相続資金で中古戸建てを購入する際の登記の基礎知識
相続資金で中古戸建てを購入する際の登記手続きは、通常の購入と基本的に同じですが、相続登記との違いや税制優遇の適用条件を理解することが重要です。この記事では、相続資金での中古戸建て購入時の登記手続き、必要書類、費用、税制優遇について解説します。
結論まとめ
- 購入時の登記は売買による所有権移転登記:相続登記とは別物
- 売主側で相続登記が完了していることが前提:未了の場合は購入できない
- 既存の抵当権は決済時に抹消:売買代金で売主がローンを完済し、抹消登記と所有権移転登記を同日実施
- 住宅ローン控除は築年数要件あり:1982年以降築または耐震基準適合証明書が必要
- 親からの資金援助なら贈与税非課税措置あり:最大1,000万円(省エネ住宅)
(1) 所有権移転登記とは
法務省によると、所有権移転登記は、不動産の所有権が売主から買主に移ったことを登記簿に記録する手続きです。
登記される内容
- 登記の目的:所有権移転
- 原因:年月日売買
- 権利者(買主)の住所・氏名
相続資金で購入する場合でも、登記原因は「売買」であり、「相続」ではありません。
(2) 相続登記と購入時登記の違い
相続登記と購入時の所有権移転登記は全く異なります。
項目 | 相続登記 | 購入時の所有権移転登記 |
---|---|---|
登記原因 | 相続 | 売買 |
対象不動産 | 相続した不動産 | 購入する不動産 |
義務 | 2024年4月から義務化(3年以内) | 義務ではないが推奨 |
登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% | 固定資産税評価額の2%(軽減措置あり) |
法務局によると、2024年4月から相続登記が義務化され、相続により不動産を取得した場合は3年以内に登記する必要があります。
売主側の相続登記
中古戸建てを購入する際、売主が相続した不動産を売却する場合、売主側で相続登記が完了していることが購入の前提です。相続登記が未了の場合、売買契約前に完了してもらう必要があります。
(3) 中古戸建て購入の流れ
相続資金での中古戸建て購入は、以下の流れで進みます。
1. 物件探し・内覧
- 予算に合った物件を探す
- 相続資金と住宅ローンの併用を検討
2. 売買契約締結
- 売買契約書を作成
- 手付金を支払う(売買価格の5-10%)
3. 住宅ローン審査(利用する場合)
- 金融機関に申し込む
- 本審査を通過
4. 残代金決済・引き渡し
- 残代金を支払う
- 所有権移転登記と抵当権設定登記を申請
所有権移転登記の手続きと必要書類
(1) 登記申請の流れ
所有権移転登記は、決済日当日に司法書士が法務局に申請します。
登記申請の手順
決済日前
- 司法書士に依頼
- 必要書類を準備
決済日当日
- 司法書士が書類を確認
- 残代金を支払う
- 鍵を受け取る
決済日後
- 司法書士が法務局に登記申請
- 1-2週間で登記完了
- 登記識別情報(権利証)を受領
(2) 必要書類の準備
買主が準備する書類は以下の通りです。
買主(相続資金で購入する方)の必要書類
書類 | 取得先 | 有効期限 |
---|---|---|
住民票 | 市区町村役場 | 3ヶ月以内 |
本人確認書類 | 運転免許証など | - |
実印 | - | - |
印鑑証明書(ローン利用時) | 市区町村役場 | 3ヶ月以内 |
住宅ローン契約書(ローン利用時) | 金融機関 | - |
相続資金で購入する場合でも、通常の購入と必要書類は変わりません。相続を証明する書類(遺産分割協議書など)は、登記申請には不要です。
(3) 申請のタイミング
所有権移転登記は、決済日当日に申請します。
決済日のスケジュール例
時刻 | 内容 |
---|---|
10:00 | 金融機関に集合 |
10:15 | 司法書士が書類確認・本人確認 |
10:30 | 買主が残代金を支払う |
10:45 | 売主が鍵を引き渡す |
11:00 | 売主がローンを完済(抵当権抹消) |
13:00 | 司法書士が法務局に登記申請 |
中古戸建て特有の登記確認事項
(1) 既存抵当権の確認と抹消
中古戸建てを購入する際、売主側の抵当権が残っている場合があります。
抵当権の確認方法
- 登記簿謄本(登記事項証明書)を取得
- 権利部(乙区)を確認
- 抵当権設定の有無をチェック
抵当権の抹消
売主は、決済日に売買代金でローンを完済し、抵当権を抹消します。
- 決済前:売主が金融機関に完済予定を連絡
- 決済日:売主がローンを完済し、抹消書類を受領
- 登記申請:司法書士が抵当権抹消登記→所有権移転登記の順で申請
売買契約書に「売主は決済日に抵当権を抹消する」と明記しておくと安心です。
(2) 建物表題登記の確認
中古戸建ての場合、建物表題登記(建物の物理的状況を登記簿に記録する登記)が既に完了しています。
確認すべき項目
- 建物の所在地
- 家屋番号
- 種類(居宅など)
- 構造(木造2階建てなど)
- 床面積
増築や改築により床面積が変わっている場合、売主側で建物表題変更登記を完了してもらう必要があります。
(3) 登記簿謄本の読み方
登記簿謄本は、以下の3つの部分から構成されています。
表題部
- 所在地、家屋番号、種類、構造、床面積などの物理的情報
権利部(甲区)
- 所有権に関する事項
- 所有者の氏名・住所
- 所有権移転の履歴
権利部(乙区)
- 所有権以外の権利(抵当権、地役権など)
購入前に登記簿謄本を取得し、売主が真の所有者か、抵当権が設定されているかを確認しましょう。
住宅ローン利用時の抵当権設定登記
(1) 抵当権設定登記とは
住宅ローンを利用して中古戸建てを購入する場合、金融機関が抵当権を設定します。
抵当権とは
- 金融機関が住宅ローンの担保として設定する権利
- ローンを返済できなくなった場合、金融機関が不動産を競売にかけて債権を回収できる
抵当権設定登記は、所有権移転登記と同時に申請されます。
(2) 相続資金とローンの併用
相続資金と住宅ローンを併用する場合、以下の組み合わせが一般的です。
資金計画例(物件価格3,500万円)
- 相続資金(頭金):1,000万円
- 住宅ローン:2,500万円
- 諸費用(登記費用・仲介手数料など):200万円(自己資金)
相続資金を頭金に充てることで、住宅ローンの借入額を減らし、毎月の返済負担を軽減できます。
(3) 登記の同時申請
決済日に、司法書士が以下の登記を同時に申請します。
申請する登記の順序
- 抵当権抹消登記(売主側)
- 所有権移転登記(売主→買主)
- 抵当権設定登記(買主側、ローン利用時)
この順序により、買主は抵当権のない「きれいな」不動産を取得し、その上に金融機関の抵当権を設定できます。
登記にかかる費用(登録免許税・司法書士報酬)
(1) 登録免許税の計算方法
国税庁によると、登録免許税は以下の計算式で求めます。
基本計算式
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 税率
固定資産税評価額は、市区町村が決定する評価額で、通常は時価の70%程度です。
(2) 中古住宅の軽減措置
国税庁によると、中古住宅でも一定の要件を満たせば、登録免許税の軽減措置を受けられます。
軽減措置の要件
- 自己居住用の住宅であること
- 床面積が50㎡以上であること
- 取得後1年以内に登記すること
- 以下のいずれかを満たすこと:
- 1982年1月1日以降に建築された住宅
- 耐震基準適合証明書を取得した住宅
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入した住宅
税率(軽減措置適用後)
登記の種類 | 原則 | 軽減後(2026年3月31日まで) |
---|---|---|
土地の所有権移転 | 2.0% | 1.5% |
建物の所有権移転 | 2.0% | 0.3% |
抵当権設定 | 0.4% | 0.1% |
計算例(固定資産税評価額2,000万円、ローン2,500万円)
- 土地(800万円):800万円 × 1.5% = 12万円
- 建物(1,200万円):1,200万円 × 0.3% = 3.6万円
- 抵当権設定:2,500万円 × 0.1% = 2.5万円
- 合計:18.1万円
(3) 司法書士報酬の相場
司法書士報酬の相場は以下の通りです。
業務内容 | 報酬目安 |
---|---|
所有権移転登記 | 5-10万円 |
抵当権設定登記 | 3-5万円 |
登記簿謄本取得 | 1,000-2,000円 |
合計費用
- 登録免許税:18.1万円
- 司法書士報酬:8-15万円
- 合計:26.1-33.1万円
相続登記との違いと税制優遇
(1) 相続登記義務化との関係
法務局によると、2024年4月から相続登記が義務化されました。
相続登記義務化の概要
- 相続により不動産を取得した場合、3年以内に登記する義務がある
- 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
購入時との関係
相続資金で中古戸建てを購入する場合、購入者自身が相続登記をする必要はありません。ただし、売主が相続した不動産を売却する場合、売主側で相続登記が完了していることが前提です。
(2) 住宅ローン控除の活用
国税庁によると、中古住宅でも住宅ローン控除を受けられます。
適用要件
- 住宅ローンの返済期間が10年以上
- 床面積が50㎡以上
- 取得後6ヶ月以内に入居
- 以下のいずれかを満たすこと:
- 1982年1月1日以降に建築された住宅
- 耐震基準適合証明書を取得した住宅
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入した住宅
控除額
- 年末ローン残高の0.7%(最大10年間)
- 中古住宅の借入限度額:2,000万円(最大控除額140万円)
相続資金で頭金を入れて住宅ローンを借りる場合、住宅ローン控除を受けられます。
(3) 贈与税非課税制度の適用
国土交通省によると、親や祖父母から住宅取得資金の援助を受ける場合、贈与税の非課税措置があります。
住宅取得等資金の贈与税非課税制度
- 直系尊属(父母・祖父母)からの贈与が対象
- 非課税枠:最大1,000万円(省エネ等住宅)、最大500万円(一般住宅)
- 2026年12月31日まで
相続資金との違い
項目 | 相続資金 | 贈与資金 |
---|---|---|
取得時期 | 相続発生後 | 生前 |
税金 | 相続税(基礎控除あり) | 贈与税(非課税措置あり) |
使途 | 自由 | 住宅取得資金に限定 |
相続資金として受け取った現金で購入する場合、贈与税非課税制度は適用されません。ただし、親から生前に資金援助を受ける場合は、この制度を活用できます。
まとめ
相続資金で中古戸建てを購入する際の登記は、通常の購入と同じく売買による所有権移転登記です。相続登記とは別物で、購入時の登記原因は「売買」となります。売主側で相続登記が完了していることが購入の前提で、既存の抵当権は決済時に抹消されます。住宅ローンを併用する場合、相続資金を頭金に充てることで借入額を減らせます。中古住宅でも、1982年以降築または耐震基準適合証明書があれば、登録免許税の軽減措置と住宅ローン控除を受けられます。親からの資金援助なら贈与税非課税措置(最大1,000万円)を活用できますが、相続資金として受け取った場合は適用外です。登記費用は登録免許税と司法書士報酬を合わせて20-30万円程度が目安です。