相続した新築戸建て売却の流れ|登記義務化と税制優遇

公開日: 2025/10/14

相続新築戸建て売却の全体スケジュール

相続で受け継いだ新築戸建てを売却する場合、通常の売却と異なり、相続人の確定、遺産分割協議、相続登記といった手続きを経る必要があります。相続発生から売却完了まで6~12ヶ月程度かかり、相続税申告期限(10ヶ月)との調整も重要です。

この記事のポイント

  • 相続発生から売却完了まで6~12ヶ月(相続人確定・遺産分割1~3ヶ月+相続登記1~2ヶ月+売却活動3~6ヶ月)
  • 相続登記は2024年4月から3年以内の申請が義務化(違反時は10万円以下の過料)
  • 相続税申告期限は相続発生から10ヶ月以内
  • 取得費加算特例(相続後3年10ヶ月以内)または空き家3000万円控除を活用可能
  • 共同相続人全員の同意が原則必須(遺産分割協議で単独取得すれば単独判断可能)

(1) 相続発生から売却完了まで(6-12ヶ月)

相続で新築戸建てを売却する全体スケジュールは、以下のように進みます。

時期 主な活動 所要期間
相続発生 死亡届提出、相続人確定 1週間~1ヶ月
遺産分割協議 相続人間で遺産分割方法を決定 1~3ヶ月
相続登記 不動産の名義を相続人へ変更 1~2ヶ月
売却準備 査定依頼、媒介契約締結 1ヶ月
売却活動 内覧対応、購入希望者との交渉 2~6ヶ月
売買契約 契約締結、手付金の授受 1ヶ月
決済・引き渡し 残代金の受領、物件の引き渡し 1ヶ月

相続税申告期限(10ヶ月)内に売却を完了させるには、早めに手続きを開始することが重要です。

(2) 相続登記義務化(3年以内)

2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要です。

  • 義務化の背景: 所有者不明土地の解消
  • 罰則: 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
  • 売却との関係: 相続登記を完了しないと売却できない

相続登記は、遺産分割協議完了後すぐに行うことをおすすめします。

(3) 相続税申告期限(10ヶ月)との調整

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。売却を検討する場合、以下のタイミングを意識しましょう。

  • 10ヶ月以内に売却完了: 売却代金を相続税納税資金に充てられる
  • 3年10ヶ月以内に売却: 取得費加算特例を活用して譲渡所得税を軽減できる

相続税の納税資金が不足する場合、早めに売却を進めることが重要です。

相続人確定と遺産分割協議

相続で新築戸建てを売却する前に、相続人を確定し、遺産分割協議を行う必要があります。

(1) 相続人の確定手続き

相続人を確定するには、以下の手順で進めます。

  1. 戸籍謄本の取得: 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得
  2. 相続人の確定: 戸籍謄本から法定相続人を確認
  3. 相続関係説明図の作成: 相続人の関係を図にまとめる

法定相続人は、配偶者と子、または配偶者と親、配偶者と兄弟姉妹などです。戸籍謄本の取得には数週間かかる場合があります。

(2) 遺産分割協議の進め方

遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きです。

  • 協議の内容: 誰がどの財産を相続するかを決定
  • 不動産の扱い: 売却して代金を分配するか、特定の相続人が取得するか
  • 全員の合意が必要: 一人でも反対すると協議が成立しない

新築戸建てを売却する場合、「売却して代金を法定相続分で分配する」または「特定の相続人が取得して売却する」のどちらかを選びます。

(3) 協議書の作成

遺産分割協議が成立したら、協議書を作成します。

  • 記載内容: 誰がどの財産を相続するか、売却代金の分配方法など
  • 全員の署名・押印: 相続人全員が実印で押印
  • 印鑑証明書の添付: 各相続人の印鑑証明書を添付

協議書は、相続登記や売却手続きで必要になります。専門家(司法書士・弁護士)に作成を依頼することもできます。

相続後の登記手続き

相続で新築戸建てを取得した場合、相続登記を行って名義を変更する必要があります。

(1) 相続登記の義務化(2024年4月~)

2024年4月から相続登記が義務化され、以下のルールが適用されます。

  • 申請期限: 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内
  • 罰則: 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
  • 遡及適用: 2024年4月以前の相続にも適用される

売却には相続登記の完了が必須のため、遺産分割協議が成立したら速やかに登記を行いましょう。

(2) 登記に必要な書類

相続登記には、以下の書類が必要です。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本: 相続人を確定するため
  • 相続人全員の戸籍謄本: 現在の相続人を証明
  • 遺産分割協議書: 協議が成立した場合
  • 相続人全員の印鑑証明書: 協議書に押印した実印の証明
  • 不動産の固定資産評価証明書: 登録免許税の計算に使用
  • 相続関係説明図: 相続人の関係を示す図

これらの書類を法務局に提出し、相続登記を申請します。

(3) 登記完了までの期間

相続登記の申請から完了まで、通常1~2週間程度かかります。

  • 書類の準備: 1~2ヶ月(戸籍謄本の取得、協議書の作成など)
  • 登記申請: 司法書士に依頼するか、自分で法務局へ申請
  • 登記完了: 申請から1~2週間で完了

登記が完了すると、登記識別情報(権利証)が交付されます。この権利証は、売却時に必要です。

売却契約から引き渡しまでの流れ

相続登記が完了したら、売却活動を開始できます。ここでは、売却契約から引き渡しまでの流れを解説します。

(1) 査定と価格設定

売却活動を始める前に、複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。

  • 査定依頼: 3~5社に査定を依頼し、時価を把握
  • 新築物件の評価: 新築戸建ては築浅で価値が高いが、市場動向も考慮
  • 価格設定: 査定額を参考に、売り出し価格を決定

新築物件は未入居であれば市場価値を維持しやすいですが、過度な期待は禁物です。現実的な価格設定が重要です。

(2) 重要事項説明と売買契約

購入希望者が見つかったら、以下の流れで契約を進めます。

  1. 買付証明書の提出: 購入希望者が購入意思を示す
  2. 重要事項説明: 宅地建物取引士が物件の詳細を説明
  3. 売買契約締結: 契約書に署名・押印し、手付金を受領
  4. 住宅ローン審査: 買主が金融機関に本審査を申し込む

共同相続人がいる場合、契約書には全員の署名・押印が必要です(または代表者に委任状を提出)。

(3) 決済・引き渡し手続き

売買契約から1~2ヶ月後に、決済・引き渡しを行います。

  1. 決済日: 金融機関で売買代金の授受、登記書類の確認
  2. 所有権移転登記: 司法書士が法務局へ登記申請
  3. 物件の引き渡し: 鍵の受け渡し、最終確認
  4. 売却代金の分配: 諸費用を控除した残額を相続人間で分配

売却代金の分配方法は、遺産分割協議書に従って行います。

相続不動産売却の税制優遇

相続で新築戸建てを売却する際、税制優遇を活用すれば、譲渡所得税を軽減できます。

(1) 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)

相続税を支払った人が、相続後3年10ヶ月以内に不動産を売却した場合、相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できます。

適用要件:

  • 相続または遺贈により財産を取得した人であること
  • 相続税を納付していること
  • 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年以内に売却すること

効果:

  • 譲渡所得が減少し、譲渡所得税が軽減される

(2) 空き家の3000万円特別控除

被相続人の居住用家屋を相続後に売却する際、一定要件下で譲渡所得から3000万円を控除できます。

適用要件:

  • 被相続人が1人で居住していた家屋であること
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(または一定の耐震基準を満たすこと)
  • 相続開始日から3年後の12月31日までに売却すること
  • 売却価格が1億円以下であること

新築戸建ての場合、築年数が浅いため、耐震基準を満たす可能性が高いです。ただし、被相続人が1人で居住していたかなど、他の要件も確認が必要です。

(3) 特例の適用要件と選択

取得費加算特例と空き家3000万円控除は、併用できません。どちらか有利な方を選択する必要があります。

  • 取得費加算特例が有利: 譲渡所得が大きく、相続税も高額な場合
  • 空き家3000万円控除が有利: 譲渡所得が3000万円以下で、空き家特例の要件を満たす場合

どちらが有利かは、税理士に試算を依頼することをおすすめします。

相続税の申告と納税

相続で新築戸建てを取得した場合、相続税の申告が必要かどうかを確認しましょう。

(1) 相続税の申告期限(10ヶ月)

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

  • 申告期限: 相続開始から10ヶ月以内
  • 納税期限: 申告期限と同じ(一括納付が原則)
  • 延滞税: 期限を過ぎると延滞税が課される

売却代金を相続税の納税資金に充てる場合、10ヶ月以内に売却を完了させる必要があります。

(2) 基礎控除額の計算

相続税には基礎控除があり、遺産総額が基礎控除額以下なら相続税はかかりません。

基礎控除額の計算式:
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

計算例:
法定相続人が配偶者と子2人の場合

  • 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

遺産総額が4,800万円以下なら、相続税はかかりません。

(3) 納税資金の確保

相続税の納税資金が不足する場合、以下の方法で確保します。

  • 不動産の売却: 相続した新築戸建てを売却し、売却代金を納税資金に充てる
  • 延納: 分割で納税する方法(利子税がかかる)
  • 物納: 不動産などの現物で納税する方法(一定の要件あり)

売却を選択する場合、10ヶ月以内に売却を完了させることが理想です。

まとめ

相続で受け継いだ新築戸建てを売却する流れは、通常の売却に加えて、相続人の確定、遺産分割協議、相続登記といった手続きが必要です。相続発生から売却完了まで6~12ヶ月程度かかり、相続税申告期限(10ヶ月)との調整が重要です。

2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の申請が必須となりました。売却には相続登記の完了が必要なため、遺産分割協議が成立したら速やかに登記を行いましょう。

また、取得費加算特例(相続後3年10ヶ月以内)または空き家3000万円控除を活用すれば、譲渡所得税を軽減できます。どちらが有利かは税理士に相談し、最適な選択をすることをおすすめします。

よくある質問

Q1相続した新築戸建ての売却にかかる期間はどのくらいですか?

A1相続発生から売却完了まで6~12ヶ月です。相続人確定・遺産分割協議に1~3ヶ月、相続登記に1~2ヶ月、売却活動に3~6ヶ月かかります。相続税申告期限(10ヶ月)内の完了が理想です。

Q2相続登記はいつまでにする必要がありますか?

A22024年4月から3年以内の登記が義務化されました。違反時は10万円以下の過料が科される可能性があります。売却には登記完了が必須のため、遺産分割協議完了後すぐに手続きすることをおすすめします。

Q3相続不動産を売却する際の税制優遇にはどのようなものがありますか?

A3取得費加算特例(相続後3年10ヶ月以内)または空き家3000万円控除が選択可能です。併用はできません。新築未入居の場合、空き家特例の要件を満たすか確認が必要です。どちらが有利か税理士への相談をおすすめします。

Q4共同相続人全員の同意は必須ですか?

A4原則必須です。ただし、遺産分割協議で特定の相続人が単独で取得すれば、その相続人の単独判断で売却できます。協議が成立しない場合は調停・審判へ進みます。売却タイミングを逃さないよう、早期の協議開始が重要です。

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