買い替えによる中古戸建て売却の税金基礎知識
中古戸建てを売却して別の物件に買い替える場合、旧居売却と新居購入の両方で税制優遇を活用できます。ただし、3,000万円特別控除と買換え特例は選択適用(併用不可)であり、新居の住宅ローン控除との併用にも制限があります。この記事では、買い替えによる中古戸建て売却時の控除・特例を、実務的な注意点とともに解説します。
この記事で分かること(要約)
- 買い替え時に適用できる控除・特例(3,000万円特別控除、所有期間10年超の軽減税率、買換え特例、譲渡損失の損益通算)
- 特例の選択と併用ルール(3,000万円控除と軽減税率は併用可、買換え特例とは選択)
- 新居の住宅ローン控除との併用制限
- 所有期間10年超の判定時期と税率(譲渡所得6,000万円以下の部分は14.21%)
- 確定申告の手続きと特例選択の判断基準
(1) 譲渡所得税の計算式
中古戸建て売却時の譲渡所得税は、以下の式で計算します。
計算式: 譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用 譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
税率(所有期間による):
- 短期譲渡所得(5年以下): 39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得(5年超): 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
- 所有期間10年超の軽減税率: 14.21%(6,000万円以下の部分、所得税10.21%+住民税4%)
(出典: 国税庁 - 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例、国税庁 - マイホームを売ったときの軽減税率の特例)
(2) 取得費の範囲(購入代金・リフォーム費用)
取得費には、以下の費用が含まれます。
含まれるもの:
- 土地・建物の購入代金
- 仲介手数料
- 登記費用
- 不動産取得税
- リフォーム費用(資本的支出のみ)
- 建物の減価償却費を控除した額
含まれないもの:
- 修繕費(資本的支出でない通常の修理)
- 固定資産税
- 住宅ローンの利息
(3) 取得費が不明な場合の概算取得費
購入時の契約書が残っていない場合、「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とすることができます。
概算取得費の計算例:
- 売却価格: 4,000万円
- 概算取得費: 4,000万円 × 5% = 200万円
- 譲渡費用: 150万円
- 譲渡所得: 4,000万円 - 200万円 - 150万円 = 3,650万円
概算取得費は非常に不利なので、購入時の契約書や領収書は大切に保管しましょう。
買い替えの特殊性と注意点
買い替えには、通常の売却と異なる注意点があります。
(1) 売却と購入のタイミング(前年・同年・翌年)
買い替えの特例は、売却と購入のタイミングにより適用要件が異なります。
譲渡損失の損益通算・繰越控除の場合:
- 売却年の前年から翌年までに新居を購入すること
- 売却年または翌年12月31日までに新居に入居すること
(2) 所有期間10年超の判定時期
所有期間10年超の軽減税率特例の判定は、「譲渡した年の1月1日時点」で行います。
具体例:
- 取得日: 2014年6月1日
- 譲渡日: 2024年12月31日
- 判定日: 2024年1月1日時点で所有期間9年7ヶ月 → 10年超に該当せず
- 2025年1月1日以降の譲渡なら10年超に該当
(3) 売却特例と住宅ローン控除の併用制限
旧居売却で3,000万円特別控除や買換え特例を使うと、新居で住宅ローン控除が使えない期間があります。
併用不可の期間: 新居に居住開始した年の前2年、当年、後3年の計6年間に、旧居売却で以下の特例を使っていないことが、住宅ローン控除の適用条件です。
- 居住用財産の3,000万円特別控除
- 居住用財産の軽減税率の特例
- 居住用財産の買換え特例
(出典: 国税庁 - 住宅借入金等特別控除)
買い替え時に適用できる主な控除・特例
買い替え時に利用できる主な税制優遇措置を解説します。
(1) 居住用財産の3,000万円特別控除
自己が居住していた不動産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
適用要件:
- 自己の居住用財産であること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと
- 過去2年以内にこの特例を受けていないこと
計算例:
- 譲渡所得: 2,500万円
- 3,000万円特別控除適用後: 0円(2,500万円 - 3,000万円 = マイナスは0円)
- 譲渡所得税: 0円
(2) 所有期間10年超の軽減税率特例
所有期間10年超の居住用財産を売却した場合、譲渡所得6,000万円以下の部分に通常より低い税率が適用されます。
税率:
- 6,000万円以下の部分: 14.21%(所得税10.21%+住民税4%)
- 6,000万円超の部分: 20.315%(通常の長期税率)
3,000万円特別控除との併用: 3,000万円特別控除と軽減税率の特例は併用可能です。
計算例:
- 譲渡所得: 5,000万円
- 3,000万円特別控除適用後: 2,000万円
- 税額(10年超軽減税率): 2,000万円 × 14.21% = 約284万円
- 通常の長期税率の場合: 2,000万円 × 20.315% = 約406万円
- 節税額: 約122万円
(3) 買換え特例(課税の繰延べ)
買い替えで譲渡益が出ても、新居の取得価額の方が高ければ課税を繰り延べられる特例です。
適用要件:
- 所有期間10年超、居住期間10年以上
- 売却価格が1億円以下
- 新居の床面積が50㎡以上
- 売却年の前年から翌年までに新居を取得
注意点: 買換え特例は課税の繰延べであり、免除ではありません。新居を将来売却する際に、繰延べられた課税が発生します。
(出典: 国税庁 - 特定のマイホームを買い換えたときの特例)
(4) 譲渡損失の損益通算・繰越控除
買い替えで譲渡損失が出た場合、給与所得等と損益通算し、翌年以降3年間繰越控除できます。
適用要件:
- 所有期間5年超
- 売却年の前年から翌年までに新居を購入
- 新居について住宅ローンを利用
- 新居の床面積が50㎡以上
(出典: 国税庁 - マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
(5) 住宅ローン残債がある場合の特例
住宅ローン残債がある状態で買い替える場合、特定のマイホームの譲渡損失の特例が適用できる可能性があります。
適用要件:
- 所有期間5年超
- 売却価格が住宅ローン残高を下回る
- 譲渡損失(住宅ローン残高 - 売却価格)を他の所得と損益通算可能
(出典: 国税庁 - 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
特例の選択と併用ルール
複数の特例がある場合、どれを選ぶべきかを解説します。
(1) 3,000万円控除と買換え特例は選択適用
3,000万円特別控除と買換え特例は、どちらか一方しか選択できません。
選択のポイント:
- 譲渡益が3,000万円以下: 3,000万円特別控除が有利(税額ゼロ)
- 譲渡益が大きく、次回売却予定がない: 買換え特例も選択肢
- 次回売却予定がある: 3,000万円特別控除が有利(課税繰延べより即時控除)
(2) 3,000万円控除と軽減税率は併用可能
3,000万円特別控除と所有期間10年超の軽減税率の特例は併用可能です。
併用の計算例:
- 譲渡所得: 4,000万円
- 3,000万円特別控除適用後: 1,000万円
- 税額(10年超軽減税率): 1,000万円 × 14.21% = 約142万円
- 通常の長期税率の場合: 1,000万円 × 20.315% = 約203万円
- 節税額: 約61万円
(3) どの特例が有利かの判断基準
3,000万円特別控除が有利なケース:
- 譲渡益が3,000万円以下
- 所有期間10年以下
- 新居で住宅ローン控除を使いたい
買換え特例が有利なケース:
- 譲渡益が大きい(5,000万円以上など)
- 次回売却予定がない(一生住み続ける予定)
- 新居で住宅ローン控除を使わない
軽減税率の特例が有利なケース:
- 所有期間10年超
- 譲渡益が3,000万円を超える
- 新居で住宅ローン控除を使いたい(軽減税率のみなら併用制限なし)
買い替えで失敗しないためのポイント
買い替え時の失敗を避けるためのポイントを解説します。
(1) 譲渡益が大きい場合の特例選択
試算例:
- 譲渡益: 5,000万円
- 所有期間: 15年(10年超)
選択肢1: 3,000万円特別控除+軽減税率
- 3,000万円控除後: 2,000万円
- 税額(軽減税率): 2,000万円 × 14.21% = 約284万円
選択肢2: 買換え特例
- 課税繰延べ(新居売却時に課税)
- 一生住み続ける予定なら実質非課税
(2) 譲渡損失が出る場合の特例活用
譲渡損失が出る場合、損益通算・繰越控除と住宅ローン控除は併用可能です。
計算例:
- 譲渡損失: 500万円
- 給与所得: 800万円
- 損益通算後の所得: 300万円
- 税負担軽減額: 約150万円(所得税率20%+住民税10%と仮定)
(3) 税理士への相談タイミング
以下のケースでは、税理士への相談を検討しましょう。
- 譲渡益が3,000万円を超える場合
- 複数の特例を比較検討したい場合
- 取得費が不明で概算取得費を使う場合
- 新居の住宅ローン控除との併用を検討する場合
まとめ
買い替えによる中古戸建て売却では、3,000万円特別控除、所有期間10年超の軽減税率、買換え特例、譲渡損失の損益通算など複数の税制優遇措置が利用できます。ただし、3,000万円控除と買換え特例は選択適用(併用不可)であり、新居の住宅ローン控除との併用にも制限があります。所有期間10年超なら、3,000万円控除と軽減税率の併用が可能で、譲渡所得6,000万円以下の部分は14.21%の税率が適用されます。どの特例が有利かは、譲渡益の額、所有期間、次回売却予定などで判断し、事前に試算することをおすすめします。取得費が不明な場合は概算取得費(5%)を使いますが、非常に不利なので、購入時の契約書や領収書は大切に保管しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 3,000万円特別控除と買換え特例、どちらが有利ですか?
A. 3,000万円控除は即時の税額控除、買換え特例は課税の繰延べです。譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円控除が有利で、税額がゼロになります。譲渡益が大きく(5,000万円以上など)、次回売却予定がない場合は買換え特例も選択肢です。所有期間10年超なら3,000万円控除と軽減税率の併用が可能で、譲渡所得6,000万円以下の部分は14.21%の税率が適用されます。個別のシミュレーションは税理士へ相談することをおすすめします。
Q2. 所有期間10年超の軽減税率特例とは何ですか?
A. 所有期間10年超の居住用財産を売却した場合に適用される特例で、譲渡所得6,000万円以下の部分に税率14.21%(所得税10.21%+住民税4%)が適用されます(通常の長期税率は20.315%)。3,000万円特別控除との併用が可能で、3,000万円控除後の譲渡所得に対して軽減税率が適用されます。例えば、譲渡所得5,000万円、所有期間15年なら、3,000万円控除後2,000万円に対して14.21%の税率が適用され、税額は約284万円です(通常税率なら約406万円)。
Q3. 買い替えで譲渡損失が出た場合、税制上のメリットはありますか?
A. あります。譲渡損失の損益通算・繰越控除が適用可能です。給与所得などの他の所得と相殺して税負担を軽減でき、繰越控除は最長3年間適用可能です。例えば、譲渡損失500万円、給与所得800万円なら、損益通算後の所得は300万円となり、税負担軽減額は約150万円です(所得税率20%+住民税10%と仮定)。住宅ローン残債がある場合は、特定のマイホームの譲渡損失の特例もあります。
Q4. 新居の住宅ローン控除と旧居の売却特例は併用できますか?
A. 原則として併用に制限があります。新居に居住開始した年の前2年、当年、後3年の計6年間に、旧居売却で3,000万円控除や買換え特例を使うと、新居の住宅ローン控除が使えません。ただし、譲渡損失の特例は住宅ローン控除との併用が可能です。どちらが有利かは、譲渡益、借入額、所得など総合的な税額シミュレーションが必要です。事前に税理士に相談することをおすすめします。
Q5. 買い替えで新居に入居した後に旧居を売却する場合、特例は使えますか?
A. 使えますが、制限があります。新居に入居した年の後3年以内に旧居を売却した場合、旧居売却で3,000万円控除や軽減税率の特例を使うと、新居の住宅ローン控除が使えなくなります(2020年税制改正による厳格化)。この場合、どちらの特例を使うかは、譲渡益と借入額で判断します。旧居売却で損失が出た場合は、譲渡損失の特例と住宅ローン控除の併用が可能です。売却と購入のタイミングを事前に検討することが重要です。