相続新築戸建て売却の金利・ローン実務と税制|完全ガイド

公開日: 2025/10/20

相続した新築戸建てを売却する際のローン・金利の実務

相続により新築戸建てを取得した場合、被相続人の住宅ローンが残っているケースが少なくありません。売却を検討する際、団体信用生命保険(団信)による残債処理、遺産分割協議、税制上の特例など、通常の売却とは異なる複雑な実務が発生します。

この記事では、相続した新築戸建ての売却におけるローン・金利関連の実務と税制について、国税庁や金融庁の情報に基づいて詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 被相続人の住宅ローン残債の扱いと団信の確認方法
  • 団信による残債消滅のケースと未付保の場合の対応
  • 取得費加算の特例と空き家特例(3,000万円控除)の活用法
  • 遺産分割協議と売却タイミングの調整
  • 新築プレミアム消失前の売却タイミングと相続登記の重要性

1. 相続売却新築戸建てのローン・金利関連事項

(1) 被相続人の住宅ローン残債の扱い

相続が発生した時点で被相続人に住宅ローンの残債がある場合、その債務も相続の対象となります。まず確認すべきは、住宅ローンに団体信用生命保険(団信)が付保されているかどうかです。

確認方法:

  • 金融機関に問い合わせる(相続人であることを証明する書類が必要)
  • 住宅ローンの契約書や保険証券を確認
  • 被相続人の通帳で団信保険料の引き落としがあるか確認(ただし金利に含まれている場合は記録なし)

金融庁の指針によると、多くの住宅ローンでは団信加入が融資条件となっていますが、フラット35など一部の商品では任意加入のため、未加入のケースもあります。

(2) 団体信用生命保険の確認(付保されているか)

団信が付保されている場合、被相続人の死亡により保険金で住宅ローンが完済されます。この場合、相続人に債務の負担はなく、相続財産として「ローンのない新築戸建て」を取得することになります。

団信付保の場合の手続き:

  1. 金融機関に被相続人の死亡を通知
  2. 死亡診断書等の必要書類を提出
  3. 保険会社の審査(通常1〜2か月)
  4. 保険金で住宅ローンが完済
  5. 抵当権抹消登記の実施

一方、団信が未付保の場合は、住宅ローンの残債も相続財産として引き継がれます。この場合、以下の選択肢があります。

  • 相続人が返済を引き継ぐ
  • 売却代金で一括返済する
  • 相続放棄を検討する(ただし全財産を放棄することになる)

2. 団体信用生命保険と相続時の債務

(1) 団信による弁済と相続人の返済義務

団信が付保されている場合、相続人に返済義務は発生しません。保険金でローンが完済されるため、相続財産は「無担保の新築戸建て」となります。

相続財産の評価:

  • 不動産の相続税評価額から住宅ローン残債を差し引かない(既に完済されているため)
  • 結果として相続税の課税対象額が増える可能性がある

例えば、新築戸建ての相続税評価額が3,000万円、団信で完済された住宅ローン残債が2,000万円だった場合、相続財産は3,000万円として評価されます。

(2) 団信未付保の場合の債務相続

団信が未付保の場合、住宅ローンの残債も相続財産として引き継がれます。この場合、以下の点に注意が必要です。

債務の承継方法:

  • 法定相続分に応じて相続人全員が債務を引き継ぐのが原則
  • ただし、遺産分割協議で特定の相続人が債務を引き受けることも可能
  • 金融機関の承諾が必要(債務者変更の手続き)

売却で一括返済する場合:

  1. 遺産分割協議で売却を決定
  2. 金融機関に売却と一括返済の意向を伝える
  3. 売却活動を開始
  4. 売買契約締結
  5. 決済時に売却代金で住宅ローンを完済
  6. 抵当権抹消登記後、残金を相続人で分配

オーバーローン(残債が売却価格を上回る)の場合:

  • 相続人が不足分を自己資金で補填
  • または金融機関と交渉して任意売却を検討
  • 相続放棄も選択肢(ただし他の財産も放棄することになる)

3. 相続売却新築戸建ての税制と金利の関係

(1) 相続不動産の取得費計算

国税庁の規定により、相続により取得した不動産を売却する場合、譲渡所得の計算における取得費は、被相続人が購入した時の価格を引き継ぎます。

譲渡所得の計算式:

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 取得費: 被相続人が購入した時の価格 + 購入時の諸費用
  • 譲渡費用: 売却時の仲介手数料、登記費用など

新築戸建ての場合、被相続人が購入してから日が浅いため、購入価格の記録が残っていることが多く、取得費の証明は比較的容易です。

(2) 取得費加算の特例活用(相続税申告期限3年以内)

国税庁の「相続税の取得費加算の特例」により、相続税を支払った人が相続開始から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できます。

特例の適用要件:

  • 相続または遺贈により財産を取得した人
  • その財産について相続税が課税されたこと
  • 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始から3年10か月以内)に売却すること

取得費に加算できる相続税額の計算:

加算額 = 相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)

この特例を活用することで、譲渡所得税の負担を大幅に軽減できる場合があります。ただし、適用期限が相続開始から3年10か月以内と限定されているため、早めの売却検討が重要です。

(3) 空き家特例の適用条件(3,000万円控除)

国税庁の「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。

空き家特例の適用要件:

  • 被相続人が一人暮らしで、相続開始直前まで居住していたこと
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋、または耐震基準に適合すること(新築の場合は基準を満たす)
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 売却時に家屋を解体するか、耐震リフォームを実施すること(更地での売却も可)

取得費加算の特例との選択適用: 取得費加算の特例と空き家特例は併用できません。どちらを適用するかは、それぞれの控除額を計算して有利な方を選択する必要があります。税理士に相談することをおすすめします。

4. 遺産分割協議と売却タイミング

(1) 遺産分割協議の完了が売却の前提

法務省の規定により、相続した不動産を売却するには、相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議で売却方針を決定し、以下のいずれかの方法で売却を進めます。

売却方法:

  1. 代表相続人方式: 遺産分割協議で特定の相続人が不動産を単独で相続し、その相続人が売却する
  2. 共同売却方式: 相続人全員の共有名義のまま、全員で売買契約を締結する

代表相続人方式の方が手続きがシンプルですが、他の相続人への代償金の支払いが必要になる場合があります。

(2) 代償金の支払いと売却代金

遺産分割協議で特定の相続人が不動産を相続する場合、他の相続人に対して「代償金」を支払うことで公平性を保つケースがあります。

代償金の計算例:

  • 相続人: 子3人(A、B、C)
  • 新築戸建ての評価額: 3,000万円
  • 法定相続分: 各1,000万円

Aが不動産を単独で相続する場合、BとCに各1,000万円の代償金を支払う必要があります。

売却代金からの支払い: 売却前に代償金を用意できない場合、売却後に代金を分配する方法があります。

  1. 遺産分割協議でAが不動産を相続し、売却後に代償金を支払うことを合意
  2. Aが不動産を売却
  3. 売却代金(例: 2,800万円)からBとCに各933万円を支払う
  4. 残金(934万円)がAの取り分

ただし、売却価格が評価額を下回る場合、代償金の調整が必要になることがあります。

5. 相続売却で注意すべき金利・ローン事項

(1) 新築プレミアム消失前の売却タイミング

新築戸建ては購入直後から価格が下落する傾向があります。一般的に「新築プレミアム」として10〜20%程度下がるとされています。

売却タイミングの考慮要素:

  • 相続開始からの経過時間が短いほど、新築に近い価格で売却できる可能性が高い
  • 取得費加算の特例の期限(相続開始から3年10か月以内)
  • 空き家特例の期限(相続開始から3年を経過する年の12月31日まで)
  • 固定資産税・都市計画税の負担(年間10〜20万円程度)
  • 空き家の維持管理費用

これらを総合的に判断し、早めの売却を検討することが有利な場合が多いです。

(2) 相続登記の重要性(登記完了前は売却不可)

2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。

相続登記の手順:

  1. 遺産分割協議を完了
  2. 必要書類を準備(戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など)
  3. 法務局で相続登記を申請
  4. 登記完了(通常1〜2週間)

売却との関係:

  • 相続登記が完了していないと売却契約を締結できない
  • 登記完了から売却活動開始までスムーズに進めるため、早めの登記申請が重要
  • 司法書士に依頼する場合の費用は10〜15万円程度

6. 主要金融機関の商品比較と選び方

相続した新築戸建てに住宅ローン残債がある場合、売却代金で完済する必要があります。ここでは売却時の金融機関との交渉ポイントをまとめます。

一括返済手数料の比較:

金融機関タイプ 一括返済手数料
メガバンク 3〜5万円(固定)
地方銀行 3〜5万円(固定)
ネット銀行 無料〜3万円
フラット35 無料

一括返済手数料は金融機関により異なるため、売却前に確認しておくことをおすすめします。

抵当権抹消登記: 住宅ローンを完済した後、抵当権抹消登記が必要です。

  • 登録免許税: 不動産1つにつき1,000円
  • 司法書士報酬: 1〜2万円程度
  • 合計: 2〜3万円程度

売却決済時に同時に処理することで、スムーズに買主への所有権移転ができます。

まとめ

相続した新築戸建ての売却におけるローン・金利関連の実務と税制のポイントをまとめます。

  • 団信が付保されていれば住宅ローンは保険で完済、未付保なら債務も相続
  • 取得費加算の特例は相続開始から3年10か月以内の売却が条件
  • 空き家特例は3,000万円控除、取得費加算との併用不可
  • 遺産分割協議の完了と相続登記が売却の前提
  • 新築プレミアム消失前の早期売却が有利な場合が多い
  • 一括返済手数料は金融機関により異なる(無料〜5万円)

相続した不動産の売却は、税制上の特例の期限や遺産分割協議など、通常の売却にはない複雑な要素があります。税理士や司法書士、不動産会社の専門家に相談しながら、早めに方針を決定することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 被相続人の住宅ローンが残っている場合、相続人が返済しなければいけませんか?

団体信用生命保険(団信)が付保されていれば、被相続人の死亡により保険金で住宅ローンが完済されるため、相続人に返済義務はありません。金融機関に被相続人の死亡を通知し、死亡診断書等を提出すれば、保険会社の審査を経て(通常1〜2か月)ローンが完済されます。一方、団信が未付保の場合は、住宅ローンの残債も相続財産として引き継がれるため、相続人に返済義務が発生します。この場合、売却代金で一括返済するか、相続放棄を検討する必要があります。

Q2. 相続税を支払った後に売却すると税金が安くなると聞きましたが本当ですか?

本当です。国税庁の「相続税の取得費加算の特例」により、相続税を支払った人が相続開始から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できます。これにより譲渡所得が減少し、譲渡所得税の負担が軽減されます。加算額は「相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)」で計算されます。ただし、適用期限が相続開始から3年10か月以内と限定されているため、早めの売却検討が重要です。

Q3. 複数の相続人がいる場合、全員の同意がないと売却できませんか?

できません。法務省の規定により、相続した不動産を売却するには相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議で売却方針を決定し、代表相続人が単独で相続して売却するか、相続人全員の共有名義のまま共同で売買契約を締結する方法があります。代表相続人方式の方が手続きはシンプルですが、他の相続人に代償金を支払う必要がある場合があります。相続人間で意見が分かれる場合は、調停や裁判が必要になることもあるため、早めに専門家(弁護士・司法書士)に相談することをおすすめします。

Q4. 空き家特例とはどのような制度ですか?

国税庁の「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、被相続人が一人暮らしで居住していた家屋を相続人が売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。新築戸建ても対象ですが、昭和56年5月31日以前建築の場合は耐震基準適合が条件です(新築は基準を満たす)。相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること、売却価格が1億円以下であること、売却時に家屋を解体または耐震リフォームを実施することなどが要件です。取得費加算の特例との併用はできないため、どちらが有利か税理士に相談することをおすすめします。

Q5. 相続登記をしないと売却できませんか?

できません。不動産を売却するには、所有者として登記されている必要があります。相続が発生しても自動的に名義が変わるわけではないため、相続登記の申請が必要です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。相続登記の手順は、遺産分割協議を完了し、必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など)を準備して法務局で申請します。登記完了まで通常1〜2週間かかります。司法書士に依頼する場合の費用は10〜15万円程度です。

よくある質問

Q1被相続人の住宅ローンが残っている場合、相続人が返済しなければいけませんか?

A1団体信用生命保険(団信)が付保されていれば、被相続人の死亡により保険金で住宅ローンが完済されるため、相続人に返済義務はありません。金融機関に被相続人の死亡を通知し、死亡診断書等を提出すれば、保険会社の審査を経て(通常1〜2か月)ローンが完済されます。一方、団信が未付保の場合は、住宅ローンの残債も相続財産として引き継がれるため、相続人に返済義務が発生します。この場合、売却代金で一括返済するか、相続放棄を検討する必要があります。

Q2相続税を支払った後に売却すると税金が安くなると聞きましたが本当ですか?

A2本当です。国税庁の「相続税の取得費加算の特例」により、相続税を支払った人が相続開始から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できます。これにより譲渡所得が減少し、譲渡所得税の負担が軽減されます。加算額は「相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)」で計算されます。ただし、適用期限が相続開始から3年10か月以内と限定されているため、早めの売却検討が重要です。

Q3複数の相続人がいる場合、全員の同意がないと売却できませんか?

A3できません。法務省の規定により、相続した不動産を売却するには相続人全員の同意が必要です。遺産分割協議で売却方針を決定し、代表相続人が単独で相続して売却するか、相続人全員の共有名義のまま共同で売買契約を締結する方法があります。代表相続人方式の方が手続きはシンプルですが、他の相続人に代償金を支払う必要がある場合があります。相続人間で意見が分かれる場合は、調停や裁判が必要になることもあるため、早めに専門家(弁護士・司法書士)に相談することをおすすめします。

Q4空き家特例とはどのような制度ですか?

A4国税庁の「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、被相続人が一人暮らしで居住していた家屋を相続人が売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。新築戸建ても対象ですが、昭和56年5月31日以前建築の場合は耐震基準適合が条件です(新築は基準を満たす)。相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること、売却価格が1億円以下であること、売却時に家屋を解体または耐震リフォームを実施することなどが要件です。取得費加算の特例との併用はできないため、どちらが有利か税理士に相談することをおすすめします。

Q5相続登記をしないと売却できませんか?

A5できません。不動産を売却するには、所有者として登記されている必要があります。相続が発生しても自動的に名義が変わるわけではないため、相続登記の申請が必要です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。相続登記の手順は、遺産分割協議を完了し、必要書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書など)を準備して法務局で申請します。登記完了まで通常1〜2週間かかります。司法書士に依頼する場合の費用は10〜15万円程度です。

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