相続中古マンション売却における確定申告の重要性
相続により取得した中古マンションを売却した場合、原則として譲渡所得の確定申告が必要です。相続特有の税制上の特例や計算方法があり、適切に申告しないと税負担が増える可能性があります。本記事では、確定申告の具体的手順、税額計算方法、必要書類を網羅的に解説します。
この記事のポイント
- 相続マンション売却時の確定申告は譲渡所得が発生した場合に必須
- 相続税の取得費加算特例を使えば相続後3年10ヶ月以内の売却で税負担軽減
- 取得費は被相続人の購入時の金額を引き継ぐ(相続時の時価ではない)
- 居住実態があれば3,000万円特別控除が適用可能
- 必要書類は売買契約書、相続税申告書、登記事項証明書など
相続による中古マンション売却の基礎知識
(1) 相続から売却までの流れ
相続により中古マンションを取得した場合、売却までの基本的な流れは以下の通りです。
- 遺産分割協議:相続人全員でマンションの取り扱いを決定
- 相続登記:法務局で所有権移転登記(2024年4月から義務化)
- 売却活動:不動産会社に依頼して買い手を探す
- 売買契約・決済:契約締結と引き渡し
- 確定申告:翌年2月16日~3月15日に譲渡所得を申告
相続登記が完了していないと売却できないため、まずは相続登記の手続きを優先する必要があります。
(2) 遺産分割協議と共有持分
相続人が複数いる場合、マンションは相続人全員の共有財産となります。売却には原則として相続人全員の合意が必要です。遺産分割協議により特定の相続人が単独で取得することもできますが、その場合は遺産分割協議書の作成が必要です。
共有状態のまま売却する場合、各相続人の持分に応じて譲渡所得が発生し、それぞれが確定申告を行います。
(3) 売却のタイミング
相続税を支払った場合、相続開始後3年10ヶ月以内に売却すれば「相続税の取得費加算の特例」が適用できます(国税庁:相続税の取得費加算)。この期限を意識して売却時期を検討することが重要です。
譲渡所得の計算方法
(1) 譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式で求めます(国税庁:譲渡所得の計算方法)。
譲渡所得 = 売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)
- 売却価格:マンションの売却代金
- 取得費:被相続人が購入した時の価格と購入にかかった費用
- 譲渡費用:仲介手数料、印紙税など売却にかかった費用
(2) 取得費の引継ぎ(被相続人の取得費)
相続した中古マンションの取得費は、被相続人が購入した時の価格と取得時期をそのまま引き継ぎます。相続時の時価ではありません。
項目 | 内容 |
---|---|
取得費 | 被相続人の購入価格 + 購入時の費用(仲介手数料、登記費用等) |
確認方法 | 被相続人の売買契約書、領収書等で確認 |
不明な場合 | 売却価格の5%を概算取得費として使用可能(ただし税負担増) |
(3) 譲渡費用の範囲
譲渡費用として認められる主な費用は以下です。
- 仲介手数料
- 売買契約書の印紙税
- 登記費用(抵当権抹消など)
- 測量費
- 売却のための広告費
(4) 所有期間の引継ぎ
譲渡所得税は所有期間により税率が異なります。
- 長期譲渡所得(5年超):所得税15%、住民税5%
- 短期譲渡所得(5年以内):所得税30%、住民税9%
相続の場合、被相続人が取得した日から計算します。判定日は売却した年の1月1日時点です。
相続マンション売却で使える控除・特例
(1) 相続税の取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)
相続税を支払った人が、相続開始後3年10ヶ月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます(国税庁:相続税の取得費加算)。
計算式
加算できる相続税額 = 相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)
この特例により譲渡所得が減少し、税負担が軽減されます。
(2) 3,000万円特別控除(居住実態がある場合)
マイホームを売却した場合、3,000万円の特別控除が適用できます(国税庁:マイホームを売ったときの特例)。
適用条件
- 自己の居住用財産であること
- 居住しなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却
- 相続した場合でも、相続人が居住していれば適用可能
(3) 空き家特例(マンションは原則適用不可)
被相続人が一人暮らしだった住宅を相続し、一定要件を満たして売却した場合に3,000万円控除が受けられます(国税庁:空き家特例)。
ただし、マンションには原則として適用されません。区分所有建物は対象外とされているためです。
(4) 特例の併用と計算順序
相続税の取得費加算と3,000万円特別控除は併用可能ですが、計算順序に注意が必要です。
- まず譲渡所得を計算
- 相続税の取得費加算を適用して譲渡所得を減額
- 残った譲渡所得から3,000万円特別控除を適用
確定申告の手続きと必要書類
(1) 譲渡所得の内訳書
確定申告書Bに加えて、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」を作成します。この書類に売却価格、取得費、譲渡費用などを記載します。
(2) 売買契約書と相続時の書類
書類 | 目的 |
---|---|
売却時の売買契約書のコピー | 売却価格の証明 |
被相続人の購入時の売買契約書のコピー | 取得費の証明 |
遺産分割協議書のコピー | 相続による取得の証明 |
登記事項証明書 | 所有権の証明 |
(3) 相続税申告書のコピー
相続税の取得費加算の特例を適用する場合、相続税申告書の第11表(相続税がかかる財産の明細書)のコピーを添付します。
(4) 登記事項証明書
法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)を添付します。相続登記が完了していることの証明になります。
(5) 被相続人の購入時契約書
被相続人が購入した時の売買契約書が取得費の証明になります。見つからない場合は概算取得費(売却価格の5%)を使用しますが、税負担が増えるため、可能な限り契約書を探すことをお勧めします。
相続登記と売却の流れ
(1) 相続登記の義務化(2024年4月~)
2024年4月から相続登記が義務化されました(法務局:相続登記)。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
(2) 相続登記の必要書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
- 固定資産評価証明書
(3) 登記完了後の売却手続き
相続登記が完了すれば、通常の不動産売却と同様の手続きで売却できます。不動産会社に仲介を依頼し、買い手を探します。
よくある税務上の注意点
(1) 取得費不明の場合の概算取得費5%
被相続人の購入時契約書が見つからない場合、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。しかし、これは実際の取得費より大幅に低くなることが多く、税負担が増えます。
計算例
- 売却価格:3,000万円
- 概算取得費:150万円(3,000万円×5%)
- 譲渡費用:100万円
- 譲渡所得:2,750万円(3,000万円−150万円−100万円)
購入時契約書があれば取得費が2,500万円だった場合、譲渡所得は400万円となり、税負担が大幅に軽減されます。
(2) 相続人が複数いる場合の按分
共有持分で売却した場合、譲渡所得は各相続人の持分に応じて按分します。各相続人がそれぞれ確定申告を行います。
(3) 被相続人の購入時書類の確認
相続が発生したら、早めに被相続人の重要書類を確認し、不動産の購入時契約書や領収書を探しましょう。これらがあるかないかで税負担が大きく変わります。
(4) 税制改正への対応
税制は毎年改正される可能性があります。最新の情報は国税庁のウェブサイトや税理士に確認することをお勧めします。
まとめ
相続により取得した中古マンションを売却した場合の確定申告は、相続特有の計算方法や特例があるため注意が必要です。特に、相続税の取得費加算特例は相続後3年10ヶ月以内という期限があり、この期間内に売却すれば税負担を大幅に軽減できます。
取得費は被相続人の購入時の金額を引き継ぐため、購入時契約書の確認が重要です。書類が見つからない場合は概算取得費5%となり、税負担が増えるため、可能な限り書類を探しましょう。
確定申告は翌年2月16日から3月15日までに行う必要があります。必要書類を早めに準備し、不明点があれば税理士や税務署に相談することをお勧めします。