相続した中古戸建て売却の全体スケジュール
親から相続した中古戸建てを売却する場合、相続手続き(相続登記、遺産分割協議)と売却手続きを同時進行で進める必要があります。相続税納税期限(10ヶ月)、空き家特例(3年以内)、相続登記義務化(3年以内)など、複数の期限を意識したスケジュール管理が重要です。
この記事でわかること
- 相続発生から売却完了までのスケジュール(7~12ヶ月が目安)
- 相続登記の義務化(2024年4月~)と3年以内の期限
- 空き家の3,000万円特別控除の適用条件と期限
- 取得費加算の特例(相続税を払った場合)の活用方法
- 共同相続時の遺産分割協議と換価分割の進め方
(1) 相続発生から売却完了までの期間目安
相続した中古戸建てを売却する場合、以下のスケジュールで進めます:
フェーズ | 所要期間 | 主な作業内容 |
---|---|---|
相続人確定・遺産分割協議 | 3~6ヶ月 | 戸籍収集、協議、協議書作成 |
相続登記(名義変更) | 1~2ヶ月 | 登記申請、登記完了 |
査定・媒介契約 | 2~4週間 | 複数社査定、専任媒介契約 |
販売活動 | 2~3ヶ月 | 広告掲載、内見対応、価格交渉 |
売買契約 | 1週間 | 手付金受領、重要事項説明 |
決済・引き渡し | 1~2ヶ月 | 残代金決済、所有権移転登記 |
合計:7~12ヶ月
相続税申告期限(10ヶ月)、空き家特例期限(3年)、相続登記義務化(3年)を意識し、早めに動き出すことが重要です。
(2) 相続登記と売却の順序
相続登記(名義変更)なしでは売却できません。売却の流れは以下の順序で進めます:
- 相続人の確定:戸籍謄本で相続人を確認
- 遺産分割協議:相続人全員で遺産の分け方を決定
- 相続登記:法務局に登記申請
- 売却開始:登記完了後、不動産会社に査定依頼
相続登記と売却準備(査定依頼、物件の片付け)は並行して進めることができます。
相続手続きと名義変更(3-6ヶ月)
(1) 相続人の確定と遺産分割協議
相続が発生したら、まず相続人を確定します。
相続人の確定:
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)を取得
- 法定相続人を確認(配偶者、子、親、兄弟姉妹)
遺産分割協議:
- 相続人全員で遺産の分け方を話し合う
- 合意内容を遺産分割協議書に記載
- 全相続人が署名・押印(実印)
協議の選択肢:
- 単独相続:特定の相続人が不動産を単独取得
- 共有相続:複数の相続人で共有(売却には全員の同意が必要)
- 換価分割:不動産を売却し、売却代金を分配
換価分割は、現金で公平に分配できるため、相続人間のトラブルを避けやすい方法です。
(2) 相続登記(名義変更)の手続き
遺産分割協議が成立したら、相続登記を行います。
登記申請の流れ:
- 登記申請書の作成
- 添付書類の準備(戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など)
- 法務局に申請
- 登記完了(1~2週間)
登記費用:
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬:5~10万円程度
(3) 2024年義務化された相続登記の期限
2024年4月から、法務省の相続登記義務化制度により、相続を知ってから3年以内に相続登記を行うことが義務付けられました。
義務化のポイント:
- 相続を知った日から3年以内に登記必要
- 違反時は10万円以下の過料
- 売却には相続登記完了が必須
遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」で義務履行可能です。
相続人間の合意形成と査定依頼(1ヶ月)
(1) 売却方針の決定と全相続人の同意
共同相続の場合、売却には全相続人の同意が必要です。
売却方針の決定:
- 誰かが相続して住むか、売却するか
- 売却する場合、最低売却価格を決定
- 売却時期(早期売却か、時期を見計らうか)
全相続人の同意:
- 遺産分割協議書に売却方針を明記
- 売却価格や売却時期について事前に合意
(2) 複数の不動産会社に査定依頼
中古戸建ての査定は、複数社(3~5社)に依頼します。
査定のポイント:
- 国土交通省の不動産取引価格情報で周辺の成約事例を確認
- 建物の築年数、状態、設備を考慮
- 土地の広さ、立地、接道状況を確認
中古戸建ての査定額:
- 築20年以上の木造戸建ては建物評価がほぼゼロ(土地評価のみ)
- 築浅(築10年以内)なら建物評価も残る
(3) 空き家の管理と維持費用
空き家期間中は、管理と維持費用が発生します。
維持費用:
- 固定資産税・都市計画税:年10~30万円(地域・評価額による)
- 火災保険料:年1~3万円
- 水道光熱費(基本料金):月数千円
- 庭の手入れ・除草費用:年5~10万円
空き家のリスク:
- 建物劣化(雨漏り、カビ、害虫)
- 近隣トラブル(雑草、害虫、不審者侵入)
- 倒壊リスク(老朽化した建物)
早期売却が推奨されます。
媒介契約と販売活動(2-3ヶ月)
(1) 媒介契約の締結
不動産会社と媒介契約を締結します。国土交通省の宅地建物取引業法では、媒介契約は「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」の3種類があります。
推奨:専任媒介契約
- レインズ登録義務(7日以内)
- 2週間に1回以上の活動報告義務
- 不動産会社が積極的に販売活動を行う
(2) 空き家の片付けとハウスクリーニング
売却前に、空き家の片付けとクリーニングを行います。
片付けの手順:
- 不用品の処分(遺品整理業者に依頼)
- ハウスクリーニング(水回り、床、窓)
- 簡易リフォーム(破損箇所の修繕)
費用目安:
- 遺品整理:10~30万円(広さによる)
- ハウスクリーニング:5~10万円
- 簡易リフォーム:10~50万円
内覧時の第一印象が売却価格に影響するため、最低限のクリーニングは推奨されます。
(3) 相続物件特有の販売戦略
相続物件は「相続のため売却」と明記することで、買主に価格交渉の余地があることを示します。
販売戦略:
- 「相続のため早期売却希望」と広告に明記
- 査定額の90~95%を初期価格に設定
- 1~2ヶ月で売却できない場合、5~10%値下げ
相続税納税期限や空き家特例期限を意識し、早期売却を優先します。
売買契約と決済・引き渡し(1-2ヶ月)
(1) 重要事項説明と契約締結
買主が決まったら、重要事項説明を受けます。
重要事項説明の内容:
- 物件の権利関係(所有権、抵当権の有無)
- 法令制限(建築基準法、都市計画法など)
- 設備の状況(給水、排水、電気、ガス)
- 建物の瑕疵(雨漏り、シロアリ被害など)
売買契約:
- 契約書に署名・押印
- 手付金(物件価格の5~10%)を受領
(2) 残代金決済と所有権移転登記
決済日には、以下の手続きを行います:
- 残代金の決済(買主→売主)
- 所有権移転登記の申請(司法書士が代行)
- 鍵・書類の引き渡し
- 固定資産税・都市計画税の精算
(3) 売却代金の分配
換価分割の場合、売却代金を相続人で分配します。
分配の流れ:
- 売却代金から売却費用(仲介手数料、登記費用、税金)を差し引く
- 残金を遺産分割協議書の分配割合に従って分配
- 各相続人に振り込み
相続税と譲渡所得税の申告
(1) 相続税申告(10ヶ月以内)
国税庁の相続税ガイドによれば、遺産総額が基礎控除額を超える場合、相続税がかかります。
相続税の基礎控除額:
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
申告期限:
- 相続開始日から10ヶ月以内
(2) 取得費加算の特例
国税庁の取得費加算の特例ガイドによれば、相続税を支払った場合、その一部を譲渡所得の取得費に加算できます。
適用要件:
- 相続税を支払ったこと
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すること
計算例:
売却価格:3,000万円
被相続人の取得費:1,500万円
譲渡費用:120万円(仲介手数料など)
相続税額:200万円
通常の譲渡所得 = 3,000万円 - 1,500万円 - 120万円 = 1,380万円
譲渡所得税(長期20.315%)= 1,380万円 × 20.315% = 280万円
取得費加算の特例適用後:
取得費 = 1,500万円 + 200万円 = 1,700万円
譲渡所得 = 3,000万円 - 1,700万円 - 120万円 = 1,180万円
譲渡所得税 = 1,180万円 × 20.315% = 240万円
軽減額 = 280万円 - 240万円 = 40万円
(3) 空き家の3000万円特別控除
国税庁の空き家特例ガイドによれば、相続した空き家を売却する際、一定要件を満たせば3,000万円の特別控除が受けられます。
適用要件:
- 昭和56年5月31日以前に建築された戸建て
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却価格が1億円以下
- 耐震リフォーム実施または更地にして売却
控除額:
- 譲渡所得から最大3,000万円を控除
計算例:
売却価格:3,000万円
取得費:1,000万円
譲渡費用:120万円
譲渡所得 = 3,000万円 - 1,000万円 - 120万円 = 1,880万円
空き家特例適用後 = 1,880万円 - 1,880万円 = 0円
→ 譲渡所得税はかからない
まとめ
相続した中古戸建てを売却する場合、相続発生から売却完了まで7~12ヶ月が目安です。相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内に登記が必要です。売却には相続登記完了が必須のため、遺産分割協議完了後すぐに登記することが推奨されます。
空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年以内の売却が条件です。取得費加算の特例は相続税を支払った場合、3年10ヶ月以内の売却で適用されます。どちらも期限があるため、早期売却が有利です。
共同相続の場合は、遺産分割協議で売却方針を決定し、換価分割で売却代金を分配する方法が推奨されます。空き家期間中は維持費用が発生するため、早めに動き出すことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続登記をしないと売却できませんか?
相続登記(名義変更)なしでは売却不可です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知ってから3年以内に登記が必要です。未登記だと10万円以下の過料です。登記には遺産分割協議書、戸籍謄本、印鑑証明書が必要です。司法書士依頼が一般的です。
Q2. 相続人が複数いる場合、全員の同意が必要ですか?
必要です。共有相続の場合、全相続人の同意なしで売却不可です。売却方針や価格で意見対立すると長期化します。遺産分割協議で代表者1名に相続させて単独名義にすると売却手続きがスムーズです。合意できない場合は共有物分割請求訴訟も可能です。
Q3. 相続した戸建てを売却した場合、税金はどうなりますか?
相続税(遺産総額が基礎控除超える場合)と譲渡所得税の両方がかかる可能性があります。取得費加算の特例で相続税の一部を取得費に算入可能です。空き家の3,000万円特別控除は昭和56年5月31日以前建築、一定要件満たせば適用されます。確定申告必須です。
Q4. 空き家はいつまでに売却すれば良いですか?
空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。それまでに売却すれば最大3,000万円まで譲渡所得非課税です。期限過ぎると通常の譲渡所得税(長期20.315%)がかかります。早期売却がお得です。