買い替えによる中古マンション売却の税金基礎知識
住み替えのために中古マンションを売却する場合、譲渡所得税がかかる可能性があります。しかし、買い替え時に適用できる控除・特例を正しく理解することで、税負担を大幅に軽減できます。この記事では、買い替え時の中古マンション売却における税制優遇措置を国税庁の資料に基づき解説します。
この記事の結論を先にまとめると、以下の通りです。
- 3,000万円特別控除と買換え特例は選択適用で、譲渡益3,000万円以下なら3,000万円控除が有利
- 所有期間10年超なら3,000万円控除と軽減税率を併用でき大幅な節税効果
- 譲渡損失が出た場合は損益通算・繰越控除で給与所得等と相殺可能
- 旧居の売却特例と新居の住宅ローン控除には併用制限あり
- 総合的な税額シミュレーションが必要なため税理士への相談を推奨
(1) 譲渡所得税の計算式
国税庁「譲渡所得の計算方法」によれば、中古マンション売却時の譲渡所得は以下の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除
- 譲渡価額: 売却代金
- 取得費: 購入代金や購入時諸費用(建物は減価償却後の金額)
- 譲渡費用: 仲介手数料、印紙税、登記費用など売却に直接かかった費用
- 特別控除: 3,000万円特別控除など
(2) マンションの取得費計算
マンションの取得費は、建物部分について減価償却を行う必要があります。鉄筋コンクリート造マンションの減価償却計算は以下の通りです。
減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率(0.022) × 経過年数
例えば建物取得価額2,000万円、所有期間12年の場合:
2,000万円 × 0.9 × 0.022 × 12年 = 475.2万円
取得費は「2,000万円 - 475.2万円 = 1,524.8万円」となります。
(3) 取得費が不明な場合の概算取得費
購入時の契約書を紛失した場合など取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算できます。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は不利になるため、契約書の再発行や通帳記録などで取得費を証明することをお勧めします。
2. 買い替えの特殊性と注意点
(1) 売却と購入のタイミング(前年・同年・翌年)
国税庁「特定の居住用財産の買換えの特例」によれば、買換え特例を適用する場合、新居の取得時期には制限があります。
買換え資産の取得期間: 譲渡年の前年1月1日から翌年12月31日まで
例えば2025年に旧マンションを売却する場合:
- 2024年1月1日~2026年12月31日の間に新居を取得・居住する必要があります
(2) 所有期間10年超の判定時期
所有期間は売却年の1月1日時点で判定します。例えば以下のようなケースです。
- 2014年5月購入
- 2025年8月売却
→ 2025年1月1日時点で10年超所有(2014年5月~2025年1月1日=10年7か月超)のため、軽減税率や買換え特例の所有期間要件を満たします。
(3) 売却特例と住宅ローン控除の併用制限
国税庁「住宅ローン控除」によれば、旧居で3,000万円控除や買換え特例を使うと、新居の住宅ローン控除が一定期間使えなくなります。
一方、譲渡損失の繰越控除は住宅ローン控除との併用が可能です。どちらが有利かは総合的な税額シミュレーションが必要です。
3. 買い替え時に適用できる主な控除・特例
(1) 居住用財産の3,000万円特別控除
国税庁「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」によれば、居住用マンションの売却では譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
適用要件:
- 自分が居住していたマンションの売却であること
- 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係でないこと
- 売却年の前年・前々年に同じ特例を利用していないこと
所有期間に関する要件はないため、購入後すぐに売却した場合でも利用可能です。
(2) 所有期間10年超の軽減税率特例
国税庁「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率」によれば、売却年の1月1日時点で所有期間が10年を超えている場合、以下の軽減税率が適用されます。
課税譲渡所得 | 通常税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 20.315% | 14.21% |
6,000万円超の部分 | 20.315% | 20.315% |
例: 譲渡益5,000万円の場合
- 3,000万円控除適用: 5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円
- 残り2,000万円に軽減税率14.21%適用: 2,000万円 × 14.21% = 284.2万円
通常税率なら406.3万円のため、約122万円の節税効果があります。
(3) 買換え特例(課税の繰延べ)
国税庁「特定の居住用財産の買換えの特例」によれば、買換え特例は売却益への課税を新居の売却時まで繰延べる制度です。課税が免除されるわけではない点に注意が必要です。
適用要件:
- 売却するマンションの所有期間が10年超(売却年の1月1日時点)
- 居住期間が10年以上
- 売却価額が1億円以下
- 新居の床面積が50㎡以上
- 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得・居住
(4) 譲渡損失の損益通算・繰越控除
国税庁「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」によれば、買い替え時に譲渡損失が出た場合、以下のメリットがあります。
- 給与所得などの他の所得と損益通算できる
- 損益通算しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せる
- 新居の住宅ローン控除との併用が可能
この特例は、売却価格が購入価格を下回る場合に有効です。
(5) 住宅ローン残債がある場合の特例
住宅ローン残債があるマンションを売却し譲渡損失が出た場合、別の特例「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が適用できる場合があります。この特例も新居の住宅ローン控除との併用が可能です。
4. 特例の選択と併用ルール
(1) 3,000万円控除と買換え特例は選択適用
3,000万円控除と買換え特例は選択適用で、どちらか一方しか使えません。一般的な判断基準は以下の通りです。
3,000万円控除が有利なケース:
- 譲渡益が3,000万円以下(税額ゼロになる)
- 新居を長期保有する予定がない(課税繰延のメリットが小さい)
買換え特例が有利なケース:
- 譲渡益が3,000万円を大きく超える
- 新居を長期保有予定で、将来さらに高値で売却できる見込み
(2) 3,000万円控除と軽減税率は併用可能
3,000万円特別控除と軽減税率の特例は併用できます。所有期間10年超の場合、3,000万円控除後の譲渡益に対して軽減税率14.21%が適用されます。
(3) どの特例が有利かの判断基準
特例の選択は以下の順序で判断します。
譲渡益または譲渡損失の有無:
- 譲渡益あり → 3,000万円控除 or 買換え特例
- 譲渡損失あり → 譲渡損失の繰越控除
譲渡益の金額:
- 3,000万円以下 → 3,000万円控除(税額ゼロ)
- 3,000万円超 → 所有期間10年超なら3,000万円控除+軽減税率が基本有利
新居の住宅ローン控除の影響:
- 旧居の特例と新居の住宅ローン控除を総合シミュレーション
5. 買い替えで失敗しないためのポイント
(1) 譲渡益が大きい場合の特例選択
譲渡益が大きい場合(3,000万円超)は、以下の比較検討が必要です。
- 3,000万円控除+軽減税率(所有期間10年超): 即時の税負担軽減
- 買換え特例: 課税繰延だが次回売却時に課税
新居を長期保有しない予定の場合、3,000万円控除+軽減税率の方が総合的に有利になることが多いです。
(2) 譲渡損失が出る場合の特例活用
売却価格が購入価格を下回る場合、譲渡損失の繰越控除を活用しましょう。
- 給与所得等と損益通算して当年の税負担を軽減
- 損益通算しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せる
- 新居の住宅ローン控除との併用が可能
この特例により、譲渡損失を無駄にせず税負担を軽減できます。
(3) 税理士への相談タイミング
以下のケースでは税理士への早期相談を強くお勧めします。
- 譲渡益が3,000万円を大きく超える場合
- 3,000万円控除と買換え特例の有利判定が必要な場合
- 旧居の特例と新居の住宅ローン控除を総合シミュレーションしたい場合
- 減価償却計算が複雑な場合(リフォーム歴が多い、建物価格が不明など)
税理士報酬は一般的に5万円~15万円程度ですが、誤った申告による追徴課税リスクや節税機会の損失を考えると十分に価値があります。
まとめ
買い替えによる中古マンション売却では、適切な控除・特例の選択により税負担を大幅に軽減できます。譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円控除で税額をゼロにでき、所有期間10年超なら軽減税率との併用でさらに節税効果が大きくなります。
一方、譲渡損失が出た場合は損益通算・繰越控除により給与所得等と相殺でき、新居の住宅ローン控除との併用も可能です。ただし、旧居の売却特例と新居の住宅ローン控除には併用制限があるため、総合的な税額シミュレーションが不可欠です。
特例の選択や併用ルールは複雑なため、譲渡益が大きい場合や判断に迷う場合は早めに税理士に相談することをお勧めします。確定申告は売却翌年の3月15日までですが、余裕をもって準備を進めましょう。