相続によって不動産を取得した、または相続を機に中古マンションを購入する方にとって、税制上の控除や特例を正しく理解することは、資金計画の重要なポイントです。本記事では、相続と中古マンション購入に関連する控除・特例について、実務面から詳しく解説します。
この記事のポイント
- 相続した不動産を売却して中古マンションを購入する場合、取得費加算の特例が活用できる可能性があります
- 中古マンション購入時には住宅ローン控除が利用でき、年末残高の0.7%を最大10年間控除できます(借入限度額2,000万円)
- 親から住宅取得資金の援助を受ける場合、最大500万円(省エネ等住宅では1,000万円)の贈与税非課税枠が活用できます
- 相続登記は2024年4月から義務化されており、相続後3年以内に手続きが必要です
- 税制の適用要件やタイミングには細かい条件があるため、専門家への相談を推奨します
1. 相続中古マンション購入の基礎知識
相続に関連して中古マンションを購入するケースには、いくつかのパターンがあります。それぞれの特徴を理解しておきましょう。
(1) 相続による取得と購入の違い
相続による不動産の取得と、自らの意思で購入する場合では、税制上の取り扱いが大きく異なります。
項目 | 相続による取得 | 購入 |
---|---|---|
課税される税金 | 相続税 | 所得税・住民税(住宅ローン控除対象) |
登録免許税 | 0.4% | 2.0%(土地は1.5%) |
不動産取得税 | 非課税 | 課税(軽減措置あり) |
住宅ローン控除 | 対象外 | 要件を満たせば対象 |
相続で取得した不動産自体は、住宅ローン控除の対象にはなりません。一方で、相続した不動産を売却して得た資金で別の中古マンションを購入する場合には、住宅ローン控除の適用が可能です。
(2) 相続税評価額と市場価格
相続税の計算では、不動産は「相続税評価額」で評価されます。これは通常、市場価格の70~80%程度となることが一般的です。相続した不動産を売却して中古マンションを購入する場合、この評価額と実際の売却価格の差を理解しておくことが重要です。
(3) 相続登記の義務化(2024年〜)
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を行う必要があり、正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続した不動産を売却して中古マンションを購入する場合でも、まずは相続登記を完了させる必要があります。
2. 相続購入の特殊性と注意点
相続を機に中古マンションを購入する場合、通常の購入とは異なる税制上の配慮が必要です。
(1) 相続後に購入する場合の税制
相続した不動産を売却して中古マンションを購入する場合、売却側と購入側の両方で税制を考慮する必要があります。
売却側の税制:
- 相続した不動産を売却すると譲渡所得税が発生します
- 居住用の場合、3,000万円特別控除が適用できる可能性があります
- 相続税を支払っている場合、取得費加算の特例を検討できます
購入側の税制:
- 住宅ローンを利用すれば、住宅ローン控除の適用が可能です
- 登録免許税や不動産取得税の軽減措置を受けられる場合があります
(2) 代償分割での資金調達
複数の相続人がいる場合、代償分割(一人が不動産を相続し、他の相続人に代償金を支払う方法)を選択することがあります。この代償金の資金調達のために中古マンションを購入することも考えられます。
代償金の支払いは相続税の課税対象となりますが、適正額を超えた代償金は贈与税の対象となる可能性があるため、遺産分割協議書に明記し、税理士に相談することが重要です。
(3) 相続税の取得費加算
相続した不動産を売却する場合、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)」を利用できる可能性があります。
この特例は、相続税の申告期限から3年10ヶ月以内に相続財産を譲渡した場合、支払った相続税の一部を譲渡資産の取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで、譲渡所得税が軽減されます。
適用要件:
- 相続または遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した者に相続税が課税されていること
- 相続税の申告期限から3年10ヶ月以内に譲渡していること
3. 購入時に適用できる主な控除・特例
中古マンションを購入する際に利用できる主な控除や特例を確認しましょう。
(1) 住宅ローン控除
中古マンションを購入する場合でも、一定の要件を満たせば住宅ローン控除を利用できます。
控除額:
- 年末ローン残高の0.7%を所得税から控除
- 控除期間:10年間
- 借入限度額:2,000万円
- 最大控除額:140万円(10年間合計)
主な適用要件:
- 自己の居住用であること
- 床面積が50㎡以上(2023年までに建築確認を受けた新築は40㎡以上)
- 借入期間が10年以上
- 年間所得が2,000万円以下
- 取得後6ヶ月以内に入居し、適用を受ける年の12月31日まで引き続き居住していること
中古住宅特有の要件:
- 1982年1月1日以降に建築された住宅であること
- または、耐震基準適合証明書を取得していること
(出典:国税庁 - 中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除))
1981年以前に建築された中古マンションでも、耐震基準適合証明書を取得すれば住宅ローン控除を受けられる可能性があります。証明書の取得には費用と時間がかかるため、購入前に確認しましょう。
(2) 住宅取得資金贈与の非課税
父母や祖父母から住宅取得資金の援助を受ける場合、贈与税の非課税枠を活用できます。
非課税限度額:
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 一般住宅:500万円
主な要件:
- 直系尊属(父母・祖父母)からの贈与であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し、居住すること
(出典:国税庁 - 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税)
なお、相続で取得した資金で中古マンションを購入する場合は、すでに相続税が課税されているため、贈与税は発生しません。この非課税枠は、生前贈与で住宅資金の援助を受ける場合に適用されます。
(3) 登録免許税・不動産取得税の軽減
中古マンションを購入する際には、登録免許税と不動産取得税の軽減措置を受けられる場合があります。
登録免許税の軽減(所有権移転登記):
- 原則:2.0%
- 軽減後:0.3%(2026年3月31日まで)
- 要件:床面積50㎡以上、築20年以内(耐火建築物は25年以内)など
不動産取得税の軽減:
- 建物:課税標準から最大1,200万円控除
- 土地:税額から一定額を軽減
- 要件:床面積50㎡以上240㎡以下など
4. 相続税・贈与税との関係
相続と中古マンション購入が関連する場合、相続税や贈与税との関係を正しく理解しておく必要があります。
(1) 相続財産からの購入資金
相続により取得した現金や売却代金で中古マンションを購入する場合、その資金には相続税がすでに課税されています。したがって、購入時に新たに贈与税が発生することはありません。
(2) 代償分割と贈与税
代償分割で他の相続人に代償金を支払う場合、適正な金額であれば贈与税は発生しません。ただし、遺産の評価額を大幅に超える代償金を支払うと、超過分に贈与税が課税される可能性があります。
遺産分割協議書に代償金の金額と根拠を明記し、税理士に確認することが重要です。
(3) 相続時精算課税制度
生前に父母や祖父母から住宅取得資金の援助を受ける場合、相続時精算課税制度を選択することも可能です。この制度では、累計2,500万円まで贈与税がかからず、贈与者が亡くなった際に相続税で精算します。
ただし、一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れないため、慎重な判断が必要です。
5. 相続購入で失敗しないためのポイント
相続を機に中古マンションを購入する場合、以下のポイントに注意しましょう。
(1) 相続登記と購入のタイミング
相続した不動産を売却して中古マンションを購入する場合、まず相続登記を完了させる必要があります。登記が完了していないと、売却手続きを進めることができません。
また、取得費加算の特例を利用する場合は、相続税の申告期限から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。スケジュールを事前に確認しておきましょう。
(2) 資金調達と税務処理
相続財産から購入資金を調達する場合、他の相続人との公平性を考慮する必要があります。代償分割を選択する場合は、適正な金額を算定し、遺産分割協議書に明記しましょう。
住宅ローンを利用する場合は、相続登記の完了後に手続きを進める必要があります。金融機関によって必要書類や審査基準が異なるため、早めに相談することをお勧めします。
(3) 税理士への相談タイミング
相続税と譲渡所得税、住宅ローン控除など、複数の税制が関連する場合、専門家のサポートが重要です。以下のタイミングで税理士に相談することをお勧めします。
- 相続発生時(遺産分割協議の前)
- 相続不動産の売却を検討する時
- 中古マンション購入を決定した時
- 確定申告の前
税理士への相談により、適用できる控除や特例を最大限に活用し、税負担を適正化できます。
まとめ
相続を機に中古マンションを購入する場合、さまざまな控除や特例を活用できる可能性があります。特に、相続した不動産を売却して購入資金を調達する場合は、取得費加算の特例や住宅ローン控除を組み合わせることで、税負担を軽減できます。
一方で、適用要件やタイミングには細かい条件があるため、専門家への相談を含めた慎重な計画が重要です。相続登記の義務化にも対応しつつ、最適な資金計画を立てましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続した不動産を売却して別のマンションを購入する場合の税制は?
売却時は相続不動産の譲渡所得税が発生します。居住用であれば3,000万円特別控除が適用可能な場合があります。購入時は要件を満たせば住宅ローン控除が使えます。また、相続税を支払っている場合は取得費加算の特例も検討できます。
Q2. 親から相続した資金でマンションを購入する場合、贈与税はかかりますか?
相続で取得した資金なので贈与税は不要です。相続税は相続時に課税済みです。住宅取得資金贈与の非課税枠は生前贈与の場合に適用されます。相続財産からの購入は贈与ではありません。
Q3. 相続した中古マンションで住宅ローン控除は使えますか?
相続で取得したマンション自体は住宅ローン控除の対象外です。相続後に別のマンションを購入する場合は、中古マンションの要件(築年数、耐震基準等)を満たし、借入金で取得することで住宅ローン控除が使えます。
Q4. 代償分割で資金を支払う場合の注意点は?
代償金の支払いは相続税の課税対象となります。過大な代償金は贈与税の対象になる可能性があるため、遺産分割協議書に代償金の記載が必要です。資金調達方法(ローン利用等)を事前に検討しましょう。
Q5. 取得費加算の特例の期限はどのくらいですか?
相続税の申告期限から3年10ヶ月以内に譲渡する必要があります。この期限を過ぎると特例は適用できなくなるため、売却スケジュールを早めに計画することが重要です。