相続した新築戸建ての固定資産税・都市計画税を理解する
相続により新築戸建てを取得した場合、固定資産税・都市計画税の納税義務を承継します。新築住宅の減額措置が残存している場合はその恩恵を受けられますが、売却時の清算方法や相続登記の義務化など、実務上の注意点が多数あります。
この記事でわかること
- 相続時の固定資産税・都市計画税の納税義務承継の仕組み
- 新築住宅の減額措置(3年間1/2)が相続後も継続するか
- 売却時の固定資産税清算の実務と日割り計算の地域差
- 相続後の空き家で住宅用地特例が喪失するリスク
- 相続登記の義務化と固定資産税の関係
1. 相続新築戸建て売却時の固定資産税・都市計画税の基礎
(1) 固定資産税の仕組みと標準税率1.4%
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地・家屋を所有している人に課される市町村税です。総務省の「固定資産税の概要」によれば、標準税率は1.4%です。
計算式:
固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4%
新築戸建ての場合、建物の評価額は再建築価格方式で算定され、土地の評価額は公示価格の約70%が目安となります。
(2) 都市計画税の目的と税率上限0.3%
都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用に充てるための目的税です。総務省の「都市計画税の概要」によれば、税率の上限は0.3%で、各市町村の条例で決定されます。
計算式:
都市計画税 = 固定資産税評価額 × 0.3%(上限)
(3) 新築戸建ての固定資産税評価
新築戸建ての固定資産税評価額は、建物の構造・規模・設備などから再建築価格を算定し、経年減点補正率を適用して決定されます。
新築1年目の評価例:
項目 | 評価額 | 税率 | 年間税額 |
---|---|---|---|
土地(200㎡) | 2,000万円 | 1.4%×1/6 | 4.7万円 |
建物 | 1,000万円 | 1.4%×1/2 | 7万円 |
都市計画税(土地) | 2,000万円 | 0.3%×1/3 | 2万円 |
都市計画税(建物) | 1,000万円 | 0.3% | 3万円 |
合計 | - | - | 16.7万円 |
新築住宅の減額措置(後述)により、建物の固定資産税が3年間1/2に軽減されています。
2. 相続時の納税義務の承継
(1) 1月1日時点の所有者が納税義務者
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点の登記簿上の所有者です。総務省の「固定資産税の納税義務者」によれば、1月1日時点で所有していれば、その年度の全額を納税する義務があります。
納税義務者の判定:
1月1日時点の状況 | 納税義務者 |
---|---|
被相続人が所有 | 被相続人→相続人が承継 |
相続登記済み | 相続人 |
相続登記未了 | 相続人(連帯納税義務) |
(2) 相続発生年度の納税義務承継
相続が発生した年度の固定資産税は、相続人が納税義務を承継します。例えば、2024年5月に相続が発生した場合、2024年度の固定資産税は被相続人に課されますが、実際には相続人が納付します。
相続発生年度の納税義務の流れ:
- 2024年1月1日:被相続人が所有
- 2024年4〜6月:被相続人宛に納税通知書が送付
- 2024年5月:相続発生
- 相続人が納税義務を承継し、納税通知書記載の税額を納付
(3) 共同相続時の連帯納税義務
相続人が複数いる場合、相続人全員が連帯して納税義務を負います。自治体は相続人のうちの1人(代表者)に納税通知書を送付しますが、法的には相続人全員が連帯して納税する責任があります。
連帯納税義務の注意点:
- 相続人のうち1人が滞納すると、他の相続人にも督促が来る可能性がある
- 遺産分割協議で納税義務者を決めても、自治体との関係では全員が連帯責任
- 早期に遺産分割協議を完了し、相続登記を行うことが望ましい
3. 新築住宅の減額措置と相続
(1) 新築戸建ての減額(3年間1/2)
新築住宅の減額措置は、総務省の「新築住宅の減額措置」によれば、新築後3年間(認定長期優良住宅は5年間)、建物の固定資産税が1/2に減額されます。
減額措置の要件:
- 床面積50㎡以上280㎡以下
- 一般住宅:新築後3年間
- 認定長期優良住宅:新築後5年間
- 減額対象:建物の固定資産税のみ(都市計画税は対象外)
(2) 相続後の減額期間引継ぎ
新築住宅の減額措置は物件に紐づいており、相続後も残存期間は継続適用されます。
減額期間引継ぎの例:
新築年 | 相続発生 | 減額期間 | 相続時の残存期間 |
---|---|---|---|
2022年 | 2024年 | 2022-2024年度 | 2024年度(最終年) |
2023年 | 2024年 | 2023-2025年度 | 2024-2025年度(2年間) |
2024年 | 2024年 | 2024-2026年度 | 2024-2026年度(3年間) |
相続時に減額期間が残存している場合、その恩恵を受けられますが、減額期間終了後は税額が約2倍になります。
(3) 減額期間終了後の税負担
減額期間が終了すると、建物の固定資産税が約2倍に増加します。
減額期間終了前後の税額比較(建物評価額1,000万円):
期間 | 建物の固定資産税 | 土地(200㎡) | 都市計画税 | 合計 |
---|---|---|---|---|
減額期間中 | 7万円(1,000万円×1.4%×1/2) | 4.7万円 | 5万円 | 16.7万円 |
減額期間終了後 | 14万円(1,000万円×1.4%) | 4.7万円 | 5万円 | 23.7万円 |
減額期間終了後は年間約7万円の税負担増となるため、売却時期の判断材料の一つとなります。
4. 売却時の固定資産税清算実務
(1) 引渡し日での日割り清算
不動産売買では、固定資産税・都市計画税を引渡し日で日割り計算し、買主が残日数分を売主に支払うのが一般的です。
日割り清算の計算例(年間税額18万円、7月1日引渡し):
売主負担:18万円 × 181日(1/1-6/30) / 365日 = 約8.9万円
買主負担:18万円 × 184日(7/1-12/31) / 365日 = 約9.1万円
買主は残日数分の9.1万円を売主に支払います。
(2) 日割り起算日の地域差(関東1/1、関西4/1)
固定資産税の日割り清算の起算日は、地域によって異なります。
地域別の起算日:
地域 | 起算日 | 理由 |
---|---|---|
関東 | 1月1日 | 納税義務発生日に基づく |
関西 | 4月1日 | 納税通知書送付時期に基づく |
関西では4月1日を起算日とすることが多いため、同じ7月1日引渡しでも清算金額が異なります。
関西の計算例(4月1日起算、年間税額18万円、7月1日引渡し):
売主負担:18万円 × 91日(4/1-6/30) / 365日 = 約4.5万円
買主負担:18万円 × 274日(7/1-翌3/31) / 365日 = 約13.5万円
売買契約書で起算日を明記することが重要です。
(3) 清算金の取り扱い
日割り清算金は「売買代金の一部」として扱われ、法的には固定資産税の納税義務者(1月1日時点の所有者)は売主のままです。買主が支払う清算金は、売主が負担すべき固定資産税の一部を買主が肩代わりしているに過ぎません。
清算金の注意点:
- 売主が納税通知書を受け取り、全額を納付する
- 買主から受け取った清算金を納税資金に充てる
- 清算金は売買代金の一部として確定申告(譲渡所得)に含める
5. 相続後の空き家と住宅用地特例
(1) 住宅用地特例(200㎡以下1/6)
住宅用地の特例により、200㎡以下の小規模住宅用地は固定資産税の課税標準が1/6に軽減されます。総務省の「住宅用地の課税標準の特例」に詳細が記載されています。
住宅用地特例の軽減率:
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 評価額の1/6 | 評価額の1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 評価額の1/3 | 評価額の2/3 |
(2) 空き家期間による特例喪失リスク
相続後に新築戸建てを空き家にした場合、一定期間は住宅用地特例が継続適用されますが、長期間の空き家や取り壊しを行うと特例が喪失するリスクがあります。
特例喪失の主なケース:
- 建物を取り壊して更地にした場合
- 空き家が「特定空家」に指定された場合(倒壊の危険、著しく不衛生など)
- 住宅以外の用途(駐車場など)に転用した場合
特例が喪失すると、翌年度から税額が約6倍に増加します(1/6 → 1/1)。
特例喪失時の税額比較(土地評価額2,000万円):
状態 | 固定資産税 | 都市計画税 | 合計 |
---|---|---|---|
特例適用中 | 4.7万円(2,000万円×1/6×1.4%) | 2万円 | 6.7万円 |
特例喪失後 | 28万円(2,000万円×1.4%) | 6万円 | 34万円 |
(3) 早期売却の重要性
相続後の新築戸建てを長期間空き家にすると、固定資産税の負担が増加するだけでなく、建物の劣化や近隣トラブルのリスクも高まります。早期売却を検討することが、税負担軽減の鍵となります。
早期売却のメリット:
- 住宅用地特例の喪失を回避
- 新築住宅の減額措置の恩恵を買主に引き継げる(売却価格に反映しやすい)
- 相続税の納税資金を確保
- 建物の劣化を防ぎ、高値売却につながる
6. 相続登記と固定資産税の関係
相続登記の義務化と期限
2024年4月から相続登記が義務化されました。法務省の「相続登記の義務化」によれば、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されます。
相続登記義務化のポイント:
- 義務化開始:2024年4月1日
- 登記期限:相続を知った日から3年以内
- 過料:正当な理由なく登記しない場合、10万円以下
- 遡及適用:2024年4月以前の相続も対象(猶予期間あり)
相続登記と固定資産税納税義務者の関係
相続登記をしていない場合でも、固定資産税の納税義務は相続人に承継されます。自治体は戸籍調査などで相続人を特定し、納税通知書を送付します。
相続登記未了時の固定資産税:
状況 | 固定資産税納税義務 |
---|---|
相続登記済み | 登記簿上の相続人が納税 |
相続登記未了 | 相続人全員が連帯納税義務 |
遺産分割協議未了 | 相続人全員が法定相続分に応じて連帯納税義務 |
相続登記未了の場合、自治体は相続人の代表者を定め、その代表者に納税通知書を送付します。ただし、法的には相続人全員が連帯して納税義務を負うため、早期に相続登記を完了させることが望ましいです。
まとめ:相続新築戸建て売却時の固定資産税のポイント
相続により新築戸建てを取得した場合、固定資産税・都市計画税の納税義務を承継します。新築住宅の減額措置(3年間1/2)は物件に紐づき、相続後も残存期間は継続適用されますが、減額期間終了後は税額が約2倍になります。
売却時は引渡し日で固定資産税を日割り清算しますが、起算日が地域によって異なる(関東1/1、関西4/1)ため、売買契約書で明記することが重要です。
相続後の空き家期間が長いと、住宅用地特例(200㎡以下1/6)が喪失し、税額が約6倍に増加するリスクがあります。早期売却により税負担を軽減できます。
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料が科されます。相続登記未了でも納税義務は承継されるため、早期に登記を完了させることが望ましいです。
よくある質問(FAQ)
Q1: 相続した新築戸建てを売却する場合、固定資産税は誰が払いますか?
A: 固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点の所有者です。相続発生後は相続人が納税義務を承継します。売却年度は、引渡し日で固定資産税を日割り清算し、買主が残日数分を売主(相続人)に支払うのが一般的です。例えば、年間税額18万円で7月1日引渡しなら、売主負担が約8.9万円、買主負担が約9.1万円となります。買主から受け取った清算金は、売主が全額納付する固定資産税の一部に充てられます。
Q2: 相続した新築戸建ての減額措置は引き継がれますか?
A: はい、新築住宅の減額措置(3年間1/2)は物件に紐づいており、相続後も残存期間は継続適用されます。例えば、2023年新築の戸建てを2024年に相続した場合、2024-2025年度の2年間は減額措置が適用されます。ただし、減額期間終了後は建物の固定資産税が約2倍に増加します(例:年間7万円→14万円)。売却時期を検討する際の重要な判断材料となります。
Q3: 相続登記をしていない新築戸建ての固定資産税は誰に請求されますか?
A: 相続登記をしていなくても、自治体は戸籍調査などで相続人を特定し、納税通知書を送付します。法的には相続人全員が連帯して納税義務を負いますが、実務上は相続人の代表者(例:配偶者や長男)に納税通知書が送られます。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科されるため、早期に相続登記を完了させることが重要です。
Q4: 相続後に新築戸建てを空き家にした場合、固定資産税が高くなりますか?
A: 相続後の一定期間の空き家であれば、住宅用地特例(200㎡以下の部分が評価額の1/6)は継続適用されます。ただし、建物を取り壊して更地にした場合や、空き家が「特定空家」に指定された場合は特例が喪失し、翌年度から税額が約6倍に増加します(例:年間6.7万円→34万円)。早期売却により、税負担軽減と建物劣化を防ぎ、高値売却につながります。
Q5: 日割り清算の起算日が関東と関西で違うのはなぜですか?
A: 関東では固定資産税の納税義務発生日(1月1日)を起算日とするのが一般的ですが、関西では納税通知書の送付時期(4月頃)に合わせて4月1日を起算日とすることが多いです。これは商慣習の違いによるもので、法的な根拠はありません。同じ7月1日引渡しでも、関東起算(1/1)なら売主負担約8.9万円、関西起算(4/1)なら売主負担約4.5万円と大きく異なるため、売買契約書で起算日を明記することが重要です。