相続した中古マンションの固定資産税・都市計画税を理解する
相続により中古マンションを取得した場合、固定資産税・都市計画税の納税義務を承継します。売却を検討する際には、納税義務者の特定、相続人間の負担按分、買主との清算方法など、実務上の知識が必要です。
この記事でわかること
- 相続時の固定資産税・都市計画税の納税義務承継の仕組み
- 相続人が複数いる場合の連帯納税義務と負担按分の方法
- 相続登記の義務化と固定資産税の関係
- 売却時の固定資産税清算実務と日割り計算の地域差
- 取得費加算の特例など相続不動産売却時の税制優遇措置
1. 相続した中古マンションの固定資産税・都市計画税の基本
(1) 固定資産税の課税基準日と納税義務者
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・家屋を所有している人に課される市町村税です。総務省の「固定資産税」によれば、標準税率は1.4%です。
固定資産税の基本:
項目 | 内容 |
---|---|
課税基準日 | 毎年1月1日 |
納税義務者 | 1月1日時点の所有者 |
税率 | 標準1.4%(自治体により異なる) |
課税主体 | 市町村(東京23区は都) |
相続が発生した場合、1月1日時点で被相続人が所有していれば、その年度の固定資産税は相続人が納税義務を承継します。
(2) 都市計画税の課税対象
都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための目的税です。総務省の「都市計画税」によれば、市街化区域内の土地・家屋が課税対象で、税率の上限は0.3%です。
都市計画税の基本:
項目 | 内容 |
---|---|
課税対象 | 市街化区域内の土地・家屋 |
税率 | 上限0.3%(自治体の条例で決定) |
課税基準日 | 固定資産税と同じ(毎年1月1日) |
納税通知書 | 固定資産税と一緒に送付 |
マンションの多くは市街化区域内にあるため、固定資産税と都市計画税の両方が課税されます。
2. 相続による納税義務の承継と相続人の連帯責任
(1) 1月1日時点の所有者と相続の関係
固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者です。相続が発生した場合、次の通り納税義務が承継されます。
相続発生時期と納税義務:
相続発生時期 | 1月1日時点の所有者 | 納税義務者 |
---|---|---|
2024年3月 | 被相続人(2024年1月1日) | 相続人(承継) |
2024年12月 | 被相続人(2024年1月1日) | 相続人(承継) |
2025年1月 | 相続人(2025年1月1日) | 相続人 |
相続発生年度(2024年度)の固定資産税は、相続人が納税義務を承継します。東京都主税局の「固定資産税・都市計画税の納税義務者」にも詳細が記載されています。
(2) 複数相続人がいる場合の連帯納税義務
相続人が複数いる場合、相続人全員が連帯して納税義務を負います。これを「連帯納税義務」と呼びます。
連帯納税義務の仕組み:
- 相続人全員が法定相続分に応じて納税義務を負う
- 自治体は相続人代表者(例:配偶者や長男)に納税通知書を送付
- 代表者が全額を納付するのが通例だが、法的には全員が連帯責任
- 遺産分割協議で実質的な負担者を決定できる
連帯納税義務の例(相続人3人、年間税額30万円):
相続人 | 法定相続分 | 法的な納税義務 | 遺産分割協議後の実質負担 |
---|---|---|---|
配偶者 | 1/2 | 30万円(連帯) | 15万円(実質) |
長男 | 1/4 | 30万円(連帯) | 7.5万円(実質) |
次男 | 1/4 | 30万円(連帯) | 7.5万円(実質) |
遺産分割協議で負担割合を決定し、代表者が全額を納付した後、相続人間で清算します。
3. 相続登記と固定資産税の関係
(1) 相続登記義務化の影響
2024年4月から相続登記が義務化されました。法務省の「相続登記の義務化」によれば、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。
相続登記義務化のポイント:
項目 | 内容 |
---|---|
義務化開始 | 2024年4月1日 |
登記期限 | 相続を知った日から3年以内 |
過料 | 正当な理由なく登記しない場合10万円以下 |
遡及適用 | 2024年4月以前の相続も対象 |
(2) 登記前の固定資産税の取り扱い
相続登記をしていない場合でも、固定資産税の納税義務は発生します。自治体は戸籍調査などで相続人を特定し、納税通知書を送付します。
登記の有無と固定資産税:
状況 | 納税義務 | 納税通知書の送付先 |
---|---|---|
相続登記済み | 登記簿上の相続人 | 登記簿上の相続人 |
相続登記未了 | 相続人全員(連帯) | 相続人代表者 |
遺産分割未了 | 相続人全員(連帯) | 相続人代表者 |
登記の有無にかかわらず納税義務は発生しますが、相続登記を完了させることで、納税義務者が明確になり、売却もスムーズに進みます。
4. 売却時の固定資産税清算と日割り計算
(1) 売主と買主の按分精算の実務
不動産売買では、固定資産税・都市計画税を引渡し日で日割り計算し、売主と買主が按分精算するのが一般的です。
日割り清算の仕組み:
- 年間の固定資産税・都市計画税を確認(納税通知書)
- 引渡し日を基準に日割り計算
- 買主が残日数分を売主に支払う
- 売主が全額を自治体に納付
日割り清算の計算例(年間税額24万円、7月1日引渡し、1月1日起算):
売主負担:24万円 × 181日(1/1-6/30) / 365日 = 約11.9万円
買主負担:24万円 × 184日(7/1-12/31) / 365日 = 約12.1万円
買主は残日数分の約12.1万円を売主に支払います。
(2) 起算日による清算金額の違い
固定資産税の日割り清算の起算日は、地域によって異なります。
地域別の起算日:
地域 | 起算日 | 理由 |
---|---|---|
関東(東京・神奈川など) | 1月1日 | 納税義務発生日に基づく |
関西(大阪・京都など) | 4月1日 | 納税通知書送付時期に基づく |
起算日の違いによる清算金額の差(年間税額24万円、7月1日引渡し):
起算日 | 売主負担 | 買主負担 |
---|---|---|
1月1日 | 約11.9万円 | 約12.1万円 |
4月1日 | 約6.0万円 | 約18.0万円 |
同じ引渡し日でも、起算日が異なると清算金額に大きな差が生じます。売買契約書で起算日を明記することが重要です。
5. 相続したマンションの空き家期間と税負担
(1) 住宅用地特例の継続適用要件
住宅用地の特例により、住宅用地200㎡以下の部分は固定資産税の課税標準が1/6に軽減されます。
住宅用地特例の軽減率:
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 評価額の1/6 | 評価額の1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 評価額の1/3 | 評価額の2/3 |
マンションの場合、専有面積に応じて敷地権が按分されるため、多くの場合は小規模住宅用地(200㎡以下)に該当します。
(2) 空き家状態での税負担
相続後にマンションを空き家にした場合でも、一定期間は住宅用地特例が継続適用されます。ただし、長期間の空き家や取り壊しを行うと特例が喪失するリスクがあります。
特例喪失の主なケース:
- 建物を取り壊して更地にした場合
- 空き家が「特定空家」に指定された場合
- 住宅以外の用途に転用した場合
特例喪失時の税額比較(土地評価額1,000万円、専有面積70㎡):
状態 | 固定資産税 | 都市計画税 | 合計 |
---|---|---|---|
特例適用中 | 2.3万円 | 1万円 | 3.3万円 |
特例喪失後 | 14万円 | 3万円 | 17万円 |
マンションの場合、戸建てと異なり取り壊しは現実的ではないため、特例喪失のリスクは低いです。ただし、長期間の空き家は建物の劣化や管理費の負担もあるため、早期売却を検討することが望ましいです。
6. 相続不動産売却時の税制上の特例措置
(1) 取得費加算の特例
相続税を支払った人が、相続財産を相続税の申告期限から3年以内に売却する場合、一定の相続税額を取得費に加算できます。国税庁の「相続した財産の売却」に詳細が記載されています。
取得費加算の特例の要件:
項目 | 内容 |
---|---|
対象者 | 相続税を支払った相続人 |
対象財産 | 相続により取得した財産 |
売却期限 | 相続税の申告期限から3年以内 |
加算額 | 売却した財産に対応する相続税額 |
取得費加算の特例の効果(例):
売却価格:3,000万円
取得費(被相続人の購入価格):1,500万円
加算できる相続税額:200万円
譲渡所得 = 3,000万円 - (1,500万円 + 200万円) = 1,300万円
譲渡所得税(20.315%) = 1,300万円 × 20.315% = 約264万円
※加算なしの場合:(3,000万円 - 1,500万円) × 20.315% = 約305万円
→ 約41万円の節税効果
(2) 3,000万円特別控除の適用可否
居住用財産を売却する際の3,000万円特別控除は、相続した中古マンションでも一定の要件を満たせば適用できます。
3,000万円特別控除の要件:
- 相続人が相続後にそのマンションに居住していること
- 居住期間は問わないが、居住の実態が必要
- 売却前に賃貸に出していないこと
適用可否の判定:
ケース | 3,000万円控除 | 取得費加算の特例 |
---|---|---|
相続後に居住して売却 | 適用可能 | 併用不可(選択) |
相続後に居住せず売却 | 適用不可 | 適用可能 |
相続後に賃貸して売却 | 適用不可 | 適用可能 |
3,000万円控除と取得費加算の特例は併用できないため、どちらが有利かを検討する必要があります。
まとめ:相続した中古マンション売却時の固定資産税のポイント
相続により中古マンションを取得した場合、1月1日時点で被相続人が所有していれば、その年度の固定資産税は相続人が納税義務を承継します。相続人が複数いる場合は連帯納税義務を負いますが、遺産分割協議で実質的な負担者を決定できます。
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料が科されます。登記の有無にかかわらず納税義務は発生しますが、早期に登記を完了させることで、納税義務者が明確になり、売却もスムーズに進みます。
売却時は固定資産税を引渡し日で日割り計算し、買主と按分精算します。起算日が地域によって異なる(関東1/1、関西4/1)ため、売買契約書で明記することが重要です。
相続税を支払った人が3年以内に売却する場合、取得費加算の特例により一定の相続税額を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。相続後に居住した場合は3,000万円特別控除も適用可能ですが、併用はできないため、どちらが有利かを検討しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 相続した中古マンションの固定資産税は誰が払いますか?
A: 固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点の所有者です。相続が発生した場合、1月1日時点で被相続人が所有していれば、その年度の固定資産税は相続人が納税義務を承継します。相続人が複数いる場合は、相続人全員が連帯して納税義務を負います。遺産分割協議で実質的な負担者を決定できますが、自治体に対しては全員が連帯責任を負うため、代表者が全額を納付した後、相続人間で清算するのが一般的です。
Q2: 相続登記前でも固定資産税は払わないといけませんか?
A: はい、相続登記の有無にかかわらず、固定資産税の納税義務は発生します。自治体は戸籍調査などで相続人を特定し、相続人代表者(例:配偶者や長男)に納税通知書を送付します。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。早期に相続登記を完了させることで、納税義務者が明確になり、売却もスムーズに進みます。
Q3: 相続したマンションを売却するとき、固定資産税はどう清算しますか?
A: 通常の不動産売買と同じく、固定資産税・都市計画税を引渡し日で日割り計算し、売主(相続人)と買主が按分精算します。例えば、年間税額24万円で7月1日引渡しの場合、売主負担が約11.9万円、買主負担が約12.1万円となります(1月1日起算)。買主は残日数分の約12.1万円を売主に支払い、売主が全額を自治体に納付します。起算日が地域によって異なる(関東1/1、関西4/1)ため、売買契約書で明記することが重要です。
Q4: 相続で取得したマンションの売却に税制優遇はありますか?
A: はい、主に2つの税制優遇があります。(1)取得費加算の特例:相続税を支払った人が相続税の申告期限から3年以内に売却する場合、一定の相続税額を取得費に加算できます。これにより譲渡所得税を軽減できます。(2)3,000万円特別控除:相続後にそのマンションに居住した場合、居住用財産の3,000万円特別控除を適用できます。ただし、取得費加算の特例と3,000万円控除は併用できないため、どちらが有利かを税理士に相談して検討することをおすすめします。