買い替えで中古マンションを購入される方へ
住宅買い替えで中古マンションを購入する際、住宅ローン控除を受けるには初年度の確定申告が必須です。同時に旧居を売却する場合、3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを優先すべきか判断が必要になります。
中古マンションの住宅ローン控除は、新築に比べて控除期間が短く(10年)、借入限度額も低い(一般住宅2,000万円)ですが、購入価格も低いため実質的な節税効果は大きいと言えます。
この記事で分かること(要約)
- 住宅ローン控除を受けるには初年度の確定申告が必須で、2年目以降は会社員なら年末調整で手続き可能
- 旧居売却で3,000万円控除を使うと、売却年と前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が使えない
- 中古マンションの控除期間は10年で、一般住宅なら年間最大14万円×10年=140万円、認定住宅なら年間最大21万円×10年=210万円
- 築年数が1982年以降の建築(新耐震基準)、または耐震基準適合証明書・既存住宅売買瑕疵保険付きであれば適用可能
- 確定申告に必要な書類は登記事項証明書・売買契約書・住宅ローン年末残高証明書等で、申告期限は入居年の翌年2月16日〜3月15日
1. 買い替え中古マンション購入時の確定申告の基礎知識
(1) 買い替えにおける税務手続きの全体像
買い替えで中古マンションを購入する場合、以下の税務手続きが発生する可能性があります。
項目 | 確定申告の要否 | 申告時期 |
---|---|---|
旧居売却の譲渡所得 | 譲渡所得がある場合は必要 | 売却年の翌年2月16日〜3月15日 |
新居購入の住宅ローン控除 | 初年度は必要(2年目以降は年末調整可) | 入居年の翌年2月16日〜3月15日 |
不動産取得税 | 確定申告不要(都道府県税) | 取得後60日以内に申告 |
登録免許税 | 確定申告不要(登記時に納付) | 登記時 |
(2) 売却と購入の確定申告のタイミング
国税庁「確定申告の手続」によれば、売却と購入が同じ年の場合、1回の確定申告で両方を処理できます。
例: 2025年に旧居売却・新居購入
- 申告期間: 2026年2月16日〜3月15日
- 申告内容: 旧居の譲渡所得 + 新居の住宅ローン控除
売却と購入が異なる年の場合、それぞれの年の翌年に確定申告が必要です。
(3) 中古と新築の税制の違い
中古マンションと新築マンションでは、住宅ローン控除の内容が異なります。
項目 | 中古マンション | 新築マンション |
---|---|---|
控除期間 | 10年 | 13年 |
借入限度額(一般住宅) | 2,000万円 | 3,000万円 |
借入限度額(認定住宅) | 3,000万円 | 5,000万円 |
年間最大控除額(一般住宅) | 14万円 | 21万円 |
中古マンションの方が控除額は少ないですが、購入価格も低いため、実質的な節税効果は大きいと言えます。
2. 住宅ローン控除の仕組みと適用要件
(1) 住宅ローン控除の基本的な計算方法
国税庁「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」によれば、住宅ローン控除は年末のローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は住民税からも一部)から控除できる制度です。
控除額の計算式
- 年間控除額 = 年末ローン残高 × 0.7%(借入限度額まで)
例: 年末ローン残高2,500万円、一般中古マンションの場合
- 借入限度額: 2,000万円
- 年間控除額: 2,000万円 × 0.7% = 14万円
(2) 控除の適用要件(床面積・所得制限・居住要件)
国税庁「中古住宅を取得した場合の特例」によれば、中古マンションで住宅ローン控除を受けるには以下の要件を満たす必要があります。
主な要件
- 合計所得金額2,000万円以下
- 床面積50㎡以上(登記簿面積)
- 住宅ローンの返済期間10年以上
- 取得後6ヶ月以内に居住開始
- 控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
(3) 中古マンションの築年数要件と耐震基準
中古マンションの場合、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
築年数要件または耐震基準
- 1982年(昭和57年)以降の建築(新耐震基準)
- 耐震基準適合証明書を取得している
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入している
- 既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)を取得している
2024年以降の税制改正により、築年数要件が緩和され、1982年以降の建築であれば適用可能となりました。
3. 旧居売却との税制併用制限と選択基準
(1) 3,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用制限
国税庁「住宅ローン控除と買換え特例の併用」によれば、旧居売却で3,000万円特別控除を使うと、売却年と前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が使えません。
併用制限の期間
- 売却年の前々年・前年
- 売却年
- 売却年の翌年・翌々年
例: 2025年に旧居売却、2025年に新居購入
- 3,000万円控除を使う → 2023年〜2027年の5年間は住宅ローン控除不可
- 住宅ローン控除を使う → 2023年〜2027年の5年間は3,000万円控除不可
(2) どちらを選択すべきかの判断基準
どちらの特例を優先すべきかは、旧居の譲渡益と新居のローン残高により異なります。
3,000万円特別控除が有利なケース
- 旧居の譲渡益が大きい(2,000万円以上)
- 新居のローン残高が少ない(1,000万円以下)
- 短期譲渡所得(所有期間5年以内、税率39.63%)
住宅ローン控除が有利なケース
- 旧居の譲渡益が小さい(1,000万円以下)
- 新居のローン残高が大きい(2,000万円以上)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超、税率20.315%)で譲渡益が少ない
例: 譲渡益1,000万円(長期譲渡)、ローン残高2,000万円の場合
3,000万円控除を使う場合
- 譲渡所得税: 0円(3,000万円控除で全額控除)
- 住宅ローン控除: 0円(使えない)
- 合計節税額: 約203万円(1,000万円 × 20.315%)
住宅ローン控除を使う場合
- 譲渡所得税: 約203万円(1,000万円 × 20.315%)
- 住宅ローン控除: 14万円 × 10年 = 140万円
- 合計節税額: 140万円
この例では、3,000万円控除の方が有利です。
(3) 売却と購入のタイミング調整による税務影響
売却と購入のタイミングを調整することで、併用制限を回避できる可能性があります。
例: 2025年に旧居売却、2028年に新居購入
- 旧居売却: 2025年に3,000万円控除を使う
- 併用制限期間: 2023年〜2027年
- 新居購入: 2028年なら住宅ローン控除が使える
ただし、タイミング調整により賃貸住宅の家賃負担が発生するため、総合的な判断が必要です。
4. 買い替え時の税金計算方法
(1) 住宅ローン控除による税額軽減の計算
例: 中古マンション購入価格3,000万円、ローン残高2,500万円の場合
一般中古マンション
- 借入限度額: 2,000万円
- 年間控除額: 2,000万円 × 0.7% = 14万円
- 10年間の最大控除額: 14万円 × 10年 = 140万円
認定長期優良住宅
- 借入限度額: 3,000万円
- 年間控除額: 2,500万円 × 0.7% = 17.5万円
- 10年間の最大控除額: 17.5万円 × 10年 = 175万円
(2) 登録免許税・不動産取得税の計算
国税庁・総務省「登録免許税・不動産取得税」によれば、中古マンション購入時には以下の税金がかかります。
登録免許税(所有権移転登記)
- 本則: 固定資産税評価額 × 2.0%
- 軽減税率: 固定資産税評価額 × 0.3%(2027年3月31日まで)
例: 固定資産税評価額1,500万円の場合
- 軽減税率: 1,500万円 × 0.3% = 4.5万円
抵当権設定登記
- 本則: 借入額 × 0.4%
- 軽減税率: 借入額 × 0.1%(2027年3月31日まで)
例: 借入額2,500万円の場合
- 軽減税率: 2,500万円 × 0.1% = 2.5万円
不動産取得税
- 税率: (固定資産税評価額 - 控除額)× 3%
- 控除額: 1,200万円(新築時の年により異なる)
例: 固定資産税評価額1,500万円の場合
- (1,500万円 - 1,200万円)× 3% = 9万円
(3) 軽減措置の適用と要件
登録免許税・不動産取得税の軽減措置を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
主な要件
- 床面積50㎡以上(登記簿面積)
- 築年数が1982年以降、または耐震基準適合
- 自己居住用
5. 確定申告に必要な書類と準備タイミング
(1) 住宅ローン控除の初年度申告書類
確定申告時に必要な書類は以下の通りです。
書類名 | 取得先 | 備考 |
---|---|---|
確定申告書 | 国税庁ホームページ | e-Taxでも作成可能 |
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書 | 国税庁ホームページ | 控除額を計算 |
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 | 金融機関 | 10月〜11月頃に送付 |
源泉徴収票 | 勤務先 | 会社員の場合 |
登記事項証明書(全部事項証明書) | 法務局 | 取得後3ヶ月以内推奨 |
売買契約書の写し | 購入時の書類 | 取得価格を証明 |
住民票の写し | 市区町村役場 | 居住開始年月日を証明 |
(2) 中古マンション特有の追加書類
中古マンションの場合、以下の追加書類が必要です。
築年数要件を満たす場合
- 登記事項証明書(建築年月日が1982年以降であることを証明)
耐震基準適合証明書等を取得する場合
- 耐震基準適合証明書
- または既存住宅売買瑕疵保険の保険証券
- または既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)
(3) 買い替え時の追加書類(旧居売却がある場合)
旧居売却で譲渡所得を申告する場合、以下の追加書類が必要です。
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書の写し(旧居売却時、旧居購入時)
- 領収書(仲介手数料等)
- 登記事項証明書(旧居)
6. 買い替え中古マンション購入時の税務上の注意点
(1) 登記簿面積(内法)での床面積要件
住宅ローン控除の床面積要件は、登記簿面積(内法)で50㎡以上です。
マンションの場合、販売図面の専有面積(壁芯面積)と登記簿面積(内法面積)が異なることがあります。壁芯面積が50㎡でも、内法面積が50㎡未満の場合は住宅ローン控除を受けられません。
購入前に登記簿謄本で内法面積を確認することをおすすめします。
(2) 築年数要件と耐震基準適合
1982年以前の建築マンションでも、耐震基準適合証明書や既存住宅売買瑕疵保険を取得すれば住宅ローン控除を受けられます。
ただし、これらの証明書取得には費用(10〜20万円程度)と時間(1〜2ヶ月)がかかるため、購入前に売主と調整が必要です。
(3) 所得制限と控除額の関係
住宅ローン控除は所得税から控除されるため、所得税額が少ない場合、控除しきれない可能性があります。
例: 年間控除額14万円、所得税額10万円の場合
- 所得税から控除: 10万円
- 控除しきれない額: 4万円 → 住民税から一部控除(上限9.75万円)
控除しきれない場合でも、住民税からも一部控除されるため、無駄にはなりません。
まとめ
買い替えで中古マンションを購入する際、住宅ローン控除を受けるには初年度の確定申告が必須です。旧居売却で3,000万円特別控除を使うと、売却年と前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除が使えないため、どちらを優先すべきか税額をシミュレーションして判断しましょう。
中古マンションの住宅ローン控除は、控除期間10年で一般住宅なら年間最大14万円×10年=140万円、認定住宅なら年間最大21万円×10年=210万円です。新築より控除額は少ないですが、購入価格も低いため実質的な節税効果は大きいと言えます。
確定申告に必要な書類は登記事項証明書・売買契約書・住宅ローン年末残高証明書等で、申告期限は入居年の翌年2月16日〜3月15日です。築年数が1982年以降の建築、または耐震基準適合証明書・既存住宅売買瑕疵保険付きであれば適用可能です。登記簿面積(内法)で50㎡以上の要件にも注意してください。