相続・贈与と不動産購入の基礎知識
相続資金や親からの贈与で中古マンションを購入する際、税金の仕組みを理解することが重要です。相続税・贈与税の基礎を確認しましょう。
(1) 相続税と贈与税の違い
相続税は、被相続人の死亡により財産を取得した際に課される税金です(出典: 国税庁)。一方、贈与税は、個人から財産をもらったときに課される税金です(出典: 国税庁)。
項目 | 相続税 | 贈与税 |
---|---|---|
課税タイミング | 被相続人の死亡時 | 贈与時(生前) |
基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人数 | 年間110万円 |
税率 | 10%~55% | 10%~55% |
申告期限 | 相続開始から10ヶ月以内 | 贈与の翌年3月15日まで |
相続資金で不動産を購入する場合、相続財産の評価や相続税の計算が影響します。
(2) 不動産購入時の資金調達
中古マンション購入の資金調達パターンは以下の通りです。
- 自己資金のみ: 貯蓄や相続資金で全額購入
- 住宅ローン: 金融機関から借入
- 親からの贈与 + 自己資金: 贈与税非課税特例を活用
- 相続資金 + 住宅ローン: 相続財産を頭金に充当
親からの贈与を受ける場合、住宅取得資金贈与の非課税特例を活用すると税負担を軽減できます。
(3) 税務上の注意点
相続や贈与で資金を受け取り不動産を購入する際、以下に注意しましょう。
- 相続登記の義務化: 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料が科されます
- 贈与契約書の作成: 贈与の証拠として契約書を作成し、振込記録を保管
- 税務申告の期限厳守: 相続税は相続開始から10ヶ月以内、贈与税は翌年3月15日までに申告
相続税の計算方法と基礎控除
相続税は相続財産の総額から基礎控除を引いた金額に課税されます。計算方法を確認しましょう。
(1) 基礎控除額の計算
相続税の基礎控除額は以下の計算式で求められます(出典: 国税庁)。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
具体例:
- 法定相続人が1人(配偶者のみ): 3,600万円
- 法定相続人が2人(配偶者+子1人): 4,200万円
- 法定相続人が3人(配偶者+子2人): 4,800万円
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に相続税が発生します。
(2) 税率と控除額
相続税の税率は累進課税で、法定相続分に応じた取得金額により以下の税率が適用されます(出典: 国税庁)。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(3) 相続財産の評価方法
相続財産には現金、預金、不動産、株式などが含まれます。不動産は以下の方法で評価されます(出典: 国税庁)。
- 土地: 路線価方式または倍率方式(市街地は路線価、それ以外は固定資産税評価額×倍率)
- 建物: 固定資産税評価額
- マンション: 専有部分の固定資産税評価額 + 敷地権の評価額
一般的に、不動産の相続税評価額は時価の70~80%程度となるため、現金で保有するよりも相続税が抑えられる傾向があります。
贈与税の仕組みと非課税特例
親から資金援助を受けて中古マンションを購入する場合、贈与税の仕組みを理解しておきましょう。
(1) 暦年課税と基礎控除110万円
贈与税は原則として「暦年課税」が適用されます(出典: 国税庁)。年間110万円の基礎控除があり、これを超える部分に贈与税が課されます。
贈与税の税率(直系尊属から成年への贈与の場合):
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(2) 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、累計2,500万円まで贈与時の贈与税を非課税とし、相続時に相続財産に加算して精算する制度です(出典: 国税庁)。
適用要件:
- 贈与者が60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者が18歳以上の子または孫
- 一度選択すると撤回不可
相続財産が基礎控除以下の場合、相続時精算課税制度を選択すると有利になる場合があります。
(3) 贈与税の税率
贈与税の税率は、一般贈与と特例贈与(直系尊属から成年への贈与)で異なります。中古マンション購入時の親からの贈与は特例贈与に該当し、一般贈与よりも低い税率が適用されます。
住宅取得資金贈与の非課税措置
親や祖父母から住宅購入資金の贈与を受ける場合、一定額まで非課税となる特例があります(出典: 国税庁)。
(1) 非課税限度額と適用要件
非課税限度額:
住宅の種類 | 非課税限度額 |
---|---|
省エネ等住宅 | 1,000万円 |
一般住宅 | 500万円 |
※省エネ等住宅: 省エネ基準適合住宅、耐震等級2以上、バリアフリー対応等
主な適用要件:
- 贈与者が直系尊属(父母、祖父母)であること
- 受贈者が贈与年の1月1日時点で18歳以上
- 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下
- 床面積が40㎡以上240㎡以下
- 床面積の50%以上が居住用
(2) 中古住宅の築年数制限
中古マンションで住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるには、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 築年数要件: 耐火建築物は築25年以内、それ以外は築20年以内
- 耐震基準適合証明書: 築年数を超えている場合でも、耐震基準適合証明書を取得すれば適用可能
- 既存住宅売買瑕疵保険: 同様に、瑕疵保険に加入していれば適用可能
築年数が要件を超える中古マンションでも、耐震基準適合証明書や瑕疵保険により特例を利用できる場合があります。
(3) 申告手続きと必要書類
住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるには、贈与を受けた翌年3月15日までに確定申告が必須です。
必要書類:
- 贈与税申告書
- 戸籍謄本(贈与者と受贈者の関係を証明)
- 住民票の写し
- 売買契約書のコピー
- 登記事項証明書
- 耐震基準適合証明書または瑕疵保険の付保証明書(該当する場合)
申告を忘れると非課税特例が適用されず、贈与税が課されますので注意しましょう。
小規模宅地等の特例
相続により居住用の中古マンションを取得した場合、小規模宅地等の特例により相続税評価額を大幅に減額できる可能性があります(出典: 国税庁)。
(1) 特例の概要と減額割合
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住または事業に使用していた宅地を相続した場合、評価額を減額できる制度です。
居住用宅地の特例:
- 減額割合: 80%
- 適用面積: 330㎡まで
- 減額効果: 評価額5,000万円の宅地 → 特例適用後1,000万円
この特例により、相続税の負担を大きく軽減できます。
(2) 居住用宅地の要件
小規模宅地等の特例を受けるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
配偶者が相続する場合:
- 無条件で特例適用
同居親族が相続する場合:
- 相続税の申告期限まで引き続き居住し、宅地を保有すること
別居親族が相続する場合:
- 相続開始前3年以内に持ち家に居住していないこと(家なき子特例)
- 相続税の申告期限まで宅地を保有すること
マンションの場合、敷地権に対応する部分が特例の対象となります。
(3) 適用手続き
小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告書に特例適用の旨を記載し、必要書類を添付します。
必要書類:
- 相続税申告書
- 戸籍謄本
- 住民票の写し
- 登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
特例の適用により相続税がゼロになる場合でも、申告は必須ですので忘れずに手続きを行いましょう。
相続税対策としての不動産購入
不動産を購入することで、相続税の負担を軽減できる場合があります。その仕組みを理解しましょう。
(1) 不動産購入と相続税評価
現金を不動産に変えることで、相続税評価額を圧縮できます(出典: 国税庁)。
評価額の比較:
資産の種類 | 相続税評価額 |
---|---|
現金5,000万円 | 5,000万円(額面通り) |
土地(路線価) | 時価の約80% |
建物(固定資産税評価額) | 時価の約70% |
例えば、時価5,000万円の中古マンションの場合、土地部分と建物部分を合わせた相続税評価額は3,500万円程度となり、現金で保有するよりも1,500万円評価が下がります。
(2) 現金保有との評価差
具体例: 5,000万円の資産を相続する場合
- 現金で保有: 相続税評価額5,000万円
- 不動産で保有: 相続税評価額約3,500万円(土地2,000万円+建物1,500万円)
- 小規模宅地等の特例適用: さらに土地部分を80%減額 → 相続税評価額約1,900万円
不動産購入により、相続税評価額を大幅に圧縮できる可能性があります。
(3) 生前贈与との組み合わせ
相続税対策として、以下のような組み合わせも考えられます。
- 現金を生前贈与 → 子が不動産購入: 住宅取得資金贈与の非課税特例を活用
- 親が不動産購入 → 相続時に子へ: 小規模宅地等の特例を活用
- 相続時精算課税で不動産を贈与: 評価額が低い時点で贈与し、将来の評価上昇による相続税増加を回避
税務上の最適な選択肢は、相続財産の総額、相続人の数、不動産の評価額などにより異なります。税理士への相談を推奨します。