転勤購入中古戸建ての住宅ローン控除の基本
転勤が多い職業の方でも、中古戸建ての購入時に住宅ローン控除を受けることは可能です。ただし、転勤のタイミングや家族の居住状況によって控除の扱いが異なります。この記事では、転勤前提で中古戸建てを購入する際の住宅ローン控除の仕組みを解説します。
この記事の結論を先にまとめると、以下の通りです。
- 単身赴任で配偶者や扶養親族が居住継続する場合、住宅ローン控除は継続適用可能
- 家族全員で転勤する場合、事前届出により転勤終了後の再適用が可能
- 転勤中に賃貸に出すと再適用できない可能性が高い
- 1982年以前建築の中古戸建ては耐震基準適合証明書等が必要
- 確定申告と税務署への届出期限を守ることが重要
(1) 控除率0.7%・最大10年間
国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合」によれば、中古戸建ての購入時には以下の条件で住宅ローン控除を受けられます。
- 控除率: 年末ローン残高の0.7%
- 控除期間: 最大10年間
- 控除方法: 所得税から控除、控除しきれない額は住民税から控除(上限97,500円/年)
転勤が予定されている場合でも、購入時に居住を開始すれば控除を受けられます。
(2) 借入限度額2000万円(一般中古)
中古戸建ての借入限度額は物件の種類により異なります。
物件種類 | 借入限度額 | 最大控除額(10年間) |
---|---|---|
一般中古 | 2,000万円 | 140万円 |
買取再販 | 3,000万円 | 210万円 |
「買取再販」とは、宅建業者が取得・リフォームして2年以内に販売した物件を指します。転勤前提で購入する場合でも、この限度額は同じです。
(3) 居住要件の基本
住宅ローン控除を受けるには、取得日から6か月以内に居住を開始し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住していることが原則です。ただし、国税庁「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」によれば、転勤等のやむを得ない事情については特例が設けられています。
2. 転勤時の住宅ローン控除の扱い
(1) やむを得ない事情による特例
国税庁「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」によれば、転勤命令による転居は「やむを得ない事情」として特例が適用されます。この特例により、以下の2パターンで住宅ローン控除を継続または再適用できます。
- 単身赴任: 配偶者等が居住継続する場合、控除を継続適用
- 家族帯同: 事前届出により転勤終了後の再適用が可能
(2) 単身赴任と家族帯同の違い
転勤時の住宅ローン控除の扱いは、単身赴任か家族帯同かで大きく異なります。
転勤形態 | 住宅ローン控除 | 必要手続き |
---|---|---|
単身赴任(配偶者等が居住継続) | 継続適用 | 特になし |
家族帯同(全員転居) | 一旦中断 | 転任届出書の提出 |
単身赴任の場合は特別な手続きなしで控除を継続できますが、家族帯同の場合は事前に税務署への届出が必須です。
(3) 転勤のタイミングと控除の関係
購入後すぐに転勤になった場合でも、6か月以内に居住を開始していれば住宅ローン控除の対象になります。例えば以下のようなケースです。
- 2025年4月購入・入居
- 2025年10月転勤(単身赴任)
→ 6か月以上居住しているため、2025年分の控除を受けられます。配偶者が居住継続すれば2026年以降も継続適用されます。
3. 単身赴任時の控除継続要件
(1) 配偶者・扶養親族の居住継続
国税庁「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」によれば、単身赴任時に住宅ローン控除を継続するには、以下の親族が中古戸建てに居住継続する必要があります。
- 配偶者
- 所得税法上の扶養親族(子ども、親など)
- 生計を一にする親族
配偶者や子どもが一緒に転居し、誰も居住しなくなる場合は継続適用できません。
(2) 住民票の扱い
単身赴任時の住民票の扱いは、住宅ローン控除に影響しません。モゲチェック「住宅ローン控除適用中に単身赴任したらどうなる?」によれば、以下のいずれの場合でも控除を継続できます。
- 住民票を中古戸建ての住所に置いたまま転勤
- 住民票を転勤先に移す
重要なのは「配偶者等が実際に居住しているか」であり、住民票の有無ではありません。
(3) 継続適用の手続き
単身赴任で配偶者等が居住継続する場合、特別な手続きは不要です。年末調整または確定申告で通常通り住宅ローン控除を申請すれば継続適用されます。ただし、会社に単身赴任であることを説明し、家族が居住継続している旨を伝えることをお勧めします。
4. 家族帯同時の控除中断と再適用
(1) 転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書
家族全員で転勤する場合、住宅ローン控除は一旦中断しますが、事前に「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を税務署に提出すれば、転勤終了後に再び居住する際に控除を再適用できます。
届出の提出期限: 転居前(できるだけ早く)
国税庁「No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」によれば、この届出を怠ると転勤終了後の再適用ができません。転勤が決まったら速やかに所轄税務署に相談しましょう。
(2) 再適用の要件と手続き
転勤終了後に住宅ローン控除を再適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 転任届出書を転居前に提出済み
- 転勤終了後、再び中古戸建てに居住開始
- 控除期間の残存期間内に再入居
再適用時には、「再び居住の用に供した場合の住宅借入金等特別控除額の計算明細書」を確定申告時に提出します。
(3) 残存控除期間の計算
重要なのは、転勤により中断した期間は控除期間に算入されない点です。
例:
- 2025年4月購入・入居(控除期間10年、2034年まで)
- 2027年4月転勤(家族帯同)
- 2030年4月帰任・再入居
→ 2025-2026年の2年間控除適用済み。残り8年間のうち、2030年から再適用(2037年まで延長)。
つまり、転勤中の3年間は控除期間にカウントされず、再入居後に残り8年間の控除を受けられます。
(4) 賃貸に出す場合の注意点
ハウス・リースバック「転勤で住宅ローン控除は受けられる?」によれば、転勤中に中古戸建てを賃貸に出すと、住宅ローン控除の再適用ができなくなる可能性が高いです。賃貸に出した時点で「居住用財産」ではなくなるためです。
転勤終了後に再び自分で居住する予定がある場合は、空き家のままにしておくことをお勧めします。
5. 転勤時の確定申告と必要書類
(1) 転勤命令の証明書類
転勤による特例を適用する場合、転勤命令の証明書類が必要になる場合があります。
- 会社発行の転勤辞令の写し
- 会社発行の転勤証明書
税務署から求められた場合に提出できるよう、保管しておきましょう。
(2) 確定申告書の作成方法
国税庁「【確定申告書等作成コーナー】-転勤と住宅借入金等特別控除等」によれば、転勤時の確定申告は以下の流れで行います。
単身赴任の場合:
- 通常通り「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」を作成
- 確定申告書に控除額を記入
- 年末調整で控除済みの場合は確定申告不要
家族帯同の場合:
- 転居前に「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を提出
- 転勤中は住宅ローン控除を申請しない
- 再入居後、「再び居住の用に供した場合」として確定申告
(3) 税務署への届出期限
転任届出書の提出期限は明確に定められていませんが、転居前に提出することが要件です。転勤が決まったら速やかに所轄税務署に連絡し、必要書類と手続きを確認しましょう。
6. 中古戸建て特有の耐震基準要件
(1) 1982年以降建築の築年数要件
国税庁「No.1214 中古住宅を取得した場合」によれば、中古戸建ての住宅ローン控除には以下の築年数要件があります。
- 1982年1月1日以降に建築された住宅: 築年数制限なし
- 1981年12月31日以前に建築された住宅: 耐震基準適合証明書等が必要
1982年以降の物件であれば、転勤前提の購入でも特別な証明書は不要です。
(2) 耐震基準適合証明書の取得
1981年以前に建築された中古戸建てでも、以下のいずれかの証明書を取得すれば住宅ローン控除を受けられます。
- 耐震基準適合証明書: 建築士等が現行の耐震基準を満たすことを証明
- 既存住宅性能評価書: 住宅性能評価機関が耐震等級1以上を証明
- 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書: 保険法人が耐震性を証明
証明書の取得費用は5万円~15万円程度です。
(3) 既存住宅性能評価書による証明
既存住宅性能評価書は、国土交通大臣の登録を受けた住宅性能評価機関が発行します。耐震等級1以上(建築基準法レベル)が証明されれば、住宅ローン控除の要件を満たします。
転勤前提で中古戸建てを購入する場合、事前に耐震基準の確認と証明書取得を不動産会社に依頼することをお勧めします。
まとめ
転勤が多い職業の方でも、中古戸建ての購入時に住宅ローン控除を受けることは可能です。単身赴任で配偶者が居住継続する場合は特別な手続きなしで控除を継続でき、家族全員で転勤する場合も事前届出により転勤終了後の再適用が可能です。
ただし、転勤中に賃貸に出すと再適用できない可能性が高いため、転勤終了後に再び自分で居住する予定がある場合は空き家にしておくことをお勧めします。また、1982年以前建築の中古戸建ては耐震基準適合証明書等が必要なため、購入前に必ず確認しましょう。
転勤が決まったら速やかに所轄税務署に相談し、必要な届出と手続きを確認することが重要です。