新築戸建て売却の相続税・贈与税|評価と特例の完全ガイド

公開日: 2025/10/14

新築戸建て売却と相続税・贈与税|基本的な課税構造

新築戸建てを相続した場合や売却を検討する際、相続税・贈与税・譲渡所得税という複数の税金が関係します。本記事では、新築戸建ての相続と売却に関する税金の基礎知識を、国税庁の公式情報を基に体系的に解説します。

この記事で分かること:

  • 相続税と贈与税の違いと基本的な仕組み
  • 新築戸建ての相続税評価方法(土地・建物)
  • 相続した新築戸建て売却時の譲渡所得税と取得費加算特例
  • 小規模宅地等の特例の適用要件と売却タイミング
  • 相続登記の義務化(2024年4月~)の内容と手続き
  • 生前贈与と相続時精算課税制度の活用方法

(1) 相続税と贈与税の違い

相続税と贈与税は、どちらも財産の無償移転に課される税金ですが、課税タイミングと税率が異なります。

相続税と贈与税の比較:

項目 相続税 贈与税
課税タイミング 被相続人の死亡時 財産をもらった時
基礎控除 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 年110万円(暦年課税)
税率 10%~55%(累進課税) 10%~55%(累進課税)
申告期限 相続開始から10ヶ月以内 もらった年の翌年3月15日まで

国税庁の相続税解説贈与税解説によれば、どちらも富の再分配と税負担の公平性を目的とした税制です。

(2) 戸建て売却時にかかる税金の全体像

新築戸建てを相続して売却する場合、以下の税金が関係します。

関係する税金と課税タイミング:

  1. 相続税: 相続時(戸建てを含む相続財産全体に課税)
  2. 譲渡所得税: 売却時(売却による利益に課税)
  3. 登録免許税: 相続登記時・売却時の所有権移転登記
  4. 印紙税: 売買契約書に貼付

税金の流れ(相続から売却まで):

相続発生 → 相続税(10ヶ月以内) → 相続登記(3年以内義務化) → 売却 → 譲渡所得税(翌年3月15日まで)

新築戸建ての相続税評価|土地と建物の評価方法

(1) 土地の評価(路線価方式・倍率方式)

国税庁の財産評価解説によれば、相続税における土地の評価方法は主に2つあります。

路線価方式:

路線価が定められている地域で使用します。路線価は国税庁のウェブサイトで毎年7月頃に公表されます。

土地の評価額 = 路線価 × 土地面積(㎡) × 各種補正率

評価例(路線価30万円/㎡、土地面積150㎡の場合):

土地の評価額 = 30万円 × 150㎡ = 4,500万円

倍率方式:

路線価が定められていない地域で使用します。固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて計算します。

土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

路線価の確認方法:

  • 国税庁ウェブサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」
  • 住所を入力して該当地域の路線価を確認
  • 路線価は公示地価の約80%が目安

(2) 建物の評価(固定資産税評価額)

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。

固定資産税評価額の確認方法:

  • 市町村から毎年送られてくる固定資産税の納税通知書を確認
  • 「価格」欄または「評価額」欄に記載された金額
  • 新築の場合、建築費の50~70%程度が評価額の目安

新築戸建ての建物評価例:

  • 建築費: 2,500万円
  • 固定資産税評価額: 約1,500万円~1,750万円(建築費の60~70%)

注意点:

固定資産税評価額は3年に1度評価替えが行われ、建物は経年劣化により評価額が下がります。新築直後の相続では建築費に近い評価額となります。

(3) 相続税の基礎控除と計算方法

相続税には基礎控除があり、相続財産がこの額以下なら相続税はかかりません。

基礎控除額の計算式:

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人数)

法定相続人数別の基礎控除額:

法定相続人数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

相続税の計算例(法定相続人2人の場合):

  • 相続財産総額: 7,000万円(新築戸建て5,000万円 + 預金2,000万円)
  • 基礎控除額: 4,200万円
  • 課税遺産総額: 7,000万円 - 4,200万円 = 2,800万円
  • 相続税: 約280万円(法定相続分で按分後に税率を適用)

相続した新築戸建ての売却|譲渡所得税と取得費加算特例

(1) 譲渡所得税の計算方法

相続した新築戸建てを売却する場合、譲渡所得税が課税されます。

譲渡所得の計算式:

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

相続不動産の取得費:

相続した不動産の取得費は、被相続人が購入した際の価格を引き継ぎます。新築戸建ての場合は建築費が取得費となります。

計算例:

  • 売却価格: 5,500万円
  • 取得費: 4,800万円(被相続人の建築費)
  • 譲渡費用: 200万円(仲介手数料等)
  • 譲渡所得: 5,500万円 - 4,800万円 - 200万円 = 500万円
  • 譲渡所得税: 500万円 × 20.315%(長期譲渡) = 約102万円

所有期間の考え方:

相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した時点から計算されます。被相続人が5年超所有していれば、相続直後の売却でも長期譲渡所得(税率20.315%)として課税されます。

(2) 取得費加算の特例(相続開始後3年10ヶ月以内)

国税庁の解説によれば、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。

取得費加算額の計算式:

取得費加算額 = 相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続財産の総額)

計算例:

  • 相続税総額: 280万円
  • 相続財産総額: 7,000万円(相続税評価額)
  • 売却した戸建ての相続税評価額: 5,000万円
  • 取得費加算額: 280万円 × (5,000万円 / 7,000万円) = 200万円

取得費加算後の譲渡所得税:

  • 譲渡所得: 500万円(上記の例)
  • 取得費加算額: 200万円
  • 課税対象: 500万円 - 200万円 = 300万円
  • 譲渡所得税: 300万円 × 20.315% = 約61万円
  • 節税効果: 約41万円

適用期限の計算:

正確には、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月後)の翌日から3年以内です。

  • 相続開始日: 2024年3月15日
  • 相続税申告期限: 2025年1月15日
  • 取得費加算特例の期限: 2028年1月15日

(3) 3000万円特別控除との併用

居住用財産の3,000万円特別控除と取得費加算特例の関係について、正確な情報を記載します。

2024年以降の取り扱い:

従来は併用不可でしたが、税制改正により一定の条件下で併用が可能になりました。ただし、複雑な計算が必要なため、税理士に相談することをお勧めします。

相続した新築戸建てで居住用の3,000万円控除を使うケース:

  • 相続後に実際に居住した場合
  • 被相続人が居住していた場合(一定の要件あり)

小規模宅地等の特例|適用要件と売却タイミングの関係

(1) 小規模宅地等の特例の概要(330㎡まで80%減額)

国税庁の解説によれば、小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた宅地について、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。

特例の内容(特定居住用宅地等):

  • 対象面積: 330㎡まで
  • 減額割合: 80%
  • 適用後の評価額: 20%(80%減額)

適用例:

  • 土地の相続税評価額: 4,500万円(150㎡)
  • 特例適用後: 4,500万円 × 20% = 900万円
  • 減額効果: 3,600万円

相続税への影響:

  • 特例適用前の相続財産: 7,000万円
  • 特例適用後の相続財産: 3,400万円(7,000万円 - 3,600万円)
  • 基礎控除額: 4,200万円(法定相続人2人)
  • 相続税: 0円(基礎控除以下)

(2) 適用要件と注意点

小規模宅地等の特例を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

主な適用要件(配偶者以外が取得する場合):

  • 被相続人と同居していた親族が取得
  • 相続税の申告期限(10ヶ月)まで引き続き居住
  • 相続税の申告期限まで所有を継続

配偶者が取得する場合:

配偶者が取得する場合は、居住要件や所有継続要件はありません。

家なき子特例:

同居していない親族でも、一定の要件を満たせば特例を適用できる「家なき子特例」があります。

要件:

  • 相続開始前3年以内に自己または配偶者の持ち家に住んでいない
  • 過去に自己所有の家屋に住んだことがない
  • 相続税の申告期限まで所有を継続

(3) 特例適用後の売却タイミング

小規模宅地等の特例を適用した場合、売却タイミングに注意が必要です。

売却タイミングの考え方:

  1. 相続税申告期限(10ヶ月)前の売却: 特例の要件を満たせず、適用不可
  2. 相続税申告期限後の売却: 特例適用後、自由に売却可能

注意点:

  • 特例適用の要件として「申告期限まで所有・居住」が求められる
  • 申告期限前に売却すると特例が使えず、相続税が大幅に増加する可能性
  • 申告期限後であれば、売却による特例の取り消しはない

売却時の譲渡所得計算への影響:

小規模宅地等の特例で評価額が減額されても、売却時の取得費は被相続人の購入価格(建築費)を引き継ぎます。特例適用の有無は譲渡所得税の計算に直接影響しません。

相続登記の義務化|手続きの流れと期限

(1) 相続登記義務化の内容(2024年4月~)

法務省の公式情報によれば、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。

義務化の内容:

  • 相続を知った日から3年以内に登記しなければならない
  • 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
  • 2024年4月以前の相続も対象(3年の猶予期間あり)

過料の対象となるケース:

  • 相続を知っているのに意図的に登記しない
  • 登記手続きを放置している

正当な理由の例:

  • 相続人が極めて多数で調査に時間がかかる
  • 遺産分割協議が難航している
  • 訴訟が進行中

(2) 登記手続きの流れと必要書類

相続登記の手続きは、以下の流れで行います。

手続きの流れ:

  1. 相続人の確定(戸籍謄本の収集)
  2. 遺産分割協議の実施
  3. 遺産分割協議書の作成
  4. 必要書類の準備
  5. 法務局への登記申請

主な必要書類:

書類 内容
被相続人の戸籍謄本 出生から死亡までの連続した戸籍
相続人全員の戸籍謄本 現在の戸籍謄本
被相続人の住民票除票 登記上の住所との同一性確認
相続人の住民票 新しい所有者の住所証明
遺産分割協議書 相続人全員の実印押印
印鑑証明書 相続人全員分
固定資産評価証明書 登録免許税の計算用

登記費用:

  • 登録免許税: 固定資産税評価額の0.4%
  • 司法書士報酬: 5万円~10万円程度

費用例(固定資産税評価額5,000万円の場合):

  • 登録免許税: 5,000万円 × 0.4% = 20万円
  • 司法書士報酬: 約8万円
  • 合計: 約28万円

(3) 登記前の売却リスク

相続登記をしないまま売却することはできません。

登記なしで売却できない理由:

  • 所有権が被相続人のままでは、売買契約書が作成できない
  • 買主への所有権移転登記ができない
  • 金融機関の融資審査が通らない

売却前の必須手続き:

相続登記(被相続人 → 相続人) → 売買による所有権移転登記(相続人 → 買主)

相続登記を経ずに直接買主へ移転登記することはできません。必ず相続登記を完了させてから売却手続きを進める必要があります。

贈与税の基礎知識|生前贈与と相続時精算課税制度

(1) 暦年課税と相続時精算課税の違い

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2つの制度があります。

暦年課税:

  • 基礎控除: 年110万円
  • 税率: 10%~55%(累進課税)
  • 1年間(1月1日~12月31日)にもらった財産の合計額から110万円を控除

相続時精算課税:

  • 特別控除: 累計2,500万円
  • 税率: 一律20%(2,500万円超の部分)
  • 相続時に贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない

比較表:

項目 暦年課税 相続時精算課税
基礎控除 年110万円 累計2,500万円
税率 10%~55% 一律20%
相続税との関係 相続開始前3年以内の贈与は加算 すべての贈与を相続財産に加算
適用対象 誰でも 60歳以上の父母・祖父母から20歳以上の子・孫

(2) 生前贈与の活用と注意点

生前贈与は相続税対策の一つですが、注意点もあります。

暦年課税による生前贈与の活用:

年110万円以下の贈与なら贈与税がかからないため、計画的に贈与することで相続税を軽減できます。

10年間で1,100万円を贈与する例:

  • 毎年110万円を贈与 × 10年 = 1,100万円
  • 贈与税: 0円
  • 相続財産の減少: 1,100万円

注意点:

  • 相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算される
  • 定期贈与と判断されると一括贈与とみなされるリスク
  • 贈与の都度、贈与契約書を作成し、振込記録を残すことが重要

相続時精算課税の活用:

大きな金額を一度に贈与したい場合に有効です。

活用例:

  • 新築戸建て(2,500万円)を子に贈与
  • 相続時精算課税を選択
  • 贈与税: 0円(特別控除2,500万円以内)
  • 相続時に贈与財産を相続財産に加算

メリット:

  • 贈与時に税金がかからない
  • 早期に財産を移転できる

デメリット:

  • 相続時に財産が加算されるため、相続税対策にならない
  • 一度選択すると暦年課税に戻れない

まとめ:新築戸建ての相続・売却で押さえるべきポイント

新築戸建てを相続し売却する際は、複数の税金と手続きが関係します。

重要ポイント:

  • 相続税は基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)以下なら課税されません
  • 新築戸建ての相続税評価は、土地(路線価または倍率方式)と建物(固定資産税評価額)を別々に評価
  • 小規模宅地等の特例で土地評価額を最大80%減額できますが、申告期限まで所有・居住が要件です
  • 相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、取得費加算特例で相続税の一部を取得費に算入できます
  • 相続登記は2024年4月から義務化され、3年以内に登記しないと過料が科されます
  • 売却前に必ず相続登記を完了させる必要があります

相続と不動産売却は税務が複雑なため、税理士や司法書士などの専門家に早めに相談し、適切な手続きと税務対策を行うことをお勧めします。

よくある質問

Q1相続した新築戸建ての相続税評価額はどのように計算されますか?

A1土地は路線価方式または倍率方式で評価し、建物は固定資産税評価額で評価します。路線価は国税庁のウェブサイトで毎年7月頃に公表され、路線価が定められていない地域では固定資産税評価額に倍率を乗じて計算します。建物の固定資産税評価額は市町村から送られる納税通知書で確認でき、新築の場合は建築費の50~70%程度が目安です。

Q2相続した新築戸建てを売却する場合、取得費加算の特例はいつまで使えますか?

A2相続開始日から3年10ヶ月以内の譲渡が要件です。正確には、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月後)の翌日から3年以内です。例えば、2024年3月15日に相続が開始した場合、申告期限は2025年1月15日、取得費加算特例の期限は2028年1月15日となります。支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。

Q3小規模宅地等の特例を適用すると、売却時に不利になることはありますか?

A3特例適用は相続税を大幅に減額できる大きなメリットがあります。売却時の譲渡所得計算には直接影響せず、取得費は被相続人の購入価格(建築費)を引き継ぎます。ただし、特例の要件として相続税申告期限(10ヶ月)まで所有・居住が求められるため、申告期限前に売却すると特例が使えません。売却タイミングは申告期限後が安全です。

Q4相続登記をしないまま新築戸建てを売却できますか?

A4相続登記なしでの売却は不可能です。所有権が被相続人のままでは所有権移転登記ができず、買主への売却ができません。2024年4月から相続登記は3年以内の義務化され、登記せず放置すると10万円以下の過料が科されます。売却前に必ず相続登記を完了させる必要があり、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と司法書士報酬(5万円~10万円程度)がかかります。

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