中古マンション売却の控除・特例|3000万円控除・軽減税率

公開日: 2025/10/16

中古マンション売却の税金基礎知識

中古マンションを売却すると、譲渡所得税が課税される場合があります。しかし、居住用財産の3,000万円特別控除や10年超所有軽減税率など、税負担を軽減する特例が用意されています。基礎知識を理解し、適切に特例を活用しましょう。

この記事のポイント:

  • 譲渡所得税の基本と計算式(収入金額-取得費-譲渡費用)を理解できる
  • 居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件と注意点がわかる
  • 所有期間10年超の軽減税率特例(税率14.21%)と3,000万円控除との併用方法を把握できる
  • 譲渡損失が出た場合の損益通算・繰越控除の仕組みを理解できる
  • 確定申告の手続きと必要書類、特例適用のための申告要件を学べる

(1) 譲渡所得税とは何か

譲渡所得税は、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。所得税と住民税の2つから構成されます。

課税の仕組み:

  • 譲渡所得 = 収入金額 - 取得費 - 譲渡費用
  • 譲渡所得に対して、所有期間に応じた税率で課税

(2) 譲渡所得の計算式

基本計算式:

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

収入金額:

  • 売却価格(買主から受け取る代金)
  • 固定資産税・都市計画税の清算金も含む

取得費:

  • 不動産の購入代金
  • 購入時の仲介手数料、登記費用、不動産取得税
  • 増改築費用
  • 建物の減価償却費相当額を差し引く

譲渡費用:

  • 売却時の仲介手数料
  • 印紙税
  • 測量費
  • 建物の取壊し費用

(3) 取得費と譲渡費用の範囲

取得費に含められるもの:

  • 購入代金(土地・建物)
  • 仲介手数料
  • 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
  • 不動産取得税
  • 増改築費用(設備の交換、リフォーム費用)
  • 測量費

取得費に含められないもの:

  • 修繕費(通常の維持管理費)
  • 火災保険料
  • 固定資産税・都市計画税
  • 住宅ローンの利息

譲渡費用に含められるもの:

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 測量費
  • 建物の取壊し費用
  • 売買契約解除に伴う違約金

譲渡費用に含められないもの:

  • 修繕費
  • 引越費用
  • 仮住まいの費用

取得費が分からない場合:

  • 概算取得費(売却価格の5%)を使用できます
  • ただし、取得費が少なくなるため譲渡所得が増え、税負担が増加します
  • 購入時の売買契約書や領収書を探すことが重要です

(4) 長期譲渡と短期譲渡の税率差

譲渡所得税の税率は、所有期間により異なります。

所有期間の判定:

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間を判定します
  • 例: 2018年7月に購入、2024年3月に売却 → 2024年1月1日時点で所有期間5年7ヶ月 → 長期譲渡所得

税率:

区分 所有期間 所得税 住民税 合計
短期譲渡所得 5年以下 30.63% 9% 39.63%
長期譲渡所得 5年超 15.315% 5% 20.315%

短期譲渡所得と長期譲渡所得では約2倍の税率差があります。売却時期を調整できる場合、5年超まで待つことで税負担を大きく軽減できます。

居住用財産の3,000万円特別控除

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。所有期間に関係なく適用できます。

(1) 3,000万円特別控除とは

特例の内容:

  • 自己が居住していた不動産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます
  • 控除後の譲渡所得に対して税率が適用されます

計算例:

  • 譲渡所得: 4,000万円
  • 3,000万円特別控除適用後: 4,000万円 - 3,000万円 = 1,000万円
  • 税額(長期譲渡所得): 1,000万円 × 20.315% = 203万1,500円

3,000万円特別控除がない場合、税額は 4,000万円 × 20.315% = 812万6,000円 となり、約609万円の節税効果があります。

(2) 適用要件(居住要件・売却期限)

居住要件:

  • 自己が居住していた不動産であること
  • 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 例: 2021年3月に転居 → 2024年12月31日までに売却すれば適用可能

その他の要件:

  • 売却年の前年・前々年にこの特例を受けていないこと
  • 売却先が配偶者、直系血族、生計を一にする親族等でないこと
  • 確定申告で特例適用を申請すること

所有期間:

  • 3,000万円特別控除は所有期間を問いません
  • 購入後すぐに売却しても適用できます(短期譲渡所得の税率は適用されます)

(3) 注意点と確認事項

確定申告が必須:

  • 3,000万円特別控除を受けるには、確定申告が必須です
  • 控除後の譲渡所得がゼロになる場合でも申告が必要です

他の特例との併用:

  • 10年超所有軽減税率特例とは併用可能です
  • 買換え特例(譲渡益の繰延べ)とは併用できません(どちらかを選択)

住宅ローン控除との関係:

  • 売却年の前年・前々年に住宅ローン控除を受けていた場合、3,000万円特別控除を受けると、新居の住宅ローン控除が一定期間受けられなくなります
  • 買い替えの場合、どちらが有利か慎重に検討が必要です

所有期間10年超の軽減税率特例

所有期間が10年を超える居住用財産を売却した場合、3,000万円特別控除と併用して、さらに税率が軽減される特例です。

(1) 軽減税率の仕組み(税率14.21%)

特例の内容:

  • 所有期間10年超の居住用財産を売却した場合、譲渡所得6,000万円以下の部分に税率14.21%が適用されます
  • 通常の長期譲渡所得の税率20.315%より約6%低くなります

税率:

譲渡所得の金額 所得税 住民税 合計
6,000万円以下 10.21% 4% 14.21%
6,000万円超 15.315% 5% 20.315%

6,000万円超の部分は通常の長期譲渡所得の税率(20.315%)が適用されます。

(2) 3,000万円控除との併用

3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率は併用できます。

適用順序:

  1. まず3,000万円特別控除を適用
  2. 控除後の譲渡所得に対して軽減税率を適用

計算例:

  • 譲渡所得: 5,000万円
  • 所有期間: 12年(10年超)
  • 3,000万円特別控除適用後: 5,000万円 - 3,000万円 = 2,000万円
  • 税額(軽減税率): 2,000万円 × 14.21% = 284万2,000円

通常の長期譲渡所得の税率(20.315%)の場合、税額は 2,000万円 × 20.315% = 406万3,000円 となり、約122万円の節税効果があります。

(3) 所有期間の判定方法

所有期間の起算日:

  • 不動産を取得した日から売却した日までの期間です
  • 相続・贈与で取得した場合、被相続人・贈与者の取得日を引き継ぎます

10年超の判定:

  • 売却した年の1月1日時点で所有期間10年超であることが要件です
  • 例: 2014年3月に購入、2024年5月に売却 → 2024年1月1日時点で所有期間9年10ヶ月 → 10年超の要件を満たさない
  • 例: 2013年12月に購入、2024年5月に売却 → 2024年1月1日時点で所有期間10年1ヶ月 → 10年超の要件を満たす

売却時期を1年調整することで、軽減税率の適用を受けられるか決まります。

譲渡損失の損益通算・繰越控除

中古マンション売却で損失(譲渡損失)が出た場合、一定の要件を満たせば、給与所得などの他の所得と相殺(損益通算)でき、翌年以降3年間繰り越せます。

(1) 譲渡損失が出た場合の特例

譲渡損失とは:

  • 譲渡所得の計算で、収入金額が取得費・譲渡費用の合計を下回る場合の損失です
  • 譲渡損失 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

損益通算:

  • 譲渡損失を、給与所得・事業所得等の他の所得と相殺できます
  • 相殺後の所得に対して所得税・住民税が課税されるため、税負担が軽減されます

繰越控除:

  • 損益通算で相殺しきれない譲渡損失は、翌年以降3年間繰り越せます
  • 繰越控除を受けるには、毎年確定申告が必要です

(2) 買い替え時の損益通算

買い替え時の特例:

  • マイホームを売却し、新しいマイホームを購入する場合の特例です
  • 譲渡損失を給与所得等と損益通算でき、翌年以降3年間繰り越せます

適用要件:

  • 売却する不動産が自己の居住用財産であること
  • 売却年の前年1月1日から翌年12月31日までに新しい居住用財産を取得すること
  • 新しい居住用財産を取得した年の翌年12月31日までに居住すること
  • 新しい居住用財産に住宅ローンがあること(償還期間10年以上)
  • 売却年の1月1日時点で所有期間5年超であること

(3) 住宅ローン残債がある場合の特例

住宅ローン残債がある場合の特例:

  • マイホームを売却し、住宅ローン残債を下回る(オーバーローン)場合の特例です
  • 譲渡損失を給与所得等と損益通算でき、翌年以降3年間繰り越せます

適用要件:

  • 売却する不動産が自己の居住用財産であること
  • 売却年の1月1日時点で所有期間5年超であること
  • 売却価格が住宅ローン残債を下回ること
  • 売却により住宅ローンを完済できないため、自己資金で補填すること

損益通算できる損失の上限:

  • 住宅ローン残債 - 売却価格 が損益通算できる上限です
  • 例: 売却価格2,500万円、住宅ローン残債3,000万円 → 損益通算できる損失は500万円

確定申告の手続きと必要書類

不動産を売却した場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告が必要です。特例を適用する場合も、確定申告が必須です。

(1) 確定申告の義務と期限

確定申告の義務:

  • 不動産を売却し、譲渡所得が発生した場合、確定申告が必要です
  • 3,000万円特別控除等の特例を適用し、譲渡所得がゼロになる場合でも申告が必要です
  • 譲渡損失が発生した場合、申告義務はありませんが、損益通算・繰越控除を受けるには申告が必要です

申告期限:

  • 売却した年の翌年2月16日から3月15日まで
  • 例: 2024年に売却 → 2025年2月16日から3月15日までに申告

申告漏れのペナルティ:

  • 無申告加算税: 納税額の15〜20%(自主的に期限後申告した場合は5%)
  • 延滞税: 納期限の翌日から納付日までの日数に応じて年率2.4〜8.7%程度

(2) 必要書類のチェックリスト

確定申告書:

  • 確定申告書第一表・第二表
  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)

売却時の書類:

  • 売買契約書のコピー
  • 仲介手数料の領収書
  • 測量費・取壊し費用等の領収書
  • 固定資産税・都市計画税の清算金の明細

取得時の書類:

  • 購入時の売買契約書のコピー
  • 購入時の仲介手数料・登記費用の領収書
  • 増改築費用の領収書

特例適用のための書類:

  • 3,000万円特別控除: 住民票の除票(売却時に住んでいない場合)
  • 10年超所有軽減税率: 登記事項証明書(所有期間の証明)
  • 譲渡損失の損益通算: 住宅ローンの残高証明書(買い替え時・住宅ローン残債がある場合)

(3) 特例適用のための申告要件

3,000万円特別控除:

  • 確定申告書に「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を適用する旨を記載
  • 譲渡所得の内訳書を添付
  • 住民票の除票(売却時に住んでいない場合)

10年超所有軽減税率:

  • 確定申告書に「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」を適用する旨を記載
  • 登記事項証明書(所有期間の証明)

譲渡損失の損益通算・繰越控除:

  • 確定申告書に「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を適用する旨を記載
  • 住宅ローンの残高証明書(買い替え時・住宅ローン残債がある場合)
  • 新しい居住用財産の登記事項証明書(買い替え時)

まとめ

中古マンション売却時には、譲渡所得税が課税されますが、居住用財産の3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率、譲渡損失の損益通算・繰越控除など、税負担を軽減する特例が用意されています。これらの特例を適切に活用することで、大きな節税効果が得られます。

3,000万円特別控除は所有期間に関係なく適用でき、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。10年超所有軽減税率は、所有期間10年超の場合に3,000万円控除と併用して税率14.21%が適用されます。譲渡損失が出た場合は、損益通算・繰越控除により給与所得等と相殺できます。

特例を適用するには、確定申告が必須です。売却した年の翌年2月16日から3月15日までに、必要書類を揃えて申告しましょう。取得費が分からない場合は概算取得費(売却価格の5%)を使用できますが、税負担が増加するため、購入時の売買契約書や領収書を探すことが重要です。不安がある場合は、税理士への相談をおすすめします。

よくある質問

Q13,000万円特別控除を使うための条件は何ですか?

A1自己が居住していた不動産であること、売却前3年以内に居住していたこと(住まなくなってから3年目の12月31日まで)、所有期間は問いません。確定申告で特例適用を申請することが必須で、控除後の譲渡所得がゼロになる場合でも申告が必要です。

Q2所有期間10年超の軽減税率とは何ですか?

A2所有期間10年超の居住用財産を売却した場合に適用される特例で、譲渡所得6,000万円以下の部分に税率14.21%(通常は20.315%)が適用されます。3,000万円特別控除との併用が可能で、所有期間は売却年の1月1日時点で判定します。

Q3売却で損失が出た場合、税制上のメリットはありますか?

A3譲渡損失の損益通算・繰越控除が適用可能です。給与所得などの他の所得と相殺して税負担を軽減でき、繰越控除は最長3年間適用できます。買い替え時と住宅ローン残債がある場合で異なる特例があり、いずれも確定申告が必要です。

Q4取得費が分からない場合はどうすれば良いですか?

A4概算取得費(売却価格の5%)を使用できますが、取得費が少なくなり譲渡所得が増えるため税負担が増加します。購入時の売買契約書や領収書を探すことが重要です。親族からの相続の場合は被相続人の取得費を引き継ぎます。

関連記事