転勤で中古戸建てを売却される方へ
転勤に伴い居住中の中古戸建てを売却する場合、譲渡所得が発生すると確定申告が必要です。ただし、居住用財産の3,000万円特別控除を適用すれば、多くのケースで税負担を大幅に軽減できます。
転勤ならではの注意点として、単身赴任で配偶者等が引き続き居住している場合の扱いや、転勤後に賃貸に出してから売却する場合の要件、「住まなくなってから3年以内」の期限管理などがあります。
この記事で分かること(要約)
- 譲渡所得がプラスになる場合は確定申告が必要で、3,000万円特別控除を適用する場合も申告は必須(税額ゼロでも)
- 譲渡所得は「売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)」で計算し、所有期間5年以内は短期譲渡税率39.63%、5年超は長期譲渡税率20.315%
- 3,000万円特別控除は「住まなくなってから3年後の12月31日まで」に売却すれば適用可能で、転勤後に賃貸に出した場合も期限内なら適用
- 単身赴任で配偶者等が引き続き居住していれば、本人が転勤中でも居住用財産として3,000万円控除を適用可能
- 確定申告は売却年の翌年2月16日〜3月15日で、必要書類は売買契約書・登記事項証明書・譲渡所得の内訳書等
1. 転勤売却中古戸建ての確定申告が必要なケース
(1) 譲渡所得がプラスになる場合は申告必須
国税庁「譲渡所得の概要」によれば、不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、売却した年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。
譲渡所得の計算式
- 譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得がマイナス(損失)の場合、基本的に確定申告は不要です。ただし、損益通算や繰越控除の特例を使う場合は申告が必要です。
(2) 3,000万円特別控除を適用する場合も申告必須
居住用財産の3,000万円特別控除を適用すれば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。この特例を適用する場合、税額がゼロになっても確定申告は必須です。
例: 譲渡所得2,000万円の場合
- 譲渡所得: 2,000万円
- 3,000万円特別控除適用後: 0円
- 税額: 0円(ただし確定申告は必要)
確定申告をしないと、特例が適用されず譲渡所得税が課される可能性があります。
2. 譲渡所得の計算方法と短期譲渡税率の影響
(1) 取得費の計算と減価償却
取得費は、土地・建物の購入代金、仲介手数料、登記費用などの合計額です。ただし、建物は減価償却を行った後の額を取得費とします。
国税庁「減価償却資産の償却率表」によれば、中古戸建て(木造)の減価償却計算は以下の通りです。
減価償却の計算式
- 減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
- 償却率: 木造住宅(非事業用)は0.031(耐用年数33年)
例: 建物取得価額2,000万円、所有期間5年の場合
- 減価償却費: 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 5年 = 279万円
- 建物の取得費: 2,000万円 - 279万円 = 1,721万円
土地の取得費は減価償却せず、購入価格そのままです。
(2) 譲渡費用に含められる費用
譲渡費用は、売却時に直接かかった費用です。
譲渡費用に含まれる主な費用
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 建物解体費(売却のために解体した場合)
- 立退料(賃貸に出していた場合)
- 登記費用(抵当権抹消登記等)
譲渡費用に含まれない費用
- 住宅ローンの繰上返済手数料
- 固定資産税・都市計画税
- 修繕費
(3) 短期譲渡(5年以内)と長期譲渡の税率差
譲渡所得の税率は、所有期間により大きく異なります。
所有期間 | 税率 | 内訳 |
---|---|---|
短期譲渡(5年以内) | 39.63% | 所得税30.63% + 住民税9% |
長期譲渡(5年超) | 20.315% | 所得税15.315% + 住民税5% |
所有期間の判定
所有期間は、売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで判定されます。
例: 2020年7月に購入、2025年6月に売却
- 判定日: 2025年1月1日
- 所有期間: 4年6ヶ月(2025年1月1日時点では5年未満)
- 税率: 短期譲渡39.63%
例: 2020年7月に購入、2026年2月に売却
- 判定日: 2026年1月1日
- 所有期間: 5年6ヶ月(2026年1月1日時点で5年超)
- 税率: 長期譲渡20.315%
所有期間が5年前後の場合、売却タイミングを調整することで税率を半減できる可能性があります。
3. 転勤売却で使える3,000万円特別控除
(1) 居住用財産の要件
国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、以下の要件を満たす場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
主な要件
- 自己が居住していた住宅を売却すること
- 住まなくなってから3年後の12月31日までに売却すること
- 売却先が親族など特別な関係者でないこと
- 前年・前々年にこの特例を使っていないこと
(2) 「住まなくなってから3年以内」の期限管理
転勤により転居した場合、住まなくなった日から3年後の12月31日までに売却すれば、3,000万円特別控除を適用できます。
例: 2023年4月に転勤で転居した場合
- 住まなくなった日: 2023年4月
- 期限: 2026年12月31日まで
この期限を過ぎると、居住用財産の特例が適用できなくなる可能性があります。転勤後に賃貸に出す場合も、この期限を意識することが重要です。
(3) 3,000万円特別控除の効果
例: 譲渡所得2,500万円、所有期間3年(短期譲渡)の場合
特例なし
- 譲渡所得税: 2,500万円 × 39.63% = 約991万円
3,000万円特別控除適用後
- 控除後の譲渡所得: 2,500万円 - 2,500万円 = 0円
- 譲渡所得税: 0円
3,000万円特別控除を適用することで、約991万円の税負担を軽減できます。
4. 単身赴任と家族帯同での居住実態判定
(1) 配偶者等が引き続き居住する場合は控除適用可能
国税庁「転任の命令等により居住しないこととなった場合の3,000万円特別控除」によれば、単身赴任で配偶者等が引き続き居住している場合、居住用財産として3,000万円特別控除を適用できます。
要件
- 転勤等のやむを得ない事情により本人が居住できないこと
- 配偶者やその他の親族が引き続き居住していること
- 本人が生活費等を負担していること
本人が転勤中であっても、配偶者等が生活の拠点としている限り「居住用財産」とみなされます。
(2) 転勤の命令等による特例
転勤により家族全員で転居した場合でも、「住まなくなってから3年後の12月31日まで」に売却すれば3,000万円特別控除を適用できます。
転勤の証明書類
3,000万円特別控除の申請に転勤辞令等の証明書類は必須ではありませんが、税務署から問い合わせがあった場合に備えて以下の書類を保管しておくことをおすすめします。
- 会社発行の転勤辞令書
- 転勤命令書
- 在籍証明書(転勤先の勤務実態を証明)
(3) 家族全員で転居した場合の3年以内売却
例: 2023年4月に転勤で家族全員が転居、2025年12月に売却
- 住まなくなった日: 2023年4月
- 売却日: 2025年12月
- 経過期間: 2年8ヶ月(3年以内)
- 3,000万円特別控除: 適用可能
転勤後すぐに売却できない場合でも、3年以内であれば特例を適用できます。
5. 必要書類の準備と確定申告書の記入手順
(1) 売却時に必要な書類一覧
国税庁「確定申告書等作成コーナー(譲渡所得)」および法務局「登記事項証明書の取得方法」によれば、確定申告時に以下の書類が必要です。
書類名 | 用途 | 取得先 |
---|---|---|
確定申告書(第一表・第二表) | 所得全体の申告 | 国税庁ホームページ |
確定申告書第三表(分離課税用) | 譲渡所得の申告 | 国税庁ホームページ |
譲渡所得の内訳書 | 売却・取得の明細 | 国税庁ホームページ |
売買契約書の写し(売却時) | 売却価格を証明 | 購入者との契約 |
売買契約書の写し(購入時) | 取得費を証明 | 購入時の書類 |
領収書(仲介手数料等) | 取得費・譲渡費用を証明 | 不動産会社等 |
登記事項証明書 | 所有期間を証明 | 法務局 |
(2) 3,000万円特別控除の追加書類
3,000万円特別控除を適用する場合、以下の追加書類が必要です。
- 住民票の除票(売却した住宅の所在地)
- マイナンバー確認書類
住民票の除票は、「その住宅に居住していた」ことを証明するために必要です。
(3) 確定申告書第三表の記入ポイント
確定申告書第三表(分離課税用)には、以下の内容を記入します。
記入項目
- 譲渡所得の金額(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)
- 3,000万円特別控除の額
- 課税譲渡所得金額(譲渡所得 - 特別控除)
- 税額の計算(短期譲渡39.63%または長期譲渡20.315%)
e-Tax(電子申告)を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで自動計算されます。
6. 賃貸転用後の売却との税務違い
(1) 転勤後に賃貸に出した場合の扱い
転勤後に中古戸建てを賃貸に出してから売却する場合でも、住まなくなってから3年後の12月31日までに売却すれば3,000万円特別控除を適用できます。
ただし、賃貸期間が長い場合、税務署から「居住用財産」ではなく「事業用資産」とみなされる可能性があります。期限管理が重要です。
(2) 賃貸期間がある場合の注意点
例: 2023年4月に転勤で転居、その後賃貸に出し、2025年12月に売却
- 住まなくなった日: 2023年4月
- 賃貸期間: 2023年5月〜2025年11月(2年6ヶ月)
- 売却日: 2025年12月
- 経過期間: 2年8ヶ月(3年以内)
- 3,000万円特別控除: 適用可能
賃貸期間があっても、「住まなくなってから3年以内」の要件を満たせば控除を適用できます。
(3) 住宅ローン控除との併用制限
転勤先で新居を購入し、住宅ローン控除を受ける予定がある場合、注意が必要です。
併用制限
- 旧居で3,000万円特別控除を使うと、新居の住宅ローン控除が売却年の翌年から3年間適用不可
例: 2025年に旧居売却、2026年に新居購入
- 旧居で3,000万円控除を使う → 新居のローン控除は2026年〜2028年の3年間使えない
- 2029年から残り期間(新築住宅なら残り10年間)はローン控除適用可能
どちらの特例を使うべきか、税額をシミュレーションして判断することをおすすめします。
まとめ
転勤に伴い中古戸建てを売却する場合、譲渡所得が発生すると確定申告が必要です。譲渡所得は「売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)」で計算し、所有期間5年以内は短期譲渡税率39.63%、5年超は長期譲渡税率20.315%が適用されます。
居住用財産の3,000万円特別控除を適用すれば、多くのケースで税負担を大幅に軽減できます。「住まなくなってから3年後の12月31日まで」に売却すれば適用可能で、単身赴任で配偶者等が引き続き居住している場合も控除を受けられます。
確定申告は売却年の翌年2月16日〜3月15日で、必要書類は売買契約書・登記事項証明書・譲渡所得の内訳書等です。転勤後に賃貸に出してから売却する場合も、期限内であれば3,000万円控除を適用できますが、新居で住宅ローン控除を受ける場合は併用制限があるため、どちらの特例を使うべきか慎重に判断しましょう。