相続した中古マンション売却の流れ:スケジュールを理解しよう
相続で中古マンションを取得した場合、売却には相続登記や遺産分割協議など、通常の売却とは異なる手続きが必要です。特に2024年4月から相続登記が義務化されたことで、期限内に登記を完了させる必要があります。本記事では、相続発生から売却完了までの全体の流れ、各フェーズの所要期間、税制優遇措置の活用方法を解説します。
この記事でわかること
- 相続発生から売却完了までの全体スケジュール(6~15ヶ月)
- 遺産分割協議・相続登記・相続税申告の流れ
- 売却査定から契約・引渡しまでの手順
- 取得費加算の特例・空き家特例の活用方法
- 複数相続人がいる場合の注意点
1. 相続した中古マンション売却の流れとスケジュール
(1) 相続発生から売却完了までの全体像
相続した中古マンションを売却する場合、相続発生から引渡しまで6~15ヶ月程度が目安です。相続手続きと売却活動を並行して進める場合もありますが、遺産分割協議が完了してから売却活動を始めるのが一般的です。
全体スケジュールの目安
フェーズ | 期間 | 主な内容 |
---|---|---|
遺産分割協議と相続登記 | 1~6ヶ月 | 財産調査、遺産分割協議、相続登記申請 |
売却準備・査定 | 1~2ヶ月 | 査定依頼、媒介契約締結 |
売却活動 | 2~4ヶ月 | 物件公開、内覧対応、価格交渉 |
売買契約・引渡し | 1~2ヶ月 | 売買契約、残金決済、引渡し |
相続税申告・納税 | 10ヶ月以内 | 相続税申告、納税(売却代金を充当可能) |
遺産分割協議がスムーズに進めば6~8ヶ月で完了しますが、協議が難航する場合は15ヶ月以上かかることもあります。
(2) 相続登記義務化と3年以内の登記期限
2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記申請が必要となりました(法務局「相続登記の申請手続」)。
相続登記義務化のポイント
項目 | 内容 |
---|---|
登記期限 | 相続開始を知った日から3年以内 |
罰則 | 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料 |
対象 | 2024年4月1日以降の相続(過去の相続も対象) |
申請義務者 | 相続人全員(遺産分割前でも相続人申告登記で対応可能) |
売却前に相続登記を完了させることが必須です。登記しなければ所有権を証明できず、売却できません。
2. 遺産分割協議と相続登記の手続き
(1) 遺産分割協議の進め方と必要書類
相続が発生したら、まず相続人全員で遺産の分け方を話し合います(国税庁「相続税の計算方法」)。
遺産分割協議の流れ
- 相続人の確定:戸籍謄本で相続人を確定
- 財産調査:不動産・預貯金・有価証券など全財産を調査
- 協議の開始:相続人全員で財産の分け方を話し合い
- 合意形成:各相続人の取得財産を決定
- 遺産分割協議書の作成:合意内容を書面化、全員が署名・押印
遺産分割協議書に記載すべき内容
- 被相続人の氏名・死亡年月日
- 相続人の氏名・住所
- 不動産の表示(所在・地番・家屋番号・構造・床面積)
- 各相続人の取得財産
- 協議成立日・相続人全員の署名・押印
中古マンションを売却する場合、「相続人全員の共有」または「代表相続人の単独相続」のいずれかを選択します。
(2) 相続登記の申請手順と費用
遺産分割協議が完了したら、相続登記を申請します。
相続登記の流れ
- 必要書類の準備:遺産分割協議書、戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書など
- 登記申請書の作成:法務局の様式に従い作成
- 登録免許税の納付:固定資産税評価額の0.4%
- 法務局への申請:管轄法務局に書類を提出
- 登記完了:通常1~2週間で登記完了、登記識別情報の受領
登記費用の目安
項目 | 金額 |
---|---|
登録免許税 | 固定資産税評価額×0.4% |
司法書士報酬 | 5~10万円程度 |
戸籍謄本等の取得費用 | 数千円~1万円程度 |
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の中古マンションの場合、登録免許税は8万円、司法書士報酬を含めると合計13~18万円程度となります。
3. 相続税申告期限と売却タイミング
(1) 相続税の申告期限(10ヶ月)の確認
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
相続税申告のスケジュール
時期 | 内容 |
---|---|
相続開始~3ヶ月 | 財産調査、相続人確定 |
3~6ヶ月 | 遺産分割協議、財産評価 |
6~10ヶ月 | 相続税申告書作成、納税準備 |
10ヶ月以内 | 相続税申告・納税 |
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。遺産総額がこの基礎控除額を超える場合、相続税の申告と納税が必要です。
(2) 売却代金を相続税納付に充当する計画
中古マンションを売却し、売却代金を相続税の納付に充当することができます。
売却代金で相続税を納付する場合のスケジュール
- 相続発生~3ヶ月:遺産分割協議、相続税の概算計算
- 3~6ヶ月:相続登記、売却査定、媒介契約
- 6~8ヶ月:売却活動、売買契約
- 8~10ヶ月:残金決済、売却代金を相続税納付に充当
- 10ヶ月以内:相続税申告・納税
注意点
- 売却が長期化し、10ヶ月以内に完了しない場合、自己資金での納税または延納・物納の検討が必要
- 売却代金は相続人間で分配するため、代表相続人が納税資金を立て替える場合あり
- 売却代金を納税に充当する計画は、遺産分割協議書に明記することを推奨
4. 売却査定から契約までの進め方
(1) 適正査定額の判断と複数社比較
相続登記が完了したら、売却査定を依頼します。
査定依頼の流れ
- 複数の不動産会社に査定依頼:一括査定サイトを活用(3~5社が目安)
- 訪問査定の実施:実際に物件を見てもらい正確な査定額を取得
- 査定額の比較:国土交通省の「不動産取引価格情報」で相場を確認
- 媒介契約の締結:専任媒介または一般媒介契約
査定額の妥当性判断
- 国土交通省「不動産取引価格情報」で同じエリア・築年数・専有面積の成約事例を確認
- 複数社の査定額を比較し、平均値を参考にする
- 査定額が高すぎる場合、売却が長期化するリスクあり
(2) 相続不動産の売却活動と価格交渉
媒介契約締結後、売却活動を開始します。
売却活動の流れ
- 物件情報の公開:不動産ポータルサイト(SUUMO、LIFULL HOME'Sなど)に掲載
- 内覧対応:購入希望者に物件を見せる(清掃・整理整頓が重要)
- 価格交渉:購入希望者から価格交渉があれば対応
- 購入申込の受領:購入希望者から購入申込書を受領
- 売買契約の締結:重要事項説明・売買契約書の署名・押印
相続不動産売却の注意点
- 複数相続人がいる場合、売却価格の決定に全員の合意が必要
- 内覧対応は代表相続人が行うことが多い
- 売買契約時、相続人全員の署名・押印が必要(または代表相続人が委任状で代理)
5. 相続マンション売却時の税制優遇
(1) 取得費加算の特例(3年以内の売却)
相続した不動産を一定期間内に売却すると、相続税の一部を取得費に加算できます(国税庁「相続した不動産の売却」)。
取得費加算の特例の内容
項目 | 内容 |
---|---|
適用要件 | 相続税申告期限から3年以内の売却 |
加算できる額 | 相続税額×(売却不動産の相続税評価額÷相続財産総額) |
効果 | 譲渡所得税の軽減 |
計算例
- 相続税額:500万円
- 売却マンションの相続税評価額:3,000万円
- 相続財産総額:1億円
- 取得費加算額:500万円×(3,000万円÷1億円)=150万円
取得費に150万円を加算できるため、譲渡所得が150万円減り、譲渡所得税が軽減されます。
(2) 空き家特例の3000万円控除と適用条件
相続した空き家を売却した場合、一定要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます(国税庁「空き家特例(3000万円控除)」)。
空き家特例の適用要件
項目 | 要件 |
---|---|
建物の築年数 | 1981年5月31日以前に建築された建物 |
耐震基準 | 耐震基準を満たす必要あり(耐震改修または取り壊し) |
対象建物 | 戸建て住宅(マンションは対象外) |
売却期限 | 相続開始後3年を経過する年の12月31日まで |
売却価格 | 1億円以下 |
注意点
- 中古マンションは区分所有建物のため、空き家特例の対象外となるケースが多い
- 戸建て住宅のみが対象のため、マンションを相続した場合は取得費加算の特例が主な優遇措置
6. 複数相続人がいる場合の注意点
(1) 遺産分割前の売却リスク
遺産分割協議が整わない状態で売却することはできません。
遺産分割前の売却リスク
- 相続登記ができないため、所有権を証明できない
- 売買契約時、相続人全員の同意が必要
- 売却代金の分配方法が未確定のためトラブルのリスク
対策
- まず遺産分割協議を優先し、合意形成を図る
- 協議が難航する場合、弁護士に相談し調停・審判を検討
- 代表相続人に売却を委任する場合、委任状を作成
(2) 代償分割での売却代金活用方法
代償分割とは、特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。
代償分割の流れ
- 遺産分割協議:特定の相続人(例:長男)が中古マンションを取得
- 代償金の決定:他の相続人に支払う代償金の額を決定
- マンションの売却:長男がマンションを売却
- 代償金の支払い:売却代金から他の相続人に代償金を支払い
代償分割のメリット
- 遺産分割協議が円滑に進む
- 売却手続きが代表相続人のみで完結
- 他の相続人は売却活動に関与不要
注意点
- 代償金を支払う前に売却が完了する必要あり
- 売却代金が予想より低い場合、代償金の支払いが困難になるリスク
- 遺産分割協議書に代償分割の内容を明記
まとめ
相続した中古マンションを売却する場合、相続発生から引渡しまで6~15ヶ月程度が目安です。遺産分割協議(1~6ヶ月)、相続登記(1~2週間)、売却活動(2~4ヶ月)、売買契約・引渡し(1~2ヶ月)の流れで進みます。
2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記申請が必要です。遺産分割協議がまとまらないと売却できないため、相続人間の合意形成が重要です。
相続税の申告期限は10ヶ月以内で、売却代金を納税に充当することも可能です。取得費加算の特例(相続税申告期限から3年以内)を活用すれば、譲渡所得税を軽減できます。空き家特例はマンションでは適用されないケースが多いため、取得費加算の特例が主な優遇措置となります。
複数相続人がいる場合、遺産分割協議の完了が売却の前提です。代償分割を活用すれば、代表相続人が単独で売却手続きを進めることができます。弁護士や税理士と連携し、計画的に進めることが成功の鍵です。