買い替え中古マンション購入時の控除・特例とは
既存の住宅を売却して中古マンションに買い替える場合、さまざまな税制優遇措置を活用できる可能性があります。住み替えによる税負担を軽減し、資金計画を最適化するためには、これらの制度を正しく理解することが重要です。
この記事のポイント
- 住宅ローン控除は年末残高の0.7%を最大13年間、所得税から控除できる
- 中古マンションは築年数要件(耐火25年以内、非耐火20年以内)または耐震基準適合が必要
- 住宅取得資金贈与の非課税措置は親・祖父母からの贈与で最大1,000万円まで非課税
- 売却時の3,000万円控除と購入時の住宅ローン控除は併用できない
- 確定申告は購入した年の翌年2月16日~3月15日に実施
(1) 買い替え時の税制優遇の全体像
買い替え(住み替え)では、旧居の売却と新居の購入という2つの取引が発生します。税制上はこれらを別々に扱うため、それぞれに異なる優遇措置が適用されます。
旧居売却時の主な措置
- 3,000万円特別控除(譲渡益から最大3,000万円控除)
- 譲渡損失の損益通算・繰越控除(売却損を給与所得等から控除)
新居購入時の主な措置
- 住宅ローン控除(年末残高の0.7%を最大13年間控除)
- 住宅取得資金贈与の非課税措置(親・祖父母からの贈与で最大1,000万円まで非課税)
- 登録免許税・不動産取得税の軽減措置
ただし、旧居売却時の3,000万円特別控除と新居購入時の住宅ローン控除は併用できません。3,000万円控除を適用すると、その年とその前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除を受けられない点に注意が必要です。
(2) 中古マンション特有の状況
中古マンションを購入する場合、新築と異なる以下の点に注意が必要です。
- 築年数要件: 住宅ローン控除を受けるには、耐火建築物(マンション等)は築25年以内、非耐火建築物は築20年以内という要件があります。ただし、耐震基準適合証明書を取得すれば築年数に関わらず適用可能です。
- 耐震基準適合証明書: 昭和56年以前の建物が現行の耐震基準を満たしていることを証明する書類です。取得には費用(5万~10万円程度)と時間(1~2週間程度)がかかります。
- 管理費・修繕積立金: 中古マンションは管理費・修繕積立金の精算が必要で、これらは取得費に含まれません。
住宅ローン控除の基礎知識
(1) 住宅ローン控除の適用要件
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンで住宅を取得した場合、年末ローン残高の0.7%を所得税から控除できる制度です。国税庁の「住宅ローン控除」によれば、以下の要件を満たす必要があります。
基本要件
- 住宅ローンの借入期間が10年以上
- 床面積が50㎡以上(合計所得1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- 床面積の2分の1以上が自己の居住用
- 合計所得金額が2,000万円以下
- 取得日から6カ月以内に入居し、その年の12月31日まで引き続き居住
中古住宅特有の要件
- 耐火建築物は築25年以内、非耐火建築物は築20年以内
- または、昭和57年1月1日以降に建築された住宅
- または、耐震基準適合証明書を取得した住宅
国土交通省の「中古住宅取得時の耐震基準適合証明」によれば、昭和56年以前の建物でも、耐震基準適合証明書を取得すれば住宅ローン控除の対象となります。
(2) 控除額と控除期間
2024年以降に入居する場合、中古住宅の住宅ローン控除は以下の通りです。
住宅の種類 | 借入限度額 | 控除率 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|---|
認定住宅(長期優良住宅等) | 3,000万円 | 0.7% | 10年間 | 210万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,000万円 | 0.7% | 10年間 | 210万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 | 0.7% | 10年間 | 210万円 |
その他の住宅 | 2,000万円 | 0.7% | 10年間 | 140万円 |
例:年末ローン残高3,000万円の場合
1年目の控除額 = 3,000万円 × 0.7% = 21万円
この21万円が所得税から控除されます。所得税から控除しきれない場合は、住民税から最大9.75万円まで控除可能です。
(3) 中古住宅の控除条件
中古マンションで住宅ローン控除を受けるためには、前述の築年数要件を満たす必要があります。昭和57年(1982年)1月1日以降に建築された住宅であれば、築年数に関わらず適用可能です。
それ以前の建物の場合、耐震基準適合証明書の取得が必要です。証明書の取得手順:
- 建築士事務所または指定確認検査機関に依頼
- 現地調査(耐震診断)の実施
- 耐震基準を満たしていることの確認
- 証明書の発行(費用5万~10万円程度、期間1~2週間程度)
購入前に耐震基準適合証明書を取得できるか、売主や不動産業者に確認することが重要です。
その他の税制優遇措置
(1) 住宅取得資金贈与の非課税措置
親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税となる特例があります。国税庁の「贈与税の住宅取得等資金の非課税特例」によれば、以下の要件を満たす必要があります。
適用要件
- 贈与者は贈与年の1月1日において60歳以上の直系尊属(父母・祖父母)
- 受贈者は贈与年の1月1日において18歳以上の直系卑属(子・孫)
- 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し、同日までに入居または入居が確実と見込まれること
- 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに確定申告を行うこと
非課税限度額(2024年)
- 省エネ等住宅:1,000万円
- その他の住宅:500万円
例:親から1,000万円の贈与を受けて、省エネ基準適合の中古マンションを購入した場合、全額が非課税となります。
(2) 固定資産税・不動産取得税の軽減
中古マンション購入時には、登録免許税の軽減措置も適用されます。国税庁の「登録免許税の軽減措置」によれば、以下の軽減が受けられます。
登録免許税の軽減(2027年3月31日まで)
登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
所有権移転登記 | 2.0% | 0.3% |
抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1% |
例:購入価格3,000万円、住宅ローン2,500万円の場合
所有権移転登記: 3,000万円 × 0.3% = 9万円
抵当権設定登記: 2,500万円 × 0.1% = 2.5万円
合計: 11.5万円
(軽減なしの場合: 3,000万円 × 2.0% + 2,500万円 × 0.4% = 70万円)
軽減措置により、約58.5万円の節税効果があります。
買い替え・住み替え時の注意点
(1) 買換え特例との併用制限
国税庁の「買い替え時の住宅ローン控除の適用」によれば、旧居売却時に以下の特例を適用した場合、新居の住宅ローン控除は受けられません。
併用できない特例(3,000万円控除適用の場合)
- 3,000万円特別控除を適用した年
- その前年・前々年
- その翌年・翌々年
つまり、3,000万円控除を適用すると、その年を中心に前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除を受けられません。
例:2024年に旧居を売却して3,000万円控除を適用した場合
- 2022年~2026年の5年間は新居の住宅ローン控除が受けられない
どちらが有利かは、旧居の譲渡益、新居の住宅ローン残高、所得税額などによって異なるため、税理士に試算を依頼することが推奨されます。
(2) 売却と購入のタイミング
買い替えの場合、売却と購入のタイミングによって適用できる特例が異なります。
売却先行型(旧居売却→新居購入)
- 3,000万円控除と住宅ローン控除の併用制限に注意
- 仮住まい期間が発生する可能性
- 売却代金を新居購入の頭金に充当できる
購入先行型(新居購入→旧居売却)
- 二重ローン期間が発生する可能性
- 資金計画に余裕が必要
- 住み替えがスムーズ
同時決済型(売却と購入を同日実施)
- 仮住まい不要、二重ローン期間なし
- タイミング調整が難しい
- 不動産業者の協力が必要
それぞれにメリット・デメリットがあり、資金状況や家族の事情に応じて選択する必要があります。
買い替え時の購入で避けるべき失敗
(1) よくある誤解
誤解1:「買い替えなら全ての特例が併用できる」
実際には、3,000万円控除と住宅ローン控除は併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
誤解2:「中古マンションは全て住宅ローン控除の対象」
築年数要件(耐火25年以内、非耐火20年以内)または耐震基準適合が必要です。昭和56年以前の建物は耐震基準適合証明書の取得が必須です。
誤解3:「確定申告しなくても自動的に控除される」
住宅ローン控除や贈与税非課税措置を受けるには、必ず確定申告が必要です。期限(翌年2月16日~3月15日)を過ぎると適用できません。
(2) 特例適用の落とし穴
落とし穴1:耐震基準適合証明書の取得タイミング
証明書は購入前に取得する必要があります。購入後では遡って適用できません。売主の協力が得られない場合、購入を見送ることも検討が必要です。
落とし穴2:床面積の測定方法
住宅ローン控除の床面積要件(50㎡以上)は、登記簿上の面積(内法面積)で判定します。広告の専有面積(壁芯面積)とは異なる場合があるため、登記簿謄本で確認が必要です。
落とし穴3:合計所得金額の計算
住宅ローン控除は合計所得金額2,000万円以下という要件があります。旧居の譲渡益が大きい場合、この要件を満たせず、住宅ローン控除が受けられない可能性があります。
確定申告の手続きと必要書類
(1) 申告期限と提出書類
住宅ローン控除や贈与税非課税措置を受けるには、購入した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。
住宅ローン控除の必要書類
- 確定申告書
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローンの年末残高証明書(金融機関から送付)
- 住宅・土地の登記事項証明書
- 売買契約書または工事請負契約書のコピー
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- (中古住宅の場合)耐震基準適合証明書または住宅性能評価書のコピー
贈与税非課税措置の必要書類
- 確定申告書
- 贈与税の申告書(第一表・第一表の二)
- 住宅取得資金の非課税の計算明細書
- 戸籍謄本(贈与者と受贈者の関係確認用)
- 住宅・土地の登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- (省エネ等住宅の場合)住宅性能証明書または建設住宅性能評価書のコピー
e-Tax(電子申告)を利用すれば、自宅から24時間いつでも申告できます。還付金の受取も早く(約3週間)、添付書類の一部を省略できる(ただし5年間保管義務あり)メリットがあります。
(2) 税理士への相談タイミング
以下のケースでは、税理士への相談が推奨されます。
- 旧居の譲渡益が3,000万円に近い、または超える場合
- 3,000万円控除と住宅ローン控除のどちらが有利か判断が必要な場合
- 売却損があり、損益通算・繰越控除を検討している場合
- 贈与税非課税措置と住宅ローン控除を併用する場合
- 耐震基準適合証明書の取得が必要な場合
税理士への相談は、購入前の段階で行うことが理想的です。購入後では選択肢が限られるため、事前に税務面の検証を行い、最適な買い替えプランを立てることが重要です。
まとめ
買い替えで中古マンションを購入する際は、住宅ローン控除や住宅取得資金贈与の非課税措置など、さまざまな税制優遇措置を活用できます。ただし、旧居売却時の3,000万円控除と新居購入時の住宅ローン控除は併用できない点に注意が必要です。
特に押さえるべきポイント:
- 中古マンションは築年数要件(耐火25年以内、非耐火20年以内)または耐震基準適合が必要
- 3,000万円控除を適用すると、その年とその前後2年間(計5年間)は住宅ローン控除を受けられない
- 確定申告は購入した年の翌年2月16日~3月15日に実施
- 耐震基準適合証明書は購入前に取得する必要がある
- どちらの特例が有利かは個別の状況により異なるため、税理士への相談が推奨される
買い替えは大きな資金が動く取引です。税制優遇措置を最大限活用するため、購入前の段階で税務面の検証を行い、最適なプランを立てることが重要です。