。居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があり、前年・前々年にこの特例を受けていないことも要件となります。

関連記事