離婚時中古マンション売却の流れ・スケジュールガイド

公開日: 2025/10/14

離婚で中古マンションを売却する流れとスケジュール

離婚に伴う中古マンションの売却は、財産分与協議、共有名義の解消、住宅ローン残債の処理など、通常の売却にはない複雑な手続きが発生します。適切なスケジュール管理と段取りを把握することで、スムーズな売却とトラブル回避が可能になります。

この記事のポイント

  • 財産分与協議から決済まで通常3~6ヶ月の期間が必要
  • 共有名義の場合は元配偶者の同意が必須
  • 住宅ローン残債がある場合は任意売却や自己資金での補填を検討
  • 財産分与で不動産を譲渡すると分与者に譲渡所得税が課される場合がある
  • 居住用財産の3,000万円特別控除を活用できる可能性がある

(1) 離婚確定前後の売却スケジュール例

離婚に伴う中古マンション売却の一般的なスケジュールは以下の通りです。

離婚確定前に売却を開始する場合

時期 手続き内容
離婚協議開始 財産分与方針の協議・マンション売却の合意
1ヶ月目 複数社に査定依頼・適正価格の把握
2ヶ月目 媒介契約締結・販売活動開始
3~4ヶ月目 買主との価格交渉・売買契約締結
5~6ヶ月目 引き渡し・決済・財産分与の確定
離婚届提出 財産分与完了後に離婚手続き

離婚確定後に売却を開始する場合

時期 手続き内容
離婚届提出 離婚成立・財産分与の法的手続き開始
1ヶ月目 査定依頼・共有名義解消の協議
2~6ヶ月目 売却活動~決済(上記と同様)

(2) 財産分与協議から決済までの所要期間

財産分与協議から決済完了までは、通常3~6ヶ月の期間を要します。

主な所要期間の内訳

  • 財産分与協議(売却方針の合意): 1~2ヶ月
  • 査定・媒介契約: 2~4週間
  • 販売活動・買主探し: 1~3ヶ月
  • 売買契約~決済: 1~2ヶ月

ただし、離婚調停が長引いたり、元配偶者との合意形成が難航したりする場合、6ヶ月以上かかることもあります。市場環境によって売却期間が変動するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

財産分与協議と売却タイミングの判断

(1) 離婚前・離婚後の売却メリット比較

離婚前に売却する場合と離婚後に売却する場合、それぞれメリットとデメリットがあります。

離婚前に売却するメリット

  • 財産分与が金銭で明確になり、後のトラブルが少ない
  • 共有名義のまま売却手続きを進められる
  • 売却代金を分配してから離婚手続きを進められる

離婚前に売却するデメリット

  • 離婚協議中に売却タイミングがずれると価格下落リスクがある
  • 共有名義のため元配偶者の同意が必須

離婚後に売却するメリット

  • 財産分与の法的手続きが明確になる
  • 単独名義に変更してから売却することも可能

離婚後に売却するデメリット

  • 元配偶者との連絡・調整が困難になる可能性
  • 共有名義の場合は引き続き同意が必要

(2) 財産分与方法の選択肢と税金への影響

離婚時の中古マンションの財産分与には、主に以下の3つの方法があります。

① マンションを売却して代金を分配

  • 最も明確で公平な方法
  • 売却代金を現金で分け合うため、後のトラブルが少ない
  • 住宅ローン残債がある場合は売却代金で完済する必要がある

② どちらか一方がマンションを取得し、他方に代償金を支払う

  • 子どもの生活環境を維持できる
  • 代償金の支払いが発生するため資金が必要
  • 不動産を譲渡した側に譲渡所得税が課される場合がある

③ 共有名義のまま保有

  • 売却タイミングを先延ばしできる
  • 将来的な売却時に元配偶者の同意が必要
  • 固定資産税やローン返済の分担でトラブルになるリスクがある

参考: 財産分与と税金|国税庁

共有名義マンションの売却手続き

(1) 元配偶者の同意取得と媒介契約

共有名義の中古マンションを売却する場合、共有者全員(元配偶者を含む)の同意が必要です。売却を進めるには、以下の手続きが必要になります。

必要な手続き

  1. 元配偶者と売却方針の合意(売却価格・時期・分配方法など)
  2. 不動産会社との媒介契約(共有者全員の署名・押印)
  3. 売買契約(共有者全員が売主として契約)
  4. 決済時の立ち会い(共有者全員が原則必要)

元配偶者が売却に同意しない場合、共有物分割請求訴訟などの法的手続きが必要になることがあります。早めの合意形成が重要です。

参考: 宅地建物取引業法|国土交通省

(2) 売却代金の分配方法と協議書の作成

売却代金の分配方法は、財産分与協議で決定します。一般的には共有持分に応じて分配されますが、住宅ローンの返済負担や生活費の負担などを考慮して調整することもあります。

分配方法の明文化

  • 財産分与協議書を作成し、分配割合を明記する
  • 住宅ローン残債の処理方法も明記する
  • 売却費用(仲介手数料・登記費用など)の負担方法も明記する

協議書は公正証書にすることで、法的拘束力を持たせることができます。弁護士や司法書士に相談して適切な書面を作成することをお勧めします。

住宅ローン残債がある場合の対応

(1) オーバーローン時の任意売却の流れ

住宅ローン残債が売却価格を上回る状態を「オーバーローン」と言います。オーバーローンの場合、通常の売却では住宅ローンを完済できないため、金融機関の承諾を得て「任意売却」を行う必要があります。

任意売却の流れ

  1. 金融機関に任意売却の相談(残債額・売却見込み価格の確認)
  2. 金融機関の承諾取得(売却価格が残債を下回ることの了承)
  3. 不動産会社との媒介契約(任意売却に対応できる会社を選ぶ)
  4. 販売活動・買主探し
  5. 金融機関の承諾を得て売買契約
  6. 決済・抵当権抹消(残債は無担保債務として残る)

任意売却後も住宅ローン残債は債務として残るため、金融機関と返済計画を協議する必要があります。離婚時の財産分与では、この残債も分け合う必要があることに注意が必要です。

(2) 残債処理と自己資金での補填方法

オーバーローンを避けるために、自己資金で不足分を補填して売却することも可能です。

自己資金補填の例

  • 売却価格: 3,000万円
  • 住宅ローン残債: 3,500万円
  • 不足分: 500万円 → 自己資金で補填

自己資金での補填が難しい場合は、親族からの借入や新たなローンの検討も必要になります。財産分与協議で、どちらが補填するか、または分担するかを明確にすることが重要です。

売却査定から契約までの進め方

(1) 適正査定額の判断と複数社比較

離婚に伴う売却では、適正な査定額の把握が特に重要です。財産分与の公平性を保つため、複数の不動産会社に査定を依頼し、相場を正確に把握しましょう。

査定依頼のポイント

  • 3~5社に査定依頼(一括査定サービスの活用も可)
  • 査定額の根拠を確認(近隣の成約事例・市場動向など)
  • 国土交通省の不動産取引価格情報で成約価格を確認

参考: 土地総合情報システム|国土交通省

査定額に大きな差がある場合は、なぜその価格になるのか、各社に説明を求めることが重要です。離婚協議中は冷静な判断が難しいこともあるため、第三者(弁護士や不動産の専門家)に相談することも検討しましょう。

(2) 離婚調停中の販売活動と価格交渉

離婚調停中でも、元配偶者の同意があれば販売活動は可能です。ただし、調停が長引くと市場環境が変化し、売却価格が下落するリスクもあります。

販売活動のポイント

  • 専任媒介契約または専属専任媒介契約を選択(レインズ登録義務があり、広く買主を探せる)
  • 2週間に1回以上の活動報告を受ける(専任媒介契約の場合)
  • 価格交渉時は元配偶者と連絡を取り、合意を得る

参考: 不動産取引時の重要事項説明|不動産流通経営協会

買主から価格交渉があった場合、元配偶者と迅速に連絡を取り、合意を得る必要があります。連絡が取れない、または合意が得られない場合、売却機会を逃すこともあるため、事前に価格交渉の幅や対応方針を協議しておくことが重要です。

財産分与と譲渡所得税の注意点

(1) 分与者に課される譲渡所得税の計算

財産分与で不動産を元配偶者に譲渡した場合、分与者(渡す側)に譲渡所得税が課される場合があります。これは、不動産を時価で譲渡したとみなされるためです。

譲渡所得税の計算式 譲渡所得 = 譲渡価格(時価) - 取得費 - 譲渡費用

譲渡所得がプラスになる場合、分与者に譲渡所得税が課税されます。税率は所有期間によって異なります。

所有期間 税率
5年以下(短期譲渡) 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
5年超(長期譲渡) 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

※所有期間は売却した年の1月1日時点で判定されます。

参考: 不動産売却時の税金ガイド|国税庁

(2) 3,000万円特別控除の適用条件

居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」があります。離婚に伴う財産分与でも、一定の条件を満たせばこの特例を適用できます。

主な適用条件

  • 自己の居住用財産であること(別荘や投資用は対象外)
  • 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
  • 売主と買主が親族関係にないこと(元配偶者は離婚後であれば該当しない)
  • 離婚後に譲渡すること(離婚前は親族関係にあるため適用不可)

離婚のタイミングと特例適用

  • 離婚前に譲渡: 特例適用不可(配偶者は親族にあたる)
  • 離婚後に譲渡: 特例適用可能(元配偶者は親族にあたらない)

このため、離婚後に財産分与として不動産を譲渡することで、3,000万円特別控除を活用できる可能性があります。ただし、税務上の取り扱いは個別のケースによって異なるため、税理士に相談することをお勧めします。

まとめ

離婚に伴う中古マンションの売却は、財産分与協議から決済まで通常3~6ヶ月の期間が必要です。共有名義の場合は元配偶者の同意が必須であり、住宅ローン残債がある場合は任意売却や自己資金での補填を検討する必要があります。

財産分与で不動産を譲渡すると分与者に譲渡所得税が課される場合がありますが、離婚後に譲渡することで居住用財産の3,000万円特別控除を活用できる可能性があります。

離婚調停中は冷静な判断が難しいこともあるため、不動産会社だけでなく、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら、適切なスケジュールと手続きを進めることをお勧めします。

よくある質問

Q1離婚前と離婚後、どちらで売却すべきですか?

A1財産分与協議が完了していれば離婚前でも売却可能です。離婚前に売却するメリットは、財産分与が金銭で明確になり後のトラブルが少ないこと、売却代金を分配してから離婚手続きを進められることです。一方、離婚後に売却する場合、財産分与の法的手続きが明確になり、居住用財産の3,000万円特別控除を適用できる可能性があります。ただし、共有名義の場合はいずれのタイミングでも元配偶者の同意が必須です。

Q2住宅ローン残債が売却価格を上回る場合はどうすればいいですか?

A2住宅ローン残債が売却価格を上回る状態を「オーバーローン」と言います。この場合、自己資金で不足分を補填するか、金融機関の承諾を得て任意売却を行う必要があります。任意売却後も残債は無担保債務として残るため、金融機関と返済計画を協議します。離婚時の財産分与では、この残債も分け合う必要があることに注意が必要です。

Q3財産分与で不動産を譲渡すると税金がかかりますか?

A3財産分与で不動産を元配偶者に譲渡した場合、分与者(渡す側)に譲渡所得税が課される場合があります。これは不動産を時価で譲渡したとみなされるためです。ただし、離婚後に譲渡すれば居住用財産の3,000万円特別控除を適用できる可能性があります。離婚前は配偶者が親族にあたるため特例適用不可ですが、離婚後であれば元配偶者は親族にあたらず、特例を活用できます。

Q4離婚調停中でも売却活動はできますか?

A4離婚調停中でも、元配偶者の同意があれば売却活動は可能です。ただし、共有名義の場合は元配偶者の同意が必須であり、調停が長引くと市場環境が変化して売却価格が下落するリスクもあります。専任媒介契約または専属専任媒介契約を選択し、2週間に1回以上の活動報告を受けることが重要です。価格交渉時は元配偶者と迅速に連絡を取り、合意を得る必要があるため、事前に価格交渉の幅や対応方針を協議しておくことをお勧めします。

Q5財産分与協議から決済までどれくらいの期間がかかりますか?

A5財産分与協議から決済完了までは、通常3~6ヶ月の期間を要します。主な内訳は、財産分与協議(売却方針の合意)が1~2ヶ月、査定・媒介契約が2~4週間、販売活動・買主探しが1~3ヶ月、売買契約~決済が1~2ヶ月です。ただし、離婚調停が長引いたり元配偶者との合意形成が難航したりする場合、6ヶ月以上かかることもあります。市場環境によって売却期間が変動するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

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