投資用中古マンション購入と相続税・贈与税の基礎
相続対策として投資用中古マンションを購入する場合、居住用とは異なる税制が適用されます。基礎知識を確認しましょう。
(1) 投資用と居住用の税制の違い
投資用と居住用の中古マンションでは、相続税・贈与税の取り扱いに以下の違いがあります。
項目 | 居住用 | 投資用 |
---|---|---|
相続税評価 | 自用地評価 | 貸家建付地評価(減額あり) |
小規模宅地等の特例 | 330㎡まで80%減額 | 200㎡まで50%減額 |
住宅取得資金贈与の非課税 | 適用可能 | 適用不可 |
不動産所得 | なし | 賃貸収入あり |
投資用中古マンションは、賃貸運用により相続税評価額が減額される一方で、適用できる特例に制限があります。
(2) 賃貸運用と相続税評価
投資用中古マンションを賃貸運用している場合、相続税評価額は以下のように計算されます(出典: 国税庁)。
- 貸家の評価: 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
- 貸家建付地の評価: 路線価 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
賃貸中の物件は、借家権を考慮して評価額が減額されます。借家権割合は通常30%です。
投資用中古マンションの相続税評価額の算出方法
投資用中古マンションの相続税評価額は、土地と建物を分けて計算します。
(1) 貸家・貸家建付地の評価方法
建物(貸家)の評価:
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
土地(貸家建付地)の評価:
貸家建付地の評価額 = 路線価 × 敷地権面積 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
具体例:
- 固定資産税評価額(建物): 2,000万円
- 路線価による土地評価: 3,000万円
- 借地権割合: 70%
- 借家権割合: 30%
- 賃貸割合: 100%(満室)
建物の評価額 = 2,000万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1,400万円 土地の評価額 = 3,000万円 × (1 - 0.7 × 0.3 × 1.0) = 2,370万円 合計評価額 = 3,770万円
(2) 借家権割合(通常30%)の考慮
借家権割合は、賃借人が持つ権利を評価額から控除するための割合です(出典: 国税庁)。全国一律で**30%**とされています。
賃貸運用中の投資用マンションは、この借家権割合により評価額が減額されます。満室であれば最大限の評価減が適用されます。
(3) 築年数による建物評価の減少
中古マンションの建物部分は、築年数の経過とともに固定資産税評価額が減少します。
- 新築時: 購入価格の約50~70%
- 築10年: 新築時評価額の約70~80%
- 築20年: 新築時評価額の約50~60%
- 築30年以上: 新築時評価額の約30~40%
築年数が古いほど建物の評価額が低くなり、相続税評価額も低くなります。
貸付事業用宅地等の特例と適用要件
投資用中古マンションにも小規模宅地等の特例が適用されますが、居住用とは条件が異なります(出典: 国税庁)。
(1) 200㎡まで50%減額の概要
貸付事業用宅地の特例:
- 減額割合: 50%
- 適用面積: 200㎡まで
- 要件: 相続開始前3年以内に賃貸事業を開始した宅地は対象外(一定の場合を除く)
居住用宅地の特例(330㎡まで80%減額)と比べると、減額割合・適用面積ともに制限があります。
(2) 居住用との違いと注意点
項目 | 居住用宅地 | 貸付事業用宅地 |
---|---|---|
減額割合 | 80% | 50% |
適用面積 | 330㎡ | 200㎡ |
適用要件 | 配偶者または同居親族が取得 | 相続人が事業を継続 |
事前の保有期間 | 制限なし | 相続開始前3年以内の開始は対象外 |
注意点:
- 相続開始前3年以内に賃貸事業を開始した宅地は、原則として特例の対象外
- ただし、相続開始前3年を超えて事業を行っている場合は適用可能
- 事業規模の賃貸(おおむね5棟10室以上)であれば3年以内でも適用される場合がある
(3) 継続的な賃貸実態の証明
貸付事業用宅地等の特例を適用するには、継続的な賃貸実態を証明する必要があります。
必要な証明書類:
- 賃貸借契約書
- 賃料の入金記録(通帳のコピー等)
- 不動産所得の確定申告書
- 固定資産税の納付証明書
相続開始時に空室であった場合でも、一時的な空室であり募集活動を継続していたことを証明できれば特例が適用される可能性があります。
贈与税の基本と生前贈与の活用
親族から投資用中古マンションの贈与を受ける場合、贈与税の仕組みを理解しましょう。
(1) 贈与税の基礎控除(年110万円)
贈与税は原則として「暦年課税」が適用され、年間110万円の基礎控除があります(出典: 国税庁)。投資用不動産の贈与でも、この基礎控除を超える部分に贈与税が課されます。
贈与税の税率(直系尊属から成年への贈与の場合):
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(2) 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、累計2,500万円まで贈与時の贈与税を非課税とし、相続時に相続財産に加算して精算する制度です(出典: 国税庁)。
投資用不動産の贈与で高額になる場合、この制度を検討する価値があります。
適用要件:
- 贈与者が60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者が18歳以上の子または孫
- 一度選択すると撤回不可
(3) 投資用不動産の生前贈与
投資用中古マンションを生前贈与する場合、以下の点に注意しましょう。
- 贈与税の評価: 贈与時の時価(通常は相続税評価額)で評価
- 賃貸中の物件: 借家権を考慮した評価減が適用される
- 贈与のタイミング: 評価額が低い時期に贈与すれば税負担を抑えられる
- 登記費用: 贈与による所有権移転登記に登録免許税や不動産取得税がかかる
相続税対策としての投資用中古マンション購入
投資用中古マンションの購入は、相続税対策として有効な場合があります。
(1) 現金と不動産の評価額の違い
現金を不動産に変えることで、相続税評価額を圧縮できます(出典: 国税庁)。
評価額の比較例:
資産の種類 | 時価 | 相続税評価額 | 評価割合 |
---|---|---|---|
現金 | 1億円 | 1億円 | 100% |
自用の中古マンション | 1億円 | 約7,000万円 | 約70% |
賃貸中の中古マンション | 1億円 | 約5,000万円 | 約50% |
賃貸運用中の投資用中古マンションは、借家権割合を考慮した評価減により、現金で保有するよりも大幅に評価額が下がります。
(2) 賃貸中の評価減効果
賃貸運用中の物件には、以下の評価減が適用されます。
- 建物: 固定資産税評価額(時価の約70%) → 借家権割合30%控除 → 約49%
- 土地: 路線価(時価の約80%) → 借地権割合・借家権割合控除 → 約63%
- 小規模宅地等の特例: さらに50%減額 → 約31.5%
これらを組み合わせることで、時価1億円の投資用マンションの相続税評価額を3,000~4,000万円程度まで圧縮できる可能性があります。
(3) 評価額圧縮のメカニズム
投資用中古マンションによる評価額圧縮のメカニズムは以下の通りです。
ステップ1: 現金 → 不動産(時価の約70~80%に評価減)
ステップ2: 自用 → 賃貸(借家権割合30%控除)
ステップ3: 小規模宅地等の特例(貸付事業用50%減額)
これにより、現金で保有するよりも相続税評価額を大幅に圧縮できます。
投資用中古マンション購入時の注意点
投資用中古マンションを購入する際、以下の点に注意しましょう。
(1) 空室率と評価額への影響
賃貸割合が100%(満室)でない場合、評価減の効果が薄れます。
賃貸割合と評価額の関係:
賃貸割合 | 評価減の効果 |
---|---|
100%(満室) | 最大限の評価減 |
80% | 評価減が20%減少 |
50% | 評価減が50%減少 |
0%(全室空室) | 評価減なし |
相続税対策として投資用マンションを購入する場合、継続的に賃貸運用できる物件を選ぶことが重要です。
(2) 不動産所得と減価償却
投資用中古マンションを賃貸運用する場合、賃料収入から必要経費を差し引いた不動産所得に対して所得税が課されます(出典: 国税庁)。
必要経費に含まれるもの:
- 減価償却費
- 管理費・修繕積立金
- 固定資産税・都市計画税
- 借入金利息
- 修繕費
減価償却により帳簿上の経費を計上できるため、所得税の節税効果もあります。
(3) 住宅取得資金贈与の非課税特例は不可
投資用不動産の購入では、住宅取得資金贈与の非課税特例は利用できません。この特例は自己居住用が要件となるためです。
親から資金援助を受ける場合は、以下を検討します。
- 暦年贈与: 年110万円の基礎控除を活用し、複数年に分けて贈与
- 相続時精算課税制度: 累計2,500万円まで贈与時非課税(相続時に加算)