相続した新築戸建ての売却|相続税・贈与税完全ガイド

公開日: 2025/10/12

相続した新築戸建ての売却|税務の基本構造

相続で取得した新築戸建てを売却する場合、相続税と譲渡所得税という2つの税金が関係します。本記事では、相続した新築戸建ての売却に関する税務知識を、国税庁の公式情報を基に体系的に解説します。

この記事で分かること:

  • 相続税と譲渡所得税の二重課税構造と計算方法
  • 新築戸建ての相続税評価方法(土地・建物)
  • 取得費加算の特例(相続開始後3年10ヶ月以内)の活用方法
  • 小規模宅地等の特例の適用要件と売却タイミング
  • 売却益の分配と贈与税の関係(遺産分割協議)
  • 相続登記の義務化と手続きの流れ

(1) 相続税と譲渡所得税の二重課税構造

相続した新築戸建てを売却する場合、相続時と売却時の2回、税金がかかります。

2つの税金の関係:

税金 課税タイミング 課税対象 税率
相続税 相続時 相続財産全体の価値 10%~55%(累進課税)
譲渡所得税 売却時 売却による利益 20.315%(長期)/39.63%(短期)

二重課税の緩和:

相続開始から3年10ヶ月以内に売却する場合、取得費加算の特例により、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。

(2) 新築戸建て特有の評価と税務処理

新築戸建ての場合、以下の特有の事情があります。

新築戸建ての特徴:

  • 建物の固定資産税評価額が建築費の60~70%程度
  • 被相続人が建築中に亡くなった場合の評価
  • 未入居の場合の小規模宅地等の特例の適用可否

新築戸建ての相続税評価|土地と建物の評価方法

(1) 土地の評価(路線価方式・倍率方式)

国税庁の財産評価解説によれば、土地の評価方法は2つあります。

路線価方式:

土地の評価額 = 路線価 × 土地面積(㎡) × 補正率

倍率方式:

土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

評価例(路線価方式、路線価40万円/㎡、150㎡):

土地の評価額 = 40万円 × 150㎡ = 6,000万円

(2) 新築建物の評価(固定資産税評価額)

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。

新築建物の評価額:

  • 建築費: 3,000万円
  • 固定資産税評価額: 約1,800万円~2,100万円(建築費の60~70%)

固定資産税評価額の確認方法:

新築の場合、建築後の最初の固定資産税納税通知書で確認できます。通知書が届く前の相続の場合は、建築費を基に概算します。

(3) 建築中に相続が発生した場合の評価

被相続人が建築中に亡くなった場合の評価方法です。

建築中の評価:

  • 相続時点までに支払った建築費用の合計額
  • 完成後の固定資産税評価額ではなく、実際の支出額

評価例:

  • 建築契約額: 3,000万円
  • 相続時点までの支払額: 2,000万円
  • 建物の評価額: 2,000万円

完成後の評価:

建築が完成した後に相続税申告する場合は、固定資産税評価額で評価します。

相続後の売却と譲渡所得税|取得費加算の特例と計算方法

(1) 譲渡所得税の計算方法

相続した新築戸建てを売却する場合の譲渡所得計算です。

譲渡所得の計算式:

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

相続不動産の取得費:

相続した不動産の取得費は、被相続人が購入(建築)した際の価格を引き継ぎます。

計算例:

  • 売却価格: 8,500万円
  • 取得費: 5,500万円(被相続人の建築費5,000万円 + 諸費用500万円)
  • 譲渡費用: 300万円
  • 譲渡所得: 8,500万円 - 5,500万円 - 300万円 = 2,700万円

税額(長期譲渡の場合):

譲渡所得税 = 2,700万円 × 20.315% = 約549万円

(2) 取得費加算の特例(相続開始後3年10ヶ月以内)

国税庁の解説によれば、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。

取得費加算額の計算:

取得費加算額 = 相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続財産の総額)

計算例:

  • 相続税総額: 1,500万円
  • 相続財産総額: 1億円(相続税評価額)
  • 売却した戸建ての相続税評価額: 7,800万円(土地6,000万円 + 建物1,800万円)
  • 取得費加算額: 1,500万円 × (7,800万円 / 1億円) = 1,170万円

取得費加算後の譲渡所得税:

  • 譲渡所得: 2,700万円
  • 取得費加算額: 1,170万円
  • 課税対象: 2,700万円 - 1,170万円 = 1,530万円
  • 譲渡所得税: 1,530万円 × 20.315% = 約311万円
  • 節税効果: 約238万円(549万円 - 311万円)

(3) 3000万円特別控除との併用

居住用財産の3,000万円特別控除と取得費加算特例の関係について解説します。

併用の可否:

2024年以降の税制では、一定の条件下で併用が可能になりました。ただし、計算が複雑なため税理士に相談することをお勧めします。

相続した新築戸建てで3,000万円控除を使うケース:

  • 相続後に実際に居住した場合
  • 被相続人が居住していた場合(特定の要件あり)

併用のメリット:

取得費加算と3,000万円控除を適切に組み合わせることで、税負担を最小限に抑えられます。

小規模宅地等の特例|適用要件と売却タイミング

(1) 小規模宅地等の特例の概要(330㎡まで80%減額)

国税庁の解説によれば、小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。

特例の内容:

  • 対象面積: 330㎡まで
  • 減額割合: 80%
  • 適用後の評価額: 20%

適用例:

  • 土地の相続税評価額: 6,000万円
  • 特例適用後: 6,000万円 × 20% = 1,200万円
  • 減額効果: 4,800万円

(2) 被相続人が未入居の新築戸建ての扱い

新築戸建てで被相続人が未入居の場合、小規模宅地等の特例の適用は原則として不可です。

未入居の場合の判断:

  • 原則: 被相続人が居住していた宅地が対象
  • 未入居の新築戸建て: 特例適用不可

例外的に適用可能なケース:

  • 被相続人が建築中に亡くなり、建築完了後すぐに相続人が居住した場合(相続人の居住用宅地として特例適用の可能性)
  • ただし、要件が厳格なため税理士に確認が必要

(3) 特例適用後の売却タイミング

小規模宅地等の特例を適用した場合の売却タイミングについて解説します。

売却タイミングの考え方:

  1. 相続税申告期限(10ヶ月)前の売却: 特例の要件(申告期限まで保有・居住)を満たせず、適用不可
  2. 相続税申告期限後の売却: 特例適用後、自由に売却可能

売却時の譲渡所得計算への影響:

小規模宅地等の特例で評価額が減額されても、売却時の取得費は被相続人の購入価格(建築費)を引き継ぎます。特例適用の有無は譲渡所得税の計算に直接影響しません。

売却益の分配と贈与税|遺産分割協議との関係

(1) 遺産分割協議書への売却想定額の記載

相続した新築戸建てを売却する前提で遺産分割する場合、協議書への記載方法が重要です。

記載方法:

  • 不動産の相続税評価額を記載
  • 売却前提の場合は「換価分割」として明記
  • 売却後の分配割合を明確に記載

換価分割の記載例:

「本件不動産を売却し、売却代金から譲渡費用を控除した残額を、相続人A(50%)、相続人B(50%)の割合で分配する」

(2) 売却益を共同相続人で分配する場合の贈与税

売却益を共同相続人で分配する場合の贈与税の扱いです。

贈与税の課税関係:

  • 遺産分割協議で定めた割合通りの分配: 贈与税は不要
  • 協議で定めた割合を超えて分配: 超過部分に贈与税が課税される可能性

具体例:

  • 売却代金: 8,500万円
  • 譲渡費用: 300万円
  • 売却益: 8,200万円
  • 協議で定めた分配割合: A(50%)、B(50%)
  • A の取得額: 4,100万円(8,200万円 × 50%)
  • B の取得額: 4,100万円(8,200万円 × 50%)

協議と異なる分配をした場合:

Aが3,000万円、Bが5,200万円を取得した場合、Aは本来の4,100万円より1,100万円少なく、Bは1,100万円多く取得したことになり、AからBへの贈与とみなされる可能性があります。

(3) 代償分割と換価分割の税務処理

遺産分割の方法によって税務処理が異なります。

代償分割:

  • 特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う
  • 代償金の支払いに贈与税はかからない

換価分割:

  • 不動産を売却し、売却代金を相続人で分配
  • 協議で定めた割合通りの分配なら贈与税は不要

税務処理の違い:

項目 代償分割 換価分割
譲渡所得税 取得した相続人のみ 相続人全員が持分に応じて負担
代償金 贈与税の対象外 -
売却時期 取得者の自由 遺産分割前に売却

相続登記の義務化|手続きの流れと期限

(1) 相続登記義務化(2024年4月~、3年以内)

法務省の公式情報によれば、2024年4月から相続登記が義務化されました。

義務化の内容:

  • 相続を知った日から3年以内に登記
  • 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料

(2) 売却前の相続登記の必要性

相続登記を完了しないと、売却することができません。

登記の順序:

相続登記(被相続人 → 相続人) → 売買による所有権移転登記(相続人 → 買主)

(3) 登記手続きの流れと必要書類

手続きの流れ:

  1. 相続人の確定(戸籍謄本の収集)
  2. 遺産分割協議の実施
  3. 遺産分割協議書の作成
  4. 法務局への登記申請

必要書類:

  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
  • 印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

登記費用:

  • 登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%
  • 司法書士報酬: 5万円~10万円

まとめ:相続した新築戸建ての売却で押さえるべきポイント

相続した新築戸建てを売却する際は、複数の税金と手続きが関係します。

重要ポイント:

  • 相続税と譲渡所得税の二重課税構造を理解し、取得費加算の特例で軽減しましょう
  • 新築建物の相続税評価額は建築費の60~70%程度です
  • 相続開始から3年10ヶ月以内の売却なら取得費加算特例が適用できます
  • 小規模宅地等の特例は未入居の新築戸建てには原則適用不可です
  • 換価分割の場合、協議書に売却想定額と分配割合を明記しましょう
  • 相続登記は義務化され、3年以内に完了しないと過料が科されます

相続と不動産売却は税務が複雑なため、税理士や司法書士などの専門家に早めに相談し、適切な手続きと税務対策を行うことをお勧めします。

よくある質問

Q1相続した新築戸建ての相続税評価額はどのように計算されますか?

A1土地は路線価方式または倍率方式で評価し、新築建物は固定資産税評価額で評価します。新築建物の固定資産税評価額は建築費の約60~70%程度が目安です。建築中に相続が発生した場合は、相続時点までに支払った建築費用の合計額で評価します。路線価は国税庁のウェブサイトで毎年7月頃に公表され、固定資産税評価額は市町村から送られる納税通知書で確認できます。

Q2相続した新築戸建てを売却する場合、取得費加算の特例はいつまで使えますか?

A2相続開始日から3年10ヶ月以内の譲渡が要件です。正確には、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月後)の翌日から3年以内です。支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。3,000万円特別控除との併用も一定の条件下で可能になっており、税理士に相談して最適な選択をすることをお勧めします。

Q3被相続人が未入居の新築戸建てでも小規模宅地等の特例は使えますか?

A3小規模宅地等の特例は被相続人が居住していた宅地が対象のため、未入居の新築戸建ては原則として特例適用不可です。ただし、被相続人が建築中に亡くなり、建築完了後すぐに相続人が居住した場合は、相続人の居住用宅地として特例適用の可能性があります。要件が厳格なため、具体的なケースは税理士に相談が必要です。

Q4相続した新築戸建ての売却益を共同相続人で分配する場合、贈与税はかかりますか?

A4遺産分割協議で定めた割合通りの分配なら贈与税は不要です。協議で定めた割合を超えて分配すると、超過部分に贈与税が課税される可能性があります。換価分割(売却前提の分割)の場合、遺産分割協議書に売却想定額と分配割合を明確に記載するのが安全です。代償分割との違いも理解し、税務処理を適切に行いましょう。

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