買い替え売却中古戸建ての相続税・贈与税の全体像
相続した中古戸建てを売却して新居を購入する場合、相続税と譲渡所得税という2つの税金が関わってきます。さらに、買い替え時には複数の税制優遇措置があり、どの特例を選択するかが重要です。
本記事では、買い替え売却中古戸建てに関する相続税・贈与税の仕組みから、買換え特例、取得費加算の特例、3000万円特別控除の選択判断まで、実務上重要なポイントを解説します。
この記事でわかること
- 中古戸建ての相続税評価方法(建物:固定資産税評価額、土地:路線価)
- 買換え特例(課税繰延)と取得費加算の特例の違い
- 3000万円特別控除との選択判断(売却益・購入価格による)
- 小規模宅地等の特例(評価額80%減)と買い替えの関係
- 相続登記の義務化(相続開始から3年以内、罰則あり)
(1) 相続・贈与・売却の税務関係
相続した不動産を買い替えで売却する場合、以下の税金が関わる可能性があります。
税金の種類 | 課税タイミング | 基礎控除額・税率 |
---|---|---|
相続税 | 相続時 | 3000万円+600万円×法定相続人の数 |
贈与税 | 贈与時 | 年110万円(暦年課税) |
譲渡所得税 | 売却時 | 長期20.315%・短期39.63% |
不動産取得税 | 新居取得時 | 固定資産税評価額の3%(軽減措置あり) |
(2) 買い替えで関係する税制優遇措置の整理
買い替え時に活用できる主な税制優遇措置は以下の通りです。
特例名 | 効果 | 適用要件 | 併用可否 |
---|---|---|---|
3000万円特別控除 | 譲渡所得から3000万円控除 | 居住用財産 | 買換え特例・取得費加算と併用不可 |
買換え特例 | 譲渡益の課税を繰延 | 所有期間10年超・居住期間10年以上など | 取得費加算と併用不可 |
取得費加算の特例 | 相続税の一部を取得費に加算 | 相続開始から3年10ヶ月以内 | 買換え特例と併用不可 |
譲渡損失の損益通算 | 譲渡損失を給与所得等と通算 | 買い替えで譲渡損失が発生 | 他の特例と併用可能 |
相続した中古戸建ての評価方法と取得費
(1) 中古戸建ての相続税評価額(建物:固定資産税評価額、土地:路線価)
中古戸建ての相続税評価額は、建物部分と土地部分を分けて評価します。
建物部分: 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。中古戸建ての場合、築年数が経過しているため、固定資産税評価額は新築時よりも低くなっています。
土地部分: 路線価方式または倍率方式で評価します。路線価は国税庁が毎年7月に公表する、道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額です。
例えば、築20年の中古戸建て(建物の固定資産税評価額500万円、土地の路線価評価額2000万円)の場合、相続税評価額は2500万円となります。
(2) 売却時の取得費(相続時の評価額を基準)
相続した不動産の取得費は、被相続人が取得した時の価格を引き継ぎます。相続税評価額ではなく、被相続人が実際に購入した価格が基準です。
取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は、取得費を証明する書類(売買契約書など)を探すことをおすすめします。
(3) 相続登記と登録免許税
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記にかかる費用は以下の通りです。
- 登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬: 5〜15万円程度
相続登記が完了していないと売却できないため、買い替え予定の場合は早めに手続きを完了させましょう。
買換え特例と相続税の取得費加算特例
(1) 特定居住用財産の買換え特例(課税繰延)
特定居住用財産の買換え特例は、一定の要件を満たす居住用財産を買い替えた場合、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べできる制度です。
主な適用要件は以下の通りです。
- 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること
- 譲渡した年の1月1日時点で居住期間が10年以上であること
- 譲渡価格が1億円以下であること
- 買換え資産を譲渡した年の前年1月1日から翌年12月31日までに取得すること
重要な注意点: この特例は課税の繰延であり、非課税ではありません。将来、買換え先の不動産を売却する際に、繰り延べられた譲渡益と合わせて課税されます。
(2) 相続税の取得費加算特例(相続開始から3年10ヶ月以内)
取得費加算の特例は、相続税の申告期限から3年以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を譲渡所得の取得費に加算できる制度です。
具体的には、相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)までの間、さらにその申告期限の翌日から3年以内に譲渡することが条件です。合計で相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。
取得費に加算できる相続税の額は以下の計算式で求められます。
加算額 = 相続税額 × (譲渡した財産の相続税評価額 ÷ 相続税の課税価格)
(3) 両特例の併用可否と選択基準
買換え特例と取得費加算の特例は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
選択基準:
状況 | 有利な特例 | 理由 |
---|---|---|
売却益が大きく、購入価格も高い | 買換え特例 | 譲渡益を将来に繰り延べできる |
売却益が小さい、または相続税額が高額 | 取得費加算の特例 | 相続税の一部を取得費に加算できる |
将来的に買換え先を売却する予定がない | 買換え特例 | 課税を先送りできる |
将来的に買換え先を売却する予定がある | 取得費加算の特例 | 将来の課税を避けられる |
具体的な判断は個別の状況により異なるため、税理士に相談することをおすすめします。
3000万円特別控除との選択判断
(1) 居住用財産の3000万円特別控除の要件
居住用財産の3000万円特別控除は、自分が住んでいる住宅を売却した場合に、譲渡所得から3000万円を控除できる特例です。
主な適用要件は以下の通りです。
- 自分が住んでいる家屋または家屋と敷地を売却すること
- 居住しなくなった日から3年後の12月31日までに売却すること
- 売却先が配偶者・直系血族・生計を一にする親族でないこと
- 過去2年以内にこの特例を受けていないこと
(2) 買換え特例vs3000万円控除の損益分岐点
買換え特例と3000万円特別控除は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
一般的な選択基準:
- 譲渡所得が3000万円以下: 3000万円特別控除が有利(完全非課税)
- 譲渡所得が3000万円超で、将来売却予定なし: 買換え特例が有利(課税繰延)
- 譲渡所得が3000万円超で、将来売却予定あり: 3000万円特別控除が有利(3000万円分は非課税)
(3) 売却益の規模と購入価格による判断
例えば、以下のケースで比較してみます。
ケース1: 売却価格5000万円、取得費2000万円、譲渡費用200万円、購入価格4000万円
- 譲渡所得: 5000万円 - 2000万円 - 200万円 = 2800万円
- 3000万円控除: 完全非課税
- 買換え特例: 課税繰延(将来売却時に課税)
- 結論: 3000万円特別控除が有利
ケース2: 売却価格8000万円、取得費2000万円、譲渡費用200万円、購入価格7000万円
- 譲渡所得: 8000万円 - 2000万円 - 200万円 = 5800万円
- 3000万円控除: (5800万円 - 3000万円) × 20.315% = 約569万円の税金
- 買換え特例: 課税繰延(将来売却時に課税)
- 結論: 将来売却予定がなければ買換え特例が有利、売却予定があれば3000万円控除が有利
小規模宅地等の特例と買い替え
(1) 小規模宅地等の特例(評価額80%減)の適用
小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用または事業用の宅地について、一定の面積まで相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
居住用の場合、330㎡まで評価額が80%減額されます。例えば、相続税評価額3000万円の土地の場合、特例適用後は600万円となります。
(2) 特例適用後の買い替えタイミング
小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告期限(10ヶ月)まで保有・居住継続する必要があります。申告期限後であれば、すぐに売却しても特例は取り消されません。
したがって、特例を活用したい場合は、申告期限後に買い替え売却することをおすすめします。
(3) 買い替え先での特例適用可否
小規模宅地等の特例は、相続により取得した宅地にのみ適用されます。買い替えで新たに取得した不動産には適用されません。
確定申告の流れと必要書類
(1) 相続税申告(相続開始から10ヶ月以内)
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。基礎控除額を超える相続財産がある場合は、必ず期限内に申告しましょう。
(2) 譲渡所得税の確定申告(売却翌年2-3月)
中古戸建てを売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行います。買換え特例、取得費加算の特例、3000万円特別控除のいずれを適用する場合も、この期間内に申告が必要です。
(3) 買換え特例・取得費加算特例の添付書類
買換え特例の場合:
- 譲渡所得の内訳書
- 戸建ての登記事項証明書
- 売買契約書のコピー(売却・購入の両方)
- 住民票の写し
取得費加算の特例の場合:
- 譲渡所得の内訳書
- 戸建ての登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- 相続税申告書のコピー
- 相続税の納税証明書
まとめ
相続した中古戸建てを買い替えで売却する場合、複数の税制優遇措置から最適なものを選択することが重要です。買換え特例、取得費加算の特例、3000万円特別控除は併用できないため、売却益・購入価格・相続税額を比較して判断しましょう。
重要なポイントは以下の通りです。
- 買換え特例は課税繰延であり非課税ではない(将来売却時に課税)
- 取得費加算の特例は相続開始から3年10ヶ月以内の売却が条件
- 譲渡所得が3000万円以下なら3000万円特別控除が有利
- 小規模宅地等の特例は申告期限(10ヶ月)まで保有・居住継続が要件
- 相続登記の義務化(3年以内)により早めの手続きが必要
買い替えと相続が重なる複雑なケースでは、税理士への相談をおすすめします。戸建て売却の判断材料として、不動産会社の無料査定を活用しましょう。