買い替え時の中古マンション購入における登記の基礎知識
住宅の買い替えで中古マンションを購入する際、登記手続きは通常の購入とは異なる点があります。旧居の売却と新居の購入という2つの取引が並行するため、登記のタイミング調整が重要になります。
(1) 所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、不動産の所有者が変わったことを法務局の登記簿に記録し、第三者に対して公示する手続きです。売買契約を結んでも、登記を完了しなければ法的な所有権は移転しません。
(2) 買い替えと通常購入の登記の違い
買い替え時の登記は以下の点が通常購入と異なります:
項目 | 通常購入 | 買い替え |
---|---|---|
登記回数 | 1回(購入のみ) | 2回(売却+購入) |
抵当権処理 | 新規設定のみ | 旧居の抹消+新居の設定 |
タイミング調整 | 不要 | 売却・購入の決済日調整が必要 |
費用 | 購入分のみ | 売却・購入の両方 |
(3) 買い替えの流れ
買い替えには主に3つのパターンがあります:
- 売却先行:旧居を売却してから新居を購入
- 購入先行:新居を購入してから旧居を売却
- 同日決済:売却と購入を同じ日に実施
それぞれ登記のタイミングや資金計画が異なります。
売却と購入の登記タイミング調整
(1) 売却先行の登記スケジュール
売却先行は最も安全な買い替え方法です:
- 旧居の売却決済・登記(所有権移転、抵当権抹消)
- 売却代金を受領
- 新居の購入資金を準備
- 新居の購入決済・登記(所有権移転、抵当権設定)
メリット:
- 資金計画が立てやすい
- 二重ローンのリスクなし
デメリット:
- 仮住まいが必要になる場合がある
- 希望の物件を逃す可能性
(2) 購入先行の登記スケジュール
購入先行は理想の物件を確保できる方法です:
- 新居の購入決済・登記(買い替えローンで購入)
- 旧居の売却活動継続
- 旧居の売却決済・登記
- 旧居の抵当権抹消、買い替えローン返済
メリット:
- 理想の物件を逃さない
- 引っ越しがスムーズ
デメリット:
- 一時的に二重ローンになる
- 資金負担が大きい
(3) 同日決済の調整方法
同日決済は売却と購入を同じ日に行う方法です:
- 午前中に旧居の決済(抵当権抹消登記)
- 午後に新居の決済(所有権移転・抵当権設定登記)
- 売却代金を新居の購入資金に充当
メリット:
- 二重ローン期間がゼロ
- 仮住まい不要
デメリット:
- スケジュール調整が複雑
- 売主・買主双方の協力が必要
買い替えローン利用時の抵当権設定・抹消
(1) 買い替えローンの仕組み
買い替えローンとは、旧居の住宅ローン残債と新居の購入資金を合わせて借りられるローンです。新居の担保価値を超えて融資を受けられる点が特徴です。
例:
- 旧居の残債:1,000万円
- 新居の購入価格:3,000万円
- 買い替えローン:4,000万円(残債+新居購入費)
(2) 旧居の抵当権抹消タイミング
買い替えローン利用時の抵当権処理は以下の流れです:
- 新居購入時:買い替えローンで融資実行
- 旧居に一時的に抵当権が残る(または新居・旧居両方に設定)
- 旧居の売却時:売却代金で抵当権抹消
金融機関により扱いが異なるため、事前に確認が必要です。
(3) 新居への抵当権設定
新居の購入決済時、金融機関は新居に対して抵当権設定登記を行います。所有権移転登記と同日に申請するのが一般的です。
登録免許税:
- 抵当権設定:債権額×0.1%(軽減措置適用時)
同日決済の場合の登記手続きの流れ
(1) 同日決済のスケジュール
同日決済の典型的なタイムライン:
時刻 | 場所 | 内容 |
---|---|---|
9:00 | 旧居の決済場所 | 旧居の残代金受領・抵当権抹消書類準備 |
11:00 | 移動 | 新居の決済場所へ移動 |
13:00 | 新居の決済場所 | 新居の残代金支払い・所有権移転書類準備 |
14:00 | 法務局 | 司法書士が一括で登記申請 |
(2) 登記申請の順序
司法書士が以下の順序で登記申請を行います:
- 旧居の抵当権抹消登記
- 旧居の所有権移転登記(買主へ)
- 新居の所有権移転登記(自分へ)
- 新居の抵当権設定登記
この順序により、権利関係の空白期間がなく安全に移転できます。
(3) 司法書士の役割
同日決済では、通常2名の司法書士が関わります:
- 旧居の司法書士:売却側の登記書類を準備
- 新居の司法書士:購入側の登記書類を準備
金融機関が指定する司法書士を使うのが一般的です。報酬は10~15万円程度が相場です。
登記にかかる費用(登録免許税・司法書士報酬)
(1) 登録免許税の計算方法
買い替え時は売却・購入の両方で登録免許税がかかります:
旧居(売却側):
- 抵当権抹消:1不動産あたり1,000円
新居(購入側):
- 所有権移転:固定資産税評価額×0.3%(軽減措置適用時)
- 抵当権設定:債権額×0.1%(軽減措置適用時)
(2) 中古住宅の軽減措置
軽減税率の適用要件:
- 床面積50㎡以上(登記簿面積)
- 築25年以内(耐火建築物)または耐震基準適合証明書を取得
- 自己居住用
築年数により住宅ローン控除の対象外となる可能性があるため、購入前に確認しましょう。
(3) 司法書士報酬の相場
買い替え時の司法書士報酬は以下が目安:
旧居(売却側):
- 抵当権抹消登記:1~2万円
- 所有権移転登記:3~5万円
新居(購入側):
- 所有権移転登記:3~5万円
- 抵当権設定登記:3~5万円
合計10~15万円程度が一般的です。
区分所有建物(マンション)特有の登記事項
(1) 敷地権登記とは
敷地権登記とは、マンションの専有部分(部屋)と敷地利用権(土地の共有持分)を一体化して登記する制度です。
従来は土地と建物を別々に登記していましたが、1983年の区分所有法改正により、敷地権登記が導入されました。現在の中古マンションの多くは敷地権登記済みです。
(2) 専有部分と敷地権の関係
敷地権登記がされたマンションでは:
- 専有部分と敷地権は分離処分できない(一体で売買)
- 登記簿には「敷地権の表示」欄がある
- 土地の登記簿は不要(建物の登記簿のみで完結)
これにより、登記手続きが簡素化され、費用も抑えられます。
(3) 登記簿の読み方
マンションの登記事項証明書(登記簿謄本)の構成:
- 表題部:建物の物理的情報、敷地権の表示
- 権利部(甲区):所有権に関する事項
- 権利部(乙区):抵当権などの権利
「敷地権の種類」欄に「所有権」と記載されていれば、敷地権登記済みです。法務局窓口またはオンラインで取得できます(手数料600円程度)。
まとめ:買い替えで中古マンション購入時の登記で押さえるべきポイント
買い替え時の中古マンション購入における登記について重要なポイントをまとめます:
- 売却と購入の登記タイミング調整が重要(売却先行・購入先行・同日決済)
- 買い替えローン利用時は一時的に二重の抵当権が発生する可能性
- 同日決済は効率的だがスケジュール調整が複雑
- 登記費用は売却・購入の両方で発生(10~15万円程度)
- マンションの敷地権登記により手続きが簡素化
- 築年数により住宅ローン控除の対象外となる可能性に注意
買い替えは通常の購入より複雑なため、信頼できる不動産会社と司法書士に相談しながら進めることをお勧めします。事前に登記簿謄本を確認し、権利関係に問題がないことを確認してから購入を進めましょう。
買い替え特約を売買契約に付けることで、旧居が売れなかった場合に新居の契約を解除できる安全策も検討しましょう。
参考:
よくある質問(FAQ)
Q1: 買い替えで中古マンションを購入する場合、売却と購入の登記はどのタイミングで行いますか?
売却先行なら売却決済後に購入登記を行います。購入先行なら買い替えローンで新居登記後に旧居売却となります。同日決済なら旧居の抵当権抹消→新居の所有権移転→抵当権設定の順で実施します。
Q2: 買い替えローンを利用する場合、抵当権はどうなりますか?
一時的に旧居・新居の両方に抵当権が設定される場合があります。旧居売却時に抹消します。金融機関により扱いが異なるため、事前に確認が必須です。
Q3: マンションの敷地権登記とは何ですか?
敷地利用権と専有部分が一体化した登記です。土地と建物を別々に登記せず一括表示されます。中古マンションの多くが敷地権登記済みで、登記簿で確認できます。
Q4: 買い替えで中古マンションを購入する際の登記費用はどのくらいですか?
所有権移転の登録免許税は固定資産税評価額の0.3%(軽減措置適用時)です。抵当権設定も別途必要です。旧居の抵当権抹消費用も発生します。司法書士報酬は合計10~15万円程度が目安です。