離婚でのマンション売却と確定申告|財産分与と税金の完全ガイド

公開日: 2025/10/19

離婚によるマンション売却と確定申告:知っておくべき基本

離婚に伴って中古マンションを売却する場合、確定申告が必要になるケースがあります。財産分与自体は非課税ですが、売却によって譲渡所得が発生した場合は課税対象となります。さらに、離婚前に売却するか離婚後に売却するかで税務上の取り扱いが変わる点にも注意が必要です。

本記事のポイント

  • 財産分与自体は非課税だが、売却による譲渡所得は課税対象
  • 離婚前の売却と離婚後の売却で3,000万円特別控除の適用条件が変わる
  • 共有名義の場合、持分に応じて各自が確定申告を行う
  • 取得費の引継ぎや譲渡費用の計算方法を正しく理解する必要がある
  • 売却タイミングにより税負担が大きく変わる可能性がある

離婚による中古マンション売却の基礎知識

(1) 離婚時の財産分与の方法

離婚に伴う中古マンションの財産分与には、主に2つの方法があります。

方法 内容 メリット デメリット
名義変更 マンションを一方の名義に変更 売却せずに住み続けられる 住宅ローン残債がある場合は困難
売却して現金分配 マンションを売却して現金で分配 公平な分配がしやすい 引越しが必要、売却費用がかかる

住宅ローンの残債がある場合、金融機関の承諾が必要になるため、売却して現金化する方法が選ばれることが多いです。

(2) 名義変更と売却の選択

名義変更する場合と直接売却する場合では、税務上の取り扱いが異なります。

  • 名義変更(財産分与): 財産分与による名義変更自体には譲渡所得税は発生しません
  • その後の売却: 名義を受けた側が後日売却する場合、元の取得時期・取得費を引き継いで譲渡所得を計算します
  • 直接売却: 離婚前に共同で売却する場合、持分に応じて各自が譲渡所得を申告します

(3) 離婚成立時期と売却時期のタイミング

離婚前に売却するか、離婚後に売却するかで、3,000万円特別控除の適用可否が変わる可能性があります。

  • 離婚前の売却: 配偶者への譲渡でも居住用財産の3,000万円特別控除が適用できる可能性がある
  • 離婚後の売却: 元配偶者への譲渡は特殊関係者への譲渡として特例が適用できない場合がある

税理士に相談して、最も税負担が少ないタイミングを検討することをお勧めします。

財産分与と譲渡所得の関係

(1) 財産分与と譲渡所得税

国税庁の解説によると、財産分与による資産の移転自体は譲渡所得税の対象とはなりません。ただし、以下のケースでは課税される可能性があります。

  • 著しく過大な財産分与: 分与された財産の価額が婚姻中の貢献度等を考慮しても過大である場合、その過大部分は贈与とみなされる
  • 譲渡者側の課税: 分与する資産に含み益がある場合(取得時より値上がりしている場合)、譲渡所得税が課される

中古マンションを売却して現金で分配する場合、売却による譲渡所得は通常通り課税対象となります。

(2) 名義変更後の売却と直接売却の違い

パターン1: 名義変更後の売却

  1. 離婚時に財産分与でマンションを一方に名義変更(課税なし)
  2. 名義を受けた側が後日マンションを売却(譲渡所得課税)

パターン2: 直接売却

  1. 離婚前または離婚時にマンションを売却
  2. 売却益を現金で分配
  3. 持分に応じて各自が譲渡所得を申告

パターン1の場合、取得時期や取得費は元の購入時のものを引き継ぎます。パターン2の場合、持分50%ずつなら売却益も50%ずつ按分します。

(3) 取得費の引継ぎ

財産分与により不動産を取得した場合、元の取得費と取得時期を引き継ぎます

  • 夫が10年前に3,000万円で購入したマンションを財産分与で妻に譲渡
  • その後、妻が5年後に3,500万円で売却
  • 妻の譲渡所得計算では、取得費3,000万円(夫の購入時の価格)を使用
  • 所有期間は夫が購入した時点から通算されるため、長期譲渡所得(税率20.315%)として計算

離婚マンション売却で使える控除・特例

(1) 3,000万円特別控除の適用条件

居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除は、離婚に伴う売却でも適用できる可能性があります。

主な適用要件:

  • 自分が住んでいる家屋を売却すること(または家屋とともにその敷地を売却すること)
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却先が配偶者、直系血族、生計を一にする親族などでないこと
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

(2) 離婚前・離婚後の適用の違い

離婚前の売却
配偶者への譲渡でも、居住用財産としての要件を満たせば3,000万円特別控除が適用できる可能性があります。ただし、実態として居住していたかどうかが重要です。

離婚後の売却
離婚が成立した後は「元配偶者」となり、特殊関係者への譲渡として3,000万円特別控除が適用できない場合があります。

第三者への売却
離婚前後にかかわらず、第三者(不動産会社や一般の買主)への売却であれば、居住用財産の要件を満たせば特例を適用できます。

(3) 元配偶者への譲渡と特例の関係

3,000万円特別控除は、以下の者への譲渡には適用されません。

  • 配偶者
  • 直系血族(親・子など)
  • 生計を一にする親族
  • 特殊な関係にある者

離婚後の「元配偶者」が特殊関係者に該当するかは、実態によって判断されます。税務署に事前確認するか、税理士に相談することをお勧めします。

譲渡所得の計算方法

(1) 譲渡所得の計算式

譲渡所得の計算方法は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

税率:

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超): 20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)

所有期間の判定日: 売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで判定します。

(2) 取得費の範囲

取得費には以下のものが含まれます。

  • マンションの購入代金
  • 購入時の仲介手数料
  • 購入時の登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • リフォーム費用(資本的支出に該当するもの)

減価償却の控除: 建物部分は減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費となります。

取得費が不明な場合: 購入時の契約書が見つからない場合、売却価格の5%を概算取得費として計算できます。ただし、実際の取得費より少なくなることが多く、税負担が増える可能性があります。

(3) 譲渡費用の範囲

譲渡費用には以下のものが含まれます。

  • 売却時の仲介手数料
  • 売買契約書の印紙税
  • 測量費用
  • 売却のための建物取壊し費用
  • 抵当権抹消費用

通常の維持管理費用(管理費、修繕積立金など)は譲渡費用に含まれません。

(4) 共有名義の場合の按分計算

共有名義のマンションを売却する場合、持分に応じて譲渡所得を按分します。

計算例:

  • 売却価格: 4,000万円
  • 取得費: 3,000万円
  • 譲渡費用: 200万円
  • 持分: 夫50%、妻50%
譲渡所得 = 4,000万円 - (3,000万円 + 200万円) = 800万円
夫の譲渡所得: 800万円 × 50% = 400万円
妻の譲渡所得: 800万円 × 50% = 400万円

夫と妻がそれぞれ400万円の譲渡所得を確定申告します。3,000万円特別控除を適用する場合、各自が控除を受けられます(夫400万円全額控除、妻400万円全額控除)。

確定申告の手続きと必要書類

離婚に伴う中古マンション売却で譲渡所得が発生した場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。

(1) 譲渡所得の内訳書

国税庁の確定申告書作成コーナーから作成できます。

  • 売却した不動産の所在地・面積
  • 売却価格、取得費、譲渡費用
  • 特別控除の適用有無
  • 譲渡所得の計算結果

(2) 売買契約書と登記関連書類

  • 売却時の売買契約書: 売却価格や引渡し日を証明
  • 購入時の売買契約書: 取得費を証明(見つからない場合は概算取得費5%を使用)
  • 登記事項証明書: 所有者や持分を証明
  • 仲介手数料の領収書: 譲渡費用を証明

(3) 財産分与協議書

離婚に伴う財産分与であることを証明するため、以下の書類を保管しておくことをお勧めします。

  • 離婚協議書または離婚調停調書
  • 財産分与協議書
  • 戸籍謄本(離婚の事実を証明)

これらの書類は確定申告時に必須ではありませんが、税務調査が入った際に財産分与の実態を説明するために役立ちます。

(4) 購入時の契約書(取得費証明)

購入時の売買契約書が最も重要な取得費証明書類です。見つからない場合、以下の方法で取得費を証明できる場合があります。

  • 購入時の住宅ローン契約書
  • 不動産会社に購入価格の証明書発行を依頼
  • 登記事項証明書の「原因」欄に記載された売買価格(記載がない場合もある)

どうしても証明できない場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算します。

よくある税務上の注意点

(1) 財産分与と慰謝料の区分

財産分与と慰謝料は税務上の取り扱いが異なります。

項目 財産分与 慰謝料
受取側の課税 原則非課税(過大部分は贈与税) 非課税
支払側の課税 含み益がある場合は譲渡所得税 課税なし

不動産を財産分与として譲渡する場合、時価で譲渡したものとみなされ、含み益がある場合は譲渡所得税が課されます。

(2) 共有持分と申告

共有名義のマンションを売却する場合、持分に応じて各自が確定申告を行います。

  • 持分50%ずつの場合、売却益も50%ずつ按分
  • 各自が3,000万円特別控除を適用できる(要件を満たす場合)
  • 所有期間の判定は各自の取得時期で行う

(3) 住宅ローン残債がある場合

住宅ローンが残っている場合、売却代金でローンを完済する必要があります。

  • アンダーローン(売却価格 > ローン残債): 売却益が出るため譲渡所得税が課される可能性
  • オーバーローン(売却価格 < ローン残債): 売却損が出るため譲渡所得税は発生しないが、ローン残債は別途処理が必要

オーバーローンの場合、離婚後のローン返済義務をどちらが負うか協議する必要があります。

(4) 取得費証明書類の保管

離婚時は書類の管理が難しくなることがあります。

  • 購入時の売買契約書は必ず確保すること
  • 元配偶者が書類を保管している場合、協議して入手すること
  • 見つからない場合は概算取得費(売却価格の5%)で計算するしかない

概算取得費を使うと税負担が大幅に増える可能性があるため、できる限り購入時の契約書を確保しましょう。

まとめ

離婚に伴う中古マンション売却では、財産分与自体は非課税ですが、売却による譲渡所得は課税対象となります。離婚前の売却と離婚後の売却では3,000万円特別控除の適用条件が変わる可能性があるため、売却タイミングは税理士に相談して決めることをお勧めします。

共有名義の場合は持分に応じて各自が確定申告を行い、取得費は元の購入時の価格を引き継ぎます。購入時の売買契約書が取得費証明として重要なので、離婚協議の際に必ず確保しましょう。

国税庁の確定申告ガイド法務局の財産分与登記ガイドも参考にしてください。

よくある質問

Q1. 離婚に伴う財産分与で中古マンションを売却する場合、確定申告は必要ですか?

A. 譲渡所得が発生した場合は確定申告が必要です。

財産分与自体は非課税ですが、マンションを売却して現金で分配する場合、売却による譲渡所得は課税対象となります。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得がプラスの場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。

また、3,000万円特別控除を適用する場合も確定申告が必須です。控除により税額がゼロになる場合でも、申告しなければ控除を受けられません。

Q2. 離婚前に売却する場合と離婚後に売却する場合で税金は変わりますか?

A. 変わる場合があります。特に3,000万円特別控除の適用可否に影響します。

  • 離婚前の売却: 配偶者への譲渡でも、居住用財産の要件を満たせば3,000万円特別控除が適用できる可能性があります
  • 離婚後の売却: 元配偶者への譲渡は特殊関係者への譲渡として、特例が適用できない場合があります
  • 第三者への売却: 離婚前後にかかわらず、要件を満たせば特例を適用できます

売却タイミングによって税負担が大きく変わる可能性があるため、税理士に相談して最適なタイミングを判断することをお勧めします。

Q3. 共有名義の中古マンションを売却する場合、確定申告はどうなりますか?

A. 共有名義の場合、持分に応じた譲渡所得を各自が確定申告する必要があります。

例えば、持分が夫50%・妻50%の場合、売却益も50%ずつ按分して各自が申告します。3,000万円特別控除も各自が適用できるため、譲渡所得が400万円ずつの場合、夫も妻も全額控除を受けられます。

所有期間の判定(長期・短期の区分)も各自の取得時期で行います。財産分与で持分を取得した場合、元の所有者の取得時期を引き継ぎます。

Q4. 購入時の契約書が見つからない場合はどうすればいいですか?

A. 取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できます。

ただし、実際の取得費より大幅に少なくなることが多く、税負担が増える可能性があります。以下の方法で取得費を証明できないか試してみましょう。

  • 購入時の住宅ローン契約書を確認
  • 不動産会社に購入価格の証明書発行を依頼
  • 登記事項証明書の「原因」欄に売買価格の記載がないか確認
  • 元配偶者が書類を保管している場合、協議して入手

離婚時は書類の管理が難しくなるため、早めに購入時の契約書を確保することをお勧めします。

Q5. 住宅ローン控除を受けていた場合、売却後も控除は続きますか?

A. マンションを売却した場合、住宅ローン控除は終了します。

さらに、3,000万円特別控除を適用して売却した場合、その後2年間は住宅ローン控除を受けられなくなります。新たに住宅を購入しても、控除適用除外期間となるため注意が必要です。

どちらの控除・特例を優先すべきかは、譲渡所得の金額や今後の住宅購入予定によって異なります。税理士に試算を依頼して、最も有利な方法を選択しましょう。

よくある質問

Q1離婚に伴う財産分与で中古マンションを売却する場合、確定申告は必要ですか?

A1譲渡所得が発生した場合は確定申告が必要です。財産分与自体は非課税ですが、マンションを売却して現金で分配する場合、売却による譲渡所得は課税対象となります。売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得がプラスの場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。また、3,000万円特別控除を適用する場合も確定申告が必須です。

Q2離婚前に売却する場合と離婚後に売却する場合で税金は変わりますか?

A2変わる場合があります。特に3,000万円特別控除の適用可否に影響します。離婚前の売却では配偶者への譲渡でも居住用財産の要件を満たせば特別控除が適用できる可能性がありますが、離婚後の売却では元配偶者への譲渡が特殊関係者への譲渡として特例が適用できない場合があります。売却タイミングによって税負担が大きく変わる可能性があるため、税理士に相談して最適なタイミングを判断することをお勧めします。

Q3共有名義の中古マンションを売却する場合、確定申告はどうなりますか?

A3共有名義の場合、持分に応じた譲渡所得を各自が確定申告する必要があります。例えば、持分が夫50%・妻50%の場合、売却益も50%ずつ按分して各自が申告します。3,000万円特別控除も各自が適用できるため、譲渡所得が400万円ずつの場合、夫も妻も全額控除を受けられます。所有期間の判定も各自の取得時期で行います。

Q4購入時の契約書が見つからない場合はどうすればいいですか?

A4取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できます。ただし、実際の取得費より大幅に少なくなることが多く、税負担が増える可能性があります。購入時の住宅ローン契約書を確認したり、不動産会社に購入価格の証明書発行を依頼したり、元配偶者が書類を保管している場合は協議して入手することをお勧めします。

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