土地家屋調査士法とは?資格の重要性と役割
土地家屋調査士を目指す際、「試験の難易度は高いのか」「仕事は安定しているのか」「独学で合格できるのか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、土地家屋調査士法の概要、試験の難易度と勉強方法、資格取得後のキャリア・求人状況、ダブルライセンスのメリットを、法務省や日本土地家屋調査士会連合会の公式情報を元に解説します。
土地家屋調査士を目指す前に、資格のメリット・デメリット、試験の実態、キャリアパスを正確に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 土地家屋調査士法は昭和25年制定、2020年に使命規定へ改正
- 試験の合格率は9~11%、偏差値60~64の難関資格
- 必要な勉強時間は1,000~1,500時間、法律知識と測量技術の両方が必要
- 独占業務(表示に関する登記)があり、需要は安定
- 「やめとけ」と言われる理由は屋外作業の厳しさ、不規則な勤務、繁忙期の負担
- 一人前になるまで3~5年かかり、長期的な学習・経験が必要
(1) 土地家屋調査士法の概要(昭和25年制定)
土地家屋調査士法は、昭和25年7月31日に制定された法律(法律第228号)で、土地家屋調査士の使命、業務範囲、試験制度、調査士会の組織等を定めています。
主な内容:
- 第1条: 土地家屋調査士の使命(2020年改正で目的規定から使命規定へ変更)
- 業務範囲: 不動産登記の「表示に関する登記」の代理申請
- 試験制度: 筆記試験(択一式・記述式)と口述試験
- 調査士会: 各都道府県に土地家屋調査士会、全国組織として日本土地家屋調査士会連合会
(出典: 土地家屋調査士法|e-Gov法令検索)
土地家屋調査士法は、不動産登記制度の正確性を担保し、国民の財産権を保護する重要な役割を果たしています。
(2) 2020年改正のポイント(使命規定への変更、懲戒権限の移管、一人法人化)
2020年8月1日、土地家屋調査士法が改正されました(2019年6月12日公布)。
主な改正点:
第1条の変更: 目的規定から使命規定へ変更
- 改正前: 「この法律は、土地家屋調査士の制度を定め...」
- 改正後: 「土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として...」
懲戒権限の移管: 法務局長から法務大臣へ移管
一人法人化の許可: 土地家屋調査士法人の一人法人化が可能に
(出典: 土地家屋調査士法が改正されました(令和2年8月1日)|日本土地家屋調査士会連合会)
この改正により、土地家屋調査士の社会的責任が明確化され、専門性がより重視されるようになりました。
(3) 土地家屋調査士の使命と独占業務
土地家屋調査士の使命は、不動産登記制度の適正な運用を支え、国民の財産権を保護することです。
独占業務:
- 表示に関する登記の代理申請: 土地・建物の物理的状況(所在、地番、地目、地積等)を登記する業務
- 筆界特定の申請代理: 土地の境界(筆界)を特定する制度の申請代理
- ADR(裁判外紛争解決手続)の代理: 境界紛争を裁判によらず解決する手続きの代理(認定土地家屋調査士のみ)
これらの独占業務により、土地家屋調査士の需要は安定しています。
土地家屋調査士の仕事内容と業務の流れ
土地家屋調査士の仕事は、測量・調査から登記申請まで、専門性の高い業務が中心です。ここでは、具体的な業務内容と流れを解説します。
(1) 表示に関する登記とは(所在、地番、地目、地積等の公示)
表示に関する登記は、不動産(土地・建物)の物理的状況を公示する登記です。
土地の登記事項:
- 所在: 土地の場所
- 地番: 土地の番号
- 地目: 土地の用途(宅地、田、畑、山林等)
- 地積: 土地の面積
建物の登記事項:
- 所在: 建物の場所
- 家屋番号: 建物の番号
- 種類: 建物の用途(居宅、店舗、工場等)
- 構造: 建物の構造(木造、鉄骨造等)
- 床面積: 建物の面積
表示に関する登記は、不動産の物理的状況を正確に記録し、取引の安全を担保する重要な制度です。
(2) 業務の流れ(測量・調査→図面作成→境界立会い→登記申請)
土地家屋調査士の業務は、以下の流れで進みます。
1. 測量・調査:
- 現地で測量機器を使用して土地・建物を測量
- 法務局で登記記録、公図、地積測量図等を調査
2. 図面作成:
- 測量データを元に、CADソフトで図面(地積測量図、建物図面等)を作成
3. 境界立会い:
- 隣接土地所有者に立ち会ってもらい、土地の境界を確定
- 境界標を設置
4. 登記申請:
- 作成した図面と申請書を法務局に提出
- 登記完了後、登記済証を依頼者に交付
(出典: 土地家屋調査士について|日本土地家屋調査士会連合会)
この一連の流れを正確に遂行するには、法律知識、測量技術、CADソフトの操作、コミュニケーション能力が必要です。
(3) 関連業務(筆界特定、ADR)
土地家屋調査士は、登記申請の代理以外にも、以下の業務を行います。
筆界特定:
- 土地の境界(筆界)が不明確な場合、筆界特定制度を利用して境界を特定
- 土地家屋調査士は申請代理が可能
ADR(裁判外紛争解決手続):
- 境界紛争を裁判によらず解決する手続き
- 認定土地家屋調査士(特別研修を修了)は代理可能
これらの業務は、境界トラブルの解決に重要な役割を果たします。
(4) 「やめとけ」と言われる理由(屋外作業の厳しさ、不規則な勤務、繁忙期の負担)
土地家屋調査士は「やめとけ」と言われることがあります。その主な理由は以下の通りです。
1. 屋外作業が多く、真夏・真冬の過酷な環境:
- 測量作業は屋外で行うため、天候に左右される
- 真夏の炎天下、真冬の寒さの中での作業が必要
2. 不規則な勤務時間:
- 依頼者の都合に合わせて境界立会いを行うため、夜間・休日も対応が必要
3. 繁忙期(1~3月)の負担:
- 年度末に登記申請が集中し、複数案件を同時処理する必要がある
- 精神的・肉体的負担が大きい
4. 一人前になるまで3~5年:
- 測量機器の操作、製図、境界確認、登記申請の全てを習得するには長期間が必要
(出典: 土地家屋調査士はやめとけと言われる理由は?)
これらのデメリットを理解した上で、資格取得を目指すかを判断することが重要です。
土地家屋調査士試験の概要と難易度
土地家屋調査士試験は、合格率9~11%の難関国家資格です。ここでは、試験の構成、難易度、2024年度のデータを解説します。
(1) 試験の構成(択一式・記述式)と合格基準
土地家屋調査士試験は、筆記試験(午前の部・午後の部)と口述試験で構成されます。
筆記試験:
- 午前の部(測量): 平面測量、作図(測量士補等の資格保有者は免除)
- 午後の部: 択一式(20問、50点満点)+ 記述式(2問、50点満点)
合格基準:
- 択一式・記述式それぞれで基準点を超える必要がある
- 合格点(択一式+記述式の合計)も超える必要がある
- どちらか一方でも基準点未満だと不合格
口述試験:
- 筆記試験合格者のみ受験可能
- 不動産登記法、土地家屋調査士法等に関する口頭試問
(出典: 法務省:令和6年度土地家屋調査士試験)
試験は択一式・記述式の両方で基準点を超える必要があり、スピード勝負です。
(2) 合格率と偏差値(9~11%、偏差値60~64)
土地家屋調査士試験の合格率は、概ね9~10%で推移しています。
過去の合格率:
- 2024年度(令和6年度): 11.0%(受験者4,589人、合格者505人)
- 2023年度: 10.0%前後
- 2022年度: 9.0%前後
偏差値:
- 60~64(MARCHレベルの難易度)
(出典: 土地家屋調査士試験の難易度は?)
合格率10%前後という数字は、他の難関資格(行政書士15%前後、宅建士17%前後)と比較しても難易度が高いことを示しています。
(3) 必要な勉強時間(1,000~1,500時間)
土地家屋調査士試験に合格するには、1,000~1,500時間の勉強が必要とされています。
勉強時間の目安:
- 法律知識(民法、不動産登記法等): 500~700時間
- 測量技術: 300~500時間
- 記述式対策(図面作成、計算等): 200~300時間
学習期間の例:
- 1日3時間勉強: 約1年~1年半
- 1日5時間勉強: 約7~10ヶ月
法律知識と測量技術の両方を習得する必要があるため、計画的な学習が必要です。
(4) 試験範囲(法律知識と測量技術の両方)
土地家屋調査士試験の範囲は、法律知識と測量技術の両方に及びます。
法律知識:
- 民法(平成16年度から追加)
- 不動産登記法
- 土地家屋調査士法
- その他関連法規
測量技術:
- 平面測量(距離測量、角測量、面積計算等)
- 作図(三角形、多角形の作図等)
注意点:
- 民法が試験範囲に加わったのは平成16年以降で、過去問が少なく対策が取りにくい
- 測量技術は独学では習得が難しく、通信講座や専門学校の利用が効率的
(5) 2024年度試験データ(受験者数、合格者数、合格基準点)
2024年度(令和6年度)の試験データは以下の通りです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 筆記試験実施日 | 2024年10月20日 |
| 受験者数 | 4,589人 |
| 合格者数 | 505人 |
| 合格率 | 11.0% |
| 択一式基準点 | 37.5点(50点満点) |
| 記述式基準点 | 31.5点(50点満点) |
| 合格点(合計) | 78.0点(100点満点) |
| 筆記試験合格発表 | 2025年1月8日 |
(出典: 法務省:令和6年度土地家屋調査士試験)
2024年度の合格率11.0%は、近年では高めの水準です。
試験の勉強方法:独学と通信講座のメリット・デメリット
土地家屋調査士試験の勉強方法は、独学と通信講座・専門学校の2つがあります。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
(1) 独学のメリット・デメリット(費用vs効率)
独学のメリット:
- 費用を抑えられる(テキスト・問題集代のみ)
- 自分のペースで学習できる
独学のデメリット:
- 民法の過去問が少なく、対策が取りにくい
- 測量技術の習得が難しい(実技指導がない)
- 記述式の添削指導が受けられない
- モチベーション維持が難しい
独学で合格することは可能ですが、効率を重視する場合は通信講座・専門学校の利用を検討することを推奨します。
(2) 通信講座・専門学校のメリット(過去問が少ない民法対策等)
通信講座・専門学校のメリット:
- 過去問が少ない民法の対策がしやすい
- 測量技術の実技指導を受けられる
- 記述式の添削指導を受けられる
- カリキュラムに沿って効率的に学習できる
- 質問・相談ができる
通信講座・専門学校のデメリット:
- 費用がかかる(数十万円程度)
通信講座・専門学校は、費用はかかりますが、合格までの期間を短縮できる可能性があります。
(3) CADソフト・測量技術の習得方法
土地家屋調査士として働くには、CADソフトの操作と測量技術の習得が必要です。
CADソフト:
- 図面作成に使用(地積測量図、建物図面等)
- 独学での習得は可能だが、時間がかかる
- 通信講座・専門学校で基礎を学ぶことを推奨
測量技術:
- 測量機器の操作(トータルステーション、GPS測量機等)
- 実務経験が必要(見習い期間に習得)
CADソフトと測量技術は、試験合格後も継続して学習・練習が必要です。
(4) 一人前になるまでの期間(3~5年)
土地家屋調査士として一人前になるまでには、3~5年の期間が必要とされています。
習得すべき技能:
- 測量機器の操作
- CADソフトでの図面作成
- 境界確認・境界立会いの進め方
- 登記申請書の作成
- 隣接土地所有者とのコミュニケーション
試験合格は第一歩であり、実務経験を積みながら技能を習得していくことが重要です。
資格取得後のキャリア:求人状況と将来性
土地家屋調査士資格を取得した後のキャリアパスと、将来性について解説します。
(1) 求人状況と就職先(土地家屋調査士事務所、測量会社、不動産会社等)
土地家屋調査士の就職先は、以下のような選択肢があります。
主な就職先:
- 土地家屋調査士事務所(個人事務所、法人事務所)
- 測量会社
- 不動産会社
- 建設会社
求人状況:
- 独占業務があるため、需要は安定
- ただし、一人前になるまで3~5年かかるため、即戦力としての求人は限られる
- 見習いとして採用され、実務経験を積みながら技能を習得するケースが多い
求人情報は、日本土地家屋調査士会連合会の公式サイトや、求人サイト(Indeed、マイナビ等)で確認できます。
(2) 独立開業のメリット・リスク
土地家屋調査士は、独立開業しやすい資格の一つです。
独立開業のメリット:
- 自分のペースで働ける
- 収入の上限がない
- 定年がない(体力が続く限り働ける)
独立開業のリスク:
- 営業活動が必要(顧客開拓)
- 収入が不安定(案件の受注状況により変動)
- 初期投資が必要(測量機器、CADソフト、事務所等)
独立開業を目指す場合は、実務経験を3~5年積んでから開業することを推奨します。
(3) ダブルライセンス(行政書士、司法書士等)の強み
土地家屋調査士は、他の資格とのダブルライセンスにより、業務範囲を広げることができます。
行政書士とのダブルライセンス:
- 土地家屋調査士: 「表示に関する登記」
- 行政書士: 「許認可申請」
- 不動産取引に関連する業務を幅広くカバーできる
司法書士とのダブルライセンス:
- 土地家屋調査士: 「表示に関する登記」
- 司法書士: 「権利に関する登記」
- 不動産登記業務を包括的に提供できる
ダブルライセンスは、競争力を高め、顧客の利便性を向上させる強みがあります。
(4) 将来性(AI化できない業務、独占業務による安定性)
土地家屋調査士の将来性は、以下の理由で安定していると考えられます。
AI化できない業務:
- 境界立会い(隣接土地所有者との交渉)
- 現地測量(天候・地形による臨機応変な対応)
- 境界紛争の解決(人間関係の調整)
独占業務による安定性:
- 表示に関する登記は土地家屋調査士の独占業務
- 不動産取引がある限り、需要は続く
ただし、人口減少により不動産取引件数が減る可能性はあるため、専門性を高め、付加価値を提供することが重要です。
まとめ:土地家屋調査士を目指す前に知っておくべきこと
土地家屋調査士は、合格率9~11%、偏差値60~64の難関国家資格です。法律知識と測量技術の両方が求められ、必要な勉強時間は1,000~1,500時間です。
独占業務(表示に関する登記)があり、需要は安定していますが、屋外作業の厳しさ、不規則な勤務時間、繁忙期の負担など、「やめとけ」と言われる理由も理解しておく必要があります。
一人前になるまで3~5年かかるため、長期的な視点でキャリアを考えることが重要です。独学で合格することも可能ですが、民法の過去問が少なく、測量技術の習得が難しいため、通信講座・専門学校の利用を検討することを推奨します。
資格取得後は、土地家屋調査士事務所で実務経験を積むか、独立開業を目指すか、行政書士・司法書士とのダブルライセンスで業務範囲を広げるか、さまざまなキャリアパスがあります。
土地家屋調査士を目指す場合は、資格のメリット・デメリット、試験の難易度、キャリアパスを総合的に判断し、キャリアカウンセラーなどの専門家に相談しながら、計画的に学習を進めることを推奨します。
