買い替え売却中古マンションの確定申告・計算・書類|完全ガイド

公開日: 2025/10/14

買い替え売却中古マンションの確定申告の全体像

中古マンションを売却して新居を購入する「買い替え」では、通常の売却とは異なる税制優遇措置が複数用意されています。譲渡益が出た場合の買換え特例(課税の繰延べ)、損失が出た場合の損益通算及び繰越控除など、知らないと損をする制度があります。

ただし、これらの特例は選択適用が原則で、併用できないケースも多いため、自分の状況に最適な制度を選ぶことが重要です。この記事では、買い替え時の確定申告の仕組み、各種特例の適用要件、必要書類まで体系的に解説します。

この記事のポイント

  • 買換え特例は税の繰延べであり免除ではない(将来売却時に課税)
  • 3000万円特別控除と買換え特例は併用不可(選択が必要)
  • 譲渡損失が出た場合は損益通算で給与所得等から控除できる
  • 所有期間5年超、売却・購入時期(前後1年以内)など要件確認が必須
  • 特例適用でも確定申告は必要(申告しないと特例が受けられない)

1. 買い替え売却中古マンションの確定申告が必要なケース

(1) 譲渡所得がプラスになる場合

マンションの売却価格が取得費と譲渡費用の合計を上回り、譲渡所得がプラスになる場合は原則として確定申告が必要です。譲渡所得の計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費には購入代金のほか、購入時の仲介手数料や登記費用が含まれますが、建物部分は減価償却後の金額で計算します。譲渡費用には売却時の仲介手数料、測量費、契約書の印紙代などが該当します。

(2) 特例適用で税額ゼロでも申告が必要

買換え特例や3000万円特別控除を適用して税額がゼロになる場合でも、確定申告は必須です。申告しなければ特例が受けられず、後から多額の税金を請求される可能性があります。

売却の翌年2月16日~3月15日の確定申告期間内に、必要書類とともに税務署へ申告してください。

2. 譲渡所得の計算方法と税率

(1) 取得費の計算と減価償却

取得費の計算では、建物部分の減価償却が重要なポイントです。マンションは土地と建物に分けて考え、建物部分は所有期間に応じて価値が減少します。

減価償却の計算式(非業務用建物):

減価償却費 = 建物購入価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

償却率は建物の構造により異なり、鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションは0.015が標準です。例えば、建物価格2000万円、所有期間10年のRC造マンションの場合:

減価償却費 = 2000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年 = 270万円
取得費(建物部分) = 2000万円 - 270万円 = 1730万円

取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できますが、実際の取得費より不利になるケースが多いため、購入時の売買契約書は必ず保管しておきましょう。

(2) 譲渡費用に含められる費用

譲渡費用として認められる主な費用は以下の通りです。

費用項目 内容
仲介手数料 売却時に不動産会社へ支払った手数料
測量費 土地の境界確定のための測量費用
印紙税 売買契約書に貼付した収入印紙代
建物解体費 売却のために建物を取り壊した費用
違約金 売買契約解除に伴う違約金

修繕費や固定資産税など、売却に直接関係しない費用は譲渡費用に含められません。

(3) 短期譲渡と長期譲渡の税率差

譲渡所得税は、売却した年の1月1日時点での所有期間により税率が大きく異なります。

所有期間 分類 所得税率 住民税率 合計税率
5年以下 短期譲渡所得 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期譲渡所得 15.315% 5% 20.315%

所有期間が5年を超えるかどうかで、税率が約2倍も変わります。買い替えのタイミングを検討する際は、所有期間の判定日(売却年の1月1日)を必ず確認しましょう。

3. 買換え特例の仕組みと適用要件

(1) 譲渡益の繰り延べの仕組み

「特定の居住用財産の買換えの特例」(買換え特例)は、マイホームを買い替えた場合に譲渡益への課税を将来に繰り延べる制度です。税金が免除されるわけではなく、新居を将来売却する際に、今回の譲渡益も含めて課税される点に注意が必要です。

例えば、取得費2000万円のマンションを5000万円で売却(譲渡益3000万円)し、新居を6000万円で購入した場合、買換え特例を適用すると今回の売却では課税されません。ただし、将来新居を売却する際の取得費は、旧マンションの取得費2000万円を引き継ぐため、結果的に課税が繰り延べられる仕組みです。

(2) 適用要件(所有期間5年超・売却購入時期等)

買換え特例の主な適用要件は以下の通りです。

旧マンション(売却物件)の要件:

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間が10年超
  • 居住期間が10年以上
  • 売却価格が1億円以下
  • 売却した年の前年及び前々年に3000万円特別控除等を受けていない

新居(買換え資産)の要件:

  • 旧マンションの売却年の前年から翌年までに取得
  • 取得年の翌年12月31日までに居住または居住見込み
  • 建物の床面積が50平米以上
  • 土地の面積が500平米以下

売却と購入のタイミングが前後1年以内に収まることが重要で、この期間を超えると特例が適用できません。

(3) 買換え資産の要件

新居は、国内にある自己の居住用家屋及びその敷地である必要があります。床面積50平米以上という要件は、登記簿上の面積で判定されます(パンフレットの専有面積ではありません)。

また、新居の取得後1年以内に居住を開始しなければならず、投資用や別荘としての取得は対象外です。

4. 3000万円特別控除との選択判断

(1) 両特例の併用不可

買換え特例と3000万円特別控除は選択適用であり、併用できません。どちらを選ぶべきかは、譲渡益の金額や新居の価格によって異なります。

(2) どちらが有利かの判断基準

3000万円特別控除が有利なケース:

  • 譲渡益が3000万円以下の場合(控除により税額がゼロになる)
  • 新居を将来売却する予定がある場合(買換え特例だと将来課税される)
  • 新居で住宅ローン控除を受けたい場合(買換え特例との併用不可)

買換え特例が有利なケース:

  • 譲渡益が3000万円を大きく超える場合
  • 新居を長期間保有し、将来の売却予定がない場合
  • 新居の価格が旧マンションの売却価格を上回る場合

税理士や不動産会社に相談し、具体的な数字で試算することをおすすめします。

(3) 住宅ローン控除との関係

新居で住宅ローン控除を受ける場合、売却年の前後2年(計5年間)は買換え特例と併用できません。住宅ローン控除は最大10~13年間で数百万円の減税効果があるため、多くのケースでは3000万円特別控除+住宅ローン控除の組み合わせが有利です。

5. 譲渡損失が出た場合の損益通算と繰越控除

(1) 譲渡損失の損益通算の仕組み

売却価格が取得費と譲渡費用の合計を下回り、譲渡損失が出た場合、**「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」**の特例を適用できます。

この特例では、譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算でき、その年の所得税・住民税を減らすことが可能です。例えば、譲渡損失が500万円、給与所得が600万円の場合、課税所得は100万円となり、大幅な減税効果があります。

(2) 繰越控除の適用要件

損益通算しても控除しきれない譲渡損失は、翌年以降最大4年間繰り越して控除できます。

主な適用要件は以下の通りです。

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超
  • 売却した年の前年から翌年までに新居を取得
  • 新居で**住宅ローン(返済期間10年以上)**を組む
  • 合計所得金額が3000万円以下

この特例は住宅ローン控除と併用可能なため、譲渡損失が出た場合は積極的に活用しましょう。

(3) 最大4年間の繰越し

繰越控除の適用を受けるには、損失が出た年以降、連続して確定申告を行う必要があります。1年でも申告を忘れると、以降の繰越控除が受けられなくなるため注意してください。

6. 必要書類の準備と確定申告書の記入手順

(1) 売却時に必要な書類一覧

買い替え売却の確定申告で必要な主な書類は以下の通りです。

売却に関する書類:

  • 売買契約書のコピー(売却時・購入時の両方)
  • 仲介手数料や測量費等の領収書
  • 登記事項証明書(全部事項証明書)
  • 譲渡所得の内訳書(税務署で入手またはe-Taxで作成)

特例適用のための書類:

  • 戸籍の附票のコピー(居住していたことの証明)
  • 住民票のコピー(売却時・新居取得時)
  • 買換え特例適用の場合:買換資産の登記事項証明書、売買契約書
  • 損益通算適用の場合:新居の住宅ローンの年末残高証明書

(2) 新居購入に関する書類

買換え特例や譲渡損失の繰越控除を適用する場合、新居に関する以下の書類も必要です。

  • 新居の売買契約書のコピー
  • 新居の登記事項証明書
  • 住宅ローンの年末残高証明書(損益通算の場合)
  • 耐震基準適合証明書または住宅性能評価書(中古住宅の場合)

(3) 確定申告書第三表の記入ポイント

譲渡所得がある場合、**確定申告書第三表(分離課税用)**を使用します。記入時のポイントは以下の通りです。

  • 譲渡所得の金額欄に、計算した譲渡所得を記入
  • 特別控除額欄に、3000万円特別控除を適用する場合は控除額を記入
  • 税額計算欄で、短期・長期の区分に応じた税率を適用
  • 特例適用欄に、適用する特例のコードを記入

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、必要事項を入力するだけで自動計算されるため便利です。不明点があれば、税務署の相談窓口や税理士に相談しましょう。

まとめ

買い替えに伴う中古マンション売却の確定申告では、買換え特例、3000万円特別控除、譲渡損失の損益通算など、複数の税制優遇措置を選択できます。ただし、これらは併用できないケースが多く、自分の状況に最適な制度を選ぶことが重要です。

特に重要なポイント:

  • 買換え特例は税の繰延べであり免除ではない
  • 所有期間、売却・購入時期など要件確認が必須
  • 特例適用でも確定申告は必要(申告しないと適用されない)
  • 住宅ローン控除との併用可否を確認
  • 譲渡損失が出た場合は損益通算で大幅な減税が可能

買い替えは人生で何度もない大きな取引です。税制を正しく理解し、最大限の優遇措置を受けるためにも、早めに税理士や不動産会社に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1買換え特例と3000万円特別控除はどちらを選ぶべきですか?

A1譲渡益が3000万円以下なら3000万円特別控除の適用で税額がゼロになるため、こちらが有利です。譲渡益が3000万円を大きく超え、新居を長期保有する予定なら買換え特例も選択肢になります。ただし、新居で住宅ローン控除を受ける場合は買換え特例と併用できないため、多くのケースでは3000万円控除+住宅ローン控除の組み合わせが有利になります。具体的な金額で試算し、税理士に相談することをおすすめします。

Q2売却で損失が出た場合、確定申告は必要ですか?

A2譲渡損失がある場合、確定申告は法律上必須ではありません。ただし、「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を適用する場合は確定申告が必要です。この特例を使えば、譲渡損失を給与所得等と損益通算でき、さらに控除しきれない損失は最大4年間繰り越せます。大幅な減税効果があるため、譲渡損失が出た場合は積極的に申告しましょう。

Q3買換え特例の適用要件を教えてください

A3主な要件は、売却した年の1月1日時点で所有期間が10年超、居住期間が10年以上、売却価格が1億円以下などです。また、新居は売却年の前年から翌年までに取得し、床面積50平米以上である必要があります。売却と購入のタイミングが前後1年以内に収まることが重要で、所有期間は売却年の1月1日時点で判定される点に注意してください。詳細な要件は国税庁の資料で確認しましょう。

Q4住宅ローン控除を受けている場合、買換え特例は使えますか?

A4新居で住宅ローン控除を受ける場合、売却年の前後2年(計5年間)は買換え特例と併用できません。住宅ローン控除は最大10~13年間で数百万円の減税効果があるため、多くのケースでは3000万円特別控除+住宅ローン控除の組み合わせが有利です。どちらが有利かは譲渡益の金額、住宅ローン残高、所得水準などにより異なるため、具体的な数字で試算することをおすすめします。

Q5確定申告の期限はいつまでですか?

A5不動産を売却した年の翌年2月16日~3月15日が確定申告期間です。買換え特例や3000万円特別控除を適用する場合、この期間内に必要書類とともに申告しなければ特例が受けられません。期限を過ぎると特例が適用できず、多額の税金を支払うことになる可能性があるため、早めに準備を進めましょう。e-Taxを利用すれば自宅からでも申告できます。

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