相続新築戸建て売却の確定申告・税金計算|完全ガイド

公開日: 2025/10/14

相続新築戸建て売却の税務基礎知識

相続により取得した新築戸建てを売却する場合、通常の不動産売却とは異なる税務上の取り扱いがあります。取得費や所有期間を被相続人から引き継ぐこと、相続税の取得費加算特例が適用できることなど、相続不動産特有のルールを理解することで、適切な税金計算と節税が可能になります。

この記事のポイント

  • 相続不動産の取得費・所有期間は被相続人から引き継ぐ
  • 取得費加算の特例で相続税の一部を取得費に加算可能(相続税申告期限から3年10ヶ月以内)
  • 相続人が居住していた場合は3,000万円特別控除が適用可能
  • 2024年4月から相続登記が義務化、売却前に登記が必須
  • 所有期間は被相続人の取得時から計算するため短期譲渡になりにくい

(1) 新築でも被相続人の取得費・取得時期を引継ぎ

相続により取得した新築戸建ての取得費は、被相続人が建築した時の取得費を引き継ぎます。相続時の時価ではなく、被相続人の取得価額(建築費用)を基に計算します。

取得費の引継ぎ例

  • 被相続人の建築費用: 3,000万円
  • 相続時の時価: 3,500万円
  • 取得費: 3,000万円(被相続人の建築費用を引き継ぐ)

建物部分については、被相続人の所有期間中の減価償却も引き継ぐため、実際の取得費は建築費用から償却分を差し引いた金額になります。

参考: 譲渡所得の計算のしかた|国税庁

(2) 所有期間の判定は被相続人の取得時から

譲渡所得税の税率は、所有期間が5年以下か5年超かで異なります。相続不動産の場合、所有期間は被相続人が取得した日から計算します。

所有期間による税率の違い

所有期間 税率
5年以下(短期譲渡) 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%)
5年超(長期譲渡) 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

※所有期間は売却した年の1月1日時点で判定されます。

親が新築戸建てを建築してから5年超経過していれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得として低い税率が適用されます。

参考: 短期譲渡所得と長期譲渡所得|国税庁

(3) 共有相続の場合の譲渡所得按分

複数の相続人が共有で相続した新築戸建てを売却する場合、譲渡所得は各相続人の持分に応じて按分します。

譲渡所得の按分例

  • 売却価格: 4,000万円
  • 取得費: 2,000万円
  • 譲渡費用: 200万円
  • 譲渡所得: 1,800万円

相続人A(持分1/2): 900万円の譲渡所得 相続人B(持分1/2): 900万円の譲渡所得

各相続人が個別に確定申告を行い、それぞれの所得に応じて税金を計算します。

相続不動産売却の特例制度

(1) 取得費加算の特例とは

取得費加算の特例は、相続税を支払った相続人が相続不動産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。

取得費加算のメリット

  • 取得費が増加することで譲渡所得が減少
  • 譲渡所得税・住民税が軽減
  • 相続税と譲渡所得税の二重課税を緩和

参考: 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

(2) 適用要件(相続税申告期限から3年10ヶ月以内)

取得費加算の特例の適用要件は以下の通りです。

主な要件

  • 相続または遺贈により財産を取得した者であること
  • その財産について相続税を支払っていること
  • 相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)の翌日以降3年以内に売却すること

「相続税申告期限から3年10ヶ月以内」という期限制限があるため、売却タイミングの計画が重要です。

(3) 取得費加算の計算方法

取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求めます。

計算式

加算できる相続税額 = 相続税額 × 売却した財産の相続税評価額 / (相続税の課税価格 + 債務控除額)

計算例

  • 支払った相続税額: 500万円
  • 売却した新築戸建ての相続税評価額: 3,000万円
  • 相続税の課税価格: 6,000万円

加算できる相続税額 = 500万円 × 3,000万円 / 6,000万円 = 250万円

この250万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が250万円減少し、税負担が軽減されます。

譲渡所得の計算方法

(1) 相続時の取得費の引継ぎ

相続不動産の取得費は、被相続人の取得価額を引き継ぎます。新築戸建ての場合、建築費用が取得価額となります。

取得費に含まれるもの

  • 建築工事費
  • 設計料
  • 土地の購入代金(土地も相続した場合)
  • 登記費用
  • 不動産取得税

被相続人が建築した際の建築請負契約書や領収書が必要になります。これらの書類が見つからない場合、譲渡価格の5%を概算取得費として計算できますが、実際の取得費が証明できればより有利になります。

(2) 建物の減価償却(被相続人の償却分も引継ぎ)

建物部分の取得費は、被相続人の所有期間中の減価償却を考慮して計算します。

減価償却の計算 建物の減価償却費 = 建築費用 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

非事業用建物の償却率(木造の場合)

  • 耐用年数: 33年
  • 償却率: 0.031

計算例

  • 建築費用: 2,000万円
  • 経過年数: 10年(被相続人の所有期間)

減価償却費 = 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 558万円 建物の取得費 = 2,000万円 - 558万円 = 1,442万円

相続後の所有期間分の減価償却も同様に計算し、建物の取得費から差し引きます。

(3) 譲渡費用に含められる費用

譲渡所得の計算では、譲渡費用を譲渡価格から差し引くことができます。

譲渡費用に含まれるもの

  • 仲介手数料
  • 登記費用(抵当権抹消等)
  • 売買契約書の印紙税
  • 測量費
  • 建物の取り壊し費用(更地渡しの場合)

譲渡費用に含まれないもの

  • 相続登記の費用
  • 遺産分割協議費用
  • 固定資産税

(4) 取得費加算特例適用時の計算

取得費加算の特例を適用する場合の譲渡所得計算例を示します。

計算例

  • 譲渡価格: 4,000万円
  • 被相続人の取得費: 2,000万円(減価償却後)
  • 譲渡費用: 150万円
  • 加算できる相続税額: 250万円

通常の計算(特例なし) 譲渡所得 = 4,000万円 - 2,000万円 - 150万円 = 1,850万円

取得費加算特例適用時 譲渡所得 = 4,000万円 - (2,000万円 + 250万円) - 150万円 = 1,600万円

特例により譲渡所得が250万円減少し、税負担が軽減されます。

適用できる特別控除

(1) 3,000万円特別控除(相続人が居住していた場合)

相続した新築戸建てに相続人が居住していた場合、居住用財産の3,000万円特別控除が適用できます。

適用条件

  • 自己の居住用財産であること
  • 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
  • 売主と買主が親族関係にないこと

参考: 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除|国税庁

(2) 取得費加算の特例

前述の通り、相続税申告期限から3年10ヶ月以内に売却すれば、相続税の一部を取得費に加算できます。

3,000万円特別控除との併用 取得費加算の特例と3,000万円特別控除は併用できます。まず取得費加算の特例を適用して譲渡所得を計算し、その後3,000万円特別控除を適用します。

計算例(併用)

  • 譲渡所得(取得費加算後): 1,600万円
  • 3,000万円特別控除: 1,600万円全額控除
  • 課税譲渡所得: 0円

(3) 短期・長期譲渡の税率

特別控除を適用しても譲渡所得が残る場合、所有期間に応じて税率が適用されます。

長期譲渡所得(5年超)の場合

  • 所得税: 15.315%
  • 住民税: 5%
  • 合計: 20.315%

短期譲渡所得(5年以下)の場合

  • 所得税: 30.63%
  • 住民税: 9%
  • 合計: 39.63%

相続の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、親が5年超所有していれば長期譲渡所得として低い税率が適用されます。

確定申告の手続きと必要書類

(1) 申告期限と申告先

不動産を売却した場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。

申告先 売却した年の1月1日時点の住所地を管轄する税務署

(2) 確定申告書第三表の記入方法

譲渡所得がある場合、確定申告書に加えて「確定申告書第三表(分離課税用)」を提出します。

主な記入項目

  • 譲渡価格
  • 取得費
  • 譲渡費用
  • 特別控除額
  • 課税譲渡所得金額

参考: 確定申告に必要な書類|国税庁

(3) 必要書類一覧(相続税申告書の写し等)

相続不動産売却の確定申告に必要な書類は以下の通りです。

必須書類

  • 確定申告書
  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書(売却時)
  • 売買契約書または建築請負契約書(被相続人の取得時)
  • 譲渡費用の領収書
  • 登記事項証明書

取得費加算特例適用時の追加書類

  • 相続税申告書の写し
  • 取得費加算の特例の計算明細書
  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書

(4) 取得費加算特例適用時の添付書類

取得費加算の特例を適用する場合、相続税申告書の写しと計算明細書の提出が必要です。

計算明細書の記入内容

  • 支払った相続税額
  • 売却した財産の相続税評価額
  • 相続税の課税価格
  • 加算できる相続税額の計算

これらの書類は相続税申告時に税理士が作成したものを使用します。

相続登記と売却のタイミング

(1) 相続登記の義務化(2024年4月〜)

2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと過料(10万円以下)の対象となります。

参考: 相続登記の義務化|法務省

売却前に相続登記が必須 新築戸建てを売却するには、まず被相続人から相続人へ名義変更(相続登記)を行う必要があります。登記が完了していないと売買契約ができません。

(2) 登記手続きの流れ

相続登記の手続きは以下の流れで進めます。

相続登記の手順

  1. 遺産分割協議(複数相続人の場合)
  2. 必要書類の収集(戸籍謄本、遺産分割協議書等)
  3. 登記申請書の作成
  4. 法務局への申請
  5. 登記完了(通常1~2週間)

司法書士に依頼することで、手続きをスムーズに進めることができます。

(3) 相続税申告期限内売却のメリット

相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)内に売却すると、以下のメリットがあります。

  • 相続税の納税資金を確保できる
  • 取得費加算の特例の適用期限に余裕ができる
  • 空き家の管理負担を軽減できる

ただし、急いで売却すると適正価格より低く売却するリスクもあるため、市場動向を見ながら慎重に判断することが重要です。

(4) 複数相続人がいる場合の注意点

複数の相続人が共有で相続した場合、売却には全員の同意が必要です。

共有相続の売却手続き

  • 遺産分割協議で売却方針を合意
  • 全相続人が売買契約書に署名・押印
  • 売却代金は持分に応じて分配

相続人の一人が売却に反対している場合、共有物分割請求訴訟などの法的手続きが必要になることがあります。早めの合意形成が重要です。

まとめ

相続により取得した新築戸建てを売却する場合、取得費と所有期間を被相続人から引き継ぐため、親が5年超所有していれば長期譲渡所得として低い税率が適用されます。

取得費加算の特例を活用すれば、相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。ただし、相続税申告期限から3年10ヶ月以内という期限制限があるため、売却タイミングの計画が重要です。

相続人が居住していた場合は3,000万円特別控除も併用でき、多くの場合は非課税となります。2024年4月から相続登記が義務化されたため、売却前に登記手続きを完了させることが必須です。

税務上の取り扱いは個別のケースによって異なるため、税理士に相談しながら適切な手続きを進めることをお勧めします。

よくある質問

Q1相続した新築戸建てを売却する場合、取得費はいくらになりますか?

A1被相続人が建築した時の取得費を引き継ぎます。建築費用から被相続人の所有期間中の減価償却を差し引いた金額が建物の取得費となります。建築請負契約書や領収書が必要になりますが、書類が見つからない場合は譲渡価格の5%を概算取得費として計算できます。ただし、実際の取得費が証明できればより有利になることが多いため、契約書類を探すことをお勧めします。

Q2相続税を支払った場合、新築戸建ての売却時の税金は安くなりますか?

A2取得費加算の特例により、相続税の一部を取得費に加算できます。この特例の適用には、相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10ヶ月)の翌日以降3年以内、つまり相続税申告期限から3年10ヶ月以内に売却することが条件です。取得費が増加することで譲渡所得が減少し、税金が安くなります。相続税申告書の写しと計算明細書の提出が必要です。

Q3相続登記をしないまま新築戸建てを売却できますか?

A3売却前に相続登記が必須です。2024年4月から相続登記が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に登記しないと過料(10万円以下)の対象となります。登記が完了していないと売買契約ができないため、まず被相続人から相続人へ名義変更を行う必要があります。司法書士に依頼することで手続きをスムーズに進められます。

Q4親が建てた新築戸建てを相続後すぐに売却した場合、短期譲渡になりますか?

A4所有期間は被相続人の取得時から起算します。親が新築戸建てを建築してから5年超経過していれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得(税率20.315%)として扱われます。短期譲渡所得(税率39.63%)になるのは、親の所有期間が5年以下の場合です。所有期間は売却した年の1月1日時点で判定されるため、判定日に注意が必要です。

Q5取得費加算の特例と3,000万円特別控除は併用できますか?

A5併用可能です。まず取得費加算の特例を適用して譲渡所得を計算し、その後3,000万円特別控除を適用します。相続した新築戸建てに相続人が居住していた場合、3,000万円特別控除が適用でき、多くの場合は課税譲渡所得が0円となり非課税になります。両特例を併用することで、税負担を大幅に軽減できます。

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