相続した中古戸建て売却の登記|義務化対応完全ガイド

公開日: 2025/10/14

相続した中古戸建てを売却する際の登記の基礎知識

相続した中古戸建てを売却する際には、まず相続登記を完了させる必要があります。2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の申請が必須となりました。この記事では、相続登記の手続き、売却時の所有権移転登記、税制優遇(空き家特例・取得費加算)について解説します。

結論まとめ

  • 相続登記が売却の絶対条件:2024年4月から義務化、3年以内の申請が必須(10万円以下の過料)
  • 遺産分割協議が必要:相続人が複数いる場合、全員で売却する人を決める
  • 空き家特例で3,000万円控除:相続開始から3年以内の売却等が条件(国税庁)
  • 取得費加算の特例も活用可能:相続税を支払った場合、一部を取得費に加算できる
  • 長期未登記のリスク:数次相続が発生すると手続きが複雑化、早めの登記が重要

(1) 相続登記とは

法務局によると、相続登記は被相続人(亡くなった方)から相続人への所有権移転登記です。

相続登記の内容

  • 登記の目的:所有権移転
  • 原因:年月日相続
  • 権利者(相続人)の住所・氏名

2024年4月から相続登記が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記する必要があります。正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料が科されます。

(2) 売却時の所有権移転登記

相続登記を完了した後、売却時には買主への所有権移転登記が必要です。

売却時の登記原因

  • 登記の目的:所有権移転
  • 原因:年月日売買
  • 権利者(買主)の住所・氏名

相続登記(被相続人→相続人)と売却時の登記(相続人→買主)は別の手続きです。

(3) 中古戸建て売却の流れ

相続した中古戸建ての売却は、以下の流れで進みます。

1. 相続登記

  • 遺産分割協議書を作成(相続人が複数の場合)
  • 必要書類を準備(後述)
  • 司法書士に依頼して相続登記を申請

2. 売却準備

  • 不動産会社に査定依頼
  • 売却価格を決定
  • 売買契約締結

3. 決済・引き渡し

  • 残代金を受領
  • 買主への所有権移転登記
  • 鍵の引き渡し

売却前に必須の相続登記手続き(義務化対応)

(1) 相続登記義務化の概要

法務局によると、相続登記義務化の主な内容は以下の通りです。

義務化の詳細

項目 内容
施行日 2024年4月1日
申請期限 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内
罰則 正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料
対象 2024年4月1日以前の相続も含む

義務化の背景

  • 所有者不明土地の増加を防ぐため
  • 不動産の権利関係を明確化するため

相続した中古戸建てを売却する場合、まず相続登記を完了させることが絶対条件です。

(2) 必要書類と手続きの流れ

相続登記に必要な書類は以下の通りです。

基本書類

書類 取得先 用途
被相続人の戸籍謄本(出生~死亡) 本籍地の市区町村役場 相続人の確定
被相続人の住民票の除票 最後の住所地の市区町村役場 登記簿上の所有者との同一性確認
相続人全員の戸籍謄本 本籍地の市区町村役場 相続人の証明
相続人の住民票 住所地の市区町村役場 相続人の住所証明
固定資産税評価証明書 市区町村役場 登録免許税の計算

遺産分割協議がある場合の追加書類

  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
  • 相続人全員の印鑑証明書(3ヶ月以内)

手続きの流れ

  1. 戸籍謄本等を取得して相続人を確定
  2. 遺産分割協議書を作成(相続人が複数の場合)
  3. 司法書士に依頼して登記申請
  4. 1-2週間で登記完了

(3) 遺産分割協議書の作成

相続人が複数いる場合、誰が不動産を取得するかを決める遺産分割協議が必要です。

遺産分割協議書の記載事項

  • 被相続人の氏名・死亡日
  • 不動産の表示(所在地、地番、家屋番号など)
  • 誰が不動産を取得するか
  • 協議成立日
  • 相続人全員の署名・実印押印

例文(抜粋)

「被相続人○○○○の遺産について、相続人全員で協議した結果、以下のとおり分割することに合意した。

  1. 次の不動産は、相続人△△△△が取得する。 所在:○○市○○町○丁目○番地 家屋番号:○番

相続人全員がこの協議書に署名押印する。」

遺産分割協議が整わない場合は、相続人全員の共有名義で相続登記を行い、全員の同意を得て売却します。

中古戸建て特有の登記確認事項(既存抵当権・未登記)

(1) 長期未登記のリスク

相続登記を長期間放置すると、以下のリスクがあります。

リスク1:数次相続の発生

  • 相続人が亡くなり、さらにその相続人が相続(数次相続)
  • 相続人の数が増え、遺産分割協議が困難になる
  • 連絡が取れない相続人が出てくる可能性

リスク2:売却機会の喪失

  • 相続登記が完了しないと売却できない
  • 市場価格が下落する可能性
  • 維持費(固定資産税・管理費)がかかり続ける

リスク3:罰則

  • 2024年4月以降、正当な理由なく相続登記を怠ると10万円以下の過料

相続した中古戸建てを売却する予定がなくても、早めに相続登記を完了させることが重要です。

(2) 数次相続の解消方法

数次相続(相続人が亡くなり、さらにその相続人が相続)が発生している場合、以下の方法で解消します。

解消の流れ

  1. 相続人の確定

    • 最初の被相続人から現在までの全相続人を確定
    • 戸籍謄本をたどって相続関係を整理
  2. 遺産分割協議

    • 最終的な相続人全員で協議
    • 売却する人を決定
  3. 中間省略登記

    • 法務局によると、中間の相続を省略して最終相続人に直接登記できる場合がある
    • 司法書士に相談

数次相続の解消には専門知識が必要なため、司法書士に依頼することをおすすめします。

(3) 既存抵当権・根抵当権の確認

相続した中古戸建ての登記簿に、被相続人が設定した抵当権が残っている場合があります。

確認方法

  • 登記簿謄本(登記事項証明書)を取得
  • 権利部(乙区)を確認
  • 抵当権設定の有無をチェック

抵当権が残っている場合の対応

状況 対応方法
被相続人が完済済み 金融機関から抹消書類を取得し、抵当権抹消登記を申請
完済確認できない 供託制度を利用、または判決による抹消
ローン残債がある 売却代金で完済し、決済時に抵当権抹消登記

古い抵当権(昭和時代のものなど)は、金融機関が合併・廃業している場合があり、抹消が複雑になります。早めに司法書士に相談しましょう。

売却時の所有権移転登記と必要書類

(1) 売却決済の流れ

相続登記完了後、売却決済は以下の流れで進みます。

決済日のスケジュール

時刻 内容
10:00 金融機関に集合
10:15 司法書士が書類確認・本人確認
10:30 買主が残代金を支払う
10:45 鍵の引き渡し
13:00 司法書士が法務局に登記申請

(2) 登記申請のタイミング

売却時の所有権移転登記は、決済日当日に申請します。

登記の順序

  1. 抵当権抹消登記(被相続人のローンが残っていた場合)
  2. 所有権移転登記(相続人→買主)

この順序により、買主は抵当権のない「きれいな」不動産を取得できます。

(3) 必要書類の準備

売却時に売主(相続人)が準備する書類は以下の通りです。

必須書類

書類 取得先 有効期限
登記識別情報(権利証) 相続登記完了時に法務局から交付 -
印鑑証明書 市区町村役場 3ヶ月以内
固定資産税評価証明書 市区町村役場 最新年度
本人確認書類 運転免許証など -
実印 - -

追加書類(該当する場合)

  • 住民票(登記簿上の住所と現住所が異なる場合)
  • 建物表題変更登記済証(増築・改築がある場合)

登記にかかる費用(登録免許税・司法書士報酬)

(1) 相続登記の登録免許税

国税庁によると、相続登記の登録免許税は以下の通りです。

税率

  • 固定資産税評価額 × 0.4%

計算例(固定資産税評価額2,000万円の中古戸建て)

  • 2,000万円 × 0.4% = 8万円

相続登記の登録免許税は、売買(2.0%)より大幅に安く設定されています。

(2) 売却時の登録免許税

売却時の所有権移転登記の登録免許税は、買主が負担します。

税率

  • 土地:固定資産税評価額 × 2.0%(軽減措置で1.5%)
  • 建物:固定資産税評価額 × 2.0%

売主の負担は、抵当権抹消登記(ローンが残っていた場合)のみです。

抵当権抹消登記の登録免許税

  • 不動産1個につき1,000円
  • 中古戸建ての場合:土地 + 建物 = 2,000円

(3) 司法書士報酬の相場

司法書士報酬の相場は以下の通りです。

相続登記

内容 報酬目安
戸籍謄本等の取得代行 3-5万円
遺産分割協議書作成 3-5万円
登記申請 5-10万円
合計 11-20万円

売却時の登記

内容 報酬目安
抵当権抹消登記 1-3万円
所有権移転登記 5-10万円(買主負担)

相続登記と売却時の登記を同じ司法書士に依頼すると、費用を抑えられる場合があります。

相続不動産売却の税制優遇(空き家特例・取得費加算)

(1) 空き家の3,000万円特別控除

国税庁によると、相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。

適用要件

  • 相続開始直前まで被相続人が一人で居住していた
  • 1981年5月31日以前に建築された住宅(旧耐震基準)
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 売却価格が1億円以下
  • 売却前に耐震リフォームまたは取り壊しを実施

控除額

  • 譲渡所得から最大3,000万円を控除

計算例

  • 売却価格:3,000万円
  • 取得費:1,000万円
  • 譲渡費用:100万円
  • 譲渡所得:3,000万円 - 1,000万円 - 100万円 = 1,900万円
  • 特別控除後:1,900万円 - 1,900万円 = 0円

譲渡所得税が0円になります。

(2) 取得費加算の特例

国税庁によると、相続税を支払った場合、その一部を不動産の取得費に加算できます。

適用要件

  • 相続により不動産を取得した
  • 相続税を支払った
  • 相続開始から3年10ヶ月以内に売却

加算額の計算

加算額 = 相続税額 × (売却した不動産の相続税評価額 ÷ 相続財産の合計額)

計算例

  • 相続税額:500万円
  • 売却した不動産の相続税評価額:2,000万円
  • 相続財産の合計額:5,000万円
  • 加算額:500万円 × (2,000万円 ÷ 5,000万円) = 200万円

取得費に200万円を加算でき、譲渡所得が減ります。

(3) 適用要件と注意点

空き家特例と取得費加算の特例は、併用できない場合があります。

併用の可否

パターン 併用可否
空き家特例のみ 可能
取得費加算の特例のみ 可能
両方を併用 不可(どちらか有利な方を選択)

どちらが有利か

  • 譲渡所得が大きい場合:空き家特例(3,000万円控除)
  • 相続税が高額な場合:取得費加算の特例

税理士に相談して、有利な方を選択しましょう。

注意点

  • 空き家特例は相続開始から3年以内の売却が条件
  • 取得費加算は相続開始から3年10ヶ月以内の売却が条件
  • 適用要件が複雑なため、確定申告時に税理士への相談を推奨

まとめ

相続した中古戸建てを売却するには、まず相続登記を完了させる必要があります。2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の申請が必須となりました。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議で売却する人を決定します。長期未登記は数次相続のリスクがあるため、早めの登記が重要です。売却時には、空き家特例(3,000万円控除)や取得費加算の特例を活用できる場合があります。空き家特例は相続開始から3年以内の売却が条件で、取得費加算は3年10ヶ月以内です。両方を併用できない場合があるため、税理士に相談して有利な方を選択しましょう。登記費用は、相続登記で登録免許税8万円+司法書士報酬11-20万円、売却時は抵当権抹消登記(ローンがあった場合)で2,000円+司法書士報酬1-3万円が目安です。

よくある質問

Q1相続登記をしていない中古戸建ては売却できますか?

A1いいえ、相続登記の完了が売却の絶対条件です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が必須となりました。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料が科されます。まず相続登記を完了させてから売却活動を開始しましょう。

Q2相続人が複数いる場合、登記はどうすればよいですか?

A2遺産分割協議で売却する相続人を決定します。協議書に全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。代表者名義で相続登記を完了後、売却します。協議が整わない場合は、相続人全員の共有名義で登記し、全員の同意を得て売却することもできます。

Q3相続した中古戸建ての登記簿に古い抵当権が残っていますが、売却できますか?

A3被相続人が完済済みであれば、金融機関から抹消書類を取得して抵当権抹消登記を実施します。完済確認できない場合は、供託制度や判決による抹消も検討できます。古い抵当権は金融機関が合併・廃業している場合があり、手続きが複雑になるため、司法書士に相談することをおすすめします。

Q4相続した空き家を売却する場合、税金の優遇措置はありますか?

A4はい、あります。国税庁によると、空き家の3,000万円特別控除があり、相続開始から3年以内の売却等が条件です。また、相続税を支払った場合は取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)も併用できる場合があります。適用要件が複雑なため、税理士に確認することをおすすめします。

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