買替新築戸建売却の確定申告ガイド|税計算から特例選択まで

公開日: 2025/10/14

買い替え時新築戸建て売却の税務基礎知識

新築戸建てを購入したものの、ライフスタイルの変化や家族構成の変更などで、買い替えを検討するケースは少なくありません。買い替えの際、旧居である新築戸建てを売却すると、譲渡所得税が発生する可能性があります。

この記事のポイント

  • 新築後すぐの売却は「短期譲渡所得」になりやすく、税率が約2倍に
  • 譲渡益が出た場合は「3,000万円特別控除」か「買換え特例」を選択適用できる(併用不可)
  • 売却損が出た場合は「損益通算・繰越控除」が適用可能
  • 確定申告は譲渡年の翌年2月16日~3月15日に実施
  • 各特例には添付書類や適用要件があり、計画的な準備が必要

(1) 新築戸建ての買い替えと税務

買い替えとは、現在の住居(旧居)を売却し、新たな住居(新居)を購入することです。税制上は「売却」と「購入」を別々に扱うため、旧居の売却で譲渡益が出れば譲渡所得税が課税されます。

国税庁の「譲渡所得の計算のしかた」によれば、譲渡所得は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

新築戸建ての場合、建物の減価償却を考慮した取得費と、土地の取得費を合算して計算します。

(2) 新築後すぐの売却は短期譲渡になりやすい

譲渡所得の税率は、譲渡した年の1月1日時点での所有期間によって大きく異なります。国税庁の「短期譲渡所得と長期譲渡所得」によれば、以下の税率が適用されます。

所有期間 区分 税率(所得税+住民税)
5年以下 短期譲渡所得 39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
5年超 長期譲渡所得 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

新築後すぐに買い替えする場合、所有期間が5年以下になりやすく、税率が約2倍になる点に注意が必要です。

(3) 旧居の譲渡所得計算

新築戸建ての譲渡所得を計算する際は、建物の減価償却を行います。木造住宅の場合、法定耐用年数は22年、非事業用の償却率は0.046です。

例:新築価格4,000万円(建物2,500万円、土地1,500万円)、3年後に4,500万円で売却した場合

建物減価償却費 = 2,500万円 × 0.046 × 3年 = 345万円
取得費 = (2,500万円 - 345万円) + 1,500万円 = 3,655万円
譲渡費用 = 150万円(仲介手数料等)
譲渡所得 = 4,500万円 - 3,655万円 - 150万円 = 695万円

適用できる特例制度の比較

買い替え時の新築戸建て売却では、譲渡益が出た場合と譲渡損が出た場合で、適用できる特例が異なります。

(1) 3,000万円特別控除

居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。国税庁の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」によれば、所有期間の制限がなく、譲渡益を非課税化できます。

(2) 買換え特例(課税繰延べ)

旧居より高額な新居に買い換えた場合、譲渡益への課税を将来に繰り延べられる制度です。国税庁の「特定の居住用財産の買換え特例」によれば、課税が免除されるのではなく、新居を将来売却する際にまとめて課税される点に注意が必要です。

(3) 損益通算・繰越控除

新築後すぐの売却で損失が出た場合、その年の給与所得等から損失を差し引ける制度です。国税庁の「譲渡損失が生じた場合の損益通算及び繰越控除」によれば、控除しきれない場合は3年間繰越可能です。

(4) 各特例の選択基準

ケース 推奨特例 理由
譲渡益が3,000万円以下 3,000万円特別控除 譲渡益を完全に非課税化できる
譲渡益が3,000万円超、新居が高額 買換え特例 当面の納税負担を軽減(ただし将来課税)
譲渡損が発生 損益通算・繰越控除 給与所得等から損失を控除できる

多くの場合、譲渡益を完全に非課税化できる3,000万円特別控除が有利とされていますが、個別の状況により最適な選択は異なるため、税理士への相談が推奨されます。

3,000万円特別控除の適用

(1) 適用要件

3,000万円特別控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 自分が住んでいた家屋を売却すること
  • 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却先が親族や同族会社でないこと
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

(2) 控除額の計算

譲渡所得が3,000万円以下の場合、全額が控除され、税金はかかりません。譲渡所得が3,000万円を超える場合、超えた部分に対して税率が適用されます。

例:譲渡所得3,500万円、短期譲渡の場合

課税譲渡所得 = 3,500万円 - 3,000万円 = 500万円
税額 = 500万円 × 39.63% = 約198万円

(3) 住まなくなった日から3年以内の売却

3,000万円特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。この期限を過ぎると控除が受けられなくなるため、買い替えのタイミングには注意が必要です。

(4) 必要書類

3,000万円特別控除を適用する際は、確定申告書に以下の書類を添付します。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 売却した家屋・土地の登記事項証明書
  • 売買契約書のコピー
  • 住民票の写し(売却時と取得時)

買換え特例による課税繰延べ

(1) 買換え特例とは(課税の繰延べ)

買換え特例は、旧居より高額な新居に買い換えた場合、譲渡益への課税を将来に繰り延べられる制度です。重要なポイントとして、この特例は課税を免除するものではなく、新居を将来売却する際にまとめて課税される点に注意が必要です。

(2) 適用要件(旧居より高額な新居への買換え)

買換え特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 譲渡年の1月1日において所有期間が10年超
  • 居住期間が10年以上
  • 譲渡価額が1億円以下
  • 買換え資産(新居)の床面積が50㎡以上、土地面積が500㎡以下
  • 新居を譲渡年の前年1月1日から譲渡年の翌年12月31日までに取得

新築後すぐの買い替えでは、所有期間10年超の要件を満たせないことが多いため、この特例は適用できないケースが多くなります。

(3) 3,000万円控除との選択適用

3,000万円特別控除と買換え特例は、併用できず、どちらか一方を選択する必要があります。一般的には、譲渡益を完全に非課税化できる3,000万円特別控除が有利とされています。

ただし、譲渡益が3,000万円を大きく超える場合で、新居に長期間住む予定があり、将来の売却予定がない場合は、買換え特例を選択することで当面の納税負担を軽減できる可能性があります。

(4) 将来売却時の課税関係

買換え特例を適用した場合、新居を将来売却する際には、旧居の譲渡益も含めて課税されます。課税の繰延べであり、免除ではない点を理解しておく必要があります。

売却損が出た場合の損益通算

(1) 譲渡損失の損益通算とは

新築後すぐに買い替えで売却し、譲渡損失が出た場合、その年の給与所得等から損失を差し引ける制度が「譲渡損失の損益通算」です。

例:譲渡損失500万円、給与所得600万円の場合

損益通算後の所得 = 600万円 - 500万円 = 100万円

この100万円に対してのみ所得税が課税されるため、大幅な節税効果があります。

(2) 適用要件(住宅ローンの残高要件等)

損益通算を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 売却する家屋の床面積が50㎡以上
  • 売却年の1月1日において所有期間が5年超
  • 売却契約の前日において、住宅ローン残高がある
  • 新居を取得し、年末までに入居する予定
  • 新居に10年以上の住宅ローンを組む

新築後すぐの売却では、所有期間5年超の要件を満たせないため、この制度が適用できないケースもあります。

(3) 繰越控除(3年間)

損益通算しきれない損失は、翌年以降3年間繰り越して控除できます。

例:譲渡損失1,500万円、給与所得600万円の場合

  • 1年目:600万円を控除、残り900万円を繰越
  • 2年目:600万円を控除、残り300万円を繰越
  • 3年目:300万円を控除

(4) 新築後すぐの売却で損失が出やすい

新築戸建ては、購入直後に価値が下がりやすい傾向があります。特に以下のケースでは譲渡損が出やすくなります。

  • 新築プレミアムが剥がれた場合
  • 建物の減価償却が進んだ場合
  • 市場環境の悪化(地価下落、金利上昇等)

ただし、損益通算の適用には所有期間5年超の要件があるため、新築後すぐの売却では適用できないケースが多い点に注意が必要です。

確定申告の手続きと必要書類

(1) 申告期限と申告先

不動産を売却した場合、譲渡益・譲渡損にかかわらず、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。申告先は、売却した年の翌年1月1日時点の住所地を管轄する税務署です。

(2) 確定申告書第三表の記入方法

譲渡所得の申告には、確定申告書第一表・第二表に加えて、「申告書第三表(分離課税用)」と「譲渡所得の内訳書」の提出が必要です。

国税庁の「確定申告に必要な書類」に記載例が掲載されているため、参考にするとよいでしょう。

(3) 各特例適用時の必要書類

特例を適用する場合、以下の書類が追加で必要になります。

3,000万円特別控除の場合

  • 譲渡所得の内訳書
  • 売却した家屋・土地の登記事項証明書
  • 売買契約書のコピー
  • 住民票の写し

買換え特例の場合

  • 上記に加えて、買換え資産の登記事項証明書
  • 買換え資産の売買契約書のコピー
  • 譲渡資産の登記事項証明書(所有期間確認用)

損益通算の場合

  • 上記に加えて、住宅ローンの残高証明書
  • 新居の登記事項証明書
  • 新居の住宅ローンの年末残高証明書

(4) 電子申告(e-Tax)の方法

e-Taxを利用すれば、自宅から確定申告が可能です。マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば、24時間いつでも申告できます。

e-Taxのメリット:

  • 税務署に行く必要がない
  • 添付書類の一部を省略できる(ただし5年間保管義務あり)
  • 還付金の受取が早い(約3週間)

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで申告書を作成できます。

まとめ

買い替えで新築戸建てを売却する際は、譲渡所得税が発生する可能性があります。譲渡益が出た場合は「3,000万円特別控除」か「買換え特例」を選択適用でき、譲渡損が出た場合は「損益通算・繰越控除」が適用可能です。

特に注意すべきポイント:

  • 新築後すぐの売却は短期譲渡所得(税率39.63%)になりやすい
  • 3,000万円控除と買換え特例は併用不可(選択適用)
  • 買換え特例は課税の繰延べであり、免除ではない
  • 各特例には所有期間等の要件があり、計画的な準備が必要

確定申告は譲渡年の翌年2月16日~3月15日に実施し、特例を適用する場合は必要書類を漏れなく準備することが重要です。個別の状況によって最適な選択は異なるため、税理士への相談も検討しましょう。

よくある質問

Q1買い替えで新築戸建てを売却する場合、どの特例を選ぶべきですか?

A1譲渡益が出た場合は3,000万円特別控除が基本です。新居が高額で将来の売却予定がない場合は買換え特例も検討できますが、課税の繰延べであり免除ではない点に注意が必要です。売却損の場合は損益通算を適用できます。個別の状況により最適な選択は異なるため、税理士への相談が推奨されます。

Q2新築後すぐに買い替えすると税金が高くなりますか?

A2譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら短期譲渡所得となり、税率は39.63%(所得税30.63%+住民税9%)です。新築後すぐの買い替えは短期譲渡になりやすく、長期譲渡所得(税率20.315%)と比べて税率が約2倍になる可能性があります。

Q33,000万円控除と買換え特例は同時に使えますか?

A3併用はできず、どちらか一方を選択する必要があります。3,000万円特別控除は譲渡益を非課税化できる一方、買換え特例は課税を将来に繰り延べるだけです。多くの場合、譲渡益を完全に非課税化できる3,000万円特別控除が有利とされています。

Q4新築戸建てを買い替えで売却し、損失が出た場合はどうなりますか?

A4譲渡損失の損益通算により、その年の給与所得等から損失を差し引けます。控除しきれない場合は3年間繰越可能です。ただし、売却年の1月1日において所有期間5年超、住宅ローン残高がある等の要件を満たす必要があります。新築後すぐの売却では所有期間要件を満たせないケースもあるため注意が必要です。

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