不動産DXとは?業界のデジタル変革と消費者にもたらすメリット

著者: Room Match編集部公開日: 2025/11/18

不動産DXとは?業界のデジタル変革がもたらす変化

不動産取引を検討する際、「不動産DX」という言葉を見聞きすることが増えてきました。VR内覧やオンライン契約など、新しいサービスが登場していますが、具体的にどのような変化が起きているのか、自分の取引にどう影響するのか気になる方も多いでしょう。

この記事では、不動産DXの具体的な取り組み(VR内覧、電子契約、AI査定等)、消費者と事業者のメリット・デメリット、不動産DX協会の役割を、2024年の最新調査と国土交通省の施策を元に解説します。不動産DXを賢く活用する方法を理解できるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産DXとは、デジタル技術を不動産業務に導入して業務効率化と新サービス創出を図る取り組み
  • VR内覧・IT重説・電子契約の3点セットで、完全非対面の不動産取引が可能
  • 2024年調査で「DX推進すべき」が99.0%、75%以上の企業がDX効果(従業員の生産性向上)を実感
  • 生成AI(ChatGPT)を18.0%の企業が業務活用し、物件紹介文作成などに利用
  • DX推進協会が2025年7月にAI不動産推進協会に改称、政策提言を通じて2022年5月の宅建業法改正で電子契約が本格化

(1) 不動産DXの定義と不動産テックとの違い

不動産DXとは、デジタル技術を不動産業務に導入して、業務効率化と新サービス創出を図る取り組みです。紙ベースの物件情報をデジタル化し、対面に加えて遠隔での顧客対応を可能にします。

一方、不動産テックは、不動産業界におけるテクノロジー活用全般を指す用語で、DXはその一部です。

用語 意味
不動産DX デジタル技術で業務変革を実現する取り組み
不動産テック 不動産業界のテクノロジー活用全般(DXを含む)

(出典: 営業ラボ「不動産業界におけるDXの必要性とは?」

(2) 不動産業界がDXを必要とする背景(アナログ文化からの脱却)

不動産業界は、長年アナログ文化が根強く残っている業界です。

アナログ文化の実態:

  • 紙ベースの契約書: 重要事項説明書や売買契約書は、2022年5月までは紙での交付が原則
  • 対面中心の業務: 物件内覧、重要事項説明、契約手続きはすべて対面で実施
  • テレワーク導入率の低さ: 2019年時点で不動産業界のテレワーク導入率は25.4%(情報通信業や金融保険業の約半分)

このようなアナログ文化から脱却し、効率化と顧客満足度向上を図るため、不動産DXが推進されています。

(出典: 国土交通省「不動産分野におけるDXの推進について」

不動産DXの基礎知識:主要技術と仕組み

(1) VR内覧・IT重説・電子契約の3点セット

不動産DXの主要技術として、VR内覧IT重説電子契約の3点セットがあります。この3つを組み合わせることで、完全非対面の不動産取引が可能になります。

VR内覧(バーチャルリアリティ内覧):

  • 遠隔地から物件を疑似体験できる内覧システム
  • 現地内覧の回数を削減し、時間と交通費を節約
  • スマートフォンやVRゴーグルで360度の映像を閲覧

IT重説(オンライン重要事項説明):

  • オンラインで重要事項説明を実施する仕組み
  • 2017年10月に賃貸契約で本格運用開始
  • 2021年4月に売買契約でも本格運用開始

電子契約:

  • 重要事項説明書・売買契約書・仲介契約書を電子交付する仕組み
  • 2022年5月18日の宅建業法改正により本格化
  • 郵送や対面での書類受け渡しが不要

(出典: いい生活「不動産業界で導入されているVR内覧とは?」DocuSign「IT重説とは?」

(2) 賃貸管理・入居申込・内見予約システムの導入状況

2024年の調査によると、不動産業界で主要導入されているシステムは以下の通りです。

システム 導入状況
賃貸管理システム 主要導入システムの1つ
入居申込システム 主要導入システムの1つ
内見予約システム 主要導入システムの1つ
電子契約システム 主要導入システムの1つ

これらのシステムにより、顧客は24時間いつでもオンラインで内見予約や入居申込ができるようになりました。

(出典: ASCII.jp「不動産業界のDX推進状況調査 2024」

(3) 生成AI(ChatGPT)の活用事例と物件紹介文作成

2024年の調査では、18.0%の企業が生成AI(ChatGPT)を業務活用しています。

生成AIの活用事例:

  • 物件紹介文の自動作成: 物件の特徴を入力すると、魅力的な紹介文を自動生成
  • 顧客問い合わせへの自動応答: よくある質問に対して、AIが自動で回答
  • 市場分析レポートの作成: 地域の不動産市場データを分析し、レポートを自動生成

このように、生成AIの活用により、従業員の業務負担が軽減され、より付加価値の高い業務(顧客対応、営業戦略立案等)に時間を割けるようになっています。

不動産DXのメリット:消費者と事業者の両面から

(1) 消費者のメリット(時間短縮・情報透明性向上・遠隔取引)

不動産DXにより、消費者は以下のメリットを享受できます。

時間短縮:

  • VR内覧により、遠方からでも物件を事前確認できるため、現地内覧の回数を削減
  • オンラインで内見予約や入居申込が可能で、営業時間外でも手続き可能

情報透明性向上:

  • 物件情報がデジタル化され、いつでもオンラインで閲覧可能
  • 過去の取引価格や周辺環境のデータも簡単に入手できる

遠隔取引:

  • IT重説と電子契約により、遠方に住んでいても取引が完結
  • 引越し前に契約手続きを完了できる

(2) 事業者のメリット(業務効率化・コスト削減・従業員の生産性向上)

不動産事業者にとっても、DXは大きなメリットをもたらします。

業務効率化:

  • 紙ベースの契約書作成・郵送が不要で、業務時間を大幅削減
  • システムで物件情報を一元管理し、情報共有が円滑化

コスト削減:

  • 郵送費・印刷費・書類保管コストを削減
  • 対面接客の減少により、人件費を削減

従業員の生産性向上:

  • 定型業務をシステムで自動化し、従業員は付加価値の高い業務に集中
  • 残業時間の削減

(出典: HiPro Biz「不動産業界のDXの成功事例を紹介!」

(3) 2024年調査結果:DX効果を実感する企業が75%以上

2024年の不動産業界DX推進状況調査では、以下の結果が報告されています。

項目 結果
「DX推進すべき」と回答 99.0%(過去最高)
DX効果を実感 75%以上
主な効果 従業員の生産性向上・残業時間削減・コストカット

このように、不動産業界全体でDXの重要性が認識され、多くの企業が効果を実感しています。

(出典: ASCII.jp「不動産業界のDX推進状況調査 2024」

不動産DXのデメリットと課題:導入の障壁

(1) 初期コストと導入期間(2.5年・高額投資)

不動産DXの導入には、以下の障壁があります。

初期コスト:

  • システム導入費用(数百万円〜数千万円)
  • システムカスタマイズ費用
  • 従業員研修費用

導入期間:

  • 平均2.5年程度の長期間が必要
  • システム選定、カスタマイズ、従業員研修、段階的な導入を経て本格稼働

このため、特に中小企業にとっては、DX導入のハードルが高いと言えます。

(2) アナログ文化と従業員の適応(テレワーク導入率25.4%)

不動産業界はアナログ文化が根強く、従業員のデジタル化への適応に時間がかかります。

  • 従業員の年齢層: ベテラン社員が多く、デジタルツールへの抵抗感がある
  • 研修の必要性: システム操作方法の研修に時間とコストがかかる
  • 一時的な効率低下: 慣れるまでの間、作業効率が低下する可能性がある

(3) 対面相談の減少と情報リテラシー格差

対面相談の減少:

  • オンライン化により、対面での丁寧な相談が減る可能性がある
  • 高齢者など、デジタルツールに不慣れな顧客への配慮が必要

情報リテラシー格差:

  • デジタルツールを使いこなせる顧客とそうでない顧客の間で、サービスの質に格差が生じる可能性がある

これらのデメリットに対しては、対面とオンラインのハイブリッド型サービスを提供することで対応する企業が増えています。

不動産DX協会(AI不動産推進協会)の役割と取り組み

(1) 協会の概要と設立背景(2020年12月設立・2025年7月改称)

DX不動産推進協会(現:AI不動産推進協会)は、不動産取引の完全デジタル化を提唱する業界団体です。

項目 内容
設立日 2020年12月17日
代表理事 古木大咲(Robot Home株式会社CEO)
名称変更 2025年7月1日にAI不動産推進協会に改称

改称により、AI技術の活用を強化し、生成AIやデータ分析技術を不動産業界に導入する取り組みを加速させています。

(出典: DX不動産推進協会公式サイト

(2) 2022年5月宅建業法改正と電子契約の本格化

DX不動産推進協会は、政策提言を通じて不動産DXを推進してきました。その成果の一つが、2022年5月18日の宅建業法改正です。

改正内容:

  • 重要事項説明書の電子交付が可能に
  • 売買契約書の電子交付が可能に
  • 仲介契約書の電子交付が可能に

この改正により、不動産取引の完全デジタル化が法的に可能となり、電子契約が本格化しました。

ただし、全ての書類が対象ではないため、個別に確認が必要です。

(出典: 電子印鑑GMOサイン「不動産DX」

(3) 不動産ID官民連携協議会への参加と政策提言

DX不動産推進協会は、不動産ID官民連携協議会に参加し、国土交通省と連携して不動産DXの推進に取り組んでいます。

不動産IDとは、個々の不動産に一意の識別番号を付与し、物件情報を一元管理する仕組みです。不動産IDにより、以下のメリットが期待されます。

  • 物件情報の重複登録を防止
  • 不動産取引の透明性向上
  • データ連携による新サービスの創出

まとめ:不動産DXがもたらす未来と賢い活用法

不動産DXとは、デジタル技術を不動産業務に導入して、業務効率化と新サービス創出を図る取り組みです。VR内覧・IT重説・電子契約の3点セットにより、完全非対面の不動産取引が可能となり、消費者は時間短縮・情報透明性向上・遠隔取引のメリットを享受できます。

2024年調査では「DX推進すべき」が99.0%、75%以上の企業がDX効果(従業員の生産性向上)を実感しており、生成AI(ChatGPT)を18.0%の企業が業務活用しています。一方、初期コストが高額で導入に2.5年程度必要、アナログ文化が根強く従業員の適応に時間がかかるという課題もあります。

DX推進協会(2025年7月にAI不動産推進協会に改称)が政策提言を行い、2022年5月の宅建業法改正で電子契約が本格化しました。不動産DXは今後も進展が期待されますが、対面とオンラインのハイブリッド型サービスを提供する企業を選ぶことで、デジタル化のメリットを享受しながら、丁寧な相談も受けられます。

不動産取引を検討する際は、VR内覧やオンライン契約などのDXツールを積極的に活用し、効率的に物件探しを進めましょう。

よくある質問

Q1不動産DXとは何ですか?不動産テックとの違いは?

A1不動産DXとは、デジタル技術を不動産業務に導入して業務効率化と新サービス創出を図る取り組みです。一方、不動産テックは不動産業界におけるテクノロジー活用全般を指す用語で、DXはその一部です。VR内覧(遠隔地から物件を疑似体験)、IT重説(オンライン重要事項説明)、電子契約(重要事項説明書・売買契約書の電子交付)が主要技術です。

Q2不動産DX協会とは何をする組織ですか?

A2DX不動産推進協会は、2020年12月17日に設立された不動産取引の完全デジタル化を提唱する業界団体です(代表理事:古木大咲)。2025年7月1日にAI不動産推進協会に改称され、AI技術の活用を強化しています。政策提言を通じて、2022年5月18日の宅建業法改正による電子契約の本格化に貢献しました。不動産ID官民連携協議会に参加し、国土交通省と連携して不動産DXを推進しています。

Q3不動産DXのメリットは何ですか?

A3消費者のメリットは、時間短縮(VR内覧で現地内覧回数削減)、情報透明性向上(物件情報のオンライン閲覧)、遠隔取引(IT重説と電子契約で遠方からも取引完結)です。事業者のメリットは、業務効率化(紙契約書作成・郵送不要)、コスト削減(郵送費・印刷費削減)、従業員の生産性向上(定型業務の自動化)です。2024年調査では75%以上の企業がDX効果(従業員の生産性向上・残業時間削減・コストカット)を実感しています。

Q4不動産DX導入の課題は何ですか?

A4初期コストが高額(数百万円〜数千万円)で、導入に平均2.5年程度の長期間が必要です。不動産業界はアナログ文化が根強く(2019年時点でテレワーク導入率25.4%)、従業員のデジタル化への適応に時間がかかります。システム操作方法の研修に時間とコストがかかり、慣れるまでの間、作業効率が一時的に低下する可能性があります。特に中小企業にとってDX導入のハードルが高いと言えます。

Q5電子契約はいつから可能になったのですか?

A52022年5月18日の宅建業法改正により、重要事項説明書・売買契約書・仲介契約書の電子交付が可能になりました。これにより、不動産取引の完全デジタル化が法的に可能となり、電子契約が本格化しました。ただし、全ての書類が対象ではないため、個別に確認が必要です。IT重説(オンライン重要事項説明)は、2017年10月に賃貸契約で、2021年4月に売買契約で本格運用が開始されています。

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Room Match編集部

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