投資用中古マンション相続売却の相続税・贈与税完全ガイド

公開日: 2025/10/16

相続マンション売却の相続税・贈与税の基礎知識

相続により投資用中古マンションを取得した場合、相続時の相続税と売却時の譲渡所得税という2つの税金が関わってきます。投資用不動産は居住用不動産と異なる税制が適用されるため、正しい知識が必要です。

本記事では、投資用中古マンション相続売却における相続税・贈与税の仕組みから、取得費加算の特例、小規模宅地等の特例(貸付事業用)まで、実務上重要なポイントを解説します。

この記事でわかること

  • 投資用マンションの相続税評価方法(借家権割合30%による評価減)
  • 相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)
  • 取得費加算の特例の活用条件(相続開始から3年10ヶ月以内)
  • 小規模宅地等の特例(貸付事業用200㎡まで50%減額)
  • 投資用不動産の譲渡所得税率(短期39.63%・長期20.315%)

(1) 相続税と譲渡所得税の違い

相続税は被相続人の死亡により財産を取得した時点で課される税金です。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」となります。例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4800万円です。

一方、譲渡所得税は相続したマンションを売却した時点で課される税金です。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。

これらは異なる税目であり、二重課税ではありません。相続時に相続税が課され、その後売却する際には譲渡所得税が課される仕組みです。

(2) 贈与税との関係

相続前に生前贈与を受けた場合、贈与税が課される可能性があります。暦年課税の基礎控除は年110万円です。相続開始前3年以内の贈与は相続税の課税対象に加算されるため、タイミングには注意が必要です。

相続時精算課税制度を選択した場合、2500万円まで贈与税が非課税となりますが、贈与者が亡くなった時には贈与財産が相続財産に加算されます。

(3) マンション特有の税務ポイント

投資用マンションの場合、賃貸中であれば借家権割合(30%)により相続税評価額が減額されます。また、土地の持分割合が小さいため、一戸建てと比べて相続税評価額が低くなる傾向があります。

建物部分は固定資産税評価額をベースに評価されるため、築年数が経過しているほど評価額は低くなります。

相続税の計算と評価方法

(1) 相続税の基礎控除

相続税の基礎控除額は以下の計算式で求められます。

基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3600万円
2人 4200万円
3人 4800万円
4人 5400万円

相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告は不要です。

(2) マンションの評価方法(建物・土地)

投資用マンションの相続税評価額は、建物部分と土地部分を分けて評価します。

建物部分(貸家): 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

借家権割合は全国一律30%です。賃貸割合が100%(満室)の場合、建物の評価額は固定資産税評価額の70%となります。

土地部分(貸家建付地): 路線価評価額 × 持分割合 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借地権割合は地域により30%〜90%で、路線価図に記載されています。

例えば、以下のケースで計算してみます。

  • 建物の固定資産税評価額: 1000万円
  • 土地の路線価評価額: 5000万円(持分割合1%で50万円)
  • 借地権割合: 60%
  • 賃貸割合: 100%

建物の評価額: 1000万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 700万円

土地の評価額: 50万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 41万円

合計: 741万円

実勢価格2000万円のマンションが相続税評価額で741万円と評価されるため、相続税の負担が軽減されます。

(3) 固定資産税評価額と路線価

固定資産税評価額は市区町村が決定する評価額で、毎年送付される固定資産税の納税通知書に記載されています。一般的に、固定資産税評価額は時価の50-70%程度です。

路線価は国税庁が毎年7月に公表する、道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額です。路線価は時価の80%程度です。

(4) 相続税申告期限(10ヶ月以内)

相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税が課される可能性があるため、早めの準備が重要です。

譲渡所得税と取得費加算の特例

(1) 相続マンション売却時の譲渡所得税

譲渡所得税は以下の計算式で求められます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

相続した不動産の取得費は、被相続人が取得した時の価格を引き継ぎます。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。

所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下の場合は短期譲渡所得(税率39.63%)となります。所有期間は被相続人の取得日から計算します。

(2) 取得費加算の特例とは

取得費加算の特例は、相続税の申告期限から3年以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる制度です。

この特例により、譲渡所得が減少し、譲渡所得税の負担を軽減できます。投資用不動産にも適用可能です。

(3) 3年10ヶ月以内の売却要件

取得費加算の特例を適用するためには、相続開始日から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。具体的には、相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)までの間、さらにその申告期限の翌日から3年以内に売却することが条件です。

この期限を過ぎると特例は適用できなくなるため、売却時期の計画が重要です。

(4) 計算方法と節税効果

取得費に加算できる相続税の額は以下の計算式で求められます。

加算額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格)

例えば、相続税額が500万円、譲渡したマンションの相続税評価額が3000万円、相続税の課税価格が1億円の場合、加算額は150万円となります。

加算額 = 500万円 × (3000万円 ÷ 1億円) = 150万円

売却時の取得費に150万円を加算できるため、譲渡所得が150万円減少し、税負担が軽減されます。

3000万円特別控除との選択

(1) 居住用財産3000万円特別控除

相続後に本人が居住した場合、居住用財産の3000万円特別控除を適用できる可能性があります。この特例は、所有期間に関係なく譲渡所得から3000万円を控除できる制度です。

ただし、投資用マンションには適用されません。相続後に賃貸経営を続けていた場合、この特例は使えないため注意が必要です。

(2) 空き家の3000万円特別控除

被相続人が一人暮らしで、相続後に空き家となったマンションを売却する場合、一定の要件を満たせば空き家の3000万円特別控除を適用できます。ただし、マンションの場合は適用要件が厳しく、耐震基準を満たしている必要があります。

投資用マンションとして賃貸に出していた場合は、この特例も適用されません。

(3) 取得費加算特例との選択適用

取得費加算の特例と3000万円特別控除は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

投資用マンションの場合、3000万円特別控除は適用されないため、取得費加算の特例を活用することになります。

(4) どちらを選ぶべきか

相続後に自己居住した場合は、以下の基準で判断します。

  • 譲渡所得が3000万円以下: 3000万円特別控除が有利(完全非課税)
  • 譲渡所得が3000万円超で相続税額が高額: 取得費加算の特例が有利になるケースあり

投資用マンションとして賃貸経営を続けていた場合は、取得費加算の特例のみが選択肢となります。

小規模宅地等の特例の影響

(1) 小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用または事業用の宅地について、一定の面積まで相続税評価額を減額できる制度です。

投資用不動産の場合、貸付事業用宅地として200㎡まで50%減額されます。居住用の330㎡・80%減額と比べると減額率は小さいですが、それでも大きな節税効果があります。

(2) マンションでの適用要件

貸付事業用宅地の特例を適用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 相続開始前3年以内に貸付を開始した場合は適用外(ただし、相続開始の直前において被相続人等の事業的規模の貸付事業用の宅地等である場合は適用可能)
  • 相続税の申告期限(10ヶ月)まで貸付事業を継続すること

マンションの場合、敷地全体の面積に持分割合を乗じた面積が適用対象となります。

(3) 特例適用後の取得費への影響

小規模宅地等の特例は相続税の計算時に適用されるもので、売却時の取得費には影響しません。つまり、特例により相続税が減額されても、売却時の取得費は変わりません。

(4) 売却時の注意点

小規模宅地等の特例を適用すると相続税が減額されるため、取得費加算の特例で加算できる金額も少なくなります。両方の特例を活用する場合は、トータルでの節税効果を検討する必要があります。

相続手続きと申告の流れ

(1) 相続登記の義務化(3年以内)

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。マンションを売却する場合も、まず相続登記を完了させる必要があります。

(2) 相続税申告(10ヶ月以内)

相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。基礎控除額を超える相続財産がある場合は、必ず期限内に申告しましょう。

(3) 譲渡所得税の確定申告

マンションを売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行います。取得費加算の特例を適用する場合も、確定申告が必要です。

(4) 専門家への相談タイミング

投資用不動産の相続と売却は税務処理が複雑なため、以下のタイミングで専門家に相談することをおすすめします。

  • 相続発生後、できるだけ早い段階で税理士に相談
  • 相続財産が基礎控除額を超える場合
  • 複数の特例の選択で迷う場合
  • 相続人間で財産分割の協議が必要な場合
  • 売却時期の判断に悩む場合

まとめ

投資用中古マンションの相続売却では、相続税と譲渡所得税が関わります。取得費加算の特例(相続開始から3年10ヶ月以内)や小規模宅地等の特例(貸付事業用200㎡まで50%減額)を活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。

重要なポイントは以下の通りです。

  • 投資用マンションの相続税評価は借家権割合30%により評価減される
  • 相続税の申告期限は10ヶ月以内、相続登記は3年以内に完了させる
  • 取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内の売却が条件
  • 投資用不動産には居住用財産の3000万円特別控除は適用不可
  • 小規模宅地等の特例(貸付事業用)は申告期限まで賃貸継続が要件

投資用不動産の売却は税務処理が複雑なため、税理士への相談をおすすめします。マンション売却の判断材料として、不動産会社の無料査定を活用しましょう。

よくある質問

Q1相続したマンションを売却します。どんな税金がかかりますか?

A1相続時に相続税、売却時に譲渡所得税がかかります。相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で、これを超える場合に相続税が課されます。譲渡所得税は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます(長期譲渡20.315%・短期譲渡39.63%)。取得費加算の特例(相続開始から3年10ヶ月以内)を活用すれば税負担を軽減できます。

Q2取得費加算の特例はいつまでに売却すれば使えますか?

A2相続開始日から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。具体的には、相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)までの間、さらにその申告期限の翌日から3年以内に譲渡することが条件です。この期限を過ぎると特例は適用できなくなります。投資用不動産にも適用可能なため、売却時期の計画が重要です。

Q33000万円控除と取得費加算特例はどちらを選ぶべきですか?

A3投資用マンションとして賃貸経営を続けていた場合、居住用財産の3000万円特別控除は適用されません。したがって、取得費加算の特例を活用することになります。相続後に自己居住した場合は、譲渡所得が3000万円以下なら3000万円控除が有利です。一方、譲渡所得が3000万円を超え、かつ相続税額が高額な場合は取得費加算の特例が有利になる可能性があります。両特例は併用不可なので、税理士に相談して判断しましょう。

Q4小規模宅地等の特例を受けていると、売却時の税金も安くなりますか?

A4小規模宅地等の特例は相続税の計算時に評価額を減額する制度です(貸付事業用は200㎡まで50%減額)。売却時の譲渡所得税の計算には直接影響しません。ただし、相続税が減額される分、取得費加算の特例で加算できる金額も少なくなります。両方の特例を活用する場合は、トータルでの節税効果を税理士に相談して検討しましょう。

Q5相続登記はいつまでにすればよいですか?

A52024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。マンションを売却する場合も、まず相続登記を完了させる必要があります。相続発生後は早めに法務局または司法書士に相談し、手続きを進めましょう。

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