相続した中古マンション売却時の登記の基本
親や親族から相続した中古マンションを売却する際には、通常の売却とは異なり、まず相続登記を完了させる必要があります。2024年4月からは相続登記が義務化され、期限内に申請しないと過料が科される可能性もあります。
本記事では、相続した中古マンションの売却における登記・名義変更について、相続登記の義務化、遺産分割協議書の作成、売却までの流れ、税制優遇まで実務的なポイントを詳しく解説します。
この記事のポイント
- 売却前に相続登記が必須(2024年4月から義務化、3年以内に申請)
- 相続登記→売却登記の二段階の手続きが必要
- 遺産分割協議書により相続人を確定してから登記
- 相続登記の登録免許税は評価額の0.4%、売却登記は2.0%
- 相続開始から3年10ヶ月以内の売却なら取得費加算の特例が適用可能
相続と不動産登記の関係
相続では自動的に名義変更されない
相続が発生しても、不動産の登記名義は自動的には変わりません。被相続人(亡くなった方)の名義のままでは、その不動産を売却することができません。
そのため、売却を進めるには以下の手順が必要です。
- 相続登記: 被相続人から相続人へ所有権移転登記
- 売却登記: 相続人から買主へ所有権移転登記
このように、相続不動産の売却では二段階の登記手続きが発生します。
相続登記から売却登記までの流れ
相続した中古マンションを売却する全体の流れは以下の通りです。
全体の流れ
- 相続開始: 被相続人の死亡
- 相続人の確定: 戸籍謄本等の収集
- 遺産分割協議: 相続人全員でマンションの相続方法を決定
- 相続登記申請: 法務局へ所有権移転登記を申請(相続を原因とする)
- 相続登記完了: 相続人名義に変更完了
- 売却活動: 不動産会社と媒介契約、買主探し
- 売買契約: 買主と売買契約締結
- 決済・引渡し: 売却代金受領と同時に売買による所有権移転登記
2024年4月施行の相続登記義務化
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。法務省の規定により、以下のルールが適用されます。
義務化の内容
- 申請期限: 相続を知った日から3年以内
- 罰則: 正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料
- 適用範囲: 2024年4月以前に発生した相続も対象
これにより、売却の予定がなくても相続登記を完了させる必要があります。売却を検討している場合は、早めに相続登記を進めることが重要です。
相続登記の手続きと必要書類
義務化による申請期限
相続登記の申請期限は「相続を知った日から3年以内」です。具体的には以下のタイミングから起算されます。
- 被相続人の死亡を知った日
- 自分が相続人であることを知った日
ただし、遺産分割協議が長引いている場合などは「正当な理由」として期限延長が認められることがあります。
相続登記に必要な書類
相続登記の申請には、以下の書類が必要です。
基本的な必要書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 固定資産評価証明書
- マンションの登記事項証明書
遺産分割協議による場合の追加書類
- 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
- 相続人全員の印鑑証明書
遺言書がある場合の追加書類
- 遺言書(公正証書遺言または検認済みの自筆証書遺言)
書類の収集には時間がかかることがあるため、早めに準備を始めることをおすすめします。
登録免許税の計算(評価額の0.4%)
相続登記にかかる登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。
計算例
- 固定資産税評価額:2,000万円
- 登録免許税:2,000万円 × 0.4% = 8万円
これに加えて、司法書士に依頼する場合は報酬(5〜10万円程度)が別途かかります。
遺産分割協議から相続登記まで
遺産分割協議書の作成
相続人が複数いる場合、誰がマンションを相続するかを決めるために遺産分割協議を行います。
遺産分割協議書には以下の内容を記載します。
記載内容
- 被相続人の氏名、死亡日、本籍地
- 相続財産の表示(マンションの所在、地番、床面積など)
- 誰が何を相続するか(例:「マンションは長男Aが相続する」)
- 作成日、相続人全員の署名・実印押印
遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、全員が保管します。登記申請時には原本を法務局に提出します。
相続人全員の同意と印鑑証明
遺産分割協議は相続人全員の同意が必要です。一人でも反対すると協議が成立しません。
協議が成立したら、遺産分割協議書に相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
注意点
- 相続人が遠方に住んでいる場合、郵送でやり取りすることも可能
- 相続人が未成年の場合、特別代理人の選任が必要なことがある
- 相続人の中に認知症の方がいる場合、成年後見人の選任が必要なことがある
法定相続分での登記と遺産分割での登記
相続登記には、大きく分けて2つの方法があります。
法定相続分での登記
- 遺産分割協議をせず、法定相続分通りに共有で登記
- 例:相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者1/2、子各1/4で登記
- メリット:協議不要で早く登記できる
- デメリット:売却時には全員の同意が必要
遺産分割協議による登記
- 遺産分割協議で決めた内容に従って登記
- 例:長男が単独で相続する場合、長男名義で100%登記
- メリット:売却時に単独で手続きを進められる
- デメリット:協議に時間がかかることがある
売却を前提とする場合、遺産分割協議により単独相続とする方が効率的です。
相続登記から売却登記への移行
相続登記完了後の売却手続き
相続登記が完了し、相続人名義になったら、通常の不動産売却と同じ流れで進めます。
売却の流れ
- 不動産会社に査定依頼
- 媒介契約の締結
- 買主探し(内覧対応など)
- 買主との売買契約締結
- 決済・引渡し(所有権移転登記)
相続登記が完了していれば、相続人が単独で売却手続きを進められます。
相続人全員での売却と単独相続後の売却
相続登記の方法により、売却の進め方が異なります。
法定相続分で共有登記した場合
- 売却には相続人全員の同意が必要
- 売買契約書に全員が署名・押印
- 決済時に全員が立ち会い(または委任状)
- 売却代金は法定相続分で分配
単独相続で登記した場合
- 相続人が単独で売却手続きを進められる
- 売却代金は相続人が受領
- 他の相続人への分配は遺産分割協議の内容に従う
売却をスムーズに進めるには、単独相続での登記をおすすめします。
管理費・修繕積立金の精算
相続したマンションでは、被相続人名義で管理費・修繕積立金が請求されていることがあります。
注意点
- 滞納がある場合、相続人が承継する
- 売却時には滞納分を一括精算する必要あり
- 決済時に日割り計算で買主と精算
滞納があると売却が難しくなるため、相続後は早めに管理組合に連絡し、状況を確認することが重要です。
登記にかかる費用と相続不動産売却の税制
登記費用の合計
相続した中古マンションを売却する場合、以下の登記費用がかかります。
登記の種類 | 登録免許税 | 司法書士報酬 | 負担者 |
---|---|---|---|
相続登記 | 評価額の0.4% | 5〜10万円 | 相続人 |
売買による所有権移転登記 | 評価額の2.0% | 5〜10万円 | 買主 |
抵当権抹消登記(該当する場合) | 1,000円/個 | 1〜3万円 | 相続人(売主) |
費用例(評価額2,000万円の場合)
- 相続登記:登録免許税8万円 + 司法書士報酬7万円 = 15万円(相続人負担)
- 売却登記:登録免許税40万円 + 司法書士報酬7万円 = 47万円(買主負担)
相続人の負担は相続登記分のみですが、売却登記の費用は最終的に売買価格に影響することがあります。
取得費加算の特例(相続後3年10ヶ月以内)
相続税を支払った場合、相続開始から3年10ヶ月以内にマンションを売却すれば、「取得費加算の特例」が適用できます。
特例の内容
- 支払った相続税の一部を、不動産の取得費に加算できる
- 譲渡所得が減少し、譲渡所得税が軽減される
計算式
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 加算相続税額) - 譲渡費用
この特例を適用するには確定申告が必要です。詳細は税理士に相談することをおすすめします。
空き家の3,000万円特別控除(マンションは原則対象外)
相続した空き家を売却する際の「空き家の3,000万円特別控除」は、マンションの場合は原則として適用されません。
この特例は、以下の要件を満たす場合に適用されます。
要件
- 昭和56年5月31日以前に建築された一戸建て住宅
- 被相続人が一人で居住していたこと
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 耐震基準を満たすこと(または取り壊して更地で売却)
マンション(区分所有建物)は、一棟所有の場合を除き対象外となります。ただし、取得費加算の特例は適用できるため、相続税を支払った方はこちらを検討しましょう。
相続登記・売却でよくある課題と対処法
遺産分割協議がまとまらない場合
相続人間で意見が対立し、遺産分割協議がまとまらない場合、以下の方法があります。
家庭裁判所での調停・審判
- 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
- 調停委員が間に入り、話し合いを進める
- 調停不成立の場合、審判で裁判所が分割方法を決定
相続登記の期限に間に合わない場合の対処
- 「相続人申告登記」という簡易な手続きで義務を履行したとみなされる
- ただし、売却には正式な相続登記が必要
協議がまとまらない場合でも、まずは専門家(弁護士、司法書士)に相談することが重要です。
被相続人名義の住宅ローンが残っている場合
被相続人が住宅ローンを組んでいた場合、以下のケースが考えられます。
団体信用生命保険(団信)に加入していた場合
- 被相続人の死亡により、団信からローンが完済される
- 金融機関に連絡し、抵当権抹消の手続きを進める
- 抵当権抹消後に相続登記・売却登記を行う
団信に加入していなかった場合
- ローン残債は相続人が承継する
- 売却代金でローンを完済し、抵当権抹消
- オーバーローンの場合、自己資金での補填が必要
団信の加入状況は、金融機関に問い合わせて確認しましょう。
相続したマンションの名義確認方法
相続したマンションが誰の名義になっているか確認するには、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得します。
取得方法
- 法務局の窓口で申請(本人以外でも取得可能)
- オンライン申請(登記情報提供サービス)
- 手数料:窓口600円、オンライン500円(送料別途)
登記事項証明書を確認することで、現在の所有者、抵当権の有無、住所などがわかります。
まとめ
相続した中古マンションを売却する際には、まず相続登記を完了させることが必須です。2024年4月からの義務化により、3年以内に申請しないと過料が科される可能性があります。
重要なポイントを再確認しましょう。
重要ポイント
- 相続登記の義務化: 相続を知った日から3年以内に申請(罰則あり)
- 二段階の登記: 相続登記→売却登記の順で手続き
- 遺産分割協議: 単独相続にすれば売却がスムーズ
- 登記費用: 相続登記は評価額の0.4%、売却登記は2.0%
- 税制優遇: 相続後3年10ヶ月以内なら取得費加算の特例が適用可能
相続登記や遺産分割協議には専門知識が必要なため、司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。税制面では税理士への相談も有効です。まずは信頼できる不動産会社に査定を依頼し、売却計画を立てることから始めましょう。
よくある質問
相続登記をせずに中古マンションを売却することはできますか?
相続登記を完了しなければ売却登記は進められません。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。まず相続登記を完了させることが必須です。
遺産分割協議がまとまらない場合、中古マンションは売却できませんか?
法定相続分での相続登記は可能ですが、その後の売却には相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停・審判を経て売却する方法もあります。時間はかかりますが、法的手段により解決は可能です。
相続した中古マンションを売却した場合、税金はどうなりますか?
相続税を支払った場合、相続開始から3年10ヶ月以内の売却なら取得費加算の特例により譲渡所得税が軽減されます。ただし、居住用の3,000万円特別控除との併用はできません。譲渡所得税の計算は複雑なため、税理士への相談が推奨されます。
相続登記と売却登記にかかる費用はどのくらいですか?
相続登記は固定資産税評価額の0.4%、売却登記は2.0%の登録免許税がかかります。例えば評価額2,000万円なら、相続登記8万円、売却登記40万円(買主負担が一般的)です。これに加えて司法書士報酬が各5〜15万円程度かかります。
被相続人の住宅ローンが残っている場合はどうすればよいですか?
団体信用生命保険(団信)に加入していた場合、被相続人の死亡により保険からローンが完済されます。金融機関に連絡して抵当権抹消の手続きを進めましょう。団信に加入していなかった場合、ローン残債は相続人が承継し、売却代金で完済するか、自己資金で補填する必要があります。