中古戸建て売却の引き渡し・引越し|基礎から実践まで

公開日: 2025/10/14

この記事のポイント

中古戸建て売却時の引き渡しと引越しで押さえるべき基礎知識は以下の通りです:

  • 引き渡しは売買代金の受領と所有権移転が同時に行われる最終手続き:引き渡し当日に残代金を受け取り、買主に鍵を渡します
  • 引き渡し前の物件確認と残置物の処理:設備の状態確認と残置物の撤去を徹底し、契約違反を防ぎます
  • 引越しは引き渡し前日までに完了:引き渡し当日は物件を空にして買主に渡す必要があります
  • 住宅ローン完済と抵当権抹消:売買代金でローンを一括返済し、抵当権抹消登記を同日に実施します
  • 譲渡所得税の確定申告:売却した翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要。3000万円特別控除の適用条件を確認しましょう

1. 中古戸建て売却の引き渡しとは

中古戸建て売却の最終段階である「引き渡し」について解説します。

(1) 引き渡し(決済)の基本

**引き渡し(決済)**とは、売買代金の受領と物件の所有権移転が同時に行われる最終手続きです。国土交通省の「不動産売買における引き渡し手続きと必要書類について」(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000266.html)によると、引き渡しでは以下の手続きが行われます:

手続き 内容
残代金の受領 売買代金から手付金を差し引いた残額を買主から受け取る
所有権移転登記 司法書士が法務局で所有権移転登記を申請(通常、引き渡し当日中に完了)
抵当権抹消登記 住宅ローンが残っている場合、売買代金でローンを完済し、抵当権抹消登記を実施
鍵の受け渡し 物件の鍵と付帯設備表を買主に渡す
公共料金の精算 電気・ガス・水道等の料金を日割りで精算

引き渡しは通常、買主が住宅ローンを利用する金融機関の会議室等で行われます。売主、買主、不動産会社、司法書士が一堂に会し、書類の確認と手続きを進めます。

(2) 中古戸建て特有の注意点

中古戸建ては新築と異なり、経年劣化や設備の不具合がある場合があります。以下の点に注意しましょう:

  • 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任):引き渡し後に設備の不具合が見つかった場合、一定期間内であれば売主に修繕義務があります(個人間売買では引き渡し後3ヶ月が一般的)
  • 付帯設備表の重要性:エアコンや給湯器など付属設備の有無と状態を記した書類。引き渡し時のトラブルを防ぐため、事前に買主と合意した内容を必ず書面で確認
  • インスペクション実施の有無:住宅診断(ホームインスペクション)を実施していれば、物件の状態が明確になり、契約不適合責任の範囲を限定できます

不動産適正取引推進機構の「中古住宅取引時の注意事項とチェックポイント」(https://www.retio.or.jp/info/pdf/100/100_015.pdf)では、中古住宅取引の注意点が詳しく解説されています。

2. 引き渡し前の最終確認と準備

引き渡しをスムーズに進めるため、事前の準備が重要です。

(1) 物件の最終確認と設備チェック

引き渡し前に、買主と一緒に物件の最終確認を行います。以下の点をチェックしましょう:

建物の状態確認

  • 雨漏り、水漏れの有無
  • 壁・床・天井のひび割れ、シミ
  • 建具(ドア・窓)の開閉動作
  • 外壁・屋根の状態

設備の動作確認

  • 給湯器、エアコン、換気扇の動作
  • キッチン、バス、トイレの水回り設備
  • インターホン、照明器具
  • 床暖房、浄化槽(該当する場合)

付帯設備表との照合

  • 売買契約時に取り交わした付帯設備表と実際の設備を照合
  • 「有・無・故障」の記載が正しいか確認
  • 撤去予定の設備(エアコン等)が撤去されているか確認

付帯設備表で「有」と記載した設備は引き渡す義務があります。口頭約束は避け、必ず書面で確認しましょう。

(2) 残置物の処理と清掃

引き渡し時には、物件を空にして買主に渡す必要があります。残置物があると契約違反になるリスクがあるため、以下の点に注意しましょう:

残置物の分類

  • 撤去するもの:家具、家電、私物、不用品
  • 引き渡すもの:付帯設備表で「有」と記載した設備(エアコン、照明器具等)
  • 処分方法:自治体の粗大ゴミ回収、不用品回収業者への依頼、リサイクルショップへの売却

清掃の程度

  • 基本的な清掃(掃除機がけ、拭き掃除)は実施するのが一般的
  • ハウスクリーニング業者への依頼は必須ではありませんが、印象が良くなります(費用3〜8万円程度)
  • 庭の手入れ(草刈り、剪定)も実施すると好印象

「現況有姿(物件を現在の状態のまま引き渡す取引形態)」と契約書に記載されている場合でも、最低限の清掃と残置物の撤去は必要です。

3. 引き渡し当日の流れと必要書類

引き渡し当日は、以下の流れで手続きを進めます。

(1) 売主が準備する書類

引き渡し当日に売主が準備すべき書類は以下の通りです:

書類 内容
権利証(登記識別情報) 所有権を証明する書類
印鑑証明書 発行から3ヶ月以内のもの(所有権移転登記に必要)
実印 印鑑証明書に登録した印鑑
住民票 発行から3ヶ月以内のもの(登記に必要)
固定資産税納税通知書 固定資産税・都市計画税の日割り精算に必要
物件の鍵一式 玄関、勝手口、窓、門扉等の鍵
付帯設備表 売買契約時に取り交わした設備リスト
建築確認済証・検査済証 建物が建築基準法に適合していることを証明する書類
設備の取扱説明書 給湯器、エアコン等の取扱説明書・保証書

これらの書類は、引き渡し数日前までに準備しておきましょう。権利証を紛失している場合は、司法書士による本人確認で代用できます(費用2〜5万円程度)。

(2) 住宅ローン完済と抵当権抹消

住宅ローンが残っている場合、引き渡し当日に以下の手続きを行います:

  1. 買主からの売買代金受領:買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関から融資が実行され、売主の口座に振り込まれます
  2. 住宅ローンの一括返済:受領した売買代金でローンを一括返済します
  3. 抵当権抹消書類の受領:金融機関から抵当権抹消に必要な書類(抵当権解除証書、登記原因証明情報等)を受け取ります
  4. 抵当権抹消登記:司法書士が法務局で抵当権抹消登記を申請します(所有権移転登記と同時に実施)

金融庁の「住宅ローン返済と抵当権抹消手続き」(https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/juutaku.html)では、ローン完済時の手続きが解説されています。

重要な注意点

  • 金融機関への事前連絡が必須(引き渡し日の1週間前までに一括返済の意思を伝える)
  • 一括返済手数料が発生する場合があります(金融機関により異なる)
  • 抵当権抹消登記の費用は売主負担が一般的(登録免許税1,000円/1不動産 + 司法書士報酬1〜3万円程度)

(3) 鍵と付帯設備表の受け渡し

引き渡し当日の最後に、鍵と付帯設備表を買主に渡します:

鍵の受け渡し

  • 玄関、勝手口、窓、門扉、物置等の鍵一式
  • スペアキーも含めて全て渡す
  • 鍵の本数を買主と一緒に確認

付帯設備表の受け渡し

  • 売買契約時に取り交わした付帯設備表の原本を渡す
  • 設備の取扱説明書・保証書も一緒に渡す

その他の書類

  • 建築確認済証・検査済証の原本
  • マンション管理規約(マンションの場合)
  • リフォーム履歴書(リフォームを実施している場合)

鍵の受け渡しが完了すると、物件の占有が買主に移ります。引き渡し後は、売主は物件に立ち入ることができなくなります。

4. 引越しのタイミングと費用

中古戸建て売却時の引越しは、引き渡しスケジュールとの調整が重要です。

(1) 引き渡しと引越しのスケジュール

引き渡しと引越しのタイミングは以下のように調整しましょう:

タイミング 実施事項
引渡し1ヶ月前 引越し業者に見積もり依頼、新居の賃貸契約締結
引渡し2週間前 引越し日を確定し、引越し業者と契約
引渡し1週間前 荷造り開始、不用品の処分
引渡し前日 引越し完了、物件を空にする
引渡し当日 最終確認、鍵の受け渡し

重要な注意点

  • 引き渡し前日までに引越しを完了させるのが原則
  • 引き渡し当日に物件を空にして買主に渡す
  • 残置物があると契約違反になるリスクがあります

引越し繁忙期(3〜4月、9月)は引越し業者の予約が取りにくいため、1ヶ月前の予約を推奨します。

(2) 引越し料金の相場と時期選び

全日本トラック協会の「引越し料金の相場と時期による変動」(https://www.zentoren.jp/consumer/estimate.html)によると、引越し料金は時期と荷物量によって大きく変動します:

引越し料金の相場(戸建て3〜4人家族、移動距離50km以内)

時期 料金相場
通常期(5〜2月) 8〜15万円
繁忙期(3〜4月) 15〜30万円(通常期の2〜3倍)
超繁忙期(3月下旬〜4月上旬) 20〜40万円

引越し費用を抑えるコツ

  • 繁忙期を避ける(5月以降または2月まで)
  • 平日を選ぶ(土日祝は料金が高い)
  • 複数の業者に見積もりを依頼し、比較する
  • 不用品を事前に処分し、荷物量を減らす
  • 荷造り・荷解きを自分で行う「単身パック」等のプランを検討

引越し料金は売却費用として計上できませんが、譲渡所得の計算時に「譲渡費用」として一部認められる場合があります(詳細は税理士に確認)。

5. 引越し後の各種手続き

引越し後には、住民票の異動や公共料金の精算等の手続きが必要です。

(1) 住民票の異動手続き

総務省の「引越し時の住所変更手続き一覧」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/gaiyou.html)によると、引越し後14日以内に住民票の異動手続きが必要です:

同一市区町村内での引越し

  • 転居届:新住所の市区町村役場で手続き
  • 必要書類:本人確認書類(運転免許証、パスポート等)、印鑑

他の市区町村への引越し

  • 転出届:旧住所の市区町村役場で手続き(引越し前後14日以内)
  • 転入届:新住所の市区町村役場で手続き(引越し後14日以内)
  • 必要書類:転出証明書、本人確認書類、印鑑

その他の住所変更手続き

  • 運転免許証の住所変更(警察署または運転免許センター)
  • マイナンバーカードの住所変更(市区町村役場)
  • 銀行口座、クレジットカードの住所変更
  • 郵便物の転送届(郵便局)

(2) 公共料金の精算と解約

引き渡し日に合わせて、公共料金の精算と解約手続きを行います:

公共料金 手続き内容
電気 引き渡し日までの使用料を日割り計算し、最終請求書で支払う
ガス 引き渡し日にガス会社の係員が訪問し、メーターを確認して精算
水道 引き渡し日までの使用料を日割り計算し、最終請求書で支払う
インターネット 契約解除の申込み(1ヶ月前の通知が必要な場合が多い)
NHK受信料 住所変更または解約の手続き

公共料金の精算は、引き渡し当日に買主と日割り計算で行うのが一般的です。売主が引き渡し日まで使用した分を負担し、引き渡し日以降は買主が負担します。

6. 売却後の確定申告

中古戸建てを売却した場合、譲渡所得が発生すれば翌年に確定申告が必要です。

(1) 譲渡所得税の計算

国税庁の「譲渡所得税の計算方法と特別控除」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/jouto.htm)によると、譲渡所得は以下の計算式で算出されます:

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費:購入価格 + 購入時の諸費用(仲介手数料、登録免許税等) - 減価償却費
  • 譲渡費用:仲介手数料、印紙税、測量費、解体費等の売却にかかった費用

譲渡所得税の税率(所有期間によって異なります):

所有期間 所得税 住民税 合計
5年以下(短期譲渡所得) 30.63% 9% 39.63%
5年超(長期譲渡所得) 15.315% 5% 20.315%

重要:所有期間の判定は「売却した年の1月1日時点」で行います。例えば、2020年2月に購入し、2025年3月に売却した場合、所有期間は「2025年1月1日時点で4年」となり、短期譲渡所得として課税されます。

(2) 3000万円特別控除の適用条件

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最大3000万円を控除できる特別控除があります。主な適用条件は以下の通りです:

  • 居住用であること:自分が住んでいた家(別荘や投資用物件は対象外)
  • 居住期間:住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 適用除外:前年・前々年に3000万円特別控除や買換え特例を受けていないこと
  • 親族間売買ではないこと:配偶者や直系血族への売却は対象外

確定申告の時期

  • 売却した翌年の2月16日〜3月15日に確定申告
  • 必要書類:譲渡所得の内訳書、売買契約書のコピー、取得費・譲渡費用の領収書等

3000万円特別控除を適用すれば、譲渡所得が3000万円以下の場合は譲渡所得税がゼロになります。ただし、確定申告は必要です(申告しないと控除が適用されません)。

まとめ

中古戸建て売却時の引き渡しと引越しでは、以下のポイントを押さえましょう:

  1. 引き渡し前の物件確認:設備の状態確認と残置物の処理を徹底し、契約違反を防ぐ
  2. 引越しのタイミング:引き渡し前日までに引越しを完了させ、物件を空にする
  3. 必要書類の準備:権利証、印鑑証明書、実印、住民票等を引き渡し前に準備
  4. 住宅ローン完済:引き渡し日に売買代金でローンを一括返済し、抵当権抹消登記を実施
  5. 確定申告:売却した翌年に譲渡所得税の確定申告。3000万円特別控除の適用条件を確認

初めての売却では不安が多いですが、不動産会社や司法書士がサポートしてくれます。わからないことがあれば、専門家に相談しながら進めましょう。

よくある質問

Q1. 引き渡しの何日前までに引越しを済ませるべきですか?

A. 引き渡し前日までに引越しを完了させるのが原則です。引き渡し当日は物件を空にして買主に渡す必要があります。残置物があると契約違反になるリスクがあるため、引き渡し前日までに全ての荷物を運び出し、清掃を完了させましょう。引越し繁忙期(3〜4月、9月)は引越し業者の予約が取りにくいため、1ヶ月前の予約を推奨します。

Q2. 引き渡し時にエアコンや照明器具は残すべきですか?

A. 付帯設備表で事前に買主と合意した内容に従います。付帯設備表で「有」と記載した設備は引き渡す義務があり、「無」と記載した設備は撤去する必要があります。口頭約束は避け、必ず書面で確認しましょう。エアコンを撤去する場合は取り外し費用(1台あたり5,000〜10,000円程度)も考慮し、買主に譲渡する方がコスト削減になる場合もあります。

Q3. 住宅ローンが残っている場合、引き渡し当日の流れは?

A. 買主からの売買代金でローンを一括返済し、抵当権抹消登記を同日に実施します。具体的な流れは以下の通りです:①買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関から融資が実行され、売主の口座に振り込まれます。②受領した売買代金でローンを一括返済します。③金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取ります。④司法書士が所有権移転登記と抵当権抹消登記を同時に申請します。金融機関への事前連絡(引き渡し日の1週間前まで)が必須です。

Q4. 引き渡し後に設備の不具合が見つかったらどうなりますか?

A. 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の範囲で対応義務があります。個人間売買では引き渡し後3ヶ月が一般的な期間です。ただし、付帯設備表で「故障」と記載した設備や、インスペクション(住宅診断)で指摘された箇所については責任範囲が限定されます。契約書に契約不適合責任の期間と範囲が明記されているため、契約前に必ず確認しましょう。インスペクションを実施すれば、物件の状態が明確になり、責任範囲を限定できます。

よくある質問

Q1引き渡しの何日前までに引越しを済ませるべきですか?

A1引き渡し前日までに引越しを完了させるのが原則です。引き渡し当日は物件を空にして買主に渡す必要があります。残置物があると契約違反になるリスクがあるため、引き渡し前日までに全ての荷物を運び出し、清掃を完了させましょう。引越し繁忙期(3〜4月、9月)は引越し業者の予約が取りにくいため、1ヶ月前の予約を推奨します。

Q2引き渡し時にエアコンや照明器具は残すべきですか?

A2付帯設備表で事前に買主と合意した内容に従います。付帯設備表で「有」と記載した設備は引き渡す義務があり、「無」と記載した設備は撤去する必要があります。口頭約束は避け、必ず書面で確認しましょう。エアコンを撤去する場合は取り外し費用(1台あたり5,000〜10,000円程度)も考慮し、買主に譲渡する方がコスト削減になる場合もあります。

Q3住宅ローンが残っている場合、引き渡し当日の流れは?

A3買主からの売買代金でローンを一括返済し、抵当権抹消登記を同日に実施します。具体的な流れは以下の通りです:①買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関から融資が実行され、売主の口座に振り込まれます。②受領した売買代金でローンを一括返済します。③金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取ります。④司法書士が所有権移転登記と抵当権抹消登記を同時に申請します。金融機関への事前連絡(引き渡し日の1週間前まで)が必須です。

Q4引き渡し後に設備の不具合が見つかったらどうなりますか?

A4契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の範囲で対応義務があります。個人間売買では引き渡し後3ヶ月が一般的な期間です。ただし、付帯設備表で「故障」と記載した設備や、インスペクション(住宅診断)で指摘された箇所については責任範囲が限定されます。契約書に契約不適合責任の期間と範囲が明記されているため、契約前に必ず確認しましょう。インスペクションを実施すれば、物件の状態が明確になり、責任範囲を限定できます。

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