相続した中古戸建ての固定資産税・都市計画税の全体像
相続により中古戸建てを取得した際、気になるのが固定資産税・都市計画税の負担です。これらの税金は毎年1月1日時点の所有者に課税されるため、相続のタイミングによって納税義務が変わります。
この記事のポイント
- 固定資産税は1月1日時点の所有者が納税義務を負い、相続人は被相続人の納税義務を承継する
- 相続人が複数いる場合は連帯納税義務が発生し、自治体はいずれの相続人にも全額請求できる
- 相続登記の義務化により、登記遅延のリスクが増大
- 売却時の固定資産税は日割り按分で精算するのが一般的
- 取得費加算の特例など、相続不動産売却時の税制優遇措置が利用可能
相続した中古戸建ての固定資産税・都市計画税の基本
(1) 固定資産税の課税基準日と納税義務者
固定資産税は、土地・家屋・償却資産に対して課される市町村税です。総務省の資料によれば、毎年1月1日時点の所有者が納税義務を負います。
被相続人が年の途中で亡くなった場合でも、1月1日時点で被相続人が所有していれば、その年の固定資産税は被相続人(相続人)に課税されます。相続人は被相続人の納税義務を引き継ぐため、相続開始後に届く納税通知書に基づいて納付する必要があります。
固定資産税の税率と計算方法
項目 | 内容 |
---|---|
標準税率 | 1.4%(市町村により異なる場合あり) |
課税標準額 | 固定資産税評価額(市場価格の約70%) |
計算式 | 課税標準額 × 税率 |
(2) 都市計画税の課税対象
都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための目的税です。総務省の資料によれば、市街化区域内の不動産に課税され、税率は0.3%以下(市町村により異なる)とされています。
すべての中古戸建てに課税されるわけではなく、市街化区域内に所在する物件のみが対象です。市街化調整区域や非線引き区域の戸建てには都市計画税は課税されません。
相続による納税義務の承継と相続人の連帯責任
(1) 1月1日時点の所有者と相続の関係
相続が発生すると、被相続人が所有していた中古戸建ての所有権は相続人に移転します。東京都主税局の資料によれば、1月1日時点で被相続人が所有していた場合、その年の固定資産税は相続人が納税義務を承継します。
相続開始日と1月1日の関係により、納税義務者が以下のように変わります。
相続開始日 | 1月1日時点の所有者 | 納税義務者 |
---|---|---|
前年12月以前 | 相続人 | 相続人 |
1月2日以降 | 被相続人 | 相続人(被相続人の義務を承継) |
(2) 複数相続人がいる場合の連帯納税義務
相続人が複数いる場合、固定資産税の納税義務は連帯して負うことになります。これは、自治体がいずれの相続人に対しても税額の全額を請求できることを意味します。
実務上は、自治体が相続人代表者を指定し、その代表者宛てに納税通知書を送付します。代表者が全額を納付した後、他の相続人に対して遺産分割協議の内容に基づいて負担分を請求するのが一般的です。
連帯納税義務のリスク
- 遺産分割協議が成立していなくても、代表者に全額納付義務が発生
- 他の相続人が支払わない場合でも、代表者が全額負担するリスク
- 自治体は相続人間の協議内容に関与せず、連帯納税義務を根拠に請求
相続登記と固定資産税の関係
(1) 相続登記義務化の影響
法務省の資料によれば、2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、取得を知った日から3年以内に登記を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記の義務化は、固定資産税の課税にも影響を与えます。登記が遅延すると、自治体が真の所有者を把握できず、相続人代表者への通知が遅れる可能性があります。
(2) 登記前の固定資産税の取り扱い
相続登記を完了していなくても、固定資産税の納税義務は発生します。自治体は登記簿の情報だけでなく、相続人からの申告や戸籍情報に基づいて納税義務者を把握します。
登記前でも相続人代表者に納税通知書が届くため、相続登記を早期に完了させ、正式な所有者として自治体に認識されることが重要です。
売却時の固定資産税清算と日割り計算
(1) 売主と買主の按分精算の実務
相続した中古戸建てを売却する際、固定資産税は通常の売却と同様に日割り按分で精算します。年間の固定資産税を所有日数に応じて売主と買主で負担し、決済時に清算金を授受します。
日割り計算の例
- 年間固定資産税:12万円
- 引渡日:7月1日
- 起算日:1月1日(関東方式)
- 売主負担日数:181日(1月1日~6月30日)
- 買主負担日数:184日(7月1日~12月31日)
- 売主負担額:12万円 × 181日 ÷ 365日 = 約59,507円
- 買主負担額:12万円 × 184日 ÷ 365日 = 約60,493円
(2) 起算日による清算金額の違い
固定資産税の清算は、起算日を1月1日とする「関東方式」と、4月1日とする「関西方式」があります。起算日によって売主と買主の負担額が変わるため、売買契約時に明確に定める必要があります。
起算日 | 適用地域 | 特徴 |
---|---|---|
1月1日 | 関東地方 | 暦年ベースで計算、わかりやすい |
4月1日 | 関西地方 | 自治体の会計年度に合わせる |
相続した戸建ての空き家期間と税負担
(1) 住宅用地特例の継続適用要件
中古戸建ての敷地は、住宅用地の特例により固定資産税が軽減されます。総務省の資料によれば、200平米以下の小規模住宅用地は課税標準額が1/6に、200平米超の一般住宅用地は課税標準額が1/3に軽減されます。
この特例は「住宅の敷地」であることが要件です。相続後に空き家となっても、建物が存在し住宅としての用途が維持されていれば特例は継続します。
(2) 空き家状態での税負担増加リスク
相続した中古戸建てが長期間空き家状態となり、著しく老朽化して「特定空き家」に指定されると、住宅用地特例が適用除外となる可能性があります。
特定空き家とは、以下のような状態の建物を指します。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
特定空き家に指定されると、固定資産税が最大6倍に増加するリスクがあります。相続後に早期に売却するか、適切に管理することが重要です。
相続不動産売却時の税制上の特例措置
(1) 取得費加算の特例
国税庁の資料によれば、相続税を支払った人が相続財産を売却する場合、一定の相続税額を譲渡所得の取得費に加算できる特例があります。
この特例を利用することで、譲渡所得税の負担を軽減できます。適用要件は以下の通りです。
- 相続または遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
(2) 3,000万円特別控除の適用可否
居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除は、相続した中古戸建てでも適用される可能性があります。ただし、以下の要件を満たす必要があります。
- 自己が居住していた家屋であること
- 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
相続した戸建てに相続人自身が居住していた場合は特別控除が適用されますが、相続後に一度も居住していない場合は原則として適用されません。ただし、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除(一定の要件あり)が適用される場合もあります。
まとめ
相続した中古戸建ての固定資産税・都市計画税は、相続のタイミングや相続人の人数、売却時期によって複雑に変わります。以下のポイントを押さえておきましょう。
- 固定資産税は1月1日時点の所有者が納税義務を負い、相続人は被相続人の義務を承継
- 複数相続人がいる場合は連帯納税義務が発生し、代表者が全額納付するリスク
- 相続登記の義務化により、早期登記が重要
- 売却時は日割り按分で精算し、起算日の確認が必要
- 空き家状態が長期化すると特定空き家指定で税負担が増加するリスク
- 取得費加算の特例や3,000万円特別控除など、税制優遇措置の活用も検討
相続した中古戸建ての売却を検討する際は、税理士や不動産会社に相談し、最適なタイミングと方法を選ぶことが大切です。
よくある質問
Q1: 相続した中古戸建ての固定資産税は誰が払いますか?
毎年1月1日時点の所有者が納税義務を負います。被相続人が1月1日時点で所有していた場合、相続人が被相続人の納税義務を承継します。複数の相続人がいる場合は連帯納税義務となり、自治体は相続人代表者に納税通知書を送付します。遺産分割協議で実質的な負担者を決定することが一般的です。
Q2: 相続登記前でも固定資産税は払わないといけませんか?
相続登記の有無にかかわらず、納税義務は発生します。自治体は登記簿だけでなく、相続人からの申告や戸籍情報に基づいて納税義務者を把握し、相続人代表者に納税通知書を送付します。2024年4月から相続登記が義務化されており、取得を知った日から3年以内に登記を行わない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
Q3: 相続した戸建てを売却するとき、固定資産税はどう清算しますか?
通常の売却と同様に、年間の固定資産税を所有日数に応じて日割り按分で精算します。売主(相続人)と買主が決済時に清算金を授受します。起算日は地域により異なり、関東地方では1月1日、関西地方では4月1日が一般的です。起算日によって売主と買主の負担額が変わるため、売買契約時に明確に定める必要があります。
Q4: 相続で取得した戸建ての売却に税制優遇はありますか?
取得費加算の特例により、一定の相続税額を譲渡所得の取得費に加算できます。相続税を支払っており、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合に適用されます。また、居住用財産の3,000万円特別控除は、相続人自身がその戸建てに居住していた場合に適用される可能性があります。居住していなくても、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除(一定の要件あり)が適用される場合もあります。