相続購入新築戸建てにおける相続税・贈与税の基礎知識
相続財産を使って新築戸建てを購入する場合、相続税の課税対象や贈与税のリスクを正確に把握することが重要です。代償分割による購入資金の受領、共同相続人との資金移動時の贈与認定リスク、小規模宅地等の特例との関係など、相続特有の税務処理があります。本記事では、相続購入新築戸建てにおける相続税・贈与税の実務的なポイントを解説します。
この記事のポイント
- 相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人数
- 小規模宅地等の特例で居住用宅地330㎡まで評価額を80%減額可能
- 配偶者控除で1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税
- 代償分割金の受領は適切に処理すれば贈与税の対象外
- 相続登記は3年以内に行わないと10万円以下の過料の対象
相続購入新築戸建ての相続税計算の基礎知識
(1) 相続税の基礎控除と税率
相続税は、相続により取得した財産の総額が基礎控除を超える場合に課税されます(国税庁:相続税)。
相続税の基礎控除
基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人数)
計算例
法定相続人が配偶者と子2人の場合(計3人):
基礎控除 = 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円
相続財産の総額が4,800万円以下であれば相続税は非課税です。基礎控除を超える部分に対して、以下の税率が適用されます。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | − |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(2) 相続財産の範囲
相続税の課税対象となる相続財産には以下が含まれます。
- 現金・預金
- 不動産(土地・建物)
- 有価証券(株式・債券等)
- 生命保険金(500万円×法定相続人数を超える部分)
- 死亡退職金(500万円×法定相続人数を超える部分)
- 相続開始前3年以内の贈与財産
相続財産を使って新築戸建てを購入した場合、購入した新築戸建て自体が相続財産となり、相続税の課税対象です。
(3) 申告期限(相続開始から10ヶ月)
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限は延長できないため、注意が必要です。
申告期限までに遺産分割協議が成立していない場合でも、法定相続分で申告する必要があります。後日、遺産分割協議が成立したら修正申告または更正の請求を行います。
小規模宅地等の特例の適用要件
(1) 特例の概要(最大80%減額)
小規模宅地等の特例は、相続により取得した居住用または事業用の宅地について、一定面積まで評価額を減額できる制度です(国税庁:小規模宅地等の特例)。
居住用宅地の場合
- 適用上限:330㎡まで
- 減額割合:80%
- 適用後の評価額:評価額 × 20%
計算例
土地面積300㎡、評価額6,000万円の場合:
特例適用後の評価額 = 6,000万円 × 20% = 1,200万円
減額額 = 6,000万円 − 1,200万円 = 4,800万円
この特例により、相続税の負担を大幅に軽減できます。
(2) 同居要件と居住継続要件
小規模宅地等の特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
配偶者が相続する場合
- 無条件で適用可能
同居親族が相続する場合
- 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続き居住すること
- 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続き所有すること
別居親族が相続する場合(家なき子特例)
- 相続開始前3年以内に自己または配偶者の所有する家屋に居住していないこと
- 相続税の申告期限まで所有すること
これらの要件は厳格に適用されるため、慎重に確認する必要があります。
(3) 330㎡までの適用上限
小規模宅地等の特例は、居住用宅地について330㎡まで適用できます。330㎡を超える部分は通常の評価額で計算されます。
計算例
土地面積400㎡、評価額8,000万円(1㎡あたり20万円)の場合:
【330㎡まで】
評価額 = 20万円 × 330㎡ = 6,600万円
特例適用後 = 6,600万円 × 20% = 1,320万円
【330㎡を超える部分(70㎡)】
評価額 = 20万円 × 70㎡ = 1,400万円(減額なし)
合計評価額 = 1,320万円 + 1,400万円 = 2,720万円
配偶者控除と税額軽減措置
(1) 控除の概要(1億6,000万円まで非課税)
配偶者が相続した財産については、以下のいずれか多い金額まで相続税が非課税となります(国税庁:配偶者控除)。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
計算例
相続財産総額3億円、配偶者の法定相続分1/2(1億5,000万円)の場合:
配偶者控除の上限 = max(1億6,000万円, 1億5,000万円) = 1億6,000万円
配偶者が1億6,000万円まで相続しても相続税はかかりません。
(2) 適用要件と注意点
配偶者控除を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 法律上の配偶者であること(事実婚は対象外)
- 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
- 相続税の申告書を提出すること(税額がゼロでも申告必要)
配偶者控除により一次相続では相続税が発生しなくても、配偶者が死亡した際の二次相続では多額の相続税が発生する可能性があります。
(3) 一次相続・二次相続の考慮
配偶者控除を最大限活用すると、一次相続では相続税が軽減されますが、二次相続で税負担が増える可能性があります。
シミュレーション例
- 一次相続財産:2億円
- 相続人:配偶者、子2人
パターンA:配偶者が全額相続
一次相続税:0円(配偶者控除で全額非課税)
二次相続財産:2億円
二次相続税:約4,200万円(子2人で分割)
合計税額:約4,200万円
パターンB:配偶者が1億円、子2人が各5,000万円相続
一次相続税:約1,350万円
二次相続財産:1億円
二次相続税:約1,600万円
合計税額:約2,950万円
パターンBの方が総額では税負担が軽くなります。税理士に相談し、二次相続も考慮した最適な分割方法を検討することをお勧めします。
新築戸建ての相続税評価額の算定方法
(1) 土地の評価(路線価方式・倍率方式)
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式で算定します(国税庁:不動産の評価)。
路線価方式
市街地の土地に適用されます。路線価(1㎡あたりの価格)に土地面積を乗じて計算します。
評価額 = 路線価 × 土地面積 × 補正率
路線価は国税庁のウェブサイトで公開されています。
倍率方式
路線価が設定されていない地域に適用されます。固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
(2) 建物の評価(固定資産税評価額)
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。
建物の評価額 = 固定資産税評価額
固定資産税評価額は、市町村が決定する不動産の評価額で、通常は建築費の50~70%程度です。
(3) 新築建物の評価額決定時期
新築建物の固定資産税評価額は、最初の1月1日時点で決定されます。
タイミング例
- 2024年5月に新築完成:2025年1月1日に固定資産税評価額決定
- 2024年12月に新築完成:2025年1月1日に固定資産税評価額決定
相続開始時点で固定資産税評価額が未決定の場合、建築費の50~70%を目安に評価額を算定します。正確な評価額は税理士に相談することをお勧めします。
相続登記の義務化と手続き
(1) 3年以内の登記義務
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります(法務局:相続登記の義務化)。
(2) 新築戸建ての登記手続き
新築戸建ての場合、以下の順序で登記を行います。
- 建物表題登記:建物の所在・構造・床面積等を登記(1ヶ月以内)
- 所有権保存登記:建物の所有者を登記
- 相続登記:相続により取得した場合の所有権移転登記(3年以内)
建物表題登記は土地家屋調査士、所有権保存登記と相続登記は司法書士に依頼するのが一般的です。
(3) 過料のペナルティ
相続登記を3年以内に行わない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、以下の場合は正当な理由があると認められます。
- 遺産分割協議が長期化している
- 相続人の所在が不明
- 訴訟が継続中
正当な理由がある場合でも、早めに登記手続きを進めることをお勧めします。
代償分割と贈与税の関係
(1) 代償分割金の受領
代償分割とは、特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う遺産分割の方法です。
例
相続人が子A・子Bの2人、相続財産が新築戸建て(評価額4,000万円)のみの場合:
- 子Aが新築戸建てを取得
- 子Aが子Bに代償金2,000万円を支払い
この場合、子Bが受け取る2,000万円は相続財産の代償金であり、贈与税の対象にはなりません。
(2) 贈与税課税のリスク
代償分割金が適切に処理されないと、贈与税の対象と認定されるリスクがあります。以下の点に注意が必要です。
- 遺産分割協議書に代償金の金額と支払方法を明記する
- 代償金の金額が相続財産の評価額に基づいて合理的に決定されている
- 代償金の支払いが銀行振込等で記録に残る
遺産分割協議書に明記せずに現金を渡すと、贈与と認定される可能性があります。
(3) 遺産分割協議書への記載方法
遺産分割協議書には以下の内容を明記します。
第○条(代償金の支払い)
子Aは、本件不動産を取得する代償として、子Bに対し、
金2,000万円を令和○年○月○日までに支払うものとする。
この記載により、代償金が相続財産の分配であることが明確になり、贈与税の課税リスクを回避できます。
まとめ
相続財産を使って新築戸建てを購入する場合、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える部分に相続税が課税されます。小規模宅地等の特例を活用すれば、居住用宅地330㎡まで評価額を80%減額でき、税負担を大幅に軽減できます。
配偶者控除により1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税となりますが、二次相続の税負担も考慮して最適な分割方法を検討することが重要です。代償分割金の受領は、遺産分割協議書に明記すれば贈与税の対象外となります。
相続登記は3年以内に行わないと10万円以下の過料の対象となるため、早めに手続きを進めましょう。新築建物の固定資産税評価額は最初の1月1日時点で決定されますが、未決定の場合は建築費の50~70%を目安に評価額を算定します。不明点がある場合は、税理士や司法書士に相談することをお勧めします。