相続した中古戸建て売却の控除・特例|空き家3000万

公開日: 2025/10/19

相続した中古戸建て売却の税金基礎知識

相続により取得した中古戸建てを売却する際、譲渡所得税が発生する可能性があります。相続で取得した不動産の売却には、通常の不動産売却とは異なる特別な控除・特例が適用できる場合があり、特に「相続空き家の3,000万円特別控除」は大きな節税効果が期待できます。

この記事で分かること:

  • 相続した中古戸建て売却時の譲渡所得税の計算方法
  • 相続空き家の3,000万円特別控除の適用要件(昭和56年5月31日以前建築、耐震基準適合)
  • 相続税の取得費加算の特例との選択基準
  • 相続登記の義務化(2024年4月)と売却タイミング
  • 複数相続人がいる場合の控除額按分方法

(1) 譲渡所得税の計算式

不動産を売却した際の譲渡所得税は、以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 収入金額: 売却価格
  • 取得費: 購入価格 + 購入時の諸費用(相続の場合は被相続人の取得費を引き継ぐ)
  • 譲渡費用: 仲介手数料、測量費、印紙税等

(2) 相続戸建ての取得費計算(被相続人の取得費を引き継ぐ)

相続で取得した不動産の取得費は、被相続人が取得した時期と金額を引き継ぎます。これを「みなし取得費」といいます。

計算例:

  • 被相続人が昭和60年に1,500万円で購入
  • 令和6年に相続人が売却(売却価格3,000万円)
  • 取得費: 1,500万円(被相続人の購入価格)
  • 譲渡費用: 150万円
譲渡所得 = 3,000万円 - (1,500万円 + 150万円) = 1,350万円

(3) 取得費不明の場合の概算取得費(5%)

被相続人の取得費が不明な場合、売却価格の5%を取得費として計算する「概算取得費」を使用します。この場合、譲渡所得が大きくなり、税負担が増加します。

概算取得費の計算例:

  • 売却価格: 3,000万円
  • 取得費不明 → 概算取得費: 3,000万円 × 5% = 150万円
  • 譲渡費用: 150万円
譲渡所得 = 3,000万円 - (150万円 + 150万円) = 2,700万円

実際の取得費が150万円を超える場合は、購入時の契約書等を探すことで税負担を軽減できます。

相続に伴う売却の特殊性と注意点

(1) 相続登記と売却のタイミング(2024年義務化)

2024年4月から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、相続開始を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。

相続登記の手続き:

  1. 被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本を取得
  2. 遺産分割協議書を作成(複数相続人がいる場合)
  3. 法務局で相続登記申請
  4. 登記完了後、登記事項証明書を取得

相続登記が完了していないと不動産を売却できないため、早期の手続きが重要です。

(2) 相続税申告期限(10ヶ月以内)との関係

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。相続税を支払った場合、売却時に「相続税の取得費加算の特例」を適用できる可能性があります。

この特例は、相続開始から3年10ヶ月以内に売却することが要件となるため、相続税申告期限と売却タイミングを考慮した計画が必要です。

(3) 複数相続人がいる場合の持分と控除額按分

複数の相続人がいる場合、不動産の持分に応じて売却代金と控除額が配分されます。

空き家特例の場合:

  • 3,000万円の控除額は相続人全員で1つ(按分)
  • 持分に応じて控除額を配分
  • 例: 2人で1/2ずつなら各1,500万円まで控除

居住用特例の場合:

  • 各相続人が個別に3,000万円まで控除可能

相続時に適用できる主な控除・特例

(1) 相続空き家の3,000万円特別控除

相続により取得した一定の要件を満たす空き家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例です。

適用要件(国税庁):

  • 昭和56年5月31日以前に建築された戸建て住宅であること
  • 相続開始直前まで被相続人が一人暮らしだったこと(老人ホーム入所も含む)
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 以下のいずれかを満たすこと:
    • 耐震基準に適合していること
    • 売却前に耐震リフォームを実施すること
    • 建物を解体して更地で売却すること

(2) 居住用財産の3,000万円特別控除

相続後に相続人自身が居住していた場合、居住用財産の3,000万円特別控除を適用できる可能性があります。

適用要件:

  • 自己の居住用財産であること
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 売主と買主が親族等の特別な関係でないこと

相続後に自己居住していた場合、空き家特例ではなく居住用特例を選択することになります。

(3) 相続税の取得費加算の特例

相続税を支払った場合、その一部を譲渡所得の計算時に取得費に加算できる特例です。

適用要件:

  • 相続または遺贈により財産を取得していること
  • 相続税を支払っていること
  • 相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すること(相続開始から3年10ヶ月以内)

加算できる相続税額の計算:

取得費に加算する相続税額 = 相続税額 × (売却した不動産の相続税評価額 / 相続税の課税価格)

この特例は、3,000万円特別控除(空き家特例・居住用特例)との併用はできません。譲渡所得が3,000万円を超える場合に有利になる可能性があります。

(4) 所有期間10年超の軽減税率特例

相続により取得した不動産の所有期間は、被相続人が取得した時期から計算します。被相続人が10年超所有していた場合、軽減税率特例を適用できる可能性があります。

軽減税率(6,000万円以下の部分):

  • 所得税: 10.21%(復興特別所得税を含む)
  • 住民税: 4%
  • 合計: 14.21%

通常の長期譲渡所得税率(20.315%)と比べて、約6%の軽減となります。

この特例は、居住用財産の3,000万円特別控除と併用可能ですが、空き家特例との併用はできません。

空き家特例と通常特例の選択基準

(1) 空き家特例の適用要件(昭和56年5月31日以前建築、耐震基準適合)

空き家特例を適用するための主な要件は以下の通りです。

要件 内容
建築時期 昭和56年5月31日以前
被相続人の居住状況 相続開始直前まで一人暮らし(老人ホーム入所含む)
売却期限 相続開始から3年以内
売却価格 1億円以下
耐震基準 耐震基準適合、リフォーム、または解体

昭和56年6月1日以降に建築された新耐震基準の建物は、空き家特例の対象外です。

(2) 相続後に居住した場合の通常3,000万円控除

相続後に相続人自身が居住していた場合、空き家特例ではなく居住用財産の3,000万円特別控除を選択することになります。

選択の判断基準:

  • 空き家特例: 昭和56年5月31日以前建築の建物で、相続開始直前まで被相続人が一人暮らし
  • 居住用特例: 相続後に自己居住した場合(建築年次を問わない)

どちらの特例も3,000万円控除という点では同じですが、適用要件が異なるため、自身の状況に合った特例を選択する必要があります。

(3) 小規模宅地等の特例との選択適用

相続税の計算時に「小規模宅地等の特例」を適用すると、一定の宅地の評価額を最大80%減額できます。ただし、小規模宅地等の特例を適用した場合、空き家特例の適用が制限される場合があります。

選択の判断基準:

  • 小規模宅地等の特例: 相続税の負担軽減(評価額の80%減額)
  • 空き家特例: 譲渡所得税の負担軽減(譲渡所得から3,000万円控除)

相続税が高額な場合は小規模宅地等の特例が有利となることが多く、相続税が少額または非課税の場合は空き家特例が有利となる傾向があります。

相続売却で失敗しないためのポイント

(1) 売却期限(空き家特例は相続開始から3年以内)

空き家特例を適用する場合、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。

期限の計算例:

  • 相続開始: 2022年6月1日
  • 3年経過日: 2025年6月1日
  • 売却期限: 2025年12月31日まで

この期限を過ぎると空き家特例が適用できなくなるため、早めの売却準備が重要です。

(2) 耐震リフォームか解体かの判断

昭和56年5月31日以前に建築された建物は、旧耐震基準のため、空き家特例を適用するには以下のいずれかの対応が必要です。

  • 耐震リフォームを実施し、耐震基準適合証明書を取得
  • 建物を解体し、更地で売却

判断基準:

  • 耐震リフォーム費用: 100-300万円程度
  • 解体費用: 100-200万円程度
  • 建物付きで売却可能か、更地の方が高く売れるかを検討

一般的には、建物が古く買主が建て替えを希望する場合は解体、建物がまだ使える状態であれば耐震リフォームが選択されます。

(3) 税理士への相談タイミング

相続した不動産の売却は税務が複雑であり、以下の場合は税理士への相談を推奨します。

  • 相続税が発生している場合
  • 取得費加算の特例と3,000万円控除のどちらが有利か判断が必要な場合
  • 複数の相続人がおり、持分と控除額の按分計算が必要な場合
  • 小規模宅地等の特例との選択適用を検討する場合

まとめ

相続により取得した中古戸建てを売却する際、「相続空き家の3,000万円特別控除」や「居住用財産の3,000万円特別控除」など、大きな節税効果が期待できる特例があります。特に空き家特例は、昭和56年5月31日以前に建築された戸建てを相続開始から3年以内に売却する場合に適用できる可能性があり、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。

相続登記が2024年4月から義務化されたため、相続開始から3年以内に登記を完了させる必要があります。また、空き家特例の適用には耐震基準適合または解体が必要となるため、早期の売却準備が重要です。

相続税を支払った場合は、取得費加算の特例も検討できますが、3,000万円特別控除との併用はできないため、どちらが有利かを税理士に相談しながら判断することをお勧めします。

よくある質問

相続空き家の3,000万円特別控除とは何ですか?

昭和56年5月31日以前に建築された戸建てを相続し、一定要件を満たして売却した場合に適用される特例で、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。相続開始から3年以内の売却が要件で、耐震基準適合または解体が必要です。また、被相続人が相続開始直前まで一人暮らしだったことが条件となります。売却価格が1億円以下であることも要件の一つです。

相続税の取得費加算の特例とは何ですか?

相続税を支払った場合、その一部を譲渡所得の計算時に取得費に加算できる特例です。相続開始から3年10ヶ月以内に売却することが要件です。ただし、空き家3,000万円控除や居住用3,000万円控除との併用はできません。譲渡所得が3,000万円を超える場合に有利になる可能性があるため、どちらの特例を適用するかは個別の状況に応じて税理士に相談することをお勧めします。

相続後に自分で住んでいた場合、空き家特例は使えますか?

空き家特例は使えませんが、居住用財産の3,000万円特別控除が使える可能性があります。相続後に自己居住していた場合、自己居住の要件を満たせば適用可能です。所有期間10年超であれば軽減税率との併用も可能です。どちらが有利かは個別の状況により異なるため、税理士への相談を推奨します。

複数の相続人がいる場合、控除額はどうなりますか?

空き家特例の3,000万円は相続人全員で1つとなり、持分に応じて控除額を配分します。例えば2人で1/2ずつの持分であれば、各相続人が1,500万円まで控除できます。一方、居住用特例は各相続人が個別に3,000万円まで控除可能です。複数相続人がいる場合は、持分と控除額の按分計算が複雑になるため、税理士への相談を推奨します。

よくある質問

Q1相続空き家の3,000万円特別控除とは何ですか?

A1昭和56年5月31日以前に建築された戸建てを相続し、一定要件を満たして売却した場合に適用される特例で、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。相続開始から3年以内の売却が要件で、耐震基準適合または解体が必要です。また、被相続人が相続開始直前まで一人暮らしだったことが条件となります。売却価格が1億円以下であることも要件の一つです。

Q2相続税の取得費加算の特例とは何ですか?

A2相続税を支払った場合、その一部を譲渡所得の計算時に取得費に加算できる特例です。相続開始から3年10ヶ月以内に売却することが要件です。ただし、空き家3,000万円控除や居住用3,000万円控除との併用はできません。譲渡所得が3,000万円を超える場合に有利になる可能性があるため、どちらの特例を適用するかは個別の状況に応じて税理士に相談することをお勧めします。

Q3相続後に自分で住んでいた場合、空き家特例は使えますか?

A3空き家特例は使えませんが、居住用財産の3,000万円特別控除が使える可能性があります。相続後に自己居住していた場合、自己居住の要件を満たせば適用可能です。所有期間10年超であれば軽減税率との併用も可能です。どちらが有利かは個別の状況により異なるため、税理士への相談を推奨します。

Q4複数の相続人がいる場合、控除額はどうなりますか?

A4空き家特例の3,000万円は相続人全員で1つとなり、持分に応じて控除額を配分します。例えば2人で1/2ずつの持分であれば、各相続人が1,500万円まで控除できます。一方、居住用特例は各相続人が個別に3,000万円まで控除可能です。複数相続人がいる場合は、持分と控除額の按分計算が複雑になるため、税理士への相談を推奨します。

関連記事