中古戸建て売却時の登記の基本
中古戸建てを売却する際には、新築戸建てとは異なる登記手続きが必要です。特に、売主から買主への所有権移転登記、売主の抵当権抹消登記、そして増築や改築がある場合の登記変更など、事前に確認すべきポイントがあります。この記事では、中古戸建て売却時の登記手続きの流れと注意点を基礎から解説します。
結論まとめ
- 所有権移転登記は買主負担:登録免許税と司法書士報酬は買主が支払うのが原則
- 抵当権抹消登記は売主負担:決済日にローンを完済し、同時に抹消登記を申請
- 売却前に登記簿謄本を確認:所有者情報が現住所と一致するか、増築・改築の登記漏れがないかチェック
- 決済日に登記申請:抵当権抹消→所有権移転の順で司法書士が手続き
- 新築との違い:中古は所有権移転登記、新築は所有権保存登記
(1) 売却時に必要な登記の種類
中古戸建て売却時に関係する主な登記は以下の3つです。
1. 所有権移転登記
- 売主から買主へ所有権を移す登記
- 登記簿の甲区に買主の氏名が記載される
- 登録免許税と司法書士報酬は買主負担が慣例
2. 抵当権抹消登記
- 住宅ローン完済後、金融機関の抵当権を消す登記
- 登記簿の乙区から抵当権が抹消される
- 登録免許税と司法書士報酬は売主負担
3. 住所変更登記(該当する場合)
- 登記簿上の所有者住所と現住所が異なる場合に必要
- 売却前に完了しておく必要がある
- 登録免許税:不動産1個につき1,000円
(2) 新築戸建てとの登記の違い
中古戸建てと新築戸建てでは、登記の種類が異なります。
項目 | 中古戸建て | 新築戸建て |
---|---|---|
所有者の登記 | 所有権移転登記(売主→買主) | 所有権保存登記(建築会社→買主) |
前所有者の抵当権 | 抹消が必要 | なし |
建物の登記 | 既に登記済み | 表題登記から必要 |
増築・改築の登記 | 確認・修正が必要な場合あり | なし |
中古戸建ての場合、前所有者(売主)の抵当権を抹消し、所有者を買主に変更する手続きが必要です。
(3) 売却前の登記確認ポイント
中古戸建てを売却する前に、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して以下を確認しましょう。
確認すべき項目
- 所有者情報:登記簿上の住所と現住所が一致しているか
- 抵当権設定:金融機関の抵当権が設定されているか、残債と照合
- 増築・改築:登記簿上の建物面積と現況が一致しているか
- 差押え・仮登記:売却を妨げる権利が設定されていないか
法務局によると、登記簿謄本は窓口またはオンラインで取得できます(手数料:窓口600円、オンライン500円)。
所有権移転登記の手続きと流れ
(1) 所有権移転登記の申請方法
所有権移転登記は、法務局によると以下の手順で申請します。
登記申請書の内容
- 登記の目的:所有権移転
- 原因:年月日売買
- 権利者(買主)の住所・氏名
- 義務者(売主)の住所・氏名
- 課税価格と登録免許税額
添付書類
書類 | 提出者 | 取得先 |
---|---|---|
登記識別情報(権利証) | 売主 | 購入時に法務局から交付 |
印鑑証明書(3ヶ月以内) | 売主 | 市区町村役場 |
固定資産税評価証明書 | 売主 | 市区町村役場 |
住民票 | 買主 | 市区町村役場 |
本人確認書類 | 売主・買主 | 運転免許証など |
(2) 買主側司法書士との調整
不動産売買では、買主が指定した司法書士が登記手続きを行うのが一般的です。
司法書士の役割
- 売主・買主の本人確認
- 必要書類の確認と不備チェック
- 登記申請書の作成
- 法務局への登記申請
売主は、司法書士から指示された書類を準備し、決済日までに揃えておく必要があります。
(3) 決済日に実施する登記手続き
決済日当日は、以下の流れで登記手続きが進みます。
決済日のスケジュール
午前中:金融機関に集合
- 売主、買主、不動産会社、司法書士が集まる
司法書士による書類確認
- 登記必要書類を確認
- 本人確認を行う
代金決済
- 買主が残代金を支払う
- 売主がローンを完済する(抵当権抹消書類を受領)
鍵の引き渡し
- 売主が買主に鍵を渡す
午後:司法書士が登記申請
- 法務局にオンラインで登記申請
抵当権抹消登記のタイミングと方法
(1) ローン完済と抵当権抹消
中古戸建てに住宅ローンの抵当権が設定されている場合、売却代金で完済し、抵当権を抹消する必要があります。
抵当権抹消の流れ
決済日の1-2週間前
- 金融機関に完済予定を連絡
- 完済に必要な金額を確認(残債 + 利息)
- 抹消書類の受領方法を確認
決済日当日
- 買主から売買代金を受領
- その場で住宅ローンを完済
- 金融機関から抵当権抹消書類を受け取る
決済日以降
- 司法書士が抵当権抹消登記を申請
- 1-2週間で登記完了
(2) 金融機関からの必要書類
住宅金融支援機構や民間金融機関から、抵当権抹消登記に必要な以下の書類を受け取ります。
抹消書類
- 弁済証書(解除証書):ローン完済の証明
- 登記済証(登記識別情報):抵当権設定時に金融機関が取得した権利証
- 委任状:司法書士が代理申請するための委任状
- 資格証明書:金融機関の代表者事項証明書(法人の場合)
金融機関によっては、抹消書類を決済日当日に渡せないこともあるため、事前に確認が重要です。
(3) 抹消登記と所有権移転の順序
法務局によると、抵当権抹消登記と所有権移転登記は、以下の順序で申請します。
登記の順序
- 抵当権抹消登記:売主の抵当権を消す
- 所有権移転登記:売主から買主へ所有権を移す
この順序により、買主は抵当権のない「きれいな」不動産を取得できます。
売却決済と登記の同時進行
(1) 決済当日の登記の流れ
民法では、売買代金の支払いと不動産の引き渡しは「同時履行」とされています。実務上、決済日は以下の流れで進みます。
時系列
時刻 | 内容 |
---|---|
10:00 | 金融機関に集合 |
10:15 | 司法書士が書類確認・本人確認 |
10:30 | 買主が残代金を支払う |
10:45 | 売主がローンを完済する |
11:00 | 鍵を引き渡す |
13:00 | 司法書士が法務局に登記申請 |
(2) 抵当権抹消→所有権移転の順序
決済日に司法書士が行う登記申請は、以下の順序です。
1. 抵当権抹消登記
- 売主の住宅ローンを完済
- 金融機関から抹消書類を受領
- 司法書士が抹消登記を申請
2. 所有権移転登記
- 売主から買主へ所有権を移す
- 買主の氏名が登記簿に記載される
この順序により、買主は抵当権が設定されていない不動産を取得できます。
(3) 司法書士による本人確認と書類確認
司法書士は、登記申請前に以下を確認します。
本人確認
- 運転免許証、マイナンバーカードなどで本人確認
- 売主・買主の意思確認(売る・買う意思があるか)
書類確認
- 登記識別情報(権利証)の有効性
- 印鑑証明書の有効期限(3ヶ月以内)
- 固定資産税評価証明書の内容
書類に不備があると登記できないため、司法書士は慎重に確認します。
登記にかかる費用と負担者
(1) 登録免許税の計算方法
国税庁によると、登録免許税は以下の計算式で求めます。
基本計算式
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 税率
固定資産税評価額は、市区町村が決定する評価額で、通常は時価の70%程度です。
(2) 所有権移転登記費用(買主負担)
所有権移転登記の費用は、買主が負担するのが慣例です。
登録免許税の税率
不動産の種類 | 税率(原則) | 軽減税率(2026年3月31日まで) |
---|---|---|
土地 | 2.0% | 1.5% |
建物(居住用) | 2.0% | 0.3%(一定要件あり) |
計算例(固定資産税評価額2,000万円の中古戸建て)
- 土地(800万円):800万円 × 1.5% = 12万円
- 建物(1,200万円):1,200万円 × 0.3% = 3.6万円
- 登録免許税合計:15.6万円
- 司法書士報酬:5-10万円
- 合計:20.6-25.6万円
(3) 抵当権抹消登記費用(売主負担)
抵当権抹消登記の費用は、売主が負担します。
登録免許税
- 不動産1個につき1,000円
- 中古戸建ての場合:土地 + 建物 = 2,000円(土地が複数筆ある場合は増える)
司法書士報酬
- 1-3万円程度(地域・事務所により異なる)
合計
- 1.2-3.2万円程度
所有権移転登記と比べて、抵当権抹消登記の費用は安価です。
売却前の登記簿確認と修正
(1) 登記簿謄本の取得と確認
中古戸建てを売却する前に、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して内容を確認しましょう。
取得方法
- 法務局窓口:手数料600円
- オンライン請求:手数料500円(自宅に郵送)
- オンライン請求(自宅で印刷):手数料480円
確認ポイント
項目 | 確認内容 |
---|---|
所有者情報 | 氏名、住所が現在のものと一致するか |
建物面積 | 増築・改築後の面積が登記されているか |
抵当権 | 金融機関の抵当権が設定されているか |
差押え・仮登記 | 売却を妨げる権利が設定されていないか |
(2) 住所変更登記の必要性
登記簿上の所有者住所と現住所が異なる場合、売却前に住所変更登記を行う必要があります。
住所変更登記が必要な例
- 戸建てを購入後に引っ越した
- 住居表示の変更があった
- 市町村合併で住所が変わった
住所変更登記の費用
- 登録免許税:不動産1個につき1,000円
- 司法書士報酬:1-2万円程度
住所変更登記を行わないと、所有権移転登記ができないため、早めに手続きしましょう。
(3) 増築・改築時の登記変更
増築や改築により建物の床面積が変わった場合、建物表題変更登記が必要です。
建物表題変更登記が必要な例
- 増築して床面積が増えた
- 建物の用途を変更した(住宅→店舗など)
- 建物の構造を変更した(木造→鉄骨造など)
法務局によると、建物表題変更登記は土地家屋調査士に依頼するのが一般的で、費用は5-10万円程度です。
注意点
- 増築・改築後1ヶ月以内に登記するのが原則(不動産登記法第51条)
- 登記していない場合、売却前に修正する必要がある
- 未登記のまま売却すると、買主から減額を要求される可能性がある
まとめ
中古戸建て売却時の登記手続きは、所有権移転登記と抵当権抹消登記が中心です。所有権移転登記の費用は買主負担、抵当権抹消登記は売主負担が慣例となっています。売却前に登記簿謄本を取得して、所有者情報が現住所と一致するか、増築・改築の登記漏れがないかを確認しましょう。登記簿上の住所が異なる場合や、増築・改築がある場合は、売却前に修正登記を完了しておく必要があります。決済日には、司法書士が抵当権抹消登記と所有権移転登記を同時に申請し、1-2週間で登記が完了します。スムーズな売却のため、早めに登記内容を確認し、必要な修正を済ませておくことが重要です。