相続資金で中古マンションを購入する際の登記の基礎知識
相続した現金で中古マンションを購入する際、登記手続きは通常の購入と基本的に同じですが、相続登記との違いや税制優遇など、相続特有の注意点があります。
(1) 所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、不動産の所有者が変わったことを法務局の登記簿に記録し、第三者に対して公示する手続きです。中古マンション購入時には、売主から買主へ所有権を移転する登記申請が必要です。
(2) 相続登記と購入時登記の違い
相続登記と購入時の登記は全く別の手続きです:
項目 | 相続登記 | 購入時の所有権移転登記 |
---|---|---|
原因 | 相続 | 売買 |
対象 | 被相続人から相続人へ | 売主から買主へ |
義務化 | 2024年4月から3年以内に申請義務 | 義務ではないが実務上必須 |
登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% | 同0.3%(軽減措置適用時) |
相続した不動産を売却する場合、売主側で相続登記を完了させてから売買することが必須です。
(3) 中古マンション購入の流れ
相続資金での購入も通常の購入と同じ流れです:
- 物件探し・内覧
- 購入申込・住宅ローン審査(必要な場合)
- 売買契約締結
- 決済・所有権移転登記
- 引き渡し
相続した現金を使う場合、住宅ローン審査が不要なため手続きが簡略化されることもあります。
所有権移転登記の手続きと必要書類
(1) 登記申請の流れ
中古マンションの所有権移転登記は以下の流れで進みます:
- 売買契約締結
- 決済日の調整
- 必要書類の準備
- 決済当日に登記申請(司法書士が代理申請)
- 登記完了(1~2週間後)
(2) 必要書類の準備
登記申請に必要な書類:
書類名 | 誰が用意 | 備考 |
---|---|---|
売買契約書 | 不動産会社 | 売買代金・物件情報を記載 |
登記識別情報(権利証) | 売主 | 前所有者の権利を証明 |
印鑑証明書 | 売主・買主 | 発行から3ヶ月以内 |
住民票 | 買主 | 新住所記載のもの |
固定資産評価証明書 | 売主または市区町村 | 登録免許税の計算に使用 |
相続資金を使う場合も、特別な書類は不要です。
(3) 申請のタイミング
登記申請は決済当日に行うのが一般的です。司法書士が立ち会い、売買代金の授受と同時に登記書類を確認し、その場で法務局に申請します。
中古マンション特有の登記確認事項
(1) 既存抵当権の確認
購入前に登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、以下を確認しましょう:
- 甲区:所有権の履歴(売主が相続登記を完了しているか)
- 乙区:抵当権・根抵当権の有無
相続登記が未了の物件は購入不可です。売主側で相続登記を完了させることが売買の前提となります。
(2) 敷地権登記の確認
中古マンションの多くは敷地権登記がされています。これは土地の利用権と専有部分(部屋)が一体化した登記です。
敷地権登記のメリット:
- 土地と建物を別々に処分できない(分離処分禁止)
- 登記手続きが簡素化
- 費用が抑えられる
登記簿の「敷地権の種類」欄で確認できます。
(3) 専有部分面積の確認
中古マンションの面積表記には注意が必要です:
- 広告表示:壁芯面積(壁の中心線で測定)
- 登記簿面積:内法面積(壁の内側で測定)
住宅ローン控除の床面積要件(50㎡以上)は登記簿面積で判定されます。購入前に必ず確認しましょう。
住宅ローン利用時の抵当権設定登記
(1) 抵当権設定登記とは
住宅ローンを借りる際、金融機関は購入物件を担保とするため抵当権設定登記を行います。相続資金と住宅ローンを併用する場合に必要です。
(2) 相続資金とローンの併用
相続した現金を頭金にして、残りを住宅ローンで賄うパターンも一般的です:
例:
- 物件価格:3,000万円
- 相続資金:1,000万円(頭金)
- 住宅ローン:2,000万円
この場合、2,000万円の債権額に対して抵当権設定登記を行います。
(3) 登記の同時申請
決済当日、司法書士が以下を同時申請します:
- 売主の抵当権抹消登記(ある場合)
- 所有権移転登記
- 買主の抵当権設定登記(ローン利用時)
これにより、権利関係の空白期間がなく安全に移転できます。
登記にかかる費用(登録免許税・司法書士報酬)
(1) 登録免許税の計算方法
登録免許税は登記申請時に納付する国税です:
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 税率
登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率(居住用) |
---|---|---|
所有権移転(中古) | 2.0% | 0.3% |
抵当権設定 | 0.4% | 0.1% |
(2) 中古住宅の軽減措置
軽減税率の適用要件:
- 床面積50㎡以上(登記簿面積)
- 築25年以内(耐火建築物)または耐震基準適合証明書を取得
- 自己居住用
旧耐震基準のマンションは耐震基準適合証明書が必要です。購入前に取得可否を確認しましょう。
(3) 司法書士報酬の相場
司法書士への報酬は自由設定ですが、相場は以下の通り:
- 所有権移転登記:3~5万円
- 抵当権設定登記:3~5万円(ローン利用時)
合計5~10万円程度が目安です。現金一括購入なら5万円程度で済むことが多いです。
相続登記との違いと税制優遇
(1) 相続登記義務化との関係
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
ただし、相続した現金で中古マンションを購入する場合は、購入時の所有権移転登記のみで問題ありません。相続登記は相続した不動産に対して必要な手続きです。
(2) 住宅ローン控除の活用
相続資金で中古マンションを購入する場合も、住宅ローンを併用すれば住宅ローン控除を受けられます:
適用要件:
- 床面積50㎡以上(登記簿面積)
- 築25年以内(耐火建築物)または耐震基準適合証明書取得
- 自己居住用
- 合計所得金額2,000万円以下
控除額:年末ローン残高の0.7%×13年間(中古住宅)
(3) 贈与税非課税制度の適用
親から資金援助を受ける場合、住宅取得等資金の贈与税非課税措置を活用できます:
非課税枠:
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 一般住宅:500万円
相続した現金での購入は該当しませんが、親から生前贈与を受けて購入する場合は活用できます。
まとめ:相続資金で中古マンション購入時の登記で押さえるべきポイント
相続資金での中古マンション購入における登記について重要なポイントをまとめます:
- 購入時の登記は相続登記とは別の手続き(売買による所有権移転)
- 売主側で相続登記が完了していることが購入の前提
- 敷地権登記により手続きが簡素化されている
- 登録免許税の軽減措置を活用(築25年超は耐震証明書が必要)
- 司法書士報酬は5~10万円が相場
- 住宅ローン控除は相続資金でも併用可能
- 親からの資金援助なら贈与税非課税措置も活用可能
相続した現金で購入する場合、住宅ローン審査が不要なため手続きがスムーズです。ただし、物件の権利関係(特に売主の相続登記完了)は事前に必ず確認しましょう。
参考:
よくある質問(FAQ)
Q1: 相続資金で中古マンションを購入する場合、相続登記は必要ですか?
購入時の所有権移転登記と相続登記は別物です。相続登記は相続した不動産の名義変更で、購入は売買による所有権移転です。売主側で相続登記が完了していることが購入の前提となります。
Q2: 中古マンションの敷地権登記とは何ですか?
土地の利用権と専有部分が一体化した登記です。土地と建物を別々に処分できない仕組みになっています。中古マンションの多くが敷地権登記済みで、登記簿で確認可能です。
Q3: 相続した現金で中古マンションを購入する場合、税制優遇はありますか?
相続資金での購入自体に特別な優遇はありません。ただし親からの資金援助なら贈与税非課税措置があります。住宅ローン控除は築年数等の要件を満たせば適用可能です。
Q4: 中古マンションの登記費用はどのくらいかかりますか?
登録免許税は固定資産税評価額の0.3%(軽減措置適用時)です。司法書士報酬は5~10万円程度が相場です。抵当権設定がある場合は別途費用がかかります。物件価格により変動します。