戸建ての売却を検討する際、まず気になるのが「いくらで売れるのか」という点です。不動産会社に査定を依頼する前に、査定の仕組みや評価方法を理解しておくことで、提示された査定額の妥当性を判断できるようになります。この記事では、戸建て売却の査定方法について、初心者にも分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 戸建ての査定には原価法・取引事例比較法・収益還元法の3つの手法がある
- 公示地価・基準地価・固定資産税評価額など4つの価格指標が査定に影響する
- 土地と建物は別々に評価され、建物は築年数により減価する
- 国土交通省の取引価格情報で自分でも相場を調べられる
- 査定額と成約価格は異なることを理解しておく必要がある
1. 戸建て査定で使われる3つの評価方法
不動産の査定には、国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」に基づいた3つの基本的な手法があります。それぞれの特徴と、戸建て売却でどのように使われるかを見ていきましょう。
(1) 原価法(戸建ての基本手法)
原価法は、現時点で同じ建物を新築した場合にかかる費用(再調達原価)から、築年数による劣化分を差し引いて価格を算出する方法です。戸建ての建物評価で最も基本となる手法です。
計算の流れ:
- 再調達原価を算出(現在同じ建物を建てる費用)
- 築年数による減価償却を計算
- 現在の建物価値を算定
原価法の計算例:
- 再調達原価: 2,000万円(延床面積100㎡、坪単価60万円程度)
- 築10年の木造戸建て
- 減価率: 約40%
- 建物評価額: 2,000万円 × (1 - 0.40) = 1,200万円
木造住宅の場合、法定耐用年数は22年とされており、築年数が経過するほど建物評価は下がります。ただし、リフォームや維持管理状態により、実際の評価は変動します。
(2) 取引事例比較法の仕組み
取引事例比較法は、近隣で最近取引された類似物件の成約価格を参考に、評価対象の物件価格を算出する方法です。市場の実態を反映しやすいため、土地評価や戸建て全体の査定で広く使われます。
評価の手順:
- 評価対象物件に類似した取引事例を収集
- 立地・面積・築年数・設備などの条件差を補正
- 複数の事例から適正価格を判断
補正項目 | 内容 |
---|---|
時点修正 | 取引時期のずれによる価格変動を調整 |
地域要因 | 駅距離・商業施設・学区などの違いを補正 |
個別要因 | 土地の形状・接道状況・日照などの違いを補正 |
この方法では、国土交通省の「不動産取引価格情報検索」システム(後述)に掲載されている実際の取引データが参考になります。
(3) 収益還元法(投資用物件)
収益還元法は、不動産が将来生み出す家賃収入などの収益から、現在の価格を逆算する方法です。主に賃貸用物件や投資用不動産の評価に使われます。
自宅として使用している戸建ての売却では、通常この手法は適用されません。ただし、賃貸に出している戸建てや、購入後に賃貸運用を検討している買主向けには、参考情報として提示されることがあります。
2. 戸建ての査定に影響する4つの価格指標
戸建ての査定では、国や自治体が公表する以下の4つの価格指標が参考にされます。それぞれの違いを理解しておきましょう。
(1) 公示地価と基準地価の違い
公示地価(地価公示価格):
- 国土交通省が毎年3月に公表
- 1月1日時点の標準地の価格
- 全国約26,000地点を調査
- 土地取引の指標として最も重要
基準地価(都道府県地価調査価格):
- 都道府県が毎年9月に公表
- 7月1日時点の基準地の価格
- 公示地価を補完する役割
- 公示地価の調査地点以外をカバー
これらの価格は、国土交通省の「標準地・基準地検索システム」で誰でも無料で確認できます。自分の土地が標準地・基準地そのものでなくても、近隣の価格から大まかな相場を推測できます。
(2) 固定資産税評価額と相続税評価額
固定資産税評価額:
- 市町村が決定(3年に1度評価替え)
- 固定資産税・都市計画税の課税基準
- 公示地価の約70%が目安
- 毎年送付される納税通知書で確認可能
相続税評価額(路線価):
- 国税庁が毎年7月に公表
- 相続税・贈与税の課税基準
- 公示地価の約80%が目安
査定では、これらの評価額を参考に、実勢価格(実際の市場価格)を推定します。一般的に、実勢価格は固定資産税評価額の1.4倍程度、相続税評価額の1.25倍程度が目安とされています。
3. 土地と建物を分けて評価する仕組み
戸建ての査定では、土地と建物を別々に評価し、合算して最終的な査定額を算出します。
(1) 土地の評価方法
土地の評価では、以下の要素が重視されます。
評価項目:
- 立地条件: 駅距離、商業施設、学校、公園などへのアクセス
- 土地の形状: 正方形に近い整形地が高評価、不整形地は減額
- 接道状況: 道路の幅員、接道の長さ(建築基準法で4m以上の道路に2m以上接道が必要)
- 方位: 南向きが高評価、北向きは減額
- 地勢: 平坦地が高評価、高低差がある土地は減額
特に接道条件は重要で、建築基準法の接道義務を満たさない土地(再建築不可物件)は、大幅に評価が下がります。
(2) 建物の減価償却計算
建物は築年数に応じて価値が減少します。減価償却の計算方法には、定額法と定率法がありますが、不動産査定では一般的に定額法が使われます。
主要構造別の法定耐用年数:
構造 | 法定耐用年数 | 特徴 |
---|---|---|
木造 | 22年 | 減価が早い |
鉄骨造(肉厚3mm以下) | 19年 | 軽量鉄骨 |
鉄骨造(肉厚3-4mm) | 27年 | 重量鉄骨 |
鉄骨造(肉厚4mm超) | 34年 | 重量鉄骨 |
鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 減価が遅い |
減価償却の計算例(木造住宅):
- 新築時の建物価格: 2,000万円
- 築年数: 11年
- 耐用年数: 22年
- 減価率: 11年 ÷ 22年 = 50%
- 残存価値: 2,000万円 × (1 - 0.50) = 1,000万円
ただし、実務上は法定耐用年数を超えても建物価値がゼロになるわけではありません。リフォーム歴や維持管理状態、設備の更新状況などにより、実際の評価は変動します。
4. 査定前に自分で相場を調べる方法
不動産会社に査定を依頼する前に、自分で相場を調べておくことで、提示された査定額の妥当性を判断しやすくなります。
(1) 国の取引価格情報の使い方
国土交通省が提供する「不動産取引価格情報検索」(https://www.land.mlit.go.jp/webland/)では、実際に取引された不動産の価格情報を無料で検索できます。
検索手順:
- 都道府県・市区町村を選択
- 物件種別で「宅地(土地と建物)」を選択
- 地区名や最寄駅で絞り込み
- 取引時期・面積・築年数などで条件を指定
確認できる情報:
- 取引価格(総額)
- 土地面積・建物面積
- 築年数・建物構造
- 最寄駅からの距離
- 取引時期(四半期単位)
このデータは、実際の取引アンケートに基づいているため、市場の実態を反映しています。自分の物件と条件が似た取引事例を複数確認することで、おおよその相場が把握できます。
(2) 近隣事例の調べ方
インターネット上の不動産ポータルサイトでも、近隣の売出中物件を確認できます。
チェックポイント:
- 同じ最寄駅・同じ学区の物件
- 築年数が近い物件
- 土地面積・建物面積が似ている物件
ただし、これらは「売出価格」であり、実際の成約価格ではないことに注意が必要です。一般的に、成約価格は売出価格より5-10%程度低くなる傾向があります。
5. 査定書を受け取る際の注意点
(1) 法律で定められた説明義務
宅地建物取引業法では、不動産会社が媒介契約を結ぶ際、以下の義務が定められています。
媒介契約時の法定義務:
- 媒介契約書面の交付(契約内容の明示)
- 査定価格の根拠説明(なぜその価格になったか)
- 売却活動の報告義務(専任・専属専任媒介の場合)
査定書を受け取る際は、以下の点を確認しましょう。
確認事項:
- どの評価手法を使用したか(原価法・取引事例比較法など)
- 参考にした取引事例はどれか
- 土地・建物それぞれの評価額内訳
- 査定額の有効期限(市場変動により変わる可能性)
査定額の根拠を明確に説明できない業者は、信頼性に欠ける可能性があります。
(2) 査定額と成約価格の違い
重要な点として、査定額はあくまで参考価格であり、実際に売れる価格(成約価格)とは異なることを理解しておく必要があります。
査定額と成約価格が異なる理由:
要因 | 内容 |
---|---|
市場の需給 | 買い手が多ければ高く、少なければ低くなる |
売却期間 | 急いで売ると安く、時間をかければ希望価格に近づく可能性 |
交渉結果 | 買主との価格交渉により最終価格が決まる |
物件の状態 | 内見後に設備不具合などが判明すると減額される場合がある |
一般的に、査定額の±5-10%程度の範囲で成約することが多いとされています。複数社の査定を受けた場合、最も高い査定額が必ずしも良いわけではなく、根拠が明確で市場実態に即した査定額を重視すべきです。
6. 建物の性能評価が査定に与える影響
(1) 住宅性能表示制度とは
国土交通省の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく住宅性能表示制度では、住宅の性能を客観的に評価・表示する仕組みが定められています。
評価される10分野:
- 構造の安定(耐震性など)
- 火災時の安全
- 劣化の軽減(耐久性)
- 維持管理・更新への配慮
- 温熱環境・エネルギー消費量
- 空気環境
- 光・視環境
- 音環境
- 高齢者等への配慮
- 防犯
住宅性能評価書が交付されている戸建ては、性能が客観的に証明されているため、査定でプラス評価される傾向があります。特に耐震等級や省エネ性能が高い住宅は、買主にとっても魅力的です。
(2) 築年数と構造による減価率の違い
前述の通り、建物の減価率は構造により異なります。
構造別の減価イメージ(概算):
築年数 | 木造(22年) | 軽量鉄骨(19年) | 重量鉄骨(34年) | RC造(47年) |
---|---|---|---|---|
5年 | 約77% | 約74% | 約85% | 約89% |
10年 | 約55% | 約47% | 約71% | 約79% |
15年 | 約32% | 約21% | 約56% | 約68% |
20年 | 約9% | - | 約41% | 約57% |
25年 | - | - | 約26% | 約47% |
(※ 定額法による簡易計算。実務では維持管理状態等により変動)
木造住宅の場合、築20年を超えると建物評価がほぼゼロに近づきますが、実際には以下の要素により評価が残ることがあります。
評価を維持する要素:
- 大規模リフォームの実施(屋根・外壁・水回り等)
- 耐震補強工事の実施
- 住宅性能評価書の取得
- 定期的なメンテナンス記録
- 設備機器の更新(給湯器・エアコン等)
これらの情報を査定時に提示することで、適正な評価を受けやすくなります。
まとめ
戸建ての査定は、原価法・取引事例比較法・収益還元法という3つの基本手法に基づいて行われます。土地と建物は別々に評価され、建物は築年数や構造により減価します。公示地価・基準地価・固定資産税評価額などの公的指標が査定の参考にされるため、これらの数値を理解しておくことが重要です。
国土交通省の「不動産取引価格情報検索」を活用すれば、自分でも相場を調べられます。複数の不動産会社に査定を依頼し、査定額の根拠をしっかり確認することで、適正な価格での売却が可能になります。査定額はあくまで参考価格であり、実際の成約価格は市場の需給や交渉により変動することを理解しておきましょう。
住宅性能評価書やリフォーム記録など、物件の価値を証明する資料を準備しておくことで、より正確な査定を受けられる可能性が高まります。
よくある質問
Q1. 査定額と実際に売れる価格は違うのですか?
はい、査定額と実際の成約価格は異なることが一般的です。
査定額は、過去の取引事例や物件の状態から算出される参考価格です。実際の成約価格は、市場の需給バランス、買主との価格交渉、売却にかけられる期間などにより変動します。
一般的には、査定額の±5-10%程度の範囲で成約することが多いとされています。買い手市場(売り物件が多い状況)では査定額より低く、売り手市場(人気エリアで物件が少ない状況)では査定額に近いか、それ以上で成約する可能性もあります。
売却活動を開始してから市場の反応を見て、価格を調整していくことも一般的です。
Q2. 査定は1社だけでも大丈夫ですか?
複数社(3-5社程度)の査定を受けることをおすすめします。
複数社に依頼すべき理由:
- 各社で評価基準や得意エリアが異なるため、査定額に幅が出る
- 相場観を正確に把握できる(極端に高い・低い査定を見分けられる)
- 査定額の根拠説明を比較することで、信頼できる業者を選べる
- 複数の売却戦略の提案を聞ける
ただし、あまりに多くの業者に依頼すると、対応が負担になります。また、最も高い査定額を提示した業者が必ずしも良いわけではありません。媒介契約を取るために、意図的に高い査定額を出す業者もいるため、根拠が明確で市場実態に即しているかを重視しましょう。
Q3. 木造と鉄骨造で査定額は変わりますか?
はい、構造により減価償却率が異なるため、査定額も変わります。
構造別の特徴:
木造住宅(法定耐用年数22年):
- 減価が早く、築20年を超えると建物評価がほぼゼロに近づく
- ただし、リフォームや維持管理状態により評価は変動する
- 日本の戸建ての多くが木造のため、取引事例が豊富
鉄骨造(法定耐用年数19-34年):
- 肉厚により耐用年数が異なる(軽量鉄骨19年、重量鉄骨34年)
- 木造より減価が遅く、築年数が経過しても評価が残りやすい
- 建築コストが高いため、新築時の再調達原価も高い
同じ築年数・同じ立地でも、構造が異なれば数百万円単位で査定額が変わることがあります。特に築15年以上の物件では、構造による差が顕著になります。
Q4. 査定を依頼すると必ず売却しなければいけませんか?
いいえ、査定を依頼しても売却する義務はありません。
査定と売却の関係:
- 査定は基本的に無料で、相場を知るために依頼できる
- 査定後に「媒介契約」を結ぶまでは、売却義務は発生しない
- 査定結果を見てから、売却するかどうかを判断できる
- 複数社の査定を比較してから、依頼先を選ぶことが可能
ただし、査定後に不動産会社から営業の連絡が来ることは一般的です。売却の意思がない場合や、他社に決めた場合は、はっきりと断ることが大切です。
注意点: 媒介契約を結んだ後でも、契約期間(一般的に3ヶ月)内であれば、契約内容に従って解約できる場合があります。ただし、専属専任媒介契約の場合は、他社への乗り換えに制限があるため、契約内容をよく確認しましょう。
Q5. リフォームしてから売却した方が高く売れますか?
ケースバイケースですが、一般的にはリフォームせずに売却する方が良いとされています。
リフォームを推奨しない理由:
- リフォーム費用を上乗せした価格で売れるとは限らない
- 買主が自分の好みでリフォームしたい場合もある
- リフォーム費用を回収できず、損失になる可能性
リフォームを検討すべきケース:
- 明らかな破損や不具合があり、内見時の印象が悪い場合
- 軽微な修繕(壁紙の張り替え、クリーニング等)で印象が大幅に改善できる場合
- 買主が住宅ローンを組めない状態(設備の故障等)を解消する必要がある場合
一般的には、ハウスクリーニングや簡易な修繕程度に留め、大規模なリフォームは避けた方が無難です。査定時に不動産会社に相談し、どの程度の修繕が必要か助言を受けることをおすすめします。