中古マンション売却と固定資産税・都市計画税の基本
中古マンションを売却する際、固定資産税・都市計画税の扱いは重要な実務知識です。1月1日時点の所有者が年度全体の納税義務を負うため、売却時には売主と買主で税負担を按分清算するのが一般的です。
固定資産税は土地・建物の所有者に毎年課される市町村税で、都市計画税は市街化区域内の不動産に課される目的税です。マンションの場合、専有部分と共用部分、土地持分それぞれに固定資産税が課税されます。
(1) 固定資産税の課税対象と納税義務者
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点での登記簿上の所有者です。総務省によれば、課税対象は土地・家屋・償却資産で、標準税率は1.4%です。
マンションの場合、専有部分(住戸)と共用部分(廊下・エレベーター等)の建物評価額、および敷地の土地持分に対して課税されます。これらを合計した金額が年間の固定資産税となります。
年の途中で売却しても、1月1日時点の所有者に納税義務があるため、売主が年度全額を納税します。ただし、実務では引渡し日を基準に買主と日割り按分精算を行います。
(2) 都市計画税の課税地域と税率
都市計画税は市街化区域内の不動産に課される目的税で、道路・公園などの都市計画事業の財源となります。総務省の資料によれば、税率の上限は0.3%で、自治体の条例により決定されます。
マンションが市街化区域内にある場合、固定資産税と都市計画税の両方が課税されます。市街化調整区域の場合は都市計画税がかからないため、物件の所在地により税負担が異なります。
マンション特有の固定資産税評価の仕組み
マンションは区分所有建物として、専有部分と共用部分で評価方法が異なります。また、土地は敷地全体の評価額を専有面積の割合で按分します。
(1) 専有部分と共用部分の評価方法
国土交通省の資料によれば、マンションの建物評価は専有部分と共用部分に区分されます。
- 専有部分:住戸の床面積・設備・築年数等により評価
- 共用部分:エレベーター・廊下・階段等を専有面積の割合で按分
中古マンションの場合、築年数に応じた経年減価補正率が適用されます。鉄筋コンクリート造の場合、減価は緩やかで、評価額は徐々に下がります。
(2) 土地持分に応じた評価額の算出
マンションの敷地は全区分所有者の共有となるため、土地の固定資産税は持分割合に応じて按分されます。
計算方法:
- 敷地全体の固定資産税評価額を算出
- 専有面積の割合で各戸の持分を計算
- 住宅用地特例(後述)を適用して課税標準額を算出
土地の評価額は公示価格の約7割が目安で、3年ごとに見直されます。
住宅用地特例とマンションでの適用
住宅用地特例により、住宅の敷地は固定資産税の課税標準が大幅に軽減されます。マンションでも専有面積に応じてこの特例が適用されます。
(1) 小規模住宅用地の課税標準額軽減
200㎡以下の小規模住宅用地は、課税標準額が固定資産税評価額の1/6に軽減されます。200㎡を超える部分は1/3に軽減されます。
マンションの場合、1戸あたりの専有面積が200㎡を超えることは少ないため、ほとんどのケースで1/6の軽減が適用されます。
(2) 専有面積による按分計算
マンションの土地持分は専有面積の割合で按分されるため、住宅用地特例も専有面積に基づいて適用されます。
例:
- 敷地面積:2,000㎡
- 総戸数:50戸
- 専有面積:70㎡
- 土地持分:2,000㎡ × (70㎡ ÷ 総専有面積) ≒ 28㎡
- 28㎡ < 200㎡ → 課税標準は評価額の1/6
売却時の固定資産税清算の実務と計算方法
固定資産税の清算は法律上の義務ではなく商慣習です。東京都主税局の資料によれば、引渡し日を基準に日割り計算し、買主が残日数分を売主に支払うのが一般的です。
(1) 売主と買主の負担按分の慣行
清算の流れ:
- 納税通知書で年度の固定資産税額を確認
- 引渡し日を基準に売主と買主の負担期間を決定
- 日割り計算で按分金額を算出
- 決済時に清算金として授受
清算金は売買代金とは別に扱われ、売買契約書に清算方法を明記します。
(2) 日割り計算の具体的な方法
計算式:
- 売主負担 = 年税額 × (引渡し日までの日数 ÷ 365日)
- 買主負担 = 年税額 × (引渡し日以降の日数 ÷ 365日)
例:年税額12万円、引渡し日7月1日(1月1日起算)の場合
- 売主負担:120,000円 × (181日 ÷ 365日) ≒ 59,507円
- 買主負担:120,000円 × (184日 ÷ 365日) ≒ 60,493円
買主は清算金60,493円を売主に支払います。
地域による起算日の違いと按分計算の注意点
固定資産税の清算方法には地域による慣習の違いがあり、起算日が異なると清算金額も変わります。
(1) 関東と関西での起算日の違い
起算日の地域差:
- 関東地方:1月1日起算が一般的
- 関西地方:4月1日起算が多い
起算日が異なる理由は、固定資産税の納税通知書が4月頃に送付されることに由来すると言われています。
(2) 起算日による清算金額の差異
同じ引渡し日でも、起算日により清算金額が異なります。
例:年税額12万円、引渡し日7月1日の場合
- 1月1日起算:買主負担 約60,493円
- 4月1日起算:買主負担 = 120,000円 × (274日 ÷ 365日) ≒ 90,082円
起算日の違いにより約3万円の差が生じるため、売買契約締結前に不動産会社と確認することが重要です。
売却後の納税義務と還付の取り扱い
売却後も1月1日時点の所有者として納税義務が継続するため、納税通知書への対応方法を理解しておく必要があります。
(1) 1月1日時点の所有者責任
固定資産税の納税義務は1月1日時点の登記簿上の所有者にあります。年の途中で売却しても、その年度の納税通知書は売主に届き、売主が全額を納税する義務があります。
按分清算により買主から清算金を受け取っていれば、実質的な負担は引渡し日までの期間のみとなります。
(2) 売却後に届く納税通知書の対応方法
売却後に納税通知書が届くことに驚く方が多いですが、これは正常な手続きです。
対応方法:
- 納税通知書の税額を確認
- 売買契約時の清算金額と照合
- 按分清算済みの場合、自己負担分のみ納付
- 清算していない場合は買主と協議
固定資産税は前納制度があり、年度初めに全額を納付することも可能です。按分清算を行う場合、前納分を考慮して計算する必要があります。
管理費・修繕積立金との違い:
マンションの売却時、管理費・修繕積立金の清算と固定資産税の清算を混同しないよう注意が必要です。
- 管理費・修繕積立金:管理組合との清算、月割りが一般的
- 固定資産税:売主・買主間の清算、日割りが一般的
それぞれ別々に清算され、決済時に精算書で明示されます。
まとめ
中古マンション売却時の固定資産税・都市計画税は、1月1日時点の所有者に納税義務があり、売却時には売主と買主で日割り按分清算するのが一般的です。マンションは専有部分と共用部分、土地持分に対して課税され、住宅用地特例により土地の課税標準が1/6に軽減されます。清算は法的義務ではなく商慣習のため、売買契約書への明記が重要です。起算日は関東で1月1日、関西で4月1日が多く、清算金額に差が生じます。売却後も納税義務は継続するため、按分清算した内容を確認して適切に納付してください。専門家に相談しながら進めることをおすすめします。