買い替えで中古戸建てを売却する際の登記・名義変更のポイント
中古戸建てを売却して新居へ買い替える場合、旧居の抵当権抹消と所有権移転登記、新居の所有権取得と抵当権設定を同時進行させるため、登記手続きのタイミング調整が重要です。特に中古戸建ては土地と建物が別々に登記されているため、それぞれの登記状況を確認し、適切な順序で手続きを進める必要があります。本記事では、買い替え売却時の登記手続き、同時決済の流れ、費用、買い替えローン利用時の注意点を実務的に解説します。
本記事のポイント
- 買い替えでは旧居の売却と新居購入の登記を同日決済で処理。抵当権抹消→所有権移転→新居の所有権取得→抵当権設定の順
- 中古戸建ては土地・建物別々に登記。所有権移転登記と抵当権抹消はそれぞれに必要
- 登録免許税は固定資産税評価額の2%、抵当権抹消は不動産1個につき1,000円
- 買い替えローン利用時は一時的に旧居・新居両方に抵当権設定される場合あり
- 司法書士に売却・購入両方を依頼することで、スケジュール調整と登記の一元管理が可能
1. 買い替えによる中古戸建て売却時の登記の基礎知識
(1) 所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、不動産の所有権が売主から買主へ移転したことを法務局の登記簿に記録する手続きです。登記することで、第三者に対して所有権の移転を法的に主張できる権利を取得します。
売却時には、売買契約締結後の決済日に、売主から買主への所有権移転登記を申請します。買い替えの場合、旧居の売却登記と新居の購入登記を同日に処理することが一般的です。
(2) 買い替えと通常売却の登記の違い
買い替えによる売却と通常売却では、登記手続きのタイミングが異なります。
項目 | 通常売却 | 買い替え売却 |
---|---|---|
決済タイミング | 単独で実施 | 新居購入と同日決済が一般的 |
抵当権抹消 | 売却代金で完済・抹消 | 売却代金を新居購入資金に充当し同日処理 |
司法書士の役割 | 売却のみ担当 | 売却・購入両方を一元管理 |
資金移動 | 売却代金を受領 | 売却代金を即座に新居購入に充当 |
買い替えでは、売却代金をそのまま新居の購入資金に充てるため、資金繰りがスムーズです。
(3) 中古戸建ての表示登記確認
中古戸建ては、土地と建物がそれぞれ独立した不動産として登記されています。売却前に登記簿謄本で以下を確認しましょう。
確認すべき表示登記の内容
- 土地: 地番、地積(面積)、地目(宅地等)
- 建物: 家屋番号、床面積、構造(木造・鉄骨造等)、築年数
登記簿の内容が実際の物件と異なる場合(増築後の床面積が未登記等)、売却前に更正登記が必要になることがあります。
2. 中古戸建て特有の登記確認(土地・建物の別登記)
(1) 土地と建物の登記状況確認
中古戸建てを売却する際、土地と建物の登記状況をそれぞれ確認する必要があります。
土地の登記確認
- 所有者が自分名義になっているか
- 地積(面積)が実測と一致しているか
- 抵当権・根抵当権の設定状況
建物の登記確認
- 所有者が自分名義になっているか
- 床面積が現況と一致しているか(増築・減築の有無)
- 抵当権の設定状況
登記簿謄本は法務局の窓口またはオンライン(登記情報提供サービス)で、1通600円程度で取得できます。
(2) 既存抵当権の設定状況
売却前に、土地・建物に設定されている抵当権を確認します。
抵当権確認のポイント
- 抵当権者: 金融機関名
- 債権額: 借入金額
- 設定日: いつ抵当権が設定されたか
- 共同担保: 土地・建物両方に設定されているか
住宅ローンが残っている場合、売却代金で完済し、決済時に抵当権抹消登記を行います。
(3) 登記簿謄本の取得と読み方
登記簿謄本は以下の3つの区分で構成されています。
登記簿謄本の構成
- 表題部: 土地・建物の物理的な情報(地積、床面積等)
- 甲区: 所有権に関する事項(所有者、所有権移転の履歴)
- 乙区: 抵当権・地上権等の権利に関する事項
売却前に、甲区で所有者が自分名義か、乙区で抵当権の設定状況を確認します。
3. 買い替え時の同時決済と登記手続きの流れ
(1) 同時決済の仕組み
買い替えで最も一般的なのが、旧居の売却と新居の購入を同日に決済する方法です。
同日決済の流れ(例:午前に旧居売却、午後に新居購入)
午前:旧居の売却決済
- 買主から売却代金受領
- 旧居のローン完済、抵当権抹消書類受領
- 土地・建物の所有権移転登記申請
午後:新居の購入決済
- 旧居の売却代金と新規ローンで新居の代金支払い
- 土地・建物の所有権移転登記・抵当権設定登記申請
同日決済により、旧居の売却代金をそのまま新居の購入資金に充てられるため、資金繰りがスムーズです。
(2) 登記申請のタイミング
買い替えでは、以下の順序で登記を進めるのが一般的です。
- 旧居の抵当権抹消登記(売却決済時)
- 旧居の所有権移転登記(売却決済時)
- 新居の所有権移転登記(購入決済時)
- 新居の抵当権設定登記(購入決済時)
司法書士がこれらの登記を時系列で処理し、登記の空白期間をなくします。
(3) 必要書類の準備
買い替えで中古戸建てを売却する際の必要書類は以下の通りです。
売主が準備する書類
- 登記識別情報(権利証)
- 印鑑証明書(発行3ヶ月以内)
- 固定資産税評価証明書
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
買主側で準備する書類(新居購入時)
- 住民票(発行3ヶ月以内)
- 印鑑証明書
- 住宅ローン利用時は金銭消費貸借契約書
買い替えで売却・購入を同時に行う場合、両方の書類を準備する必要があります。
4. 抵当権抹消登記と新居への抵当権設定
(1) 抵当権抹消登記の手続き
住宅ローンが残っている中古戸建てを売却する場合、売却代金でローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。
抵当権抹消登記の流れ
- 売却決済日に買主から代金受領
- その場で金融機関へローン完済
- 金融機関から抵当権抹消書類を受領
- 司法書士が土地・建物の抵当権抹消登記を申請
登録免許税は不動産1個につき1,000円です。土地と建物で別々の登記なので、戸建ての場合は2,000円となります。
(2) 売却代金での完済処理
買い替えでは、売却代金をそのまま新居購入に充当するため、以下の流れで資金を処理します。
- 買主から売却代金受領
- 金融機関へローン完済(売却代金の一部を使用)
- 残金を新居購入の頭金に充当
- 新規ローンと合わせて新居の代金支払い
同日決済により、資金移動と登記手続きを効率的に行えます。
(3) 新居への抵当権設定との順序
買い替えでは、旧居の抵当権抹消と新居の抵当権設定を同日に処理します。
登記の順序
- 旧居: 抵当権抹消登記 → 所有権移転登記
- 新居: 所有権移転登記 → 抵当権設定登記
登記の順序を誤ると、登記が受理されない、または追加費用が発生する可能性があります。司法書士が適切な順序で処理します。
5. 登記にかかる費用(登録免許税・司法書士報酬)
(1) 登録免許税の計算方法
所有権移転登記の登録免許税は、固定資産税評価額を基準に計算します。
売却時の所有権移転登記の税率
- 原則: 固定資産税評価額 × 2%
例えば、固定資産税評価額が土地1,500万円、建物500万円の中古戸建ての場合、合計2,000万円 × 2% = 40万円の登録免許税となります(買主負担)。
抵当権抹消登記の税率
- 不動産1個につき1,000円
- 土地・建物で2,000円(売主負担)
(2) 軽減措置の適用条件
売却時の所有権移転登記には軽減措置はありませんが、買主側が中古住宅購入で軽減措置を受けられる場合があります。
買主側の軽減措置(参考)
- 床面積50㎡以上
- 築年数20年以内(耐火建築物は25年以内)
- 自己居住用
要件を満たせば、所有権移転登記が0.3%(本則2.0%)に軽減されます。
(3) 司法書士報酬の相場
買い替えで司法書士に登記を依頼する場合の報酬相場は以下の通りです。
項目 | 相場 |
---|---|
所有権移転登記(売却) | 3〜5万円 |
抵当権抹消登記 | 1〜2万円 |
所有権移転登記(購入) | 5〜8万円 |
抵当権設定登記 | 3〜5万円 |
合計 | 12〜20万円程度 |
報酬額は地域や案件の複雑さにより変動します。買い替えで売却・購入を同時依頼する場合、セット割引を提供する司法書士事務所もあります。
6. 買い替えローン利用時の登記タイミング
(1) 買い替えローンの仕組み
買い替えローンとは、旧居の売却前に新居を購入できるローンです。旧居の売却代金で完済することを前提とした特殊なローンです。
買い替えローンの特徴
- 旧居の売却前に新居購入が可能
- 旧居の残債を上乗せして借入できる場合あり
- 買い替え特約(旧居が売れなければ契約解除)を付けることが多い
(2) 抵当権設定のタイミング調整
買い替えローン利用時は、抵当権の設定タイミングが複雑になります。
抵当権設定の流れ
- 新居購入時に買い替えローンの抵当権設定(新居に設定)
- 旧居売却時に旧居のローン完済・抵当権抹消
- 買い替えローンを本ローンに切り替え(金融機関により異なる)
一時的に旧居・新居両方に抵当権が設定されることがあり、金融機関との事前調整が必須です。
(3) 買い替え特約と登記の関係
買い替え特約とは、「旧居が一定期間内に売れなければ新居の売買契約を解除できる」という特約です。
登記への影響
- 特約期間中に新居の所有権移転登記を行う場合あり
- 旧居が売れない場合、契約解除により所有権を売主に戻す必要
- 登記費用が無駄になるリスクあり
買い替え特約を付ける場合、登記のタイミングについて司法書士と事前に相談することが重要です。
まとめ
買い替えで中古戸建てを売却する際の登記手続きは、旧居の売却と新居の購入を同日決済することで効率的に進められます。
重要なポイント
- 買い替えでは旧居の売却と新居購入の登記を同日決済で処理。抵当権抹消→所有権移転→新居の所有権取得→抵当権設定の順
- 中古戸建ては土地・建物別々に登記。所有権移転登記と抵当権抹消はそれぞれに必要
- 登録免許税は固定資産税評価額の2%、抵当権抹消は不動産1個につき1,000円
- 買い替えローン利用時は一時的に旧居・新居両方に抵当権設定される場合あり
- 司法書士に売却・購入両方を依頼することで、スケジュール調整と登記の一元管理が可能
登記手続きは専門性が高いため、司法書士への依頼が一般的です。買い替えでは売却・購入を同一の司法書士に依頼することで、スケジュール調整と手続きの一元管理が可能になります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 中古戸建てを売却して新居を購入する場合、登記のタイミングはどうなりますか?
A: 通常は同時決済で、旧居の抵当権抹消・所有権移転と新居の所有権取得・抵当権設定を同日実施します。司法書士がスケジュールを調整し、時系列で処理します。
Q2: 中古戸建ての土地と建物で登記が別々になっていますが、両方とも手続きが必要ですか?
A: 土地・建物それぞれで所有権移転登記が必要です。抵当権も両方に設定されている場合は両方抹消します。登録免許税も個別に計算されます。
Q3: 買い替えローンを利用する場合、抵当権の設定はどうなりますか?
A: 旧居売却前に新居を購入する場合、一時的に旧居・新居両方に抵当権が設定されることがあります。売却時に旧居の抵当権を抹消します。金融機関との事前調整が必要です。
Q4: 登記の軽減措置は中古戸建て売却時にも適用されますか?
A: 売却時の所有権移転登記には軽減措置はありません。買主側が中古住宅購入で適用を受けられる場合があります。抵当権抹消は不動産1個につき1,000円の定額です。