中古マンション売却における契約の基礎知識
初めて中古マンションを売却する場合、売買契約書や重要事項説明書の内容、契約の流れについて不安を感じる方が多いでしょう。本記事では、中古マンション売却時の契約実務の基礎、売買契約書と重要事項説明書の違い、マンション特有の注意点、税務の基本まで、初めての方にも分かりやすく解説します。
本記事のポイント
- 売買契約書と重要事項説明書の違いと役割
- 売買契約書の主要記載事項(売買価格・手付金・引渡し時期・契約解除条件等)
- 重要事項説明書で確認すべき項目(登記事項・都市計画法・管理規約等)
- マンション特有の注意点(管理費清算・設備付帯・リフォーム履歴)
- 譲渡所得税の計算と3000万円特別控除の活用
(1) 売買契約書と重要事項説明書の違い
中古マンション売却では、以下の2つの重要な書面があります。
重要事項説明書
- 契約締結の前に宅地建物取引士が説明する書面
- 物件の法的規制、権利関係、設備状況等を開示
- 宅地建物取引業法35条で義務付けられている
- 買主が契約内容を理解し、判断するための情報提供
売買契約書
- 契約締結時に作成する正式な契約書
- 売買価格、手付金、引渡し時期、契約解除条件等を記載
- 売主・買主双方の権利義務を定める
- 国土交通省の標準契約書式が広く使用されている
重要事項説明書は「契約前に情報を開示する書面」、売買契約書は「契約内容を記載した正式な書面」という違いがあります。
(2) 宅地建物取引士による重要事項説明の法的根拠
宅地建物取引業法35条により、不動産会社は契約締結前に、宅地建物取引士が重要事項説明を行うことが義務付けられています(国土交通省)。
重要事項説明の流れ
- 重要事項説明書の作成(不動産会社)
- 宅地建物取引士が買主に対面で説明
- 買主が内容を理解・確認
- 買主が重要事項説明書に署名・押印
- 売買契約へ進む
重要事項説明は、契約日の数日前~当日の契約締結前に実施されます。買主が内容を理解・納得した上で契約に進むことが重要です。
(3) 契約締結までの基本的な流れ
中古マンション売却の契約締結までの基本的な流れは以下の通りです。
契約までの流れ
- 売却査定・不動産会社との媒介契約締結
- 売却活動(広告・内覧対応)
- 買主からの購入申込
- 価格・条件の交渉
- 重要事項説明(契約日の数日前~当日)
- 売買契約締結・手付金受領
- 決済・引渡し(契約後1-2ヶ月)
売買契約書の主要記載事項と確認ポイント
(1) 売買価格・手付金・支払方法の記載
売買契約書には、以下の金銭に関する事項が明記されます。
売買価格の内訳
- 売買代金総額:3,000万円(例)
- 手付金:300万円(売買代金の10%、契約時に受領)
- 残代金:2,700万円(引渡し時に受領)
手付金は、売買代金の5-10%が一般的です。手付金は、契約後に買主が契約を解除する場合に放棄する金額となり、売主が解除する場合は倍返しする必要があります。
(2) 引き渡し時期と所有権移転登記
引き渡し時期と所有権移転登記のタイミングも契約書に記載されます。
引き渡しと登記のスケジュール
- 引渡し予定日:契約締結後1-2ヶ月(例:令和○年○月○日)
- 所有権移転登記:引渡し日に実施(司法書士が代行)
- 残代金の支払:所有権移転登記と同時
引き渡し日には、残代金の受領、鍵の引渡し、所有権移転登記を同時に行います。
(3) 契約解除条件と手付解除
売買契約書には、契約解除の条件が記載されます。
主な解除条件
- 手付解除:手付解除期限(通常は契約後1-2週間)までに、買主は手付金を放棄、売主は手付金の倍返しで解除可能
- 住宅ローン特約:買主が住宅ローンの審査に通らなかった場合、契約を白紙解除できる特約
- 契約違反による解除:売主・買主が契約内容に違反した場合、違約金(売買代金の10-20%)を支払って解除
手付解除期限を過ぎると、手付金を放棄するだけでは解除できず、違約金が発生します。
重要事項説明書の目的と確認すべき項目
(1) 登記事項と権利関係の確認
重要事項説明書では、物件の登記事項と権利関係を確認します。
登記事項の確認項目
- 所有者:売主の名義で登記されているか
- 抵当権:住宅ローンの抵当権が設定されているか(引渡し時に抹消されることを確認)
- その他の権利:地役権、賃借権等の制限がないか
抵当権が設定されている場合、売主は引渡し日までに住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する必要があります。
(2) 都市計画法等の制限と建築基準法の適合状況
重要事項説明書では、物件の所在地の都市計画法上の制限と建築基準法の適合状況も開示されます。
法的規制の確認項目
- 用途地域:住居地域・商業地域等の区分
- 建ぺい率・容積率:建物の建築可能面積の制限
- 都市計画道路:将来の道路計画による建築制限
- 建築基準法の適合:違法建築物でないことの確認
これらの情報は、買主が将来リフォームや増築を行う際の判断材料となります。
(3) 専有部分と共用部分の範囲
マンションでは、専有部分と共用部分の範囲を重要事項説明書で確認します。
専有部分と共用部分の例
- 専有部分:居室、玄関扉の内側、バルコニーの使用権
- 共用部分:エントランス、廊下、階段、エレベーター、外壁、バルコニーの所有権
バルコニーは専有部分のように使用できますが、所有権は管理組合(共用部分)にあります。リフォームの際は管理規約の確認が必要です。
マンション特有の契約上の注意点
(1) 管理規約上の売却制限と承認手続き
マンションの管理規約によっては、売却時に管理組合の承認が必要な場合があります。
管理規約の確認項目
- 売却時の承認の要否
- 承認に必要な手続き(理事会への届出等)
- 承認にかかる期間(通常は1-2週間)
国土交通省のマンション標準管理規約では、原則として売却時の承認は不要とされていますが、個別の管理規約で制限されている場合があります。契約前に管理規約を確認してください。
(2) 管理費・修繕積立金の清算方法
マンションの管理費・修繕積立金は、引渡し日を基準に日割り計算で清算します。
管理費等の清算例
- 引渡し日:10月15日
- 月額管理費・修繕積立金:3万円
- 売主負担分:3万円×14日/31日=約1.4万円
- 買主負担分:3万円×17日/31日=約1.6万円
滞納がある場合、売主が引渡しまでに清算するのが原則です。重要事項説明書に滞納状況が記載されるため、事前に確認してください。
(3) 設備の付帯有無とリフォーム履歴の開示
中古マンション売却では、設備の付帯有無とリフォーム履歴を正確に開示します。
設備の付帯有無
- エアコン:各部屋に設置されているか、撤去するか
- 照明器具:付帯するか、撤去するか
- カーテンレール:付帯するか、撤去するか
リフォーム履歴の開示
- キッチン・浴室等の設備交換時期
- 床・壁のリフォーム時期
- 配管・電気設備の修繕履歴
設備の動作状況を正確に告知することで、契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)のトラブルを防ぐことができます。
契約から引き渡しまでの流れとスケジュール
(1) 重要事項説明から契約締結まで
重要事項説明から契約締結までの流れは以下の通りです。
重要事項説明~契約締結
- 重要事項説明(契約日の数日前~当日)
- 買主が内容を理解・確認
- 買主が重要事項説明書に署名・押印
- 売買契約書の読み合わせ
- 売主・買主が契約書に署名・押印
- 手付金の受領(通常は現金または銀行振込)
(2) 契約締結から決済・引き渡しまで
契約締結から決済・引き渡しまでのスケジュールは以下の通りです。
契約後の流れ
- 買主の住宅ローン審査(契約後1-2週間)
- 売主の住宅ローン完済手続き(引渡し前に完了)
- 引越し準備(契約後1-2ヶ月)
- 決済・引き渡し(契約後1-2ヶ月)
決済日には、残代金の受領、鍵の引渡し、所有権移転登記、抵当権抹消登記を同時に行います。
(3) 各段階で必要な書類と手続き
各段階で必要な書類と手続きは以下の通りです。
契約時に必要な書類
- 印鑑証明書(売主、発行3ヶ月以内)
- 実印
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 登記済証または登記識別情報(権利証)
決済時に必要な書類
- 印鑑証明書(売主、発行3ヶ月以内)
- 実印
- 住民票(売主)
- 固定資産税納税通知書
- 管理規約・議事録等(マンション)
- 鍵一式
中古マンション売却時の税務の基礎
(1) 譲渡所得税の基本的な計算方法
中古マンション売却時には、譲渡所得税がかかります。計算式は以下の通りです(国税庁)。
譲渡所得の計算式
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
- 売却価格:売買契約書記載の金額
- 取得費:購入価格 + 購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用等)
- 譲渡費用:売却時の仲介手数料・登記費用等
税率
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%(所得税30% + 住民税9% + 復興特別所得税0.63%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定します。
(2) 居住用財産の3000万円特別控除
マイホーム(居住用財産)を売却した場合、譲渡所得から3000万円を控除できる特例があります(国税庁)。
3000万円特別控除の適用要件
- 自己が居住していた住宅を売却すること
- 売却した年の1月1日時点で所有期間の制限なし
- 親族等への売却ではないこと
- 過去3年以内にこの特例を受けていないこと
譲渡所得が3000万円以下の場合、譲渡所得税は非課税となります。
計算例
- 売却価格:3,500万円
- 取得費:2,000万円
- 譲渡費用:100万円
- 譲渡所得:3,500万円 - 2,000万円 - 100万円 = 1,400万円
- 3000万円特別控除適用後:1,400万円 - 3,000万円 = 0円(非課税)
(3) 確定申告の時期と必要書類
中古マンション売却後は、翌年の2月16日~3月15日に確定申告が必要です。
確定申告に必要な書類
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書(国税庁様式)
- 売買契約書(購入時・売却時)
- 仲介手数料の領収書
- 登記事項証明書
- マイナンバー確認書類
3000万円特別控除を適用する場合も、確定申告が必要です。
まとめ
中古マンション売却では、売買契約書と重要事項説明書の違いを理解し、契約内容を正確に確認することが重要です。重要事項説明書では、登記事項、都市計画法上の制限、管理規約、管理費等を確認し、売買契約書では、売買価格、手付金、引渡し時期、契約解除条件を確認してください。
本記事の重要ポイント
- 重要事項説明書は契約前に宅地建物取引士が説明する書面
- 売買契約書には売買価格・手付金・引渡し時期・契約解除条件を記載
- マンションでは管理費清算・設備付帯・リフォーム履歴の開示が重要
- 譲渡所得税は(売却価格 - 取得費 - 譲渡費用)で計算
- マイホーム売却では3000万円特別控除で譲渡所得税が非課税になる場合あり
初めての中古マンション売却でも、不動産会社や税理士と連携し、契約内容を正確に理解することで、安全に売却を進めることができます。