離婚に伴う中古戸建て購入時の控除・特例の全体像
離婚を機に新たに中古戸建てを購入する場合、財産分与や住宅ローン控除など、複数の税制上の論点があります。財産分与で受け取った資金を使う場合、贈与税がかかるのか、住宅ローン控除は使えるのか、疑問に思う方も多いでしょう。この記事では、離婚に伴う中古戸建て購入時の控除・特例を、実務的な注意点とともに解説します。
この記事で分かること(要約)
- 離婚時の財産分与と贈与税の関係(原則非課税、過大分与は課税)
- 離婚後の単独名義購入と住宅ローン控除(控除率0.7%、最大10年間、借入限度額2,000万円)
- 共有名義から単独名義への変更と税制措置
- 中古戸建て特有の築年数要件(1982年以降建築なら不問)
- 確定申告の手続きと必要書類
(1) 離婚という特殊状況での税制メリット
離婚に伴う中古戸建て購入には、以下の税制上の特徴があります。
状況 | 税制措置 | 注意点 |
---|---|---|
財産分与で購入資金を受け取る | 原則として贈与税非課税 | 過大な分与は課税対象 |
離婚後に単独名義で新規購入 | 住宅ローン控除を適用可能 | 中古は借入限度額2,000万円 |
共有名義から単独名義へ変更 | 財産分与による持分追加取得も控除適用可 | 財産分与する側に譲渡所得税発生 |
1982年以前建築の中古購入 | 耐震基準適合証明書等が必要 | 取得費用は数万円~十数万円 |
(出典: 国税庁 - 離婚して財産をもらったとき、国税庁 - 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合)
(2) 利用可能な主な控除・特例一覧
離婚に伴う中古戸建て購入時に利用できる主な税制優遇措置は以下の通りです。
財産分与関連:
- 財産分与による不動産取得資金: 原則として贈与税非課税
- 財産分与による共有持分追加取得: 新規取得として住宅ローン控除適用可
住宅ローン控除:
- 年末ローン残高の0.7%を最大10年間所得税・住民税から控除
- 一般中古: 最大140万円(2,000万円×0.7%×10年)
- 買取再販: 最大273万円(3,000万円×0.7%×13年)
その他:
- 登録免許税の軽減(所有権移転登記0.3%→0.1%)
- 不動産取得税の軽減(最大1,200万円控除)
(3) 財産分与後の新居購入の税務
離婚による財産分与で不動産や現金を受け取り、それを原資として中古戸建てを購入する場合、以下の税務上の留意点があります。
財産分与を受ける側:
- 財産分与は原則として贈与税非課税です。
- ただし、分与額が過大な場合や、租税回避目的の離婚と認められる場合は贈与税が課税されます。
財産分与をする側:
- 不動産を財産分与として渡す場合、渡す側に譲渡所得税が発生する可能性があります。
- 譲渡所得の計算は、分与時の時価で譲渡したものとして計算されます。
(出典: 国税庁 - 離婚して土地建物などを渡したとき)
財産分与と贈与税の関係
離婚時の財産分与と贈与税の関係を正しく理解することが重要です。
(1) 財産分与は原則非課税
離婚に伴う財産分与は、原則として贈与税が課税されません。
非課税の根拠:
- 財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を清算するものであり、贈与ではないと考えられています。
- 慰謝料としての財産分与も、損害賠償としての性格があるため、原則非課税です。
具体例:
- 離婚時に配偶者から現金2,000万円を財産分与として受け取り、中古戸建ての購入資金に充てる場合、原則として贈与税は課税されません。
(2) 過大な財産分与で贈与税が課される場合
以下のケースでは、財産分与の一部または全部に贈与税が課税される可能性があります。
課税されるケース:
- 分与額が、夫婦の協力で築いた財産額や離婚の事情を考慮しても過大である場合
- 離婚が租税回避目的であると認められる場合
過大な財産分与の判定: 明確な基準はありませんが、以下の要素が考慮されます。
- 婚姻期間の長さ
- 各配偶者の財産形成への寄与度
- 離婚の事情(有責性など)
- 双方の生活状況
例:
- 婚姻期間が1年程度で、夫の財産形成に妻がほとんど寄与していないにもかかわらず、数千万円の財産分与を受けた場合、過大と判定される可能性があります。
(3) 財産分与する側の譲渡所得税
不動産を財産分与として渡す場合、渡す側に譲渡所得税が発生する可能性があります。
譲渡所得の計算:
- 譲渡価額: 分与時の時価
- 取得費: 購入時の価格 - 減価償却費
- 譲渡所得: 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
例:
- 購入価格3,000万円の不動産(減価償却後の取得費2,000万円)を、時価4,000万円で財産分与した場合
- 譲渡所得: 4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
- 譲渡所得税(長期): 2,000万円 × 20.315% = 約406万円
3,000万円特別控除の適用: 居住用財産を財産分与として渡す場合、3,000万円特別控除が適用できる可能性があります(配偶者への譲渡は原則不可ですが、離婚成立後の分与なら適用可)。
(出典: 国税庁 - 離婚して土地建物などを渡したとき)
離婚後の単独名義購入と住宅ローン控除
離婚後に新たに中古戸建てを単独名義で購入する場合、通常の住宅ローン控除を適用できます。
(1) 中古戸建てを単独名義で購入する場合の控除
離婚後の単独名義購入でも、住宅ローン控除の適用要件は変わりません。
基本要件:
- 住宅ローンの借入期間が10年以上
- 床面積が50㎡以上(合計所得1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- 床面積の2分の1以上が自己の居住用
- 取得後6ヶ月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住
- 合計所得金額が2,000万円以下
- 1982年1月1日以降に建築された住宅(または耐震基準適合証明書等あり)
(出典: 国税庁 - 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合)
(2) 控除率0.7%・最大10年間・借入限度額2,000万円
中古戸建ての住宅ローン控除は以下の通りです。
一般中古住宅:
- 控除率: 年末ローン残高の0.7%
- 控除期間: 10年間
- 借入限度額: 2,000万円
- 年間最大控除額: 14万円(2,000万円×0.7%)
- 10年間の最大控除額: 140万円
計算例:
- 離婚後、財産分与で受け取った現金1,000万円を頭金に、2,500万円の中古戸建てを購入
- 住宅ローン: 1,500万円
- 年末残高: 1,450万円
- 年間控除額: 1,450万円×0.7%=10.15万円(約10万円)
(3) 適用要件と必要書類
確定申告に必要な書類:
- 確定申告書
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローン年末残高証明書
- 登記事項証明書(取得後3ヶ月以内のもの)
- 売買契約書のコピー
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- マイナンバー確認書類
離婚関連の追加書類(必要に応じて):
- 離婚協議書または調停調書のコピー(財産分与の内容を証明)
- 戸籍謄本(離婚の事実を証明)
共有名義から単独名義への変更と税制
離婚に伴い、共有名義の不動産を単独名義に変更するケースもあります。
(1) 財産分与による共有持分追加取得
離婚による財産分与で、配偶者の共有持分を追加取得した場合、追加取得分も新規取得として住宅ローン控除を適用できます。
例:
- 夫婦で1/2ずつ共有していた中古戸建て(評価額3,000万円)
- 離婚により、夫が妻の1/2持分を財産分与として取得
- 妻の持分1,500万円分を住宅ローンで購入した場合、その部分に住宅ローン控除を適用可能
(出典: 国税庁 - 離婚による財産分与で居住用家屋の共有持分を追加取得した場合の住宅借入金等特別控除について)
(2) 追加取得分も住宅ローン控除適用可能
適用要件:
- 追加取得した持分について、住宅ローンを利用していること
- 通常の住宅ローン控除の要件を満たすこと
- 追加取得した年から控除を開始(過去の持分取得分は対象外)
計算例:
- 妻の持分1,500万円を住宅ローンで取得
- 年末残高: 1,450万円
- 年間控除額: 1,450万円×0.7%=10.15万円(約10万円)
(3) 共有名義のデメリットと単独名義のメリット
離婚を見据えて不動産を購入する場合、単独名義の方が有利なケースが多いです。
共有名義のデメリット(離婚時):
- 売却に相手の同意が必要
- 財産分与の計算が複雑
- 持分移転に登記費用がかかる
- 相手の債務整理等で差し押さえリスク
単独名義のメリット(離婚時):
- 売却や名義に関する決定を単独で可能
- 財産分与の計算が明確(評価額の1/2を現金で分与など)
- 離婚後の手続きが簡素
- 相手への影響が少ない
(出典: センチュリー21 - 共有名義よりも「ローンは夫のみ」がおすすめな理由)
中古戸建て特有の注意点|築年数・耐震基準
中古戸建ての購入では、築年数要件が重要です。
(1) 1982年以降建築なら築年数不問
1982年1月1日以降に建築された中古戸建ては、築年数に関係なく住宅ローン控除を適用可能です。
新耐震基準とは:
- 1981年6月1日に施行された建築基準法の耐震基準
- 震度6強~7程度の地震でも倒壊しない構造強度
- 1982年1月1日以降建築の住宅は、この基準で建築されています
(2) 1982年以前建築は耐震基準適合証明書等が必要
1982年以前に建築された中古戸建てでも、以下のいずれかの書類があれば住宅ローン控除を適用可能です。
証明書の種類:
- 耐震基準適合証明書(建築士等が発行)
- 既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)
- 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書
取得費用:
- 耐震基準適合証明書: 数万円~十数万円
- 既存住宅性能評価書: 十数万円程度
- 既存住宅売買瑕疵保険: 数万円~十数万円
(3) 控除期間10年間・借入限度額2,000万円
中古戸建ての住宅ローン控除は、新築よりも控除額が少なくなります。
項目 | 新築 | 一般中古 |
---|---|---|
控除期間 | 13年間 | 10年間 |
借入限度額 | 3,000万円 | 2,000万円 |
最大控除額 | 273万円 | 140万円 |
離婚後の中古戸建て購入時の確定申告
住宅ローン控除を受けるには、初年度に確定申告が必要です。
(1) 住宅ローン控除を受ける場合の確定申告
申告期間: 購入した年の翌年2月16日~3月15日
申告方法:
- 税務署窓口に持参
- 郵送
- e-Tax(オンライン)
(2) 必要書類|登記事項証明書・売買契約書・離婚協議書等
必須書類:
- 確定申告書
- 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローン年末残高証明書
- 登記事項証明書(取得後3ヶ月以内のもの)
- 売買契約書のコピー
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- マイナンバー確認書類
離婚関連の追加書類(必要に応じて):
- 離婚協議書または調停調書のコピー(財産分与の内容を証明)
- 戸籍謄本(離婚の事実を証明)
1982年以前建築の場合:
- 耐震基準適合証明書
- または既存住宅性能評価書
- または既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書
(3) 耐震基準適合証明書の取得
1982年以前建築の中古戸建てを購入する場合、耐震基準適合証明書等の取得が必要です。
取得の流れ:
- 建築士または指定確認検査機関に依頼
- 耐震診断の実施
- 耐震基準に適合していることを確認
- 証明書の発行
取得期限:
- 取得日(引渡し日)の前2年以内に証明されたもの
- または、取得日前に証明の申請をし、取得日後に証明されたもの
まとめ
離婚に伴う中古戸建て購入では、財産分与による不動産取得資金は原則として贈与税非課税です。離婚後に単独名義で新規購入する場合、通常の住宅ローン控除(控除率0.7%、最大10年間、借入限度額2,000万円)を適用できます。共有名義から単独名義への変更も、財産分与による持分追加取得として住宅ローン控除の対象です。ただし、財産分与する側には譲渡所得税が発生する可能性があります。中古戸建て特有の注意点として、1982年以降建築なら築年数不問ですが、1982年以前建築の場合は耐震基準適合証明書等が必要です。確定申告は初年度に必須で、離婚協議書や耐震基準適合証明書など、必要書類を事前に準備しておくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 離婚時の財産分与で中古戸建て購入資金を受け取った場合、贈与税はかかりますか?
A. 原則として贈与税は課税されません。財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を清算するものであり、贈与ではないと考えられています。ただし、分与額が夫婦の協力で築いた財産額や離婚の事情を考慮しても過大である場合、または離婚が租税回避目的と認められる場合は、過大部分または全部に贈与税が課税される可能性があります。
Q2. 離婚後に中古戸建てを単独名義で購入した場合、住宅ローン控除は使えますか?
A. 使えます。離婚後の単独名義購入でも、通常の住宅ローン控除を適用可能です。控除率は年末ローン残高の0.7%、控除期間は最大10年間、借入限度額は2,000万円です。適用要件は通常の購入と同じで、床面積50㎡以上、借入期間10年以上、1982年1月1日以降建築(または耐震基準適合証明書等あり)などです。初年度は必ず確定申告が必要です。
Q3. 1982年以前建築の中古戸建てでも住宅ローン控除は使えますか?
A. 使えます。耐震基準適合証明書・既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)・既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書のいずれかがあれば控除適用可能です。これらの書類は、建築士や指定確認検査機関、登録住宅性能評価機関、住宅瑕疵担保責任保険法人が発行します。取得費用は数万円~十数万円程度で、耐震診断や検査が必要です。取得日(引渡し日)の前2年以内に証明されたものが必要です。
Q4. 離婚を見据えて中古戸建てを購入する場合、共有名義と単独名義どちらが有利ですか?
A. 単独名義が有利です。共有名義の場合、離婚時に売却に相手の同意が必要、財産分与の計算が複雑、持分移転に登記費用がかかるなどのデメリットがあります。単独名義なら、売却や名義に関する決定を単独で可能、財産分与の計算が明確(評価額の1/2を現金で分与など)、離婚後の手続きが簡素になります。ただし、収入や頭金の負担割合によっては共有名義が適切なケースもあるため、専門家への相談をおすすめします。
Q5. 離婚による財産分与で配偶者の共有持分を追加取得した場合、住宅ローン控除は使えますか?
A. 使えます。離婚による財産分与で配偶者の共有持分を追加取得し、その持分について住宅ローンを利用した場合、追加取得分も新規取得として住宅ローン控除を適用できます。例えば、1/2ずつ共有していた中古戸建てで、離婚により相手の1/2持分を住宅ローンで取得した場合、その持分に対して控除率0.7%、最大10年間の控除が受けられます。通常の住宅ローン控除の要件(床面積50㎡以上、1982年以降建築など)を満たす必要があります。