離婚売却中古マンションの相続税・贈与税|完全ガイド

公開日: 2025/10/14

相続した中古マンションを離婚のタイミングで売却する場合、相続税・贈与税・譲渡所得税という3つの税金と、離婚による財産分与という2つの法律関係が重なります。特に、離婚による財産分与は原則として贈与税の対象外ですが、相続したマンションの場合は取得経緯が異なるため、税務上の扱いに注意が必要です。この記事では、相続と離婚が重なる複雑なケースにおける税務処理の実務的な知識を解説します。

この記事のポイント

  • 離婚による財産分与は原則として贈与税の対象外(過大でない範囲)
  • 相続したマンションの取得費は被相続人の購入価格を引き継ぐ
  • 相続開始から3年10ヶ月以内の売却で取得費加算の特例が適用可能
  • 小規模宅地等の特例は同居要件があり離婚タイミングに注意
  • 財産分与による名義変更でも譲渡所得税が発生する可能性

相続マンション売却の相続税・贈与税の基礎知識

相続税と譲渡所得税の違い

相続したマンションを離婚のタイミングで売却する場合、まず相続時に相続税が課税され、その後売却時に譲渡所得税が課税される可能性があります。

相続税 相続税は、被相続人の死亡により財産を取得した場合に課される税金です(国税庁 相続税の計算)。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります。

譲渡所得税 譲渡所得税は、売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。相続で取得した不動産の取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぎます。

贈与税との関係

贈与税は、個人から財産をもらったときに課される税金です(国税庁 贈与税の計算と税率)。暦年課税の基礎控除は年110万円です。

離婚による財産分与の扱い

離婚による財産分与は、原則として贈与税の対象外となります(国税庁 財産分与と贈与税)。これは、財産分与が夫婦の共有財産の清算であり、贈与ではないと考えられるためです。

ただし、以下の場合は贈与税が課税される可能性があります。

  • 財産分与の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産額や離婚の事情を考慮しても過大である場合
  • 贈与税や相続税を免れるために離婚を装った場合

マンション特有の税務ポイント

相続したマンションを離婚のタイミングで売却する場合、以下の税務ポイントに注意が必要です。

財産分与による名義変更

離婚により相続したマンションを配偶者に財産分与する場合、名義変更時に譲渡所得税が発生する可能性があります。これは、財産分与が税務上「譲渡」とみなされるためです。

取得費の引き継ぎ

相続で取得したマンションの取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぎます。財産分与により配偶者に名義変更した場合でも、配偶者の取得費は被相続人の購入価格を引き継ぎます。

相続税の計算と評価方法

相続税の基礎控除

相続税は、相続財産の総額が基礎控除額を超えた場合に課税されます。基礎控除額の計算式は以下の通りです。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

例えば、被相続人の配偶者と子2人が相続人の場合、法定相続人は3人となります。離婚後に相続が発生した場合、元配偶者は法定相続人に含まれません。

マンションの評価方法(建物・土地)

中古マンションの相続税評価額は、建物部分と土地部分で計算方法が異なります(国税庁 不動産の評価方法)。

建物の評価

  • 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となる
  • 中古マンションの場合、経年劣化により新築時より低い評価となる

土地(敷地権)の評価

  • 路線価 × 敷地権割合 × 専有面積に対応する土地面積
  • 路線価は公示価格の約80%が目安

固定資産税評価額と路線価

固定資産税評価額は、毎年4月頃に市区町村から送付される固定資産税納税通知書に記載されています。路線価は、国税庁のホームページで確認できます。

相続税申告期限(10ヶ月以内)

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。離婚協議中に相続が発生した場合でも、申告期限は変わりません。

譲渡所得税と取得費加算の特例

相続マンション売却時の譲渡所得税

相続したマンションを離婚のタイミングで売却する場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

譲渡所得税の税率

所有期間 所得税 住民税 合計
短期譲渡(5年以下) 30% 9% 39%
長期譲渡(5年超) 15% 5% 20%

相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から計算されるため、多くの場合、長期譲渡所得となります。

取得費加算の特例とは

取得費加算の特例は、相続税を支払った場合、相続開始から3年10ヶ月以内の売却で相続税額の一部を取得費に加算できる制度です(国税庁 取得費加算の特例)。

この特例により、譲渡所得を圧縮し、譲渡所得税を軽減できます。

3年10ヶ月以内の売却要件

取得費加算の特例は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)の翌日から3年以内、つまり相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

離婚協議や財産分与の手続きに時間がかかる場合、この期限を超えてしまう可能性があるため、早めの売却を検討することが重要です。

計算方法と節税効果

加算額の計算式 加算額 = 相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額 ÷ 相続財産総額

具体例

  • 相続税額:1,000万円
  • マンションの相続税評価額:2,500万円
  • 相続財産総額:1億円

加算額 = 1,000万円 × 2,500万円 ÷ 1億円 = 250万円

この250万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が250万円減少し、譲渡所得税(長期譲渡20.315%)が約51万円軽減されます。

3,000万円特別控除との選択

居住用財産3,000万円特別控除

居住用財産を売却した場合、所有期間にかかわらず譲渡所得から最大3,000万円を控除できます(国税庁 居住用財産の3,000万円特別控除)。

離婚により相続したマンションから転居した場合でも、転居してから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、特例を適用できる可能性があります。

空き家の3,000万円特別控除

被相続人が一人暮らしで居住していた家屋を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、空き家の3,000万円特別控除を適用できる場合があります。ただし、マンションは適用対象外となるケースが多いため、事前に確認が必要です。

取得費加算特例との選択適用

居住用財産の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は、両方の要件を満たす場合でも併用できません。どちらか一方を選択して適用する必要があります。

どちらを選ぶべきか

3,000万円特別控除が有利なケース

  • 譲渡所得が3,000万円以下の場合
  • 相続税額が少ない場合
  • 離婚前に居住していた場合

取得費加算特例が有利なケース

  • 譲渡所得が3,000万円を大きく超える場合
  • 相続税額が高額な場合
  • 居住用財産の要件を満たさない場合

具体的な数字でシミュレーションして、有利な方を選択することが重要です。

小規模宅地等の特例の影響

小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、一定の要件を満たせば相続税評価額を80%減額できる特例です(国税庁 小規模宅地等の特例)。

マンションでの適用要件

マンションの場合、敷地権に対応する土地面積が対象となります。

主な適用要件

  • 被相続人の居住用宅地であること
  • 相続人が配偶者、または同居親族であること
  • 相続税の申告期限まで保有・居住を継続すること
  • 限度面積は330㎡まで

離婚と特例適用の関係

離婚により別居した場合、同居要件を満たさなくなるため、小規模宅地等の特例を適用できない可能性があります。離婚のタイミングと相続のタイミングにより、特例適用の可否が変わるため、注意が必要です。

特例適用後の取得費への影響

小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度であり、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。ただし、相続税が少ない分、取得費加算の特例で加算できる金額も少なくなります。

売却時の注意点

小規模宅地等の特例は、相続税の申告期限まで保有・居住を継続することが要件となります。離婚により早期に売却する場合は特例を適用できないため、以下の判断が必要です。

  • 特例を優先する場合:相続税の申告期限(10ヶ月)まで保有し、特例を適用してから売却
  • 売却を優先する場合:特例を諦めて早期に売却し、離婚協議をスムーズに進める

相続手続きと申告の流れ

相続登記の義務化(3年以内)

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

離婚により財産分与する場合でも、まず相続登記を完了させてから財産分与の登記を行う必要があります。

相続税申告(10ヶ月以内)

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。離婚協議中に相続が発生した場合でも、申告期限は変わりません。

小規模宅地等の特例を適用するためには、申告が必須となります。

譲渡所得税の確定申告

マンションを売却した場合、売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。取得費加算の特例や3,000万円特別控除を適用する場合も、確定申告が必須です。

財産分与により名義変更した場合、名義変更した側(渡した側)も譲渡所得税の確定申告が必要となる可能性があります。

専門家への相談タイミング

相続と離婚が重なる複雑なケースでは、以下のタイミングで専門家に相談することをおすすめします。

相続発生時

  • 相続税申告と将来の売却計画を税理士に相談
  • 小規模宅地等の特例の適用可否を確認
  • 離婚協議との調整を弁護士に相談

売却検討時

  • 不動産会社に査定を依頼
  • 譲渡所得のシミュレーションを税理士に依頼
  • 財産分与の方法を弁護士に相談

売却決定時

  • 特例選択と確定申告の準備を税理士に依頼
  • 財産分与協議書の作成を弁護士に依頼

まとめ

相続した中古マンションを離婚のタイミングで売却する場合、相続税・贈与税・譲渡所得税の3つの税金と、離婚による財産分与という2つの法律関係が重なる複雑なケースとなります。

離婚による財産分与は原則として贈与税の対象外ですが、過大な財産分与の場合は贈与税が課税される可能性があります。また、財産分与による名義変更でも譲渡所得税が発生する可能性があるため、注意が必要です。

取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内、小規模宅地等の特例は相続税の申告期限(10ヶ月)まで保有・居住を継続することが要件となるため、離婚協議のタイミングとの調整が重要です。

2024年4月から相続登記が義務化されたため、3年以内の手続きを忘れずに行いましょう。税理士や弁護士、不動産会社への相談タイミングを適切に設定し、具体的な数字でシミュレーションすることで、最適な売却と財産分与を実現できます。

よくある質問

Q1相続したマンションを売却します。どんな税金がかかりますか?

A1相続時に相続税、売却時に譲渡所得税がかかります。相続税は基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合に課税されます。譲渡所得税は、売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。取得費加算の特例や3,000万円特別控除を使えば税負担を軽減できます。

Q2離婚による財産分与で贈与税はかかりますか?

A2離婚による財産分与は原則として贈与税の対象外となります。これは、財産分与が夫婦の共有財産の清算であり、贈与ではないと考えられるためです。ただし、財産分与の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産額を考慮しても過大である場合や、贈与税を免れるために離婚を装った場合は、贈与税が課税される可能性があります。

Q3取得費加算の特例はいつまでに売却すれば使えますか?

A3相続発生日から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。具体的には、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)の翌日から3年以内です。離婚協議や財産分与の手続きに時間がかかる場合、この期限を超えてしまう可能性があるため、早めの売却を検討することが重要です。

Q43,000万円控除と取得費加算特例はどちらを選ぶべきですか?

A4譲渡所得が3,000万円以下で離婚前に居住していた場合は、3,000万円特別控除が有利なケースが多いです。譲渡所得が3,000万円を大きく超える場合や相続税が高額な場合は、取得費加算特例が選択肢になります。両特例は併用不可なので、具体的な数字でシミュレーションして税理士に相談することをおすすめします。

Q5小規模宅地等の特例を受けていると、売却時の税金も安くなりますか?

A5小規模宅地等の特例は相続税の軽減制度であり、売却時の譲渡所得税には直接影響しません。ただし、相続税が少ない分、取得費加算の特例で加算できる金額も少なくなります。また、小規模宅地等の特例は同居要件があり、離婚により別居した場合は特例を適用できない可能性があります。

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