投資用中古戸建ての相続税・贈与税|評価減と節税対策

公開日: 2025/10/14

投資目的で中古戸建てを購入または相続する場合、居住用不動産とは異なる税務上の取り扱いがあります。本記事では、投資用不動産の相続税評価(賃貸中の評価減)、小規模宅地等の特例の適用範囲、生前贈与の活用方法、相続税・贈与税の計算方法について実務的に解説します。

この記事のポイント:

  • 投資用中古戸建ての相続税評価は賃貸中なら評価減が適用される
  • 貸家建付地評価で土地は最大約18%減額
  • 小規模宅地特例(貸付事業用)は最大50%減額(居住用の80%より低い)
  • 住宅取得資金贈与の非課税特例は投資目的では利用不可
  • 生前贈与と相続時精算課税制度を活用した節税対策

1. 投資用中古戸建てと相続税・贈与税の基本

(1) 相続税と贈与税の違い

相続税と贈与税は、どちらも財産の移転に課される税金ですが、タイミングと課税方法が異なります。

項目 相続税 贈与税
課税タイミング 被相続人の死亡時 生前の財産移転時
基礎控除 3,000万円+600万円×法定相続人数 年110万円(暦年課税)
申告期限 相続開始から10ヶ月以内 翌年2月1日〜3月15日
税率 10%〜55%(累進課税) 10%〜55%(累進課税)

国税庁の相続税計算ガイド贈与税計算ガイドに詳細が記載されています。

(2) 投資用不動産の税務上の位置づけ

投資用中古戸建ては、居住用不動産とは異なる税務上の取り扱いを受けます。

投資用不動産の特徴:

  • 賃貸中の場合、相続税評価額が減額される(貸家・貸家建付地評価)
  • 小規模宅地特例の減額割合が50%(居住用は80%)
  • 住宅取得資金贈与の非課税特例は適用不可(居住用のみ対象)
  • 不動産所得として賃貸収入が課税対象

(3) 中古戸建ての評価の基礎

中古戸建ての相続税評価は、土地と建物を別々に評価します。

土地の評価:

  • 路線価方式または倍率方式で評価
  • 賃貸中の場合は「貸家建付地」として評価減

建物の評価:

  • 固定資産税評価額を基礎とする
  • 賃貸中の場合は「貸家」として評価減
  • 築年数により減価償却が進み評価額が低下

2. 投資用中古戸建ての相続税評価

(1) 貸家建付地の評価

投資用中古戸建てを賃貸している場合、土地は「貸家建付地」として評価され、自用地評価よりも減額されます。

国税庁の貸家建付地評価ガイドによれば、以下の式で計算します。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

例:
自用地評価額5,000万円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合

  • 貸家建付地の評価額 = 5,000万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 5,000万円 × 0.82 = 4,100万円
  • 減額額 = 900万円(18%減額)

借地権割合:

  • 路線価図に記載されている地域ごとの割合(A地区90%〜G地区30%)

借家権割合:

  • 全国一律30%

賃貸割合:

  • 賃貸されている床面積 ÷ 建物全体の床面積
  • 全室賃貸なら100%、一部空室なら空室分を除いた割合

(2) 貸家の評価

投資用中古戸建ての建物部分は「貸家」として評価されます。

貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

例:
固定資産税評価額1,500万円、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合

  • 貸家の評価額 = 1,500万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1,500万円 × 0.7 = 1,050万円
  • 減額額 = 450万円(30%減額)

(3) 空室がある場合の評価

相続開始時に空室がある場合、賃貸割合に影響します。

一時的な空室:

  • 退去から1ヶ月程度の一時的な空室であれば、賃貸されているものとして評価可能
  • 募集広告や管理会社との契約書で一時的な空室であることを証明

長期空室:

  • 3ヶ月以上の空室は賃貸割合から除外される可能性が高い
  • 空室部分は自用評価(評価減なし)

空室リスクを考慮し、日頃から適切な賃貸管理を行うことが重要です。

3. 小規模宅地等の特例(貸付事業用)

(1) 貸付事業用宅地の特例の概要

国税庁の小規模宅地特例ガイドによれば、投資用不動産には「貸付事業用宅地等の特例」が適用されます。

項目 貸付事業用宅地 居住用宅地(参考)
対象面積 200㎡まで 330㎡まで
減額割合 50% 80%
要件 相続開始前3年超の貸付事業 被相続人の居住など

(2) 適用要件

貸付事業用宅地の特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。

事業継続要件:

  • 相続開始前3年を超えて貸付事業を行っていること
  • 相続税の申告期限まで貸付事業を継続すること

相続人要件:

  • 被相続人の親族が相続すること
  • 相続税の申告期限まで所有し、貸付事業を継続すること

例外:

  • 相続開始前3年以内に貸付を開始した場合でも、事業的規模(おおむね5棟10室以上)で継続的に貸付事業を行っていた場合は適用可能

(3) 計算例

例:
貸家建付地の評価額4,100万円、土地面積150㎡の投資用中古戸建ての場合

  • 特例適用前の評価額: 4,100万円
  • 特例適用後の評価額: 4,100万円 × 50% = 2,050万円
  • 減額額: 2,050万円

貸家建付地評価(18%減)と小規模宅地特例(50%減)を併用することで、合計で約59%の評価減となります。

4. 生前贈与の活用

(1) 暦年課税と基礎控除110万円

投資用不動産を生前贈与する場合、暦年課税制度を活用できます。

暦年課税の仕組み:

  • 1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った贈与の合計が110万円以下なら非課税
  • 110万円を超えた部分に贈与税が課税

不動産の場合:

  • 不動産を直接贈与すると評価額が大きく、贈与税が高額になる可能性
  • 持分贈与や金銭贈与を組み合わせることで節税可能

(2) 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、2,500万円まで贈与税を非課税とし、相続時に精算する制度です。

メリット:

  • 2,500万円まで贈与時に贈与税がかからない
  • 早期に財産を移転できる(子・孫の不動産投資開始を支援)

デメリット:

  • 相続時に贈与財産が相続財産に加算される
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない
  • 小規模宅地特例が適用できなくなる可能性

投資用不動産の場合、賃貸収入が継続的に発生するため、早期に子・孫に移転することで、収益も含めて資産移転できるメリットがあります。

(3) 持分贈与の活用

投資用中古戸建ての持分を毎年少しずつ贈与することで、贈与税の基礎控除を活用できます。

例:
評価額3,300万円の投資用中古戸建てを10年間で贈与する場合

  • 毎年1/10(330万円相当)を贈与
  • 贈与税 = (330万円 - 110万円) × 10% = 22万円/年
  • 10年間で220万円の贈与税(一括贈与なら約500万円の贈与税)

持分贈与は登記費用が毎年発生しますが、長期的には大幅な節税になる可能性があります。

5. 相続税の計算方法

(1) 基礎控除額の計算

相続税には基礎控除があり、遺産総額が基礎控除額以下なら相続税はかかりません。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

例:
法定相続人が配偶者と子2人の計3人の場合

  • 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円

(2) 相続税の税率と控除額

相続税は累進課税で、法定相続分に応じた取得金額により税率が異なります。

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

(3) 投資用不動産を含む相続税の計算例

前提:

  • 遺産: 投資用中古戸建て(評価額3,000万円)、現金2,000万円、合計5,000万円
  • 法定相続人: 配偶者と子1人の計2人

計算:

  1. 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円
  2. 課税遺産総額 = 5,000万円 - 4,200万円 = 800万円
  3. 法定相続分: 配偶者400万円、子400万円
  4. 各人の相続税額:
    • 配偶者: 400万円 × 10% = 40万円 → 配偶者控除で0円
    • 子: 400万円 × 10% = 40万円
  5. 相続税総額 = 40万円

投資用不動産の評価減(貸家建付地評価、小規模宅地特例)を活用すれば、さらに相続税を軽減できます。

6. 投資用中古戸建て購入時の注意点

(1) 住宅取得資金贈与の特例は利用不可

住宅取得資金贈与の非課税特例は、「自己の居住用住宅」の取得が要件です。投資目的の中古戸建て購入では利用できません。

親から資金援助を受ける場合は、暦年課税の基礎控除110万円または相続時精算課税制度を活用します。

(2) 不動産所得の確定申告

投資用中古戸建てを賃貸する場合、不動産所得として確定申告が必要です。

国税庁の不動産所得ガイドによれば、賃貸収入から必要経費を差し引いた金額が不動産所得となります。

必要経費:

  • 減価償却費
  • 修繕費
  • 固定資産税・都市計画税
  • 不動産管理費
  • ローン金利(元本は不可)

(3) 税理士への相談推奨

投資用不動産の相続税・贈与税は計算が複雑で、小規模宅地特例や評価減の適用判断には専門知識が必要です。

税理士に相談すべき事項:

  • 投資用不動産の相続税評価額の算定
  • 小規模宅地特例の適用可否
  • 生前贈与の最適なタイミングと方法
  • 相続税・贈与税の申告手続き
  • 不動産所得の確定申告

税理士報酬は遺産総額の0.5%〜1%程度が目安ですが、適切なアドバイスにより数百万円の節税ができる可能性があります。

まとめ

投資用中古戸建ての相続税評価は、賃貸中であれば貸家建付地評価と貸家評価により大幅に減額されます。小規模宅地特例(貸付事業用)を併用すれば、最大50%の評価減が可能です。

生前贈与では、暦年課税の基礎控除や相続時精算課税制度を活用することで、計画的な資産移転ができます。持分贈与を活用すれば、贈与税を抑えながら長期的に不動産を移転できます。

投資用不動産は居住用不動産とは税務上の取り扱いが異なるため、住宅取得資金贈与の特例は利用できません。税理士に相談しながら、最適な相続税・贈与税対策を実施しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 投資用中古戸建ての相続税評価はどのように計算されますか?

A. 投資用中古戸建てが賃貸中の場合、土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として評価されます。貸家建付地は自用地評価額の約82%(借地権割合60%の場合)、貸家は固定資産税評価額の70%で評価されます。小規模宅地特例(貸付事業用)を併用すれば、さらに50%減額可能です。

Q2. 小規模宅地特例は投資用不動産でも使えますか?

A. はい、投資用不動産には「貸付事業用宅地等の特例」が適用されます。減額割合は50%(居住用の80%より低い)、対象面積は200㎡までです。適用要件として、相続開始前3年を超えて貸付事業を行っていること、相続税申告期限まで貸付事業を継続することが必要です。

Q3. 親から投資用中古戸建て購入の資金援助を受ける場合、住宅取得資金贈与の特例は使えますか?

A. 住宅取得資金贈与の非課税特例は「自己の居住用住宅」の取得が要件のため、投資目的では利用できません。親からの資金援助を受ける場合は、暦年課税の基礎控除110万円または相続時精算課税制度(2,500万円まで贈与時非課税)を活用します。

Q4. 投資用不動産を生前贈与する場合、どのような方法がありますか?

A. 投資用不動産の生前贈与には、暦年課税制度や相続時精算課税制度を活用できます。暦年課税では毎年110万円まで非課税ですが、不動産は評価額が大きいため、持分贈与を活用して毎年少しずつ贈与する方法が有効です。相続時精算課税では2,500万円まで贈与時非課税ですが、相続時に加算されます。賃貸収入が継続的に発生するため、早期に子・孫に移転するメリットもあります。

よくある質問

Q1投資用中古戸建ての相続税評価はどのように計算されますか?

A1投資用中古戸建てが賃貸中の場合、土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として評価されます。貸家建付地は自用地評価額の約82%(借地権割合60%の場合)、貸家は固定資産税評価額の70%で評価されます。小規模宅地特例(貸付事業用)を併用すれば、さらに50%減額可能です。

Q2小規模宅地特例は投資用不動産でも使えますか?

A2はい、投資用不動産には「貸付事業用宅地等の特例」が適用されます。減額割合は50%(居住用の80%より低い)、対象面積は200㎡までです。適用要件として、相続開始前3年を超えて貸付事業を行っていること、相続税申告期限まで貸付事業を継続することが必要です。

Q3親から投資用中古戸建て購入の資金援助を受ける場合、住宅取得資金贈与の特例は使えますか?

A3住宅取得資金贈与の非課税特例は「自己の居住用住宅」の取得が要件のため、投資目的では利用できません。親からの資金援助を受ける場合は、暦年課税の基礎控除110万円または相続時精算課税制度(2,500万円まで贈与時非課税)を活用します。

Q4投資用不動産を生前贈与する場合、どのような方法がありますか?

A4投資用不動産の生前贈与には、暦年課税制度や相続時精算課税制度を活用できます。暦年課税では毎年110万円まで非課税ですが、不動産は評価額が大きいため、持分贈与を活用して毎年少しずつ贈与する方法が有効です。相続時精算課税では2,500万円まで贈与時非課税ですが、相続時に加算されます。賃貸収入が継続的に発生するため、早期に子・孫に移転するメリットもあります。

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