離婚後の中古マンション購入における確定申告の基礎知識
離婚を経て新たに中古マンションを購入する場合、住宅ローン控除などの税制優遇を受けるためには確定申告が必要です。この記事では、離婚後の住宅購入における確定申告の手続き、財産分与との関係、必要書類について実務的に解説します。
この記事で分かること(結論要約)
- 離婚の有無は住宅ローン控除の適用に影響しない(新規購入なら通常通り適用可能)
- 財産分与で得た資金を頭金に充てても住宅ローン控除は受けられる
- 中古マンションの控除期間は10年、借入限度額は最大3,000万円(認定住宅)
- 築年数要件(1982年以降または耐震基準適合)を満たす必要がある
- 初年度の確定申告は入居年の翌年2月16日〜3月15日に行う
(1) 離婚後の住宅取得における税務手続きの全体像
離婚後に中古マンションを購入する場合、税務手続きは大きく分けて2つのパターンがあります。
パターン1: 新規購入
- 離婚後に新たに中古マンションを購入
- 住宅ローンを組んで購入する場合、住宅ローン控除の対象
- 通常の購入と同じ税務手続き
パターン2: 財産分与による取得
- 離婚に伴う財産分与で元配偶者から不動産を取得
- 原則として贈与税は非課税
- 住宅ローン控除は適用不可(新規購入でないため)
国税庁の公式サイトによれば、財産分与による不動産の取得は原則として贈与税が課税されませんが、住宅ローン控除は「住宅を新築または取得」した場合にのみ適用されるため、財産分与で取得した不動産は対象外となります。
本記事では、離婚後に新規購入した場合の確定申告について解説します。
(2) 確定申告のタイミングと方法
離婚後に中古マンションを購入し、住宅ローン控除を受けるためには、入居した年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告を行います。
申告方法は3つ
- e-Tax(電子申告): 国税庁の電子申告システムを利用。24時間いつでも申告可能で、還付も早い
- 郵送: 確定申告書を税務署に郵送
- 税務署窓口: 直接税務署に持参(混雑が予想されるため早めの訪問推奨)
e-Taxを利用すると、通常約2〜3週間で還付金が振り込まれます。郵送や窓口の場合は約1〜2ヶ月かかることが一般的です。
離婚の有無は申告に影響しない
確定申告において、離婚経験の有無を申告する必要はありません。通常の住宅購入と同じ手続きで申告できます。ただし、子どもを扶養している場合は、ひとり親控除や寡婦控除を併用できる可能性があります(後述)。
(3) 単独名義と共有名義の違い
離婚後に中古マンションを購入する場合、単独名義で購入するのが一般的ですが、親族との共有名義で購入するケースもあります。
単独名義の場合
- 本人のみが所有者
- 住宅ローンも本人名義
- 住宅ローン控除は全額本人が適用
共有名義の場合(親との共同購入など)
- 共有持分に応じて登記
- 各自の持分に応じて住宅ローン控除を適用
- 持分割合とローン負担割合を一致させる必要あり
住宅ローン控除は、ローン名義人が自己居住用として使用する住宅に対して適用されます。共有名義の場合、自分の持分に対応する部分のみが控除対象となります。
住宅ローン控除の仕組みと適用要件
(1) 住宅ローン控除の基本的な計算方法
住宅ローン控除は、年末時点のローン残高の0.7%が所得税から控除される制度です。控除しきれない分は、翌年度の住民税から控除されます(上限あり)。
計算例
- 年末ローン残高: 2,500万円
- 控除額: 2,500万円 × 0.7% = 17.5万円
- 所得税が15万円の場合: 15万円が還付され、残り2.5万円は翌年度の住民税から控除
離婚後の単身者の場合
離婚後に単身で住宅を購入する場合、扶養家族がいないため所得税額が高くなる傾向があります。その分、住宅ローン控除による還付額も大きくなる可能性があります。
ただし、子どもを扶養している場合は、ひとり親控除(35万円)や扶養控除を受けられるため、所得税額は減少します。
(2) 控除の適用要件(床面積・所得制限・居住要件)
住宅ローン控除を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。離婚の有無に関わらず、同じ要件が適用されます。
主な適用要件
- 床面積: 登記簿面積(内法)で50㎡以上(2023年までの建築確認は40㎡以上も対象)
- 所得制限: 合計所得金額が2,000万円以下
- 居住要件: 取得後6ヶ月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
- ローン要件: 返済期間10年以上の住宅ローン
- 自己居住用: 自分が居住するための住宅(投資用不可)
離婚後の所得制限について
離婚前は夫婦合算の所得で判断されていましたが、離婚後は本人の所得のみで判断されます。単身の場合、所得2,000万円以下の要件を満たしやすくなる可能性があります。
(3) 中古の控除期間と借入限度額
中古マンションの住宅ローン控除は、控除期間が10年間で固定されています。借入限度額は住宅の性能により異なります。
中古マンションの借入限度額
- 認定住宅(認定長期優良住宅・認定低炭素住宅): 3,000万円
- ZEH水準省エネ住宅: 3,000万円
- 省エネ基準適合住宅: 3,000万円
- その他の住宅: 2,000万円
年間最大控除額
- 一般住宅: 2,000万円 × 0.7% = 年間14万円
- 認定住宅: 3,000万円 × 0.7% = 年間21万円
離婚後に単身で中古マンションを購入する場合、比較的コンパクトな物件を選ぶケースが多いため、一般住宅の借入限度額2,000万円で十分なことが多いです。
財産分与と住宅ローン控除の関係
(1) 財産分与で取得した不動産の税務処理
離婚に伴う財産分与で不動産を取得した場合と、新規に購入した場合では、税務処理が大きく異なります。
財産分与で取得した場合
- 原則として贈与税は非課税
- ただし、過大な財産分与は贈与税の対象となる可能性あり
- 住宅ローン控除は適用不可(新規購入でないため)
- 不動産取得税は課税される
新規購入した場合
- 住宅ローン控除が適用可能
- 通常の購入と同じ税制
- 登録免許税・不動産取得税が課税される
国税庁の公式サイトによれば、財産分与による不動産の取得は「社会通念上相当な範囲」であれば贈与税は課税されません。しかし、住宅ローン控除は「住宅を新築または取得」した場合にのみ適用されるため、財産分与で取得した不動産は対象外となります。
(2) 財産分与金を頭金に充てる場合の注意点
財産分与で得た現金を、新たに購入する中古マンションの頭金に充てることは何ら問題ありません。この場合、住宅ローン控除も通常通り受けられます。
ポイント
- 財産分与で得た現金を頭金に使用: 問題なし
- 住宅ローン控除の適用: 通常通り適用可能
- 控除額の計算: 年末のローン残高に基づいて計算(頭金の出所は無関係)
計算例
- 中古マンション購入価格: 3,000万円
- 財産分与金(頭金): 500万円
- 住宅ローン: 2,500万円
- 年末残高: 2,450万円
- 控除額: 2,450万円 × 0.7% = 17.15万円
財産分与金を頭金に充てることで、住宅ローンの借入額を抑えられ、毎月の返済負担を軽減できます。
(3) 元配偶者との共有名義解消手続き
離婚前に夫婦で購入した住宅が共有名義だった場合、離婚後にどちらか一方の単独名義に変更するケースがあります。
名義変更の方法
- 財産分与による所有権移転: 離婚協議書に基づいて名義変更。登録免許税は固定資産税評価額の2%
- 売買による所有権移転: 元配偶者の持分を買い取る。通常の売買と同じ税制
住宅ローン控除の適用
- 財産分与による取得: 住宅ローン控除の対象外
- 売買による取得: 住宅ローンを組めば控除の対象(ただし親族間売買は対象外のケースあり)
元配偶者との共有名義を解消する場合、税務上の取り扱いが複雑になるため、事前に税理士に相談することを推奨します。
確定申告の計算方法と税額シミュレーション
(1) 住宅ローン控除による税額軽減の計算
実際の控除額は、所得税額を上限として計算されます。離婚後に単身で働いている場合、扶養家族の有無により所得税額が大きく変わります。
単身者の場合(子どもなし)
- 年収: 400万円
- 所得税: 約11万円
- 住民税: 約20万円
- 年末ローン残高: 2,000万円
- 控除可能額: 2,000万円 × 0.7% = 14万円
- 所得税から11万円控除 → 還付
- 残り3万円は翌年度の住民税から控除
ひとり親の場合(子ども1人)
- 年収: 400万円
- ひとり親控除: 35万円
- 扶養控除: 38万円
- 所得税: 約5万円(控除適用後)
- 住民税: 約13万円(控除適用後)
- 年末ローン残高: 2,000万円
- 控除可能額: 14万円
- 所得税から5万円控除 → 還付
- 残り9万円は翌年度の住民税から控除(上限9.75万円)
ひとり親控除や扶養控除を受けると所得税額が減少するため、住宅ローン控除の還付額も減少します。ただし、トータルでは税負担が軽減されます。
(2) 源泉徴収税額との関係
住宅ローン控除は、給与から源泉徴収されている所得税を還付する形で適用されます。確定申告後、約1〜2ヶ月で指定した銀行口座に還付金が振り込まれます。
源泉徴収税額は年末調整で確定しますが、初年度は確定申告で精算することになります。
(3) 控除しきれない場合の住民税からの控除
所得税から控除しきれなかった分は、翌年度の住民税から控除されます。ただし、住民税からの控除には上限があります。
住民税からの控除上限
- 所得税の課税総所得金額等の5%(最大9.75万円)
例えば、課税総所得金額が200万円の場合、住民税からの控除上限は10万円(200万円 × 5%)ですが、制度上の上限9.75万円が適用されます。
確定申告に必要な書類と準備タイミング
(1) 住宅ローン控除の初年度申告書類
初年度の確定申告には、以下の書類が必要です。離婚の有無に関わらず、同じ書類を準備します。
必須書類
- 確定申告書: 国税庁のウェブサイトからダウンロードまたはe-Taxで作成
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書: 控除額を計算するための書類
- 住宅ローンの年末残高証明書: 金融機関から郵送される
- 登記事項証明書: 法務局で取得(窓口・郵送・オンライン)
- 売買契約書のコピー: 購入価格を証明
- 源泉徴収票: 勤務先から発行
中古マンション特有の書類
- 耐震基準適合証明書(1982年以前の建築の場合)
- 既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)
- 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書
ひとり親控除を併用する場合の追加書類
- 戸籍謄本(離婚の事実と子どもの扶養を証明)
- 住民票(子どもとの同居を証明)
(2) 登記事項証明書・借入金証明書の取得
登記事項証明書(登記簿謄本)の取得方法
- 法務局窓口: 1通600円、即日発行
- 郵送請求: 1通600円、申請から1週間程度
- オンライン請求: 1通500円(送付)・480円(窓口受取)
オンライン請求は、法務局の「登記・供託オンライン申請システム」を利用します。
年末残高証明書
住宅ローンを借りている金融機関から、毎年10月頃に郵送されます。紛失した場合は、金融機関に再発行を依頼できます(手数料がかかる場合あり)。
(3) 離婚協議書等の準備
住宅ローン控除の確定申告において、離婚協議書や離婚届の写しは通常不要です。ただし、以下の場合は準備しておくと良いでしょう。
準備が推奨されるケース
- 財産分与金を頭金に充てた場合: 財産分与の証明として離婚協議書を保管
- ひとり親控除を併用する場合: 戸籍謄本で離婚の事実と子どもの扶養を証明
- 元配偶者との共有名義を解消した場合: 財産分与による所有権移転を証明
離婚協議書は、確定申告時に提出する必要はありませんが、税務署から問い合わせがあった場合に備えて保管しておくことを推奨します。
離婚後の中古マンション購入時の税務上の注意点
(1) 登記簿面積(内法)での床面積要件
住宅ローン控除の床面積要件は、登記簿に記載されている内法面積で判断されます。
壁芯面積と内法面積の違い
- 壁芯面積: 壁の中心線から測定(パンフレット等に記載)
- 内法面積: 壁の内側から測定(登記簿に記載、壁芯面積より小さい)
一般的に、内法面積は壁芯面積の約90〜95%になります。例えば、壁芯面積52㎡の物件でも、内法面積が49㎡の場合、住宅ローン控除の対象外となります。
離婚後に単身用のコンパクトなマンションを購入する場合、50㎡ギリギリの物件が多いため、購入前に登記事項証明書を確認し、内法面積が50㎡以上であることを必ず確認しましょう。
(2) 築年数要件と耐震基準適合
中古マンションで住宅ローン控除を受けるためには、築年数要件または耐震基準を満たす必要があります。
築年数要件
- 1982年(昭和57年)1月1日以降に建築された住宅
- この日以降に建築確認を受けた住宅は「新耐震基準」に適合
築年数要件を満たさない場合
1982年以前の建築でも、以下のいずれかを取得すれば住宅ローン控除を受けられます。
- 耐震基準適合証明書: 指定確認検査機関や建築士等が発行
- 既存住宅性能評価書: 耐震等級1以上を証明
- 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書: 保険加入により耐震性を証明
これらの書類は、物件の引渡し前に取得しておく必要があります。引渡し後に取得しても住宅ローン控除の適用は受けられないため、売買契約時に売主と調整することが重要です。
(3) ローン名義と所有権の一致
住宅ローン控除を受けるためには、ローン名義人と所有権者が一致している必要があります。
単独名義の場合
- 所有権: 本人のみ
- ローン: 本人のみ
- 控除: 全額本人が適用
親との共有名義の場合
- 所有権: 本人50%、親50%
- ローン: 本人のみ
- 控除: 本人の持分50%に対応する部分のみ適用
例えば、親と50%ずつの共有名義で購入し、本人のみがローンを組んだ場合、住宅ローン控除は購入価格の50%に対してのみ適用されます。
ただし、実際のローン負担と持分が一致していない場合、贈与税の問題が発生する可能性があるため注意が必要です。
まとめ
離婚後に中古マンションを購入した場合でも、住宅ローン控除は通常通り適用されます。離婚の有無は控除の適用に影響しません。
重要ポイントの再確認
- 離婚後に新規購入した場合、住宅ローン控除は通常通り適用可能
- 財産分与で得た資金を頭金に充てても問題なし
- 中古マンションの控除期間は10年、借入限度額は最大3,000万円
- 築年数要件(1982年以降または耐震基準適合)を満たす必要あり
- 初年度は確定申告が必須、2年目以降は年末調整で可能
- ひとり親控除や寡婦控除を併用できる場合あり
離婚後の住宅購入は、新たな生活をスタートさせる大きな一歩です。税制優遇を最大限活用し、経済的な負担を軽減しましょう。確定申告は複雑に感じるかもしれませんが、国税庁のウェブサイトやe-Taxのシステムには詳しいガイドがあり、手順に従って進めれば問題なく申告できます。